キャロライン・ルルイエの消息

 だからそんなに怪しまないでくれってば。
 ほら、何の変哲もないレコードだよ。
 鳥類の研究家がハワイの山中で録音したんだ。
 再生機だって普通のだよ。
 はい! スイッチオン!




(数種類の鳥の声)

(しわがれた女性の声)

「……グルイ、フタグン……イア、イア、クトゥルフ、フングルイ、フタグン……」

(鳥が悲鳴めいた声を上げた後、異様に静かになる)

(別の女性の声)

「フン! 教えた通りちゃんとやれたようだね」

「ノベンバ! アンタいったいいつの間にどこでこんな魔術を……」

(ドサリという音)

「ちょっとちょっと! サン・ジェルマンを殺しちまったのかい? ここで死んでちゃ生け贄にならないよ!」

「やかましいねえ。気絶させただけさ。ちっとはお黙りよ」

「薬かい?」

「魂を肉体から軽く剥がしてやったのさ。すぐに戻してやったから、じきに目を覚ますよ」

「ああ、ノベンバ! そりゃあまるで大いなる種族どもが使う術じゃないかい!
 いい加減に説明しておくれよ。アンタ、キギー・タウンから帰ってこのかた、すっかり別人じゃないかい。
 いや……アンタ、まさか……」

「アンタたちは乗っ取りができるのは大いなる種族だけだと思ってるんだね」

(ドサリという音)





 さて、それじゃあこのレコードを媒体にして降霊術をやってみよう。

 ふんふんふーん♪

 おっ! 声の主が来てくれたぞ!
 おおー! いかにもネイティブアメリカンの巫女って感じだな!
 あー、部族の言葉はきみには通じないのか。残念だな。

 えーとね、ポワカって名乗ってるよ。
 聞き覚えがあるな。
 そーだそーだ! キギータウンにいたニンゲンだ!

 えーとね、本人いわく悲劇のヒロインで、運命に翻弄されし女だそうだよ。
 えーと、大いなる種族の学者たちはキギータウンに移り住んでも研究好きは変わらず、インディアン(・・・・・)に興味を持ってポワカを捕獲。
 あはは。まるで虫みたいだな。

 でもポワカもただでは転ばなくって、従順なフリをして大いなる種族に取り入って、ついには連中から魔法の使いかたを聞き出すまでになった。
 あ。キギータウンの住民が全滅したことについてザマアミロなんて言ってる。
 ふむふむ。ポワカはキギータウンが崩壊した際、シャーマーメイズのノベンバってやつと魂を入れ替えて逃げ延びたそうだよ。
 ノベンバの魂はポワカの肉体と一緒に死んだってさ。

 けどさぁ……ほら、あっちとこっちって時間の流れが違うだろ?
 故郷の集落は影も形もなくなって、代わりにポワカとは言葉の通じない人たちが住んでたんだってさ。

 あらら、ポワカってば、こんな辛い目にあったんだから、ちょっとぐらい悪さをしたっていいはずだなんて言っちゃってるよ。

 シャーマーメイズの目的は、クトゥルフが復活していわゆる人類が奴隷となった世界で、奴隷頭として権力を振るうこと。
 ポワカはシャーマーメイズを始末して手柄を横取りして、ついでにサン・ジェルマンをクトゥルフへの生け贄にして機嫌をとって、奴隷頭を統べる頭になってやろうと考えたそうだ。

 結果は……うん……次の資料を見てみようか。