幽閉された花嫁は地下ノ國の用心棒に食されたい

「この國は、『地下ノ國(ちかのくに)』と称されている」

 まだ人通りがほとんどない通りを歩きながら、龍海は話す。

「この國に棲む者は、そのほとんどが人間界に適応できなくなったあやかしだ。それでも何とかあやかしが生きながらえる為、地下の奥底にこの國を築いたと伝えられている」
「そうなのですね。私、知りませんでした」
「このことを知っている人間はそういない」

 そのため國の街並みは人間界の文明の変化に乗ることなく、在りし日のままの姿を保っているのだという。

 改めて見回すと目にとまる、木の目が見える瓦屋根の建物たち。今歩く石畳通りのすぐ横には、用水路を思わせる細い川が流れる。
 自動車が走らないからだろう。道幅は人間界と比べやや細く、建物同士の距離も近い。

 しかしそれを息苦しく思わないのは、やはり街全体に息づく穏やかな時の流れのためかもしれない。

「あれっ、龍海の兄ちゃん!」

 建物の影から、一人の少年が駆けてきた。
 着物姿で元気な癖っ毛が愛らしく、大きな金色の瞳をもっている。
 にこにこ笑う表情が屈託なく、朱莉も自然と笑みを浮かべた。

「朝にも来てなかったっけ。今日は忙しいの?」
「ああ。今日は少し所用があってな」
「あれ? もしかして、兄ちゃんの後ろにいる女の人って……」
「ああ。昨日騒ぎになってただろ。空から真っ逆さまに落ちてきた張本人だ」

 少年の瞳が、ぴかりと光る。
 同時に、あちこち跳ねる癖っ毛の中からぴんと一本角が天を衝いた。
 ここはあやかしが棲む國。もしかしたら鬼の少年なのかもしれない。
 しかし、それ以外はほとんど人間と相違ない少年に対し、朱莉は笑顔で腰を落とした。

「こんにちは。そしてはじめまして。私、昨日空から落ちてきた張本人の──」
「──出て行け!」
「え」
「出て行けよっ! この國から、今すぐに!」

 急に鋭くなった視線と剥きだしになった牙。
 真正面からぶつけられた突然の敵意に息をのむ。
 子どもの大声は辺りに響き、他の子どもや大人たちも姿を見せはじめる。

 一際驚いた様子で駆け寄ってきた女性がいた。彼女の額にもまた二本の角が生えている。

「ちょっとタマキ! 急になんだい、往来で大きな声を出して!」
「だって母ちゃんこの女だぞ! 昨日空から降ってきた怪しい人間女! 父ちゃん母ちゃんだって言ってたじゃないか! あの人間女は、敵か味方か分からないって!」
「そ、それは……」

 タマキと呼ばれた少年の主張に、母親らしき女性が苦々しげな顔をする。
 今の話は恐らく事実なのだろう。朱莉の中で衝撃は特になかった。

「も、申し訳ございません龍海さまとお連れの方! 今朝お受けしたお狐様からのお達し、息子にもきちんと言い含めたはずだったのですが、なにぶん幼く頑固なもので……!」
「いいや。タマキの言うことも尤もだ。顔を上げてくれ」

 冷静に言う龍海に、タマキの母親は申し訳なさそうに顔を上げる。
 ちらりと視線が朱莉に向いた。困惑と戸惑いの目だった。
 龍海はタマキの前まで歩み寄り、地面に片膝をつく。

「タマキ。俺はこの人間の監視役だ。万一何かあったとしても、俺が対応するから問題ない。タマキは何も心配はいらないさ」
「本当に?」
「本当だ。信じられないか?」
「龍海兄ちゃんのことは、信じてるけど」
「そうか。ありがとうな」

 立ち上がった龍海は、タマキの頭をわしゃわしゃ撫でる。
 満更でもなさそうにしているものの、タマキは朱莉を小さく睨んだままだった。

 先ほどの龍海と母親の会話から察するに、龍海は早朝から周辺の家を回っていたらしい。
 お達しの内容は恐らく、朱莉は人間だが過度な警戒は不要──といったものだろうか。つくづくお狐様にも龍海にも頭が上がらない。

 それでも、住民が心まで納得がいくかは別の話だ。
 現に今集まる周囲からの視線も、朱莉を歓迎するものはひとつもない。

「皆さま。此度私が起こした騒ぎ、心よりお詫び申し上げます」

 考えるよりも早く、朱莉はその場に両膝をついていた。
 両手を手前に添え、深々と額を地面につける。

「私の出現により、皆さまの平穏を乱すことになってしまいました。ですがご安心下さい。近日中に私はこの國から姿を消します。さすれば皆さまの不安もすぐに払拭できましょう」

