親愛なるオリヴィアへ

 やっと家の前の記者がいなくなってくれたわ。
 だからってその理由が単に飽きたってだけでなく、切り裂きジャックの復活だか模倣犯だかが久しぶりに現れたからだっていうんじゃ素直には喜べないけれどね。
 ともあれおばあちゃまのお葬式も終わって今は静かよ。

 ああ、でも、ちょっと騒ぎがあったのよ。
 記者には内緒よ?
 ブルーダイヤを再鑑定に出したのよ。

 弁護士がね、ブルーダイヤを最後に鑑定したのはおばあちゃまがおじいちゃまと結婚する直前で四十年近く前なわけだから、改めて鑑定したら傷や汚れで値段が下がって相続税が安くなるかもしれないって言ったの。
 それを聴いてパパは逆に、相続税の支払いを拒否することでブルーダイヤを国に持っていってもらおうって考えたの。

 ところがいざ鑑定をしてみると、ブルーダイヤはダイヤモンドじゃなかったの!
 ちょっと変な書き方になっちゃったわね。
 とにかく四十年前の鑑定ではダイヤモンドだったのに、今度の鑑定では全く違う鉱物だって言われちゃったのよ!

 サファイアでもアクアマリンでも他のどんな宝石でも、もちろんガラス玉でもない。
 鑑定士は、こんなの見たことない、もしかしたら隕石かもしれないって言ってたわ。

 で、値段がつけられなくって相続税はゼロ。
 パパの目論見はハズレ。
 おばあちゃまの遺言どおり、指輪はめでたくルイーザの左手の薬指に。
 子供の指じゃあリングの部分がぶかぶかになると思うんだけど、ルイーザは気にしていないみたい。

 四十年前の鑑定士が間違えたのかもしれないし、この四十年の間に誰かがすり替えたのかもしれない。
 すり替えられそうなタイミングは何度もあったし。
 弁護士はアデリン叔母さまを疑ってたけど、わたしはそれはないと思うわ。
 アデリン叔母さまって、ウソはつくけど、すぐバレるんだもの。

 結局おじいちゃまが詐欺師でダイヤは最初からニセモノで、四十年前の鑑定士はおじいちゃまとグルだったって話になったの。
 やれやれよ。
 おばあちゃまが亡くなるまで誰も調べようとしなかったのがせめてもの幸いだわ。
 おばあちゃまは痴ほうになっていろいろ忘れてしまっても、それでも最期までおじいちゃまにもらった指輪を手放さなかったわけなんだもの。

 じゃあね。
 休み明けにはそっちに戻るわ。

キャロラインより




※便せんの上部、本来とはズレた位置に“親愛なる”と書き足されている。
たいへんよオリヴィア!

 パパがルイーザからブルーダイヤを取り上げて、テームズ川へ投げ捨ててしまったの!
 ルイーザはひどく塞ぎ込んでいるわ。
 たとえ本物のダイヤモンドじゃなくっても、おばあちゃまの形見なんだもの当然よ。

 メイドたちの話ではルイーザにはろくに友達もいなくって、何かあるとすぐにおばあちゃまの部屋に駆け込んで二人きりで何時間も閉じこもってしまっていたんですって。
 そんなに仲良しだったおばあちゃまがいきなりあんな死にかたをして。
 わたしも愚かだったわ。
 呪いなんて話に簡単に踊らされてルイーザの心を傷つけてしまった。
 霊能者が変な死にかたをしたのなんて、あんなの霊能者のフリをした強盗が指輪を奪おうとして何かがどうにかなって絡まったとか、てこの原理とか、そんなことだったに決まっているじゃない!

 ルイーザはお葬式の間もずっと平気そうな顔をしてたけど、そんなわけなかったのよ。
 無理して気丈に振る舞っていただけだったのよ。

 わたし、どうしたらいいのかしら?
 パパには呪いが降りかかる前に寮へ帰れなんて言われたわ。
 でもルイーザをこのままにしておけるわけないじゃない!

キャロラインより




親愛なるオリヴィアへ

 この間は怒りをあなたにぶつけるみたいな手紙を書いてしまってごめんなさい。
 だけど今度は混乱をぶつけてしまいそう。

 ブルーダイヤが帰ってきたのよ。
 テームズ川に捨てられたのに、屋敷の屋根の上から落ちてきたの。
 魚がダイヤを丸呑みにして、その魚を鳥が捕まえてってことで、一応、説明はできるわ。
 最近やたらとカラスがうるさかったし。

 それともパパがダイヤを捨てたというのがウソだったのかも。
 わたしはあとでパパから聞いただけで、その場にいたのはパパとルイーザだけだったわけだし。
 でもそれにしてはパパの怯えようはとても演技とは思えない感じなのよね。

 考えがまとまらないわ。
 寮に帰ってからゆっくり話しましょう。
 またね。
 お守り、ありがとう。

キャロラインより