牧師さま
「脱線事故のあと火災が起きたため、遺体が見つからなかった人がいるのは事実です」
「生存者は新聞で読んだ限りでは一人もいなかったはず」

 どう? 怪しいでしょ?
 新聞で読んだ、ですって。
 新聞よ新聞。
 わたしだって自分の家のことでデタラメを書かれる前だったら新聞って聞けば信用しちゃっていたわ。

 鉄道事故の犠牲者が集まって埋葬された区画に、名前のない墓石が二つあったの。

牧師さま
「身分を示すものは事故後の火災で焼け落ちており、探しに来る親族もいませんでした」
「抱き合った状態で遺体が発見されたことから夫婦として埋葬いたしました」
「警察のかたの話ではお二人とも二十歳前後。女性は骨盤の状態から出産経験があると思われましたが、子供は現場からは発見されませんでした」


 そうしたらルイーザがいきなり「ヘンリーとヘンリエッタ」って言って、わたし、ギョッとなったの。
 ヘンリーはわたしたちのパパと同じ名前よ。


ルイーザ
「ヘンリーもヘンリエッタも良くある名前」
「二人は旅先で荷物係にトランクを間違えられたのがきっかけで知り合って意気投合した」
「だけどヘンリーは貧しく、ヘンリエッタの両親に結婚を反対されて駆け落ちした」
「息子の名前はヘンリー・ジュニア」
「事故のあった列車でこの一家はルルイエ夫妻と同じボックス席に座っていた」


 この辺りで妙な予感はしてきていたのよ。
 だけどわたしは黙って聞いていたわ。
 だって何も知らないのはわたしだけなんだもの。


ルイーザ
「汽車はインスマウスの人々に襲撃された」

牧師さま
「そのように噂するかたもおられましたが何の証拠もありません」

ルイーザ
「目的は生け贄の儀式。たくさんの人間の生命をブルーダイヤに浴びせようとした」

牧師さま
「なんと冒涜的な話を」


 牧師さまが十字を切って、わたしも慌てて真似をした。
 たくさんの人を生け贄にする儀式。
 これってわたしたちがインスマウスで体験したのと同じよね?


ルイーザ
「ヘンリエッタは炎に巻かれて死ぬ前にヘンリー・ジュニアをサン・ジェルマンに託した」
「サン・ジェルマンはパトリシアにヘンリー・ジュニアを守ることとイギリスに帰ることを指示し、自身はアーカムに残った」
「そしてそれっきりサン・ジェルマンがパトリシアの待つイギリスに戻ることはなかった」