数日後。
 美琴は今回の妖魔討伐において重要な役割を果たしたということで、帝から直々に褒美を賜ることになった。

 帝とは初めて会うので、美琴は緊張していた。
 しかし、伊吹がくれた桃花色のリボン、そしてお気に入りの紅色のワンピースが美琴に力を与えてくれているようであった。

 帝への挨拶を無事に終えた美琴。帝から褒美として仰々しい勲章を賜った。
 父、昭夫からは「帝からの褒美は滅多にもらえるものではないから大切にしなさいと」何度も言われた。

 その後、美琴は伊吹と会う約束をしていたのでその場所へ向かう。
「美琴さん」
 美琴の姿を見た伊吹は穏やかに微笑んでいた。
 美琴は駆け足で伊吹の元へ向かう。
「伊吹様、お待たせして申し訳ございません」
「いや、待ってないさ。改めて、美琴さん、今回は君のお陰で妖魔討伐が成功した。本当にありがとう」
 伊吹は真っ直ぐ美琴を見ていた。
「いえ、私は……ただ、その時私に出来ることをしたまでです」
 美琴はほんのり頬を赤く染める。
「それに、私の方こそお礼を申し上げたいです。伊吹様のお陰で、私は変われました。今まで、新しいものが好きとはいえ、心地良い場所から動こうとしませんでした。でも、伊吹様に補助異能を込めた洋菓子を作ることで、私も誰かの力になることが出来ると知って……嬉しかったです。本当に、ありがとうございました」
 美琴は伊吹に頭を下げた。
「それならば……」
 伊吹はそこで言葉を止めた。
 不思議に思った美琴は恐る恐る頭を上げる。
「美琴さん、この先も僕の力になって欲しい。この先も、ずっと、美琴さんが作るお菓子を食べたいんだ」
 伊吹の漆黒の目は、真っ直ぐ美琴に向けられている。
 思わず吸い込まれそうになる目だ。
「つまり、美琴さんには僕の妻になって欲しいんだ」
 その言葉を聞いた美琴は、頭が真っ白になる。
(伊吹様は今何と……? 私が……伊吹様の妻……!?)
 絶句する美琴。
「美琴さん? もしかして、嫌だったかな?」
 やや不安そうな表情の伊吹。
「いえ、そうではなく、私がその、赤院宮(せきいんのみや)家に嫁ぐということですよね……!?」
 美琴はようやく声を絞り出すことが出来た。
「そうだ」
 伊吹は首を縦に振る。
「それは……もったいない程光栄なことですが……宮家に嫁ぐ方は、大体公爵家か侯爵家のご令嬢のはずです。薬研(やげん)家は伯爵家ですし、宮家に嫁ぐには家格が……」
「問題ない。過去に数件、伯爵家の令嬢が宮家に嫁いだことはある。それに、美琴さんは補助異能を持っている。だから赤院宮家に嫁ぐ資格はあるさ」
 伊吹は美琴が不安に思っていることをあっさり取り除いた。
「私としては、生涯を共にする相手は美琴さんが良いと思っている。美琴さんはどうだろうか? 君の気持ちを聞かせて欲しい。もし君が望まないのなら、私は諦めるしかないが」
 フッと笑う伊吹。
 美琴の答えは決まっていた。
「私も、将来を共にするお方は、許されるのならば伊吹様が良いです」
 美琴は頬を赤く染め、榛色の目を真っ直ぐ伊吹に向ける。
「美琴さん、ありがとう」
 伊吹は嬉しそうに美琴の手を握った。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
 美琴は柔らかな表情だった。

 その後、美琴と伊吹の婚約が整えられ、翌年の春に二人は結婚した。
 美琴は作る洋菓子に補助異能を込め、伊吹がそれを食べる。
 伊吹にとって美琴が作る洋菓子は極上の甘味であった。
 そして今日も、これからも、美琴は伊吹の為に洋菓子を作り、伊吹は美琴が作った洋菓子で強くなるのであった。