 顔を伏せた状態でも、詫びの言葉は相手に明瞭に届いているはず。
 十五年間で身につけてしまった詫びの作法。まさか役立つ日が来るとは思わなかった。

「情けないことに、今の私はなにぶん着の身着のままで現れた身。今はお狐様の深いご厚意に甘えるしかございません。あと数日、どうかご猶予下さいますようお願い申し上げます」

 地面にひれ伏したまま、朱莉は黙って陳情への反応を待つ。
 返ってくるのは溢れる罵声か、石のつぶてか、四方からの足蹴か。
 いずれにせよ無様に姿勢を崩さないで済むように、朱莉は一人身を固くした。

「おい。もう止せ」
「え?」

 ぐい、と強い力で腕を掴まれる。
 急に視界に広がった日の光に一瞬目が眩んだが、すぐに龍海が引き上げたのだと分かった。

 しかしまだ、自分は顔を上げる許しを得ていない。
 思いも寄らないことに困惑していると、誰かがこちらに近づく気配に気づいた。

「あ、あのよ」
「タマキくん?」
「俺はその、そこまでしてほしかったわけじゃ」

 こちらに寄ってきた少年は、何故かしょんぼりと項垂れていた。
 心なしか角の鋭さも薄れ、大きさが縮んだように見える。
 今にもこぼれ落ちそうな涙に気づき、朱莉はぎくりと胸が騒いだ。

「ど、どうしたの。私がそんなに恐ろしいの? それなら龍海さん、やっぱり今日の外出は取りやめに……!」
「そうじゃない。いいからあんたはこいつの話を聞け」

 来た道を引き返そうとする朱莉の肩を、龍海の手が難なく捕らえる。
 再び見合うこととなった金色の瞳が、真っ直ぐ朱莉を映し出した。

「オレ、あんたはもっと酷いやつだと思ってた。この國を目茶苦茶にしようとやってきた、悪いやつだって」
「そ、そうなんだね?」
「でも。そんなことを企んでるやつが、こんなふうに土下座してまで謝るわけないよな」

 タマキは覚悟を決めたようにぐっと口元を締めた。

「ごめんなさい! オレ、あんたに酷いことを言っちまった!」
「……!」

 勢いよく下げられた少年の頭に、しばらく呆然とする。

 謝られている──何故。私が?
 何事か理解できず戸惑っていると、後ろから「おい」と肩を叩かれるのがわかった。龍海だ。

「子どもがこうして謝ってるわけだが。あんたから何か言うことは?」
「あ、わ、私は……」

 こういうとき、どうすることが正解なのだろう。
 來島家に引き取られて以降、朱莉が謝ることは数え切れないほどあった。

 けれど、相手から謝られたことはない。ただの一度も。

 困惑の中、必死に返す言葉を探していた、その矢先のことだった。
 建物が並ぶ通りの向こう側から、突如として大きな破裂音が響いた。

「きゃああっ」「何だ!?」「地震か!?」
「全員身体を伏せろ!」

 龍海の素早い指示に倣い、辺りのあやかし達は一斉に身体を伏せた。

「馬鹿、あんたもだ!」
「あ……!」

 呆けていた朱莉の身体を、龍海の腕が庇う。
 続けざまに街に響く轟音に、地面がビリビリと揺れる。街中の家屋からは悲鳴と戸惑いの声が上がっていた。

 しばらくすると轟音は止み、辺りに静けさが戻ってくる。

 ドクドクと逸る心音を聞きながら、朱莉はゆっくりとまぶたを開いた。
 砂埃で曇った視界に、水色の文様が入った着物がはっきりと見える。

「無事か。怪我は」
「っ、だ、大丈夫です。何ともございません」
「そうか」

 すぐ頭上から問われた言葉に、心臓が大きく音を立てた。
 突然の衝撃から庇われた身体は、龍海の腕の中に難なく閉じ込められていた。

 抱きしめる腕の力は強く、改めて相手が殿方なのだと思い知る。
 着物越しにうっすらと感じる体温と胸の鼓動に、朱莉の顔は否応なく熱くなった。

 そんな朱莉の様子などつゆ知らず、龍海は周囲に素早く視線を馳せる。

「収まったらしい。周囲の様子を見てくる。その場を動くな」
「は、はい」

 素直に頷くと、龍海は砂埃の中に消えてしまった。
 着物の裾で口元を覆いながら、朱莉も上体を起こし辺りを窺う。

 茶色い靄のようなものが、いつの間にか街全体を呑み込んでいる。先ほどの轟音もただ事ではないだろう。他の人たちは無事だろうか。

「あの、皆さんご無事で……」
「やっぱりその女だ!」

 土臭い空気に幾度かむせていると、剣呑な声が飛んだ。大人の男の声だった。

「嫌な予感はしていたんだ! 人間の女がこの國に現れるなんざ! やはり災いの前触れだったに違いねえ!」
「父ちゃん! でもさっき、この人は俺たちにちゃんと謝ってくれたじゃないか!」

