こちらは映画雑誌から切り抜いた俳優のジョン・スミスのインタビュー記事だ。
本名はアランだったかな。
有名じゃなくても俳優なんだから探せば記事ぐらい見つかるさ。
雑誌の名前? 気にしないでくれ。
「アデリンはオレが出てる舞台を観にきたんだ。
最初は別のもっと有名な役者が目当てだったらしいけど、二回目からはオレに宛てて花束を持ってくるようになった。
先輩たちには止められたけど、オレは舞い上がってすぐに恋に落ちてしまった。
二人ともまだ十代だった。
結婚するには当時としても早すぎる年齢だったよ。
あいつは今もアンダーソンのままなのかい?
あのころオレは売れない俳優だった。
顔がいいってだけで今にして思えば演技はボロボロ。
それでもアデリンお嬢様はオレに夢中になってたよ。
オレもアデリンがいれば何も怖くなかった。
二人でハリウッドに乗り込もうなんて話してたんだ。
イギリスで結婚式を上げて、そのままアメリカ行きの船に乗ろうって。
計画を立てて荷物をまとめた。
海辺の教会に彼女は来なかった。
急に怖くなったんだってさ。
オレの友達がアデリンに電話をかけて、アデリンはその友達しか聞いていないと思って独白を始めて、友達は黙ってオレに受話器を渡した。
簡単に言えばマリッジ・ブルーだったんだけどね。
それにしたってひどい話さ。
彼女はオレを、姉の夫やその父親と比較したんだ。
パトリシア。
亡くなった際は痴呆症で寝たきりだったって?
オレがイギリスにいたころには、アデリンの相談相手になるぐらいには意識はハッキリしていたはずだ。
余計なことをしてくれたモンだよ。
でも今思うと正しかったのかもな。
電話越しのアデリンの話では、パトリシアは愛の素晴らしさをアデリンに説いたんだそうだ。
ブルーダイヤの指輪を見せながら。
行方知れずの夫を今でも深く愛していると。
だからアデリンも、まあ、愛さえあれば大丈夫的なことを言ったわけだ。
だけどそれはアデリンには逆効果だった。
アデリンいわく、パトリシアにはそんなつもりはないってわかっていても自慢話にしか聞こえなかったらしい。
パトリシアの両親は裕福で、家の仕事を継いだ息子の……キャサリンの夫って何て名前だっけ? まあいいや。とにかくそいつも優秀で、暮らしには何の不安もない。
対するオレは不安定の代名詞みたいな俳優業。
ハリウッドに渡ったところで、うまくいく保証なんてない。
アデリンが言ったんだ。
『アタシにはブルーダイヤがないの』って。
オレはそれを受話器越しに、友達になりすまして聞いていた。
結局、オレはハリウッドには行かなかったよ。
アメリカ行きの船には乗ったんだけれどね。
船で飲んだ酒は、まあ、ウマくもマズくもなかったが飲みすぎたのは間違いない。
深夜の真っ暗な海に向かって罵声を吐いたんだ。
『パトリシア・ルルイエめ、ふざけやがって』みたいなのをさ。
そうしたら……ええ、わかっておりますとも……
そのルルイエなる言葉に反応してニャルラトホテプ様が這い寄って来られた……
はい……ルルイエと、悪意を込めて言ってしまったから……面白いやつだと思われた……
はい……わかっております……例えばパトリシアの旦那のほうのルルイエが商売敵に陰口を言われるのとは事情が異なります……
月もない深夜の甲板に出て大海原を眺めつつ、儀式でもない天然の呪詛を声にしてまで吐く人間なんかそうそういません……
ですからニャルラトホテプ様に……目をつけていただき……光栄でございます……」
本名はアランだったかな。
有名じゃなくても俳優なんだから探せば記事ぐらい見つかるさ。
雑誌の名前? 気にしないでくれ。
「アデリンはオレが出てる舞台を観にきたんだ。
最初は別のもっと有名な役者が目当てだったらしいけど、二回目からはオレに宛てて花束を持ってくるようになった。
先輩たちには止められたけど、オレは舞い上がってすぐに恋に落ちてしまった。
二人ともまだ十代だった。
結婚するには当時としても早すぎる年齢だったよ。
あいつは今もアンダーソンのままなのかい?
あのころオレは売れない俳優だった。
顔がいいってだけで今にして思えば演技はボロボロ。
それでもアデリンお嬢様はオレに夢中になってたよ。
オレもアデリンがいれば何も怖くなかった。
二人でハリウッドに乗り込もうなんて話してたんだ。
イギリスで結婚式を上げて、そのままアメリカ行きの船に乗ろうって。
計画を立てて荷物をまとめた。
海辺の教会に彼女は来なかった。
急に怖くなったんだってさ。
オレの友達がアデリンに電話をかけて、アデリンはその友達しか聞いていないと思って独白を始めて、友達は黙ってオレに受話器を渡した。
簡単に言えばマリッジ・ブルーだったんだけどね。
それにしたってひどい話さ。
彼女はオレを、姉の夫やその父親と比較したんだ。
パトリシア。
亡くなった際は痴呆症で寝たきりだったって?
オレがイギリスにいたころには、アデリンの相談相手になるぐらいには意識はハッキリしていたはずだ。
余計なことをしてくれたモンだよ。
でも今思うと正しかったのかもな。
電話越しのアデリンの話では、パトリシアは愛の素晴らしさをアデリンに説いたんだそうだ。
ブルーダイヤの指輪を見せながら。
行方知れずの夫を今でも深く愛していると。
だからアデリンも、まあ、愛さえあれば大丈夫的なことを言ったわけだ。
だけどそれはアデリンには逆効果だった。
アデリンいわく、パトリシアにはそんなつもりはないってわかっていても自慢話にしか聞こえなかったらしい。
パトリシアの両親は裕福で、家の仕事を継いだ息子の……キャサリンの夫って何て名前だっけ? まあいいや。とにかくそいつも優秀で、暮らしには何の不安もない。
対するオレは不安定の代名詞みたいな俳優業。
ハリウッドに渡ったところで、うまくいく保証なんてない。
アデリンが言ったんだ。
『アタシにはブルーダイヤがないの』って。
オレはそれを受話器越しに、友達になりすまして聞いていた。
結局、オレはハリウッドには行かなかったよ。
アメリカ行きの船には乗ったんだけれどね。
船で飲んだ酒は、まあ、ウマくもマズくもなかったが飲みすぎたのは間違いない。
深夜の真っ暗な海に向かって罵声を吐いたんだ。
『パトリシア・ルルイエめ、ふざけやがって』みたいなのをさ。
そうしたら……ええ、わかっておりますとも……
そのルルイエなる言葉に反応してニャルラトホテプ様が這い寄って来られた……
はい……ルルイエと、悪意を込めて言ってしまったから……面白いやつだと思われた……
はい……わかっております……例えばパトリシアの旦那のほうのルルイエが商売敵に陰口を言われるのとは事情が異なります……
月もない深夜の甲板に出て大海原を眺めつつ、儀式でもない天然の呪詛を声にしてまで吐く人間なんかそうそういません……
ですからニャルラトホテプ様に……目をつけていただき……光栄でございます……」
