※キャロライン・ルルイエからの手紙の続き

「わかったの。感じたの。ニャルラトホテプが――
 生け贄を横取りされて怒ってるって――

 辺りがいきなり闇に包まれて、闇の中でとてもたくさんのゆがんだ顔がうごめいていた。
 過去にニャルラトホテプの生け贄になった亡者たちの顔よ。
 闇が波のようにクトゥルフに襲いかかった。
 クトゥルフは闇に――食べ残し――を投げつけた。
 ああ! なんて恐ろしい食べ残し!!

 ルイーザが切られたり戻ったり忙しい左手の薬指を自分の口もとに持っていったの。
 指輪にキスするみたいな仕草。
 噛み砕いた音が響いて青い光が飛び散った。

 前におじいちゃまに聞いていた話では、ルイーザに入り込んでいるのはクトゥルフの力のほんの一部に過ぎないはず。
 一部であれなら全部だとどうなるの?
 封印が解けてルイーザの口から闇が吹き出された。
 まるでサーカスの火吹き芸人みたいに闇を吹き出したの。
 その闇で、空間を塗りつぶそうとしていたみたい。
 だけど空間からは別の闇がにじみ出て、ルイーザを飲み込もうとしていたのよ。

 どちらの闇の中でもたくさんの生け贄の顔がひしめいていた。
 クトゥルフの闇の中にセレスト夫妻の顔が見えたわ。
 覚えているかしら? アメリカに着いてすぐ――インスマウスでわたしを助けてくれた人たちよ!
 パパによく似た男性もいたわ。パパよりずっと若くって――たぶんパパの本当のパパ――寄り添っていたのはわたしの本当のおばあちゃま?

 オリヴィアにそっくりな子もいたわ。
 気を悪くしないでね?
 顔の数がとにかくたくさんで――あれだけ大勢いれば、似た顔の一つや二つはあるものだわ。
 きっと無意識に知ってる顔を探してたのよね。」




映画の観客たちの証言

I「闇と闇の戦いに巻き込まれて、止めようとしていた男の人が吹き飛ばされて、眼鏡の女の子が駆け寄って……んーと……
 男の人の目からいきなりビームが出て、闇の触手を切り散らしたの。
 女の子も、ビームを出した本人も驚いていたわ」

J「サンなんとかが『誰かが片眼鏡(モノクル)を太陽の下に置いたんだ』とか叫んでいたね。
 光はニャなんとかにもクなんとかにも効果バツグンだったよ。
 ニャなんとかの闇が消えて、逃げたのかと思ったけれどそうでもないようで、サンなんとかたちはフィルムから出られなくなってしまったんだ。
 うん。フィルムからって言ってたような気がするよ。
 わけのわかんない映画だったけど、それなりに楽しかったよ」




映画の観客たちの証言

K「サン・ジェルマンは眼鏡の女の子を見捨てて逃げたんだ」

L「サン・ジェルマンは三人目の巫女にさらわれたのよ」

M「サン・ジェルマンは『誰かが片眼鏡(モノクル)を通じて無理やり呼んでいる』とか言っていたな。
 で、逃げたはずの三人目の巫女が物陰から飛び出してきてサン・ジェルマンにしがみついたんだ。
 直後に二人がパッと消えて、女の子二人は置き去りにされてたよ」