 後の声はタマキだった。
 砂埃で視界がはっきりしないが、父親を説得しているらしい。

「離れてろタマキ! 人間ってのはなあ、時には平気で嘘も吐くし土下座で演じることもするんだよ!」
「そんなっ」
「いいから! 危ねえから、お前は母ちゃんと一緒にいろ!」

 視界が晴れていく。
 気づけば朱莉は、あやかし達によって取り囲まれるように見下ろされていた。

 眼前に立つのは、一際上背のある大柄な鬼だ。
 着物をまとってはいるが、裾から見える肌は赤らんでいる。額には大きな角が一本、まるで威嚇するように立っていた。

「お狐様の御慈悲に付け込みおって……許さんぞ、人間」
「そうだそうだ!」「弱々しい女のなりで乗り込めば油断すると思ったか!」「二度も騙されると思ったら大間違いだ、馬鹿な女め!」

 大鬼に呼応するように、四方から援護の罵り言葉が飛ぶ。
 先ほどは隠されていた疑心が、今ははっきりと鋭い視線にこめられていた。
 どうやら今起こった轟音も街を包む砂塵も全て、朱莉が原因だと思われているようだ。
 状況を理解した朱莉の口からは、弁明の言葉は出てこない。代わりに浮かぶのは、申し訳なさと諦めの感情だった。
 やっぱり私の居場所は、地下ノ國にだってありはしないのだ。

「下がれ、クロキチ」
 その場にいる誰もが、はっと目を見張った。

 有無を言わさない、強く低い声。
 声の主はいつの間にか、近くの川に架かった橋の頂点にいた。

 腰を落としじっと遙か遠方を見つめている横顔は凜々しく、やはりとても美しい。

「お前の言うことは尤もだ。お前たち家族が言うことは、いちいち的を射ているな」
「ご、ご無礼を、龍海様! 我々は決して貴方様のことを申してはおりませぬ! あくまで我々にこの國を作るに及ばせた、悪しき人間どもに対して……!」
「クロキチ。これをお前に託す」

 龍海が懐から放ったものを、クロキチと呼ばれた大鬼が慌てて受け取った。

 砂埃の中でも眩しく光り輝く碧い鉱石。
 細紐が繋がっている。どうやらネックレスになっているようだ。

「以前から欲しがっていたな。しかしこれは自警団内の位を表す証し。おいそれと渡すわけにはいかないと」
「は、はあ。しかしそれを今、何故俺に?」
「今からこの禍ごとの原因を探ってくる。その原因がそこの人間だと結論付けば、それは今日からお前のものだ」
「なっ!?」
「龍海さん?」

 話が全く見えない朱莉が、思わず口を挟む。
 そんな朱莉に一瞥もくれないまま、龍海はひらりと地に降り立った。

 かち、と刀を柄に合わせる音がする。

「その代わりに、俺が戻るまでの間この人間のお守りを頼む。よかったな。予期せぬ昇進になるかもしれないぞ」
「た、龍海様お待ちください! いくら何でもこれは受け取れませぬ!」

 クロキチの返事を待たぬまま、龍海は音源の方向へと駆けだしていた。
 置き去りにされた朱莉は目を瞬かせるしかできない。

「父ちゃん。それって確か、自警団団長の紋章なんじゃ……?」
「ああ」

 恐る恐る尋ねるタマキに、クロキチは苦々しく頷いた。
 手のひらには碧く輝く鉱石のネックレスが、小さな光を放っている。

 無言のまま朱莉に向けた視線には、先ほどの刺すような視線ではなくなっていた。

「あんた、本当に敵じゃあないのか」
「……はい。少なくとも私に、その自覚はございません」
「まったく。龍海様もずるい御方だよ」

 がしがしと頭を掻くクロキチは、龍海が立ち去った方向に視線を馳せた。

「この紋章は、龍海様がお狐様より拝受されたものだ。あの方がこの國の用心棒として生きることを認められた証し」
「え?」
「つまり……龍海様は自身が築いてきた立場と引き換えに、あんたの身の安全を守ることを俺に頼んだってことだ」

 はっと息をのむ。
 それほど大切なものを、龍海は自分なんかのために手放したなんて。
 龍海が駆けていく背中が脳裏を過り、朱莉は血の気が引く心地がする。

「あの方は極端な方だ。自分が守ると決めたものには文字通り命を賭す。この國や街や住民達のために。現に今までも、幾度となく死線を渡ってこられた」
「死線……」

 だからあんなに真っ直ぐな瞳をしているのだろうか。見た者の心を一瞬で射抜く、曇りない瞳を。

 あんなに美しく澄み切った眼差しを、朱莉は見たことがない。

「音は止んだが、いつまた異変が起きるか分からん。皆のもの! 念のため奥地の広場に集まれ! 砂埃が酷い。口元に布端を当てて慌てずに向かうんだ!」

 クロキチが発した指示に、周囲のあやかしたちが一斉に動き出す。
 どうやら彼もまた何らかの地位を持っているらしく、細かな指示を他の者に出していく。ひとしきりの指示だしを終えたあと、再び朱莉に向き直った。

