「第一報はモードリン・アンダーソン夫人からでした。
 娘と孫が旅先で、どうやら事故に遭ったらしい、と。

 直前に私はキャロラインがアメリカで書いた手紙を受け取っていました。
 こちらがそれです。
 娘から私への最後の手紙です。
 この手紙からはキャロラインが危険な目に遭っているとは感じ取れませんでした。

 手紙の内容はどうということのないものです。
 パパの出生の秘密というのはなかなか衝撃的な文言ですがね。
 詳しいことはキャロラインが友人のオリヴィア君に宛てた手紙に書いていたのをオリヴィア君のご両親から見せていただきました。
 私は母パトリシアの実の子ではなく、不運な駆け落ちカップルの遺児だった。
 だから何です?
 むしろ納得です。
 私は生前の母とは仲がよくありませんでしたが、この手紙を見てからようやく母に感謝できるようになりました。
 あの人は立派な人だったのです。
 私を育てたのも。
 サン・ジェルマンへの愛を貫いたのも。

 ああ、記者さん、キャロラインが荷物を持ってロンドンの我が家の玄関を出るまで私はキャロラインが寮へ戻るものとばかり思っていたのです。
 アメリカへ行くのはルイーザとアデリン君の二人だけだと。
 アデリン君から求められた旅費は二人分にしては多すぎましたが、それもアデリン君らしいですし子守り代とすれば妥当だろうと。
 ドアの前で振り向いたキャロラインは、キャサリンに……あの子の母親にそっくりな意思の強い目をしていて……臆病な私には止められなかった……眩しすぎて……
 キャサリンは私の母を……パトリシア・ルルイエを……気味悪がりながらも決して見放そうとはせず、常に気遣っていました……


 アデリン君を保護したハワイ警察の連絡を受けて、私とモードリン夫人はハワイへ急ぎました。
 海難事故。私たちはそう考えていました。
 それは最悪の想像でしたが、今思えばもっとも穏やかな想像でした。

 病室でアデリン君に面会して、旅立った日とは別人のようになってしまったアデリン君の様子に私は、ルイーザが生まれた日を……キャサリンが死んだ日を思い出しました。
 あの日、屋敷に居た使用人の多くは狂ってしまいました。
 そんな事実があってもなお私はルイーザを異父妹だと信じていました。
 母と使用人の誰かの子だろうと。
 それを私は世間体のために自分の娘としてきました。
 ええ、ええ、本当はもっとずっと恐ろしいものなのだろうなと頭をよぎることはありましたよ。
 私は恐怖から目を背けてきましたよ。
 だから何です?
 たとえ直視していようとも、年老いた養母が分裂して作った新しい体だなんて今だって私は信じていませんよ!

 ああ神様、キャサリンの身に、アデリン君の身に、いったい何が起きたのでしょう?
 ルイーザは何者なのでしょう?
 そして何よりキャロラインはどこへ行ってしまったのでしょう!?」