さて今度は屋内の監視カメラの映像だ。
従業員用と思しき飾り気のない廊下の映像
キャロラインが転がるように走り抜ける。
数秒後、円錐形の生物がキャロラインのあとを追いかけていく。
廊下の突き当たりの映像
暗い色の扉がある。
モノクロのため実際の色は不明。
キャロラインが把手に飛びつく。
開かない。
画面の隅に円錐形の生物の姿が映る。
扉が開き、奥から人間の腕が伸びてきてキャロラインの手首を掴んで扉の向こうへ引きずり込む。
わずかに映る扉の向こうは下りのスロープになっている。
スロープの映像
アデリンがキャロラインの手首を掴んだまま慣れた手つきで扉脇の制御盤を操作。
扉が閉まって円錐形の生物が締め出される。
アデリンが強引にキャロラインを引っ張ってスロープを降りていく。
二人が何かしゃべっているな。
待ってくれ。唇を読む。
キャロライン「叔母さま! ここは何なの!? いったいどこへ行くの!?」
アデリン「知りたいかい?」
キャロライン「ええ! もちろん!」
アデリン「なら取り引きだ。ワレワレもキミしか知らないことに興味がある。サン・ジェルマンについてだ」
キャ「何を言っているの!? 叔母さまが知らないことをわたしが知っているわけが……」
ア「サン・ジェルマンと世界を旅して、さまざまなものを見てきたのだろう? パトリシア?」
キャロラインがアデリンの手を振りほどく。
キャロライン「あなた、誰なの!?」
アデリン(?)「キミが養子にした男の妻の妹のはずだが?」
キャロライン「違う!」
アデリン(?)「ふむ。何故その判断を?」
キャ「何でアデリン叔母さまがわたしとおばあちゃまを間違えるのよ!?」
ア(?)「うむ? キミとパトリシアは同一人物なのでは?」
キャ「だから何を言っているの!? そんなわけないでしょ!?」
ア(?)「キミはルイーザでは?」
キャ「今度は妹!? さっきはおばあちゃまで今度は……あなたは何なのよいったい!?」
ア(?)「なんと! ルイーザとは幼体のほうだったのか?」
アデリンの姿をした何者かが監視カメラを見上げる。
無表情だが身振りから興奮がうかがえる。
感情がないのではなく、感情と表情筋の繋げかたを把握していないものと思われる。
(?)「記録媒体! 研究用ファイル展開! 貴重な発見があった! ニンゲン種との接触は、ワレら大いなる種族ですらも偏見という思考的不利益に陥らせる! これは深く検証すべき事例なり!」
あ! キャロラインがこの隙に画面外へ逃げた。
監視カメラの映像
先ほどの映像の続きならばスロープを下りての地下室になるはずだが、なぜか屋外。
奇妙な光沢のある壁と素材不明の扉が映っている。
扉が上に向かって開き、キャロラインが飛び出してくる。
遠景の映像
奇妙な巨大建築物の群れ。
強いて言うならば新進気鋭のデザイナーによる奇抜なタワーマンションが大量発生したかのよう。
共通点として、いずれの建築物も屋上に庭園を備えている。
画像を拡大する。
庭園の植物は当時の一般的な園芸品種から図鑑でしか見られないような古生代のもの、当時(一九三〇年)には化石すら発見されていないはずのものまで様々である。
庭園の飾りとして古代ローマの町並みを再現したものや、マチュピチュが遺跡になる前の景色を模したものなどが見られる。
画面を戻し、下部を拡大する。
キャロラインが建築物を見上げている。
画面を戻し、キャロラインの視線の先を拡大する。
建築物の屋上にキギータウンが載っている。
画面上部からモスマンが落下。
キャロラインの眼前で地面に激突。
あー、これは死んだな。
キャロラインは……かわいそうに、すっかり怯えている。
おっ。ルイーザが画面に入ってきた。
見たまえ、このバスケット!
キャロラインからオリヴィアへの手紙に記されていた、サン・ジェルマンの頭蓋骨を収めたやつだ!