「ぐずぐずするな。あんたもいくぞ」
「でも……いいのですか?」
「仕方なかろう。龍海様直々の命だ」

 まだ心から納得はしていない、ということだろう。
 それでも朱莉を案内しようとする彼に感謝しつつ、朱莉は龍海が姿を消した反対方向を見つめた。

 街の向こうはさらに砂埃が立ちこめ、すでに視界が塞がれてしまっている。

「この砂埃と先ほどの轟音は、一体なんなのでしょうか」
「それを龍海様が調べに向かったんだ。あんたには何もできることはない」
「……」

 本当にそうだろうか。
 私にできることは、本当に何もないの?
「あ……、おいっ!」

 気がつけば、朱莉は駆け出していた。

 クロキチの慌て声を聞きながら、迷いなく砂埃の中へと突進していく。
 何が起こっているのかは分からない。自分にできることが何かも分からない。

 しかし今の自分には、行きたいところに向かうことができる足がある。
 幽閉されていたときの自分とは、もう違うのだ。

「龍海さん……!」

 恐らく彼には、本気にしてもらえなかっただろう。
 それでも間違いなく、龍海は人生で唯一朱莉が恋い焦がれた人なのだ。

 彼が自分に賭してくれた命。そう簡単に落とさせるわけにはいかない。

 背の高い家屋が建ち並ぶ街並みを、ようやく抜ける。
 道はその先の草原を真っ直ぐ続いた。
 辺りの茶色の霧はさらに色を濃くなり、口元を着物の裾で覆いながら進む。
 成る程クロキチさんの指示はとても的確だ、と朱莉は小さく笑った。

「っ、あ……龍海さん!」

 一瞬だったが、間違いない。
 道をさらに進んだ小さな丘の上に、彼の姿はあった。

 すると向こうも気配に気づいたのか、こちらを振り返る。
 見張られた瞳は、砂埃の中でもやはり綺麗だった。

「龍海さん、お怪我はありませんか!?」
「……女一人引き止められないか。クロキチの奴、後で説教だな」
「いいえ。私が無理を押してきたのです。クロキチさんは他の住民の避難誘導をされていたので……!」

 そのときだった。
 再び辺りに、地面を揺らすほどの音が響く。
 この場にいる朱莉たちには、音の発生源がようやく理解できた。

「く、蜘蛛!?」
 思わず後ずさった朱莉に対し、龍海は悠然とその光景を眺めていた。
 今居る小丘から見下ろせる、茶色の土で固められた窪地。その土中から突如として姿を見せたのは蜘蛛に間違いなかった。

 ただ、その大きさは朱莉の知るものとは違う。
 熊、麒麟、象──咄嗟に思い当たる巨大な動物のさらに数倍以上はあろうかという、とても巨大な蜘蛛だ。

土蜘蛛(つちぐも)だな」

 そう言う龍海からは、動じる様子は一切ない。

「古くから伝わるあやかしで、代々気性が荒い。普段はその名の通り土の中で暮らしているが、たまにこうして地面を這い出て他のあやかしや人間を食らう」
「あやかしや人間を食らう……きゃっ!」

 龍海の紹介内容が気に入らなかったらしい。
 土蜘蛛から放たれたけたたましい雄叫びに、身体がびりびり揺れた。

「土中に暮らすお前とて久方ぶりの日光は恋しかろう。お狐様も俺も閻魔ではない。この土壌で日照りを楽しむ分には見逃してやる」

 涼しげに声を張る男に、土蜘蛛はまた非難めいた声を上げた。

「ただし街にいる住民を食らわせるわけにはいかない。容赦なく──切る!」
「ギャアアア!」
「ひっ!」

 一層大きな金切り声が響いた。
 直後、巨大な蜘蛛が真っ直ぐこちらへ突進してくる。驚くほどの速さに圧倒され、身体が動かない。

 だめだ──食べられる!
 まぶたを塞いだ瞬間、ぐいっと強い力で身体を引かれた。

「あ……!?」

 大きな口に呑み込まれる心地がした刹那、ふわりと身体が宙を舞う。
 気づけば龍海は朱莉の腹を抱え、上空へ身体を翻していた。
 視線を落とすと同時に、凄まじい激突音が響き身体が強張る。

「さ、先ほどの小丘が……」
「あの土蜘蛛、相変わらずの馬鹿力だな」

 そう零すと、龍海は少し離れた場所へと着地した。
 粉塵が辺りに飛び散り、上空まで砂埃が舞い上がっている。
 今の激突で姿を消した小丘に、朱莉は小さく息をのんだ。

「戦う術がないのなら、あんたは街に戻れ。勢いだけでここに来られても足手まといだ」
「す、すみません……でも!」

 正論ではあったが、ただ指をこまねいて待っているわけにはいかない。
 先ほどの住民たちも、皆揃って口にしていた。
 この災いの原因が自分にあるのならば、責を負うのもまた自分だ。

