『パパへ

 旅は順調です。
 心配しないでください。

 アーカムでパパの出生の秘密を突き止めました。
 帰ってから話すので覚悟しておいてください。

キャロライン&ルイーザ』


 ねえきみ、まずは封筒に注目してくれ。
 アーカムのホテルのロゴが入っているが消印はキギータウンだ。
 宛名の筆跡はルイーザのものだよ。
 そういえばオリヴィアへの手紙でキャロラインが、ルイーザが手紙を書こうとしていたって記していたな。
 それにしてもパトリシアの筆跡によく似ているな。

 で、問題は便せん。
 こちらは二人分のサインまで含めてすべてキャロラインの筆跡。
 ロゴはキギータウンのホテルのものだ。それはいい。
 だが紙がちょっと古すぎないかい?
 こうして封筒と並べてみると……きみにはわからないか。

 実はさっき鑑定の結果が返ってきてね。
 封筒は約百年前、まさにキャロラインが旅した時代のものなんだが、便せんのほうはさらに百年は古いものだと出たんだよ。
 ホテルが客室に設置しておくレターセットとしてはあまりに不自然じゃないかな?

 そしてこっち。
 こっちの手紙は封筒も便せんもキギータウンのものだ。



『親愛なるオリヴィアへ

 旅に出てから初めてパパに手紙を出したわ。
 あなたにはこんなにいっぱい送ってるのにね。

 アデリン叔母さまがパパにも書けってうるさくて。
 パパが心配してるはずだからって。
 船でのことやインスマウスでのことなんて、うかつに書いたら余計に心配するでしょうに。
 わたしの身を心配するのか、それとも頭を心配するのか。
 きっと頭のほうね。

 わたしたちは今、キギータウンってところに来ているの。
 着いたのが夜で、ホテルの看板を見つけてすぐに入ったから町の景色だとかはまだ見ていない。
 ニューヨークへ行くはずが逆の汽車に乗って、ルイーザに言われるまま聞いたこともない駅で降りて。
 ほんと何もかもルイーザに言われるまま。
 姉としてこれでいいのかしら?
 わたしって、ルイーザがホテルに泊まるため、汽車に乗るための身分証とお財布でしかないんじゃないの?

 今はそれでいいわ。
 この旅が終わったら姉として流行りの劇にでも連れていってあげるわ。
 明日、この手紙を投函したら、あとはひたすらルイーザのお供よ。


キャロラインより




PS.
 昨夜、寝る前に手紙を書いて、夜が明けてからこれを書き足しているわ。
 今朝がた、ひどい夢を見たの。

 夜中に奇妙な気配を感じて目を覚ますっていう夢を見て――
 ちょっとわかりにくいわね。
 目を覚ましたって部分まで全部夢よ。

 人間ではない何か――大きさは人間くらいなんだけど、顔の三分の一を占めるような異様に大きな真っ赤な目をした怪物が、窓にへばりついてわたしの様子をうかがってる夢。

 怪物と目が合って、わたし、夢の中なのに気絶しちゃったわ。
 朝になって本当に目が覚めても汗びっしょりで、しばらく震えが止まらなかった。

 すごく怖かったけど、ただの夢よ。
 インスマウスであんなことがあったんだから、このキギータウンにだってどんな化け物が潜んでいるかわかったもんじゃないけれど、でも昨夜のはただの夢。
 だってこのホテルのカーテンの色は白なのに、夢の中のカーテンは真っ黒だったんだもの。

 書いているうちにちょっと冷静になってきたわ。
 ただの夢の話なんて手紙にしてもしょうがないかしら?
 でも書いちゃったし送っちゃうわね。』



 ところできみ、蛾人間(モスマン)って知っているかな?
 アメリカの都市伝説に出てくる怪物なんだけどね。
 体長は二メートルほどで、全身を黒い毛に覆われていて、翼があって高速で飛び……
 現れると災いが起きるとされているんだ。