えーっと、ルイーザの唇の動きを読むぞ。
「ワタシが撃ち落としたわけではないわ」
「大いなる種族に仲間割れがあったの」
「モスマンは少しイイコ過ぎた。アデリン叔母さまを説得しようとしていたし、できていたのかもしれない。けれど大いなる種族の……その中の一部には、のんき過ぎるとみなされた」
「まあ、でも、ちょうどいいわ」
ルイーザの指のブルーダイヤが光を放つ。
モスマンの体が地面に吸い込まれて消える。
おいおい、いったい何が起こっているんだ?
ルイーザが走り出して画面外へ消える
バスケットは地面に置かれたまま。
キャロラインがルイーザを追いかけようとしてバスケットにつまずく。
バスケットの中身が飛び出して地面に転がる。
ん? 何だこれは? サン・ジェルマンの頭蓋骨じゃないぞ!
小さくて見えにくいな。
ああ、きみも画面に顔を近づけてよぉく見るといい。
どんッ!!
なぁんとバスケットの中身はモスマンの生首と入れ替わっていましたあ!
あっははは! きみ、キャロラインとおんなじ反応だ!
ふふっ。怒るなよ。続きを見よう。
別の監視カメラの映像
大いなる種族の屋上庭園の一つらしき場所。
古代の神殿を模したものと思われるが、どの古代文明かの特定は困難。
名の知れた観光地とは明らかに異なる建築様式。
画面上端。
空中から染み出すようにサン・ジェルマンの体がゆっくりと降りてくる。
コート姿。ハンティング帽。ブーツ。
(十九世紀からの旅行者にふさわしいと言える出で立ち)
片眼鏡。
目を閉じて眠っているように見えるが、空中で体制を整え、しなやかに着地する。
ルイーザが駆け寄り、サン・ジェルマンが目を開ける。
あれ? 喧嘩をしてるみたいだな。
この角度では唇を読めないが、サン・ジェルマンがルイーザに対して怒っている。
ルイーザは笑っているけど寂しげでもあるぞ。
おやおや? 何だろう、このノイズは。
屋上庭園が崩れ始めた。
床に穴が開き、柱が倒れる。
画面全体がノイズに飲まれ……ブラックアウト。
こりゃ大災害だな。
従業員用と思しき飾り気のない廊下の映像
キャロラインが転がるように走り抜ける。
数秒後、円錐形の生物がキャロラインのあとを追いかけていく。
廊下の突き当たりの映像
暗い色の扉がある。
モノクロのため実際の色は不明。
キャロラインが把手に飛びつく。
開かない。
画面の隅に円錐形の生物の姿が映る。
扉が開き、奥から人間の腕が伸びてきてキャロラインの手首を掴んで扉の向こうへ引きずり込む。
わずかに映る扉の向こうは下りのスロープになっている。
スロープの映像
アデリンがキャロラインの手首を掴んだまま慣れた手つきで扉脇の制御盤を操作。
扉が閉まって円錐形の生物が締め出される。
アデリンが強引にキャロラインを引っ張ってスロープを降りていく。
二人が何かしゃべっているな。
待ってくれ。唇を読む。
キャロライン「叔母さま! ここは何なの!? いったいどこへ行くの!?」
アデリン「知りたいかい?」
キャロライン「ええ! もちろん!」
アデリン「なら取り引きだ。ワレワレもキミしか知らないことに興味がある。サン・ジェルマンについてだ」
キャ「何を言っているの!? 叔母さまが知らないことをわたしが知っているわけが……」
ア「サン・ジェルマンと世界を旅して、さまざまなものを見てきたのだろう? パトリシア?」
キャロラインがアデリンの手を振りほどく。
キャロライン「あなた、誰なの!?」
アデリン(?)「キミが養子にした男の妻の妹のはずだが?」
キャロライン「違う!」
アデリン(?)「ふむ。何故その判断を?」
キャ「何でアデリン叔母さまがわたしとおばあちゃまを間違えるのよ!?」
ア(?)「うむ? キミとパトリシアは同一人物なのでは?」
キャ「だから何を言っているの!? そんなわけないでしょ!?」
ア(?)「キミはルイーザでは?」
キャ「今度は妹!? さっきはおばあちゃまで今度は……あなたは何なのよいったい!?」