「──土蜘蛛さん! 貴方の目的は私ですか!?」

 ぎゅっと拳を握り、朱莉は目一杯に声を張り上げた。

 本当は恐いし、逃げ出したい。今にも身体がすくみ上がりそうだ。
 けれどこれ以上、この美しい國を破壊させるわけにはいかない。

「私ならここにおります! 逃げも隠れもしませんから、どうか暴れるのはやめてください……!」
「おい何やってんだ! いいからあんたは下がってろ!」
「いいえ龍海さん! 私のために、他の誰も犠牲にするわけには参りません!」

 後方から肩を引いた龍海に、間髪入れず反論する。
 それが意外だったのか目を瞬かせる龍海に、朱莉はふっと柔らかく微笑んだ。

「短い期間でしたが……お世話になりました。死の間際に貴方のような殿方に出逢えたこと、私は決して忘れません」

 名残惜しかったが、幸せの時もそろそろ終わりだ。

 生涯で唯一好いた人。
 最後に覚えてもらう顔は、やっぱり笑顔がいい。

 肩に乗せられた手をそっと避け、朱莉は土蜘蛛が呻く谷の先へと歩みを進める。
 谷下にいる土蜘蛛もまた、真っ直ぐこちらを見据えた。まるで獲物を見定める視線に、ぞわりと身の毛がよだつ。

 あんなに大きな蜘蛛だ。きっと私を一呑みするくらい訳ないに違いない。
 人の面をかぶったヒゲ爺と、巨大かつ凶暴な土蜘蛛。
 ああ。どのみち自分は、化け物に食べられる運命だったらしい。

 今一度覚悟を決めよう。けれど、ただで死んでやるつもりもない。化け物も道連れだ。
 地鳴りのような足音が近づいてくる。
 再び大きく開かれた口内に呑み込まれるのを感じながら、朱莉はそっと両手に力をこめた。

「朱莉!!」

 呼ばれた名とともに、手首を掴まれる。
 同時に、眼前に迫っていた山蜘蛛の巨体が向こう側の山壁まで飛ばされた。

 龍海の刀が起こした、大量の水の激流によって。

「た、つみ、さん……?」

 目が覚めるような水の飛沫が、辺りに飛び交う。
 朱莉は目を丸くして、前に踏み出した男を見上げた。
 刀を構えたまま、細く息を整える気配が届く。

「あんたが言う望みとやらは、所詮そんなものか」
「え?」
「俺に食べられたいんじゃねえのかよ」

 はっと目を見張る。

 どこか砕かれた粗雑な口調で語られたのは、出逢ってから伝え続けてきた自分の願望だった。

「それとも、俺とあの土蜘蛛はあんたの中で同等ということか。まあ、人の好みは人それぞれだからな」
「違います! 私が恋い焦がれた方は、生涯貴方だけです!」
「なら命を投げ打つような真似はするな。これから先、もう二度と」

 横目で静かに告げられた言葉に、朱莉の胸がじんと熱くなる。
 凜と敵を望む面立ちは、どこまでも真っ直ぐで強い。

「あんたが生きるならば、俺はあんたを守る。例えどんな敵があんたを襲おうと」
「っ、龍海さん」
「お狐様のご意向だからな。──ここにいろ!」

 だん、と崖先を思い切り踏み込んだ。

 龍海の身体は軽々と宙を舞い、土蜘蛛の遥か上へと辿り着く。
 気づいた土蜘蛛は吐き出した白い糸で反撃するが、男の素早さに為す術もなかった。

「蜘蛛には蜘蛛の矜持もあるだろうが、あいにくこの國は法治国家だ」

 一気に刀を振り下ろす。
 刹那、眩しい閃光が走ったかと思うと土蜘蛛の身体が一刀両断された。

「土に還れ、土蜘蛛」
「ギャアアア……!」

 渾身の断末魔が、徐々に先細っていく。
 巨体を支えていた足の一本から力が抜けると、他も次々と力を失っていった。

 完全に地に腹をつけた土蜘蛛は、最期まで敵意をこめて龍海を睨んでいる。
 それを一身に受けていた龍海はゆっくり体勢を戻すと、刀を鞘に収めた。

「すごい……」

 思わず漏れ出た言葉だった。
 朱莉が今まで生きてきた人間界でこのような化け物と対峙し、真っ二つに切り捨てられる者はいるだろうか。いや、いない。絶対にいない。
 美しい立ち姿にさらに心が奪われるのを感じる。やはり自分の直感は間違ってはいなかった。

 生涯の伴侶としてもらう相手は、この人しかいないのだ。

「……え?」

 それは一瞬の出来事だった。
 龍海と土蜘蛛から距離のある朱莉の傍らを、何かがすっと横切る。
 風に流れるように運ばれていった「それ」に朱莉は咄嗟に振り返った。
 日に照らされきらりと光ったあれは──蜘蛛の糸?

