「ルークだけでも逃げろ」
「隊長、俺たちは足手纏いになる。ここに置いて行ってくれ」
「何を弱音を! 全員で戻るぞ、絶対に!」
 瘴気測定器は黄色。
 倒れた隊員たちも今ならまだ助かる。

 ルークは今にも意識を失いそうな幼馴染のチャーリーの腕を肩に回す。
 まだ歩ける隊員たちは意識のない仲間を引き摺りながら進んだ。

「うっ、」
「大丈夫か」
 歩けていたはずの隊員たちも瘴気で意識が遠くなる。

 どうすればいい?
 彼らを置いて自分だけ逃げるなんてしたくない。
 だがこのままでは全滅だ。

 ……女神よ。
 この世界を守る女神ライラプスよ。
 どうか、我らに加護を。
 どうか、彼らを助けてください。

 神なんて信じていない。
 こんな時だけ、縋るなんてどうかしている。
 それでも祈らずにはいられない。

「……犬さえいれば」
 犬さえいれば彼らは助かるのに。
 自分の判断が一歩遅れたせいで。
 眉間にシワを寄せながら、悲痛な声でつぶやくルーク。
 幼馴染のチャーリーは「ルークのせいじゃない」と小さな声で答えた。

「……なんだ?」
「この光は?」
 まるで天から迎えが来たかのような光に調査隊は目を細める。

 光の中には金髪の女。
 透けた姿は幻想的で、女神ではないかと錯覚する。
 光はそのまま小さな丸になり、地面へとたどり着いた。


「……は?」
 光の中には小さな生き物。
 大きくてまんまるな目にふさふさな毛をした小さな犬。
 
「……犬?」
「ルーク、瘴気が……」
 犬を中心に、瘴気の霧がいっきに晴れていく。
 
 犬は瘴気を避けるもの。
 犬の周りだけ瘴気がなくなり、犬を連れて歩いていれば瘴気が近づかないと言われている。
 だが、この犬はまるで瘴気を祓っているかのように、どんどん瘴気が消えていく。
 
 目の前で起きた意味が分からない現象に、ルークとチャーリーは顔を見合わせるしかなかった。