きみの目の前には一通の手紙がある。
 念のため言っておくが、きみに宛てられたものではない。
 これは我々がこれから語り合う事件の貴重な資料だ。

 とても古い手紙だ。
 封筒は失われ、便せんはすっかり茶色く変色している。
 それより問題なのはこの便せんがビリビリに破られた切れっぱしでしかないということだ。
 この手紙はキャロライン・ルルイエの失踪後に、学生寮の彼女の部屋の家具の隙間から発見された。
 手紙の筆跡からして差出人はキャロラインの母方の叔母のアデリン・アンダーソンで間違いないだろう。
 
 では早速だが手紙の内用を見てみよう。
 英語で書かれているが読めるかな?
 紙片その1は当たり障りのない時候の挨拶だ。

 紙片2はキャロラインの父方の祖母が、貴重なブルーダイヤの相続人にルイーザという人物を指名したという報せ。

 紙片3は、一人息子のヘンリーやその長女のキャロラインがないがしろにされているとの憤り。

 紙片4と5は、ルイーザを本当にキャロラインの妹として扱ってよいのかという、アデリンからキャロラインへの遠回しな問いかけ。

 紙片6は、ブルーダイヤは本来ならキャサリン(キャロラインの母・アデリンの姉)のものになるはずだったという訴え。

 紙片7と8は、キャサリンがこの世に居ない今、ブルーダイヤを受け継ぐのにふさわしいのはキャロラインだとの扇動。

 紙片9ではブルーダイヤをルイーザに渡すことはキャサリンへの裏切りだとまで記しているな。

 そして最後の紙片10でキャロラインにロンドンの実家への帰還をうながしている。

 もともとはもっと長い手紙だったはずだが現存しているのはここにある断片のみだ。
 当時のルームメイトによればキャロライン本人が部屋を掃除して処分したらしい。

 ……アデリンがこんな手紙を送りつけさえしなければ、キャロラインもあんな目には遭わなかったのだろうにね。