「待ちなさい!」

 嫌な予感に突き動かされ、朱莉は駆け出していた。

 追った先にある蜘蛛の糸はみるみる寄り集まり、一つの小さな蜘蛛になる。
 それが次々に数を増やし、いつの間にか数十以上の蜘蛛となり丘に放たれた。

 真っ直ぐに向かう先には、人家が建ち並びあやかしたちが避難する街がある。

「止まりなさい! そちらへ行ってはいけない……!」

 駆けながら説得を試みるが、耳を貸す子蜘蛛たちではない。
 あれは恐らく今息絶えた土蜘蛛の分身だ。本体を滅ぼされたせめてもの反撃として、異形の子蜘蛛を向かわせている。

 このままでは、皆が危ない。

「──出でよ、火の粉!」
 指先に力をこめる。
 地面に向けた指先からは赤い炎が吹き出し、ロケットの如く朱莉の身体を一気に吹き飛ばした。

 視界には、すでに息絶えた土蜘蛛の横で驚愕の表情を浮かべる龍海の姿がある。

「朱莉!?」
「大丈夫です龍海さん! 今度は、私が……!」

 言い切れぬままみるみるうちに龍海の姿は遠のき、反対方向には懐古的な建物が並ぶ街風景が見えてくる。

 朱莉には、生まれながらに持つ特殊な能力があった。
 両の手に生える指先十本。
 込めた念に応じて、その指先から炎を出すことができる能力だ。

 このことは幼いときに死に別れた両親と、朱莉本人しか知らない。
 両親には、死に際にも強く強く言い含められていた。
 この力は決して人前で使ってはいけない。やむを得ず使うときは、貴方や大切なものを守るときだけにしなさい──と。

 今が、まさにそのときだ。

「いた!」

 空に打ち上がることで、どうにか先回りに成功したらしい。近づいてくる地面に再度火を噴き、朱莉はどうにか着地の衝撃を緩めた。

 足をつけた地面は、石畳の細道だった。
 周囲は家屋がまばらに立ちはじめた街境。これ以上先に進ませるわけにはいかない。

「おい、あんた、一体ここで何をしている!?」

 背後から複数人の気配が集まってくる。
 今の声はクロキチさんだろうか。ということは恐らくこの國の自警団のあやかしたちだ。振り返ることはせずに、朱莉はそう判じた。

「うわあ! 蜘蛛だ! 蜘蛛の大群が一斉に街になだれ込んで……!」
「総員、武器を持て!」
「おい嬢ちゃん! あんたはさっさと後ろのほうへ……!」

 先ほど踏み切ったときに左五本、着地の時に右一本。残り計四本。
 眼前には、焼けて困る家屋も草原もない。

「退きなさい子蜘蛛達!」

 できる。
 私にもきっと、誰かを守ることが。

「街には一歩も進ませません! 来る者は容赦なく──滅します!」

 先ほどの愛しい人の台詞を拝借した。自分自身を奮い立たせるために。
 朱莉は手首を左手で支え、右手をかざす。

 限界ぎりぎりまで近づいた蜘蛛たちの突撃を、赤い火炎の海で迎え撃った。




「調整が下手なんです。私」

 次に目を覚ましたとき、朱莉は自身にあてがわれた和室で床についていた。
 日中干しておいた布団はじんわり温かく、太陽の香りがする。

「一人で部屋に籠もる毎日だったもので、指先を灯すような小さな炎でしたら自由自在に操れます。逆にあそこまで大きな炎は、扱う機会がほとんどなかったもので……」
「だからこうして力を使い果たした挙げ句、こてんとぶっ倒れてしまいました──と。そういう申し開きか」
「はい……申し訳ございません……」

 素直に謝る朱莉に、龍海はため息を吐く。
 隠すつもりのない呆れ顔に罪悪感を募らせつつも、朱莉は秘かに幸福も感じていた。

 意識を取り戻したときに最初に目にしたのは、窓辺に寄り掛かる龍海の姿だった。
 窓枠に肘をかけ、黒い長髪をなびかせながら外を眺めている横顔。

 好きな人が自分の様子をみていてくれていた。
 そのことがたまらなく嬉しかったのだ。

「それであの、街の皆さまは?」
「あの時街を襲った子蜘蛛は、あんたの炎が全て払った。家屋も住民も被害は出ていない」
「そうでしたか。よかった……」

 直後に昏倒してしまったが、一応の役には立てたらしい。
 布団の上で安堵の息を吐いた朱莉を、龍海はしばらく無言で眺めていた。
 視線に気づき、朱莉が小さく首を傾げる。

