『親愛なるオリヴィアへ
映画館なんて一人で行くものじゃないなんて、クラスの子と話してたころが懐かしいわ。
サン・ジェルマンおじいちゃまを捜して歩いて見つからなくて、歩き疲れたところにちょうど映画館があったから入ってみたの。
例の『恐怖の吸血ミイラ』を、上映中止になる前に一度ぐらいは観ておかなくちゃって思ったのよ。
この映画、タイトルからもっとこう全体的にミイラだらけなのかと思っていたのだけれど全然そんなのじゃなくて。
海の上に浮かんでいる人工の島が舞台なんだけどね、なんとその島の住人たち、キギータウンにいた怪物たちだったの!
さらにさらにエキストラの中になぜか一人だけ普通の人間がいて、よく見たらなんとアデリン叔母さまだったの!
わたし、思わず食べていたポップコーンを吹き出して――前の席の人に申しわけないことをしてしまったわ。
あまりにも不思議でとにかくわたし、廊下に出て映写室へ向かったの。
そうしたら――
ごめんなさいオリヴィア。
この手紙はここでいったん封をするわね。
続きはもう少し落ち着いてから書くわ。
キャロラインより』
映画の観客Aへのインタビュー
A「そうね、何か起きないかなって期待していた部分はあったのよ。毎日が退屈だったしね。だからあの映画を選んだの。
一つ目の怪異は後ろの席からポップコーンが飛んできたことね。
二つ目の怪異はそのポップコーン女が映画の中に現れたコト。
画面に映るなりタタラを踏んで、カップに残ってたポップコーンを残らずぶちまけていたわ」
『親愛なるオリヴィアへ
少し落ち着いたので手紙の続きを書いてみるわね。
映写室のドアを開けたところでわたし、映画の世界に吸い込まれてしまったの。
そこにはおばあちゃまじゃないパトリシアのルイーザがいて――
キギータウンで見た幻の、新婚のころのパトリシアおばあちゃまの姿をしたルイーザがいて、わたしは邪神への生け贄にされそうになったんだけどされてなくて、町はキギータウンによく似てて――
ごめんなさい。まだ混乱しているわ。文章がメチャクチャ――
でも書くわ。書かないと前に進めない気がするから。』
映画の観客Bの記憶をもとに映画内の台詞を可能な限り再現する。
キャロライン「ニャルラトホテプって何なのよ!? ニャルラトホテプはどこにいるの!?」
パトリシア「どこにでもいるわ。ここにも、そこにも、あそこにも。この空間そのものがニャルラトホテプなのよ。
だから問題はどの状態を生け贄として“捧げ終わった”とするかなのよね。体内に取り込むだけでいいのならワタシ自身もすでに捧げられてることになるし。
でもキャロラインはすでにそれ以上の取り込まれかたをしているわ。
あなたさっきから“ニャルラトホテプ”ってスラスラと言えてるわよね? 完璧な発音で。ワタシですら英語訛りでしか言えないのに。
だから早く代わりの生け贄を捕まえないと。
魚釣りを始めるわよ」
※キャロラインからの手紙の続き
『話が飛び飛びになってしまいそう。
ルイーザが言っているお魚って、魚顔のあの人たちのことなのよ!
インスマウスの町の人たち!
恐ろしい儀式をしていた巫女の仲間が映画の世界に、わたしたちのすぐそばにいるっていうのよ!』
観客Cの記憶に基づく映画内の台詞
パトリシア
「気がついているかしら? この町の景色、パッチワークみたいになっているの。ここの石畳はリアルな質感だけど、ほら、あっちの建物の壁はやけにノッペリしてるでしょう?
リアルな部分はサン・ジェルマンの思い出の中の本物のアトランティスの景色。
ノッペリしているのは魚人の巫女の間で絵画を通じて伝えられてきたルルイエの景色。そもそも絵だから本物の町とは質感が異なるの。
でもしっかりと繋がっているの。
アトランティスはね、クトゥルフを罠に嵌めるために作られた偽物のルルイエなのよ」
※キャロラインからの手紙の続き
「記憶が混乱しているわ。
これを言ったのは本当にルイーザだったかしら?
ニャルラトホテプに頭に刷り込まれたのかしら?