ア(?)「なんと! ルイーザとは幼体のほうだったのか?」
アデリンの姿をした何者かが監視カメラを見上げる。
無表情だが身振りから興奮がうかがえる。
感情がないのではなく、感情と表情筋の繋げかたを把握していないものと思われる。
(?)「記録媒体! 研究用ファイル展開! 貴重な発見があった! ニンゲン種との接触は、ワレら大いなる種族ですらも偏見という思考的不利益に陥らせる! これは深く検証すべき事例なり!」
あ! キャロラインがこの隙に画面外へ逃げた。
監視カメラの映像
先ほどの映像の続きならばスロープを下りての地下室になるはずだが、なぜか屋外。
奇妙な光沢のある壁と素材不明の扉が映っている。
扉が上に向かって開き、キャロラインが飛び出してくる。
遠景の映像
奇妙な巨大建築物の群れ。
強いて言うならば新進気鋭のデザイナーによる奇抜なタワーマンションが大量発生したかのよう。
共通点として、いずれの建築物も屋上に庭園を備えている。
画像を拡大する。
庭園の植物は当時の一般的な園芸品種から図鑑でしか見られないような古生代のもの、当時(一九三〇年)には化石すら発見されていないはずのものまで様々である。
庭園の飾りとして古代ローマの町並みを再現したものや、マチュピチュが遺跡になる前の景色を模したものなどが見られる。
画面を戻し、下部を拡大する。
キャロラインが建築物を見上げている。
画面を戻し、キャロラインの視線の先を拡大する。
建築物の屋上にキギータウンが載っている。
画面上部からモスマンが落下。
キャロラインの眼前で地面に激突。
あー、これは死んだな。
キャロラインは……かわいそうに、すっかり怯えている。
おっ。ルイーザが画面に入ってきた。
見たまえ、このバスケット!
キャロラインからオリヴィアへの手紙に記されていた、サン・ジェルマンの頭蓋骨を収めたやつだ!
えーっと、ルイーザの唇の動きを読むぞ。
「ワタシが撃ち落としたわけではないわ」
「大いなる種族に仲間割れがあったの」
「モスマンは少しイイコ過ぎた。アデリン叔母さまを説得しようとしていたし、できていたのかもしれない。けれど大いなる種族の……その中の一部には、のんき過ぎるとみなされた」
「まあ、でも、ちょうどいいわ」
ルイーザの指のブルーダイヤが光を放つ。
モスマンの体が地面に吸い込まれて消える。
おいおい、いったい何が起こっているんだ?
ルイーザが走り出して画面外へ消える
バスケットは地面に置かれたまま。
キャロラインがルイーザを追いかけようとしてバスケットにつまずく。
バスケットの中身が飛び出して地面に転がる。
ん? 何だこれは? サン・ジェルマンの頭蓋骨じゃないぞ!
小さくて見えにくいな。
ああ、きみも画面に顔を近づけてよぉく見るといい。
どんッ!!
なぁんとバスケットの中身はモスマンの生首と入れ替わっていましたあ!
あっははは! きみ、キャロラインとおんなじ反応だ!
ふふっ。怒るなよ。続きを見よう。
別の監視カメラの映像
大いなる種族の屋上庭園の一つらしき場所。
古代の神殿を模したものと思われるが、どの古代文明かの特定は困難。
名の知れた観光地とは明らかに異なる建築様式。
画面上端。
空中から染み出すようにサン・ジェルマンの体がゆっくりと降りてくる。
コート姿。ハンティング帽。ブーツ。
(十九世紀からの旅行者にふさわしいと言える出で立ち)
片眼鏡。
目を閉じて眠っているように見えるが、空中で体制を整え、しなやかに着地する。
ルイーザが駆け寄り、サン・ジェルマンが目を開ける。
あれ? 喧嘩をしてるみたいだな。
この角度では唇を読めないが、サン・ジェルマンがルイーザに対して怒っている。
ルイーザは笑っているけど寂しげでもあるぞ。
おやおや? 何だろう、このノイズは。
屋上庭園が崩れ始めた。
床に穴が開き、柱が倒れる。
画面全体がノイズに飲まれ……ブラックアウト。
こりゃ大災害だな。