「無茶をしすぎだ。あんたは」

 差し出された手の指先が、朱莉の額にそっと触れる。
 その小さな温もりに、胸が音を立てた。

「慣れない大きさの炎を無理に繰り出して、自分の身の危険は考えなかったのか」
「どうだったでしょうか……あの時は、ただこの街を守りたいと夢中でしたので」

 それに、と朱莉は付け加えた。

「クロキチさんから、龍海さんはずっとこの街を守ってきたのだと聞きました。ならば私もそれを守りたいと思ったんです。龍海さんが今まで命を賭してきた、大切なものを」
「……」
「もしかするとこの考え方も、どこか可笑しいでしょうか?」
「……いや。可笑しくはない」

 不安を抱き口にした質問に、龍海はふっと口元を綻ばせた。

「ただ、誰にもできることでもないだろう」
「え?」
「あんたは無鉄砲だが、勇敢だ」

 額に触れていた指先がそっと朱莉の前髪を避け、離れていく。
 その先に見た龍海は、今までで一番穏やかで優しい表情を浮かべていた。
 思いがけず向けられた微笑みに、頬がかあっと熱くなる。

「きょ、恐縮です……」
「まあ、結果としてあんたは身の潔白を証明できた。その命をかけて街と住民を守ったんだからな」

 事も無げに告げた龍海に、朱莉はぱちくりと目を瞬かせた。

「ふふ。やっぱり、龍海さんは優しいですね」
「どういう流れでそうなる?」
「龍海さんの足ならばあの時、とっくに街外れまで到着できていたのでしょう?」

 朱莉の指摘に龍海は無言で答えた。つまりは肯定だ。

「最初は私の行動を見極めて、敵味方を判別しようとされたのかと思いました。でも、私のためでもあったのですね。住民の疑念を払拭するための、またとない機会と踏んで」
「結果的にそうなっただけだ。あとはあんたの手柄だろう」
「ありがとうございます、龍海さん」

 相変わらず素っ気ない龍海に、朱莉は笑顔で礼を言う。
 再び窓の外を眺める龍海に倣い、朱莉も視線を移した。
 布団に横たわる朱莉からは、赤紫に染まった夕暮れ時の空が美しく映えている。

「外が暗くなってきましたね。もうすぐ日没でしょうか」
「ああ。だが、少々困ったことになっていてな」

 龍海の言葉に、朱莉が首を傾げる。

「あの土蜘蛛騒ぎの後処理だ。辺りに吹雪いた砂嵐の影響で、日ごろ住民が使っているたいまつの火が至極小さくなっている」
「たいまつの火、ですか」
「この國には電気がない。夜の暗闇を照らすのは、各家庭が持つランプや提灯の火だ。そしてそれらは毎日、街中央のたいまつから各々移して家に持ち帰る」

 つまりたいまつの火が弱っている今、家や街を照らす手立ては淡い月明かりのみ──ということか。
 しばらく思考を巡らせた朱莉は、がばりと布団をめくり上体を起こした。

「おい。あんたはまだ寝てろ」
「火が必要なんですよね? 龍海さん」
「……」

 失言だった、といわんばかりに龍海が眉間にしわを寄せた。
 しかし残念ながら、もう遅い。

「さっきも言いましたよね。私、小さな炎ならば自由自在に操ることができるんです」
 辿り着いた先は、外出時にも訪れた小さな踊り場だった。
 ここなら朱莉の部屋からも比較的近く、街も一望できる。