大昔の、まだ人類が誕生してなくてクトゥルフが地上で暴れていたころの話ね。
大いなる種族の人たちがね、何度も会議を重ねたの。
クトゥルフをやっつける方法について。
ある学者はニャルラトホテプの力を利用しようと言った。
でも別の学者は反対したの。
ニャルラトホテプはクトゥルフよりもはるかに危険な邪神で、利用しようなんてとんでもないと。
大いなる種族の女王アトラは別の作戦を選んだの。
(※何度も書き直した跡が見られ、キャロライン・ルルイエが適切な言葉を選ぶのに苦労した様子がうかがえる)
クトゥルフは星の動きによって目を覚ましたり眠ったりするの。
何千年、何万年、何億年というスパンで。
クトゥルフの下僕であるインスマウスの魚人たちは、クトゥルフに生け贄を捧げることでクトゥルフが寝るはずの時期にも起きていられるようにしようとしてた。
大いなる種族の仲間もさらわれて生け贄にされて、だからクトゥルフと対立しているの。
クトゥルフの寝所はルルイエの都にある。
クトゥルフの下僕は世界中のいろんな場所で生け贄の儀式を行ってエネルギーをルルイエへ送る。
大いなる種族は偽物のルルイエとしてアトランティスの都を造って、ルルイエに送られてくるエネルギーを横取りして、そのエネルギー使ってルルイエとアトランティスをひとまとめに海の底に封印して、クトゥルフをいつもよりも長い眠りにつかせた。
この封印のときにアトランティスにいなかったのがサン・ジェルマンおじいちゃまやキギータウンの住人たち。
本当はおじいちゃまもキギータウンで暮らすはずだったけど混乱があって、女王アトラはとっさにおじいちゃま一人だけを別の時空に避難させようとして、誤って何億年もタイムスリップさせてしまったの。
それから五百年間、おじいちゃまは時空の歪みを引きずって年を取ることもないままにアトランティスへの帰り道を求めて放浪して、やっと見つけた手がかりがパトリシアおばあちゃま。
クトゥルフの下僕の子孫たちはクトゥルフを復活させる方法を探し――
編み出した邪悪な儀式にパトリシアおばあちゃまはたまたま巻き込まれてしまっていた――
ああ、思い出したわ。
これ、ルイーザが言っていたのよ。
間違いないわ。
ルイーザが知ってるはずのないことまで含まれてるけど。
それでルイーザ自身も困惑していたわ。」
映画館なんて一人で行くものじゃないなんて、クラスの子と話してたころが懐かしいわ。
サン・ジェルマンおじいちゃまを捜して歩いて見つからなくて、歩き疲れたところにちょうど映画館があったから入ってみたの。
例の『恐怖の吸血ミイラ』を、上映中止になる前に一度ぐらいは観ておかなくちゃって思ったのよ。
この映画、タイトルからもっとこう全体的にミイラだらけなのかと思っていたのだけれど全然そんなのじゃなくて。
海の上に浮かんでいる人工の島が舞台なんだけどね、なんとその島の住人たち、キギータウンにいた怪物たちだったの!
さらにさらにエキストラの中になぜか一人だけ普通の人間がいて、よく見たらなんとアデリン叔母さまだったの!
わたし、思わず食べていたポップコーンを吹き出して――前の席の人に申しわけないことをしてしまったわ。
あまりにも不思議でとにかくわたし、廊下に出て映写室へ向かったの。
そうしたら――
ごめんなさいオリヴィア。
この手紙はここでいったん封をするわね。
続きはもう少し落ち着いてから書くわ。
キャロラインより』
映画の観客Aへのインタビュー
A「そうね、何か起きないかなって期待していた部分はあったのよ。毎日が退屈だったしね。だからあの映画を選んだの。
一つ目の怪異は後ろの席からポップコーンが飛んできたことね。
二つ目の怪異はそのポップコーン女が映画の中に現れたコト。
画面に映るなりタタラを踏んで、カップに残ってたポップコーンを残らずぶちまけていたわ」
『親愛なるオリヴィアへ
少し落ち着いたので手紙の続きを書いてみるわね。
映写室のドアを開けたところでわたし、映画の世界に吸い込まれてしまったの。
そこにはおばあちゃまじゃないパトリシアのルイーザがいて――
キギータウンで見た幻の、新婚のころのパトリシアおばあちゃまの姿をしたルイーザがいて、わたしは邪神への生け贄にされそうになったんだけどされてなくて、町はキギータウンによく似てて――
ごめんなさい。まだ混乱しているわ。文章がメチャクチャ――
でも書くわ。書かないと前に進めない気がするから。』
映画の観客Bの記憶をもとに映画内の台詞を可能な限り再現する。
キャロライン「ニャルラトホテプって何なのよ!? ニャルラトホテプはどこにいるの!?」
パトリシア「どこにでもいるわ。ここにも、そこにも、あそこにも。この空間そのものがニャルラトホテプなのよ。
だから問題はどの状態を生け贄として“捧げ終わった”とするかなのよね。体内に取り込むだけでいいのならワタシ自身もすでに捧げられてることになるし。
でもキャロラインはすでにそれ以上の取り込まれかたをしているわ。
あなたさっきから“ニャルラトホテプ”ってスラスラと言えてるわよね? 完璧な発音で。ワタシですら英語訛りでしか言えないのに。
だから早く代わりの生け贄を捕まえないと。
魚釣りを始めるわよ」
※キャロラインからの手紙の続き
『話が飛び飛びになってしまいそう。
ルイーザが言っているお魚って、魚顔のあの人たちのことなのよ!
