「親愛なるオリヴィアへ

(“おじいちゃま”や“叔母さま”と何度も書いて消した跡)

 ごめんなさい。やっぱり整理できないわ。
 アデリン叔母さまは今、とても言えないような状態になってしまっているの。
 それなのにどうしてわたしたちはハワイになんて来ているのかしら。

 ああ、いえ、理由はあるのよ。
 でも何でハワイなのかしら。
 しかもこのハワイはわたしがイギリスにいるときに想像していたような南国の楽園なんかではないの。
 ハワイ諸島にはいくつも島があって、例えばマウイ島とかは有名な観光地だけど、わたしが今いる島は名前を言ってもきっとわからないわ。

 気持ちの悪い汗が止まらない。
 便せんにシミになっていたらごめんなさいね。

 となりの部屋からアデリン叔母さまの一人言が聞こえるわ。
 この島はちゃんとした保養地でもなければ、せめて安らげる観光地ですらないの。
 みすぼらしい宿屋にそれなりの食事。
 観光地にありがちなスリだとかに遭う怖れはほぼない。
 そんなことする気も起きないくらい恐ろしいものがこの島にはある。

 ルイーザがこの島に行くって言ったのよ。
 映画館を出てすぐに。
 暴れるアデリン叔母さまをわたしが泊まっているホテルへどうにか人目を避けて抱えて――引っ張って――行こうとしているときに――
 ルイーザが不意に立ち止まって「思い出した」って。
「ルルイエの場所」って。
「行かなくちゃ」って。

 ねえオリヴィア。こんなところまで来てしまったわたしは、なんて愚かなのかしら。
 だって仕方ないじゃない。
 もしもわたしが妹を放り出してアデリン叔母さまだけ連れてイギリスに帰ったとして、どんなに上手に事情を話せたとしても、パパに信じてもらうなんて不可能だわ。

 それにモードリンお祖母さま! 母方の祖母でアデリン叔母さまのお母さまね。前に書いたかしら?
 ああ、オリヴィア。わたしのこと、ひどい人だと思わないでね。こんなこと話せるのオリヴィアだけよ!
 わたし、ルイーザだけでなくアデリン叔母さまも放り出してしまいたい――
 イギリスに帰ったらアデリン叔母さまをモードリンお祖母さまの家まで送り届けなくっちゃいけない。
 わたしの役目よ。
 叔母さま一人で帰るなんて無理だもの。
 わたしはこの状態のアデリン叔母さまをモードリンお祖母さまに会わせなくちゃならないの。
 その場にいるのが、わたし、怖い。

 もちろんクトゥルフだって怖いわよ。
 だけど怖さにはいろんな種類があって、イギリスへ帰る怖さはどれくらい怖いか想像できるけど、ハワイにいる怖さはどれほどのものなのかこうしてここにいても見当もつかない。
 見当もつかないから、だから、もしかしたら本当はそんなに大したことないのかも? って、心が勝手に期待してしまうの。
 結局のところオリヴィア、わたしはパパやモードリンお祖母さまに会うのを先延ばしにするためにハワイに逃げてきたのよ。

 イギリスに帰ったら、できれば最初にあなたに会いたいわ。
 それからパパやモードリンお祖母さまと話して、怒りや心配や質問やたぶん不審を雪崩のようにぶつけられたら、そのあとでまたあなたに会うの。
 わたしをなぐさめて、今までどおり友達でいてちょうだね、オリヴィア。

キャロラインより」