 眼下の街はすでに日が落ちかけ、人通りも多くはない。
 昨夜はあちこちに灯っていたランプの明かりはやはり少なく、街全体が濃紫の影に包まれつつあった。

「つい先ほどまで床に伏せていた人間が、無謀じゃないのか」

 後ろに立つ龍海は渋い顔をしている。
 心配してくれているのだ。その事実がまた嬉しく、胸がくすぐったくなる。

「大丈夫です。龍海さんがそこで見守ってくださるのなら」
「……手元が狂って大火事なんてことにはならないようにな」
「はいっ」

 はにかみながら頷いた朱莉は、そっと意識を集中させる。
 両手を皿のように眼前に差し出すと、白い光の粒が集まっていく。火種たちだ。

 ふっと息を吹きかけると、たちまち光の粒は赤い火となり辺りに浮遊した。
 きらきらと瞬く様は、いつ見ても天の川の流れのように美しい。

 集まってくれてありがとう。

「さあ、この街を照らしておいで」

 今一度、朱莉がふっと吐息をかける。

 すると火種たちは、流れ星のように街のあちこちへと落下していった。
 しばらくすると、徐々に街並みに明かりが灯り、昨夜見た夜の風景が浮かび上がってくる。

「すごいな」

 いつの間にか隣に歩み進んでいた龍海の言葉に、自然と笑みが漏れた。

「これで大丈夫です。火は短くとも三日三晩は持ちましょう」
「そうか。住民たちも助かるだろう」
「お役に立てたのなら嬉しいです」
「ああ。ありがとう」

 ありがとう。

 龍海の何気ない言葉が、朱莉の胸に明かりを灯す。
 この言葉だけであとひと月は生きていける。そんな気がした。

「あんたに一度、詫びを入れたいと言っていた」
「え?」
「クロキチやタマキの母、それに近隣の住民たちがな」

 目を瞬かせる朱莉に、龍海は肩をすくめる。

「俺は不要だと言ったが聞き入れなかった。悪人と決めつけて街中で罵ったにもかかわらず、あんたは街を守った。そのことを詫びて、礼を言いたいと」
「そ、そんな! 私はただ、自分が守りたいものを守っただけで……!」
「あんたが拒否しても止まらない。あいつらもなかなかに頑固だからな」

 龍海は鉄柵に肘を置き、街を見下ろす。
 促された先に視線を落とすと、お狐様の屋敷の門前には溢れるほどの住民たちが集っていた。

 朱莉が今しがた灯したばかりのランプを持つ者もいる。

「朱莉様! この度の数々の無礼、どうかお許しくだされー!」
「ク、クロキチさん!?」

 第一声を放ったのは赤ら顔の大柄な鬼──クロキチだった。
 続くように、地上の群衆からわあっと声が上がる。

「朱莉様! この街を救ってくださってありがとうございます!」
「お狐様にも、今回の朱莉様の御慈悲は余すことなくお伝え致しました!」
「姉ちゃーん! ランプの火をつけてくれて、どうもありがとうー!」

 一斉に向けられる、詫びと礼の言葉。
 その温かさに、朱莉は呆然とした。

 徐々に心に沁みていった感情に、朱莉はふらりと手すりに寄り掛かる。

「おい。あまり身を乗り出すな。危ないぞ」
「こんなふうにお礼を言われる日が来るなんて……思ってもみませんでした」

 熱いものがこみ上げてくる。
 じわじわと沁みてくる温かな感情が胸いっぱいに広がって、息が苦しくなっていく。

 自分の内側にこんな感情が残っていたなんて、知らなかった。

「あんたが望むなら、ここを棲み家にしたら良い」

 静かに告げられた言葉に、一瞬の間を置いて振り返る。

「この國に害を成せば遠慮なく追放するところだが、その素振りもない。人間界に返す方法もなくはないが、あんたは向こうの生活には未練がない様子」

 街に散りばめた橙の灯りが、そこに佇む男の姿を淡く映し出していた。
 次第にその凜々しい輪郭が歪み、目もとに熱が帯びていく。

「明朝お狐様の詮議が下りる。そこであんたの意向を聞かれるだろう。それまでに心を決めておくことだ」
「っ……あ、あり……」

 ああ、駄目だ。声が出ない。
 目尻まで溢れた涙はそのまま頬を伝い、喉は小刻みに震える。
 せめて嗚咽を抑えようと口を結ぶも、押し寄せる感情の波にそれも無駄な抵抗に終わった。

 顔を伏せ両手で覆った朱莉に、頭上で僅かに動揺する気配が届く。
 龍海さんを困らせている。早く泣き止まなければ。

「え……?」

 顔を濡らす涙を急いで拭っていると、頭に何かが触れたことに気づいた。

 温くて、少し固い。
 龍海の指先だった。

「龍海さん……?」
「あんたが今までどんな人生を歩んできたのかは知らないし、聞き出すつもりはない。それでも、本来負う必要のない苦労をしてきたことは分かる」
「……っ」
「今までよく頑張ったな。朱莉」

 ああ。また名前を呼んでくれた。
 お狐様に呼ばれたときとはまた違う喜びを感じながら、朱莉はそっと目を閉じる。

 この街で過ごすのも、一瞬の夢幻のようなものと思っていた。
 しかしもう少しだけ、夢を見ていてもいいのだろうか。

「ありがとうございます。龍海さん」
「あんたは礼を言ってばかりだな。少しは褒美をねだってもいいほどだ」
「……では褒美として、私のあの願いを聞き入れてくださる気は?」
「……冷えてきたな。そろそろ部屋に戻るぞ」

 うっとりするような手の感触が離れていく。
 背を向けた龍海が踊り場から建物の中へと戻っていくのを、朱莉は笑顔で見送った。

 冗談でも気の迷いでもない。
 土蜘蛛に食われかけた瞬間さえも、やはり自分は思ったのだ。

 食べられるのならば、やっぱり龍海さんがよかった──と。

 屋敷前の住民たちに深く一礼し、朱莉も踊り場を後にした。
 自ら灯した明かりで彩られた地下ノ國の街並みは、この上ない贅沢な光景に思えた。

 終わり

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