インスマウスの町の人たち!
恐ろしい儀式をしていた巫女の仲間が映画の世界に、わたしたちのすぐそばにいるっていうのよ!』
観客Cの記憶に基づく映画内の台詞
パトリシア
「気がついているかしら? この町の景色、パッチワークみたいになっているの。ここの石畳はリアルな質感だけど、ほら、あっちの建物の壁はやけにノッペリしてるでしょう?
リアルな部分はサン・ジェルマンの思い出の中の本物のアトランティスの景色。
ノッペリしているのは魚人の巫女の間で絵画を通じて伝えられてきたルルイエの景色。そもそも絵だから本物の町とは質感が異なるの。
でもしっかりと繋がっているの。
アトランティスはね、クトゥルフを罠に嵌めるために作られた偽物のルルイエなのよ」
※キャロラインからの手紙の続き
「記憶が混乱しているわ。
これを言ったのは本当にルイーザだったかしら?
ニャルラトホテプに頭に刷り込まれたのかしら?
大昔の、まだ人類が誕生してなくてクトゥルフが地上で暴れていたころの話ね。
大いなる種族の人たちがね、何度も会議を重ねたの。
クトゥルフをやっつける方法について。
ある学者はニャルラトホテプの力を利用しようと言った。
でも別の学者は反対したの。
ニャルラトホテプはクトゥルフよりもはるかに危険な邪神で、利用しようなんてとんでもないと。
大いなる種族の女王アトラは別の作戦を選んだの。
(※何度も書き直した跡が見られ、キャロライン・ルルイエが適切な言葉を選ぶのに苦労した様子がうかがえる)
クトゥルフは星の動きによって目を覚ましたり眠ったりするの。
何千年、何万年、何億年というスパンで。
クトゥルフの下僕であるインスマウスの魚人たちは、クトゥルフに生け贄を捧げることでクトゥルフが寝るはずの時期にも起きていられるようにしようとしてた。
大いなる種族の仲間もさらわれて生け贄にされて、だからクトゥルフと対立しているの。
クトゥルフの寝所はルルイエの都にある。
クトゥルフの下僕は世界中のいろんな場所で生け贄の儀式を行ってエネルギーをルルイエへ送る。
大いなる種族は偽物のルルイエとしてアトランティスの都を造って、ルルイエに送られてくるエネルギーを横取りして、そのエネルギー使ってルルイエとアトランティスをひとまとめに海の底に封印して、クトゥルフをいつもよりも長い眠りにつかせた。
この封印のときにアトランティスにいなかったのがサン・ジェルマンおじいちゃまやキギータウンの住人たち。
本当はおじいちゃまもキギータウンで暮らすはずだったけど混乱があって、女王アトラはとっさにおじいちゃま一人だけを別の時空に避難させようとして、誤って何億年もタイムスリップさせてしまったの。
それから五百年間、おじいちゃまは時空の歪みを引きずって年を取ることもないままにアトランティスへの帰り道を求めて放浪して、やっと見つけた手がかりがパトリシアおばあちゃま。
クトゥルフの下僕の子孫たちはクトゥルフを復活させる方法を探し――
編み出した邪悪な儀式にパトリシアおばあちゃまはたまたま巻き込まれてしまっていた――
ああ、思い出したわ。
これ、ルイーザが言っていたのよ。
間違いないわ。
ルイーザが知ってるはずのないことまで含まれてるけど。
それでルイーザ自身も困惑していたわ。」
