いかにもB級映画といったタイトルだな。
 ちょっと検索してみよう。
 うん。Mikipediaに記事がある。


『恐怖の吸血ミイラ』

 一九三〇年、公開。

 監督、ジョン・スミス。
 脚本、ジョン・スミス。
 主演、ジョン・スミス。



 ……同姓同名の別人らしい。





『親愛なるオリヴィアへ

 ロサンゼルスの映画館の火災って、イギリスでもニュースになっているのかしら?
 例の映画が上映中だったわけだけど、わたしは巻き込まれてはいないわ。
 あの映画、まだ観られていないの。
 だけどもしかしたらオリヴィアが心配しているんじゃないかと思って急いでペンを取ったの。

 ああ、でもサン・ジェルマンおじいちゃまはルイーザが現場に居たはずだって言うの。
 ブルーダイヤの力でそれがわかるのだそうよ。

 おじいちゃまがおっしゃるには、火事があった映画館には邪悪なものが潜んでいたあとの霊的なニオイのようなものが残ってるって――
 そのニオイはわたしにはわからなかったけど、嫌な雰囲気なのはわたしですら感じ取れたわ。

 決してルイーザがその邪悪なものなわけではなくて、もちろんルイーザが映画館に放火したのでもなくて、ルイーザはその邪悪なものを探しに映画館まで来たらしいの。
 邪悪なものなんかに会ってどうするのかはおじいちゃまにもわからないらしいけど、危険なら止めてあげなくちゃ。

 ルイーザの正体はパトリシアおばあちゃまだって、いくらおじいちゃまに聞かされても、わたしにはどうしてもルイーザは“幼い妹”に思えてしまうの。
 ルイーザと再会すれば何か変わるの?
 それともおじいちゃまが言っていたことは全部ウソだったってなるのかしら?

 本当に全部ウソならどんなにいいか。
 でもやっぱり――
 いろんなものを、この目で見ちゃってるのよね――


キャロラインより』



映画館火災の生存者の証言メモ

「名前まではわからないけど、たぶんその二人だと思うよ。
 最初は親子かと思ったんだけど、娘のほうが連れを『おばさま』って呼んでたからね。
『アデリンおばさま』かどうかまではちょっと……
 だってたまたま席がとなりだったから聞こえたってだけで、別に聞き耳を立ててたわけじゃないからね。

 いや、そんなこと僕に訊かれても……
 消防署の人に訊いてよ……
 気がついたら炎が上がってたんだよ。
 スクリーンが燃え落ちて。
 うん。火元は前のほうだと思うよ。

 物語がちょうど火事のシーンでね。
 最初は、すごい迫力の映像だな、なんて思って眺めてたんだよ。
 そのせいでみんな、逃げ遅れたんじゃないかな。
 満員だったのに助かったのが数人なんてね。
 映画が発明されたばかりのころには、走ってくる汽車の映像を観た客が()かれると思って本気で逃げ出したなんて話もあるのに、おかしなもんだよね。

 僕は……例のその……親子連れっぽい二人。
 あの二人が真っ先に本物の炎だって気づいたみたいでね。
 逃げる際に僕の足を蹴っ飛ばしていって、そのおかげで僕は現実に引き戻されたんだ。
 それくらい、のめり込むシーンだったんだよ。

 そうさ。それくらい、のめり込める映画だったんだ。
 あんなすごい映画は初めてだよ。
 本当にすごかったんだ。
 だけどおかしいな。
 どんなストーリーだったか全く思い出せない。
 火事のショックのせいかな。

 もう一度、観に行かなくちゃ。

 もう一度……

 もう一度……

 観に……行かなくちゃ……」