売店を少々物色して真理が病室に帰ると、内田はベットに静かに横になりチューブに繋がれ、抗がん剤治療が始まっていた。
真理が帰ってきたことに気づくと内田は、真理のほうに顔だけを向けると話かけてきた。
「あっ…お帰りなさい…始まりました…なんだか変な気分です…」
そう言いながら苦笑いした。
そんな内田に真理は気遣うように声をかけた。
「始まりましたね…どうです?気分とか悪くないですか?」
「ww…ほんと…仮屋崎さん、根っからの看護師なんですね…w」
内田は可笑し(おかし)そうに笑いながら言った。
「はぁ〜…だめねぇ…ほんと気をつけなきゃ…
ごめんなさいね…内田さんも不快な思いすることがあったら、言ってくださいね」
真理は少し顔を顰め(しかめ)苦笑いしながら言った。
顔を顰めてちょっと反省顔になっている真理を横目に、内田は遠目を見るように天井を見つめながら、ゆっくりと静かに話を始めた。
「ねぇ…仮屋崎さん…ほんとあなたが羨ましい…私…さっきは大丈夫って言ったけど…大丈夫じゃないです…離婚なんて…ほんとは別れたくなかった…彼に側にいてほしかった…でも…あの人のこの先の人生を考えると…私が彼を縛っちゃ…人生壊しちゃだめだって…自由に…私から解放してあげなきゃって…そのほうがいいって…でも彼ね…最初は泣きながら別れることに反対したんです…勝手だけど正直、嬉しかったぁ…私のこと…愛してくれてるんだなぁって…」
内田は少し声を詰まらせながら、真理に訴えるかのように言葉を発した。
そして天井を見つめている内田の目からは、ポロポロ…と涙がこぼれていた。
真理は何も言わず内田に近寄ると、手に持っていたハンカチで彼女の目から流れる涙を、そっと拭いた。
涙を拭いてもらいながら、内田は恥ずかしそうにそして申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい…今日会ったばかりの人に…こんな話…」
「いぇ…私でよければ、いくらでも…」
「ありがとう…じゃ…もう少し、聞いてくれる?」
その後も内田は色々と自分の身の上話を続けた。
スポーツジムでインストラクターとして働いていたこと…
別れた元旦那さんは、そこの会員の利用者さんで7歳年下にも関わらず、猛アタックされたこと…
お互い母子家庭で母親同士も直ぐに意気投合して仲良くなり、結婚の話になった時も全く反対も無く祝福してくれたこと…
たった一年弱の結婚生活だったが、内田にとってその時間は本当に幸せな時間だったこと…
真理は内田の話をベット横にあった椅子に座り、黙って聞いていた。
そして話をしながら時折見せる内田の寂しそうな笑顔に、胸を締めつけられるような思いがして苦しかった。
自分ももしかしたら…
そんな思いをずっと頭の中で巡らせていた。
初めに話をした時からそうだった。
彼女の発する言葉、一つ一つが真理にとって聞き逃せない言葉だったのだ。
明日は自分も検査だ。
子宮体癌なのは間違いないのであろう…
ただ…どこまで症状が広がっているのか…?
手術が可能なのか…?
どれくらいの期間かかるのか…?
色々と考えだしたらきりがなかった。
内田の話を聞きながら、真理の目からは二重の思いの涙が流れていた。
一つはもちろん、内田への同情…
もう一つは、自分のこの先への不安や悲しみ…
真理の涙に気づいた内田は少し慌てたようだったが、ふわっとした綿菓子のような笑顔で静かに言った。
「仮屋崎さんまで…ごめんなさいね…ありがとう…」
「あっ、いゃ…なんだか最近…ちょっと涙もろくなっちゃったかも…w」
真理はそう言うと、涙を拭きながら恥ずかしそうに笑った。
と…女性二人でいつの間にか意気投合し、ちょっとした世間話などをしながら和んでいると…
看護師が一人ひょこっと顔を出した。
「内田さんどうですか?気分とか何か変わったことないですか?」
そう言いながら、内田のベットの方へ近づいてきた。
内田は何も言わず首を横にふった。
「そろそろ終わりますね…先生呼んできますからね」
看護師は内田の状態を確認すると、「大丈夫そうですね…」と笑顔で言うと、病室を出ていった。
そしてそれから数分後に看護師と一緒に医師が現れた。
抗がん剤の終わりを確認をすると、内田の身体の確認やその他いくつかの質問などをした。
それが終わると、「うん…問題なさそうだね…」と、うん、うん、うん…と頷きながら言った。
「これなら予定通り、明日二回目をしても大丈夫かな…」
そう言うと一緒に来た看護師の方を向くと、
「まっ、何かあったら報告して…」
ポンポン…とその看護師の肩を軽く叩くと、病室を出ていった。
その後を追うように看護師も出ていった。
医師と看護師が退室するのを見送ると、内田はゆっくりと体を起こしベット上に座り、携帯をいじり始めた。
真理は自分のベットに座り、ぼんやりと明日のことを考えていた。
そんなお互い個人個人の行動をしていた二人だったが、廊下のほうで何やら人が少しざわつき始めた。
それと同時に、食事の匂いがふわっと鼻をくすぶった。
「内田さん、仮屋崎さん…お夕飯ですよぉ」
そう言いながら看護師が食事を持って、病室に入ってきた。
内田の分をテーブルへ置くと、直ぐに真理の分を取りに行き、持ってきた。
「あら…仮屋崎さん…お着替えされてなかったんですね…食事の前に、楽な服装に着替えましょうか…」
看護師は食事をテーブルに置きながら、真理の服装を指摘してきた。
「あっ…そうだった…」
真理は看護師に言われて思い出したように、着替えのシャツとズボンを棚から取り出し、カーテンを閉めた。
そして着替えを終えるとカーテンを開け、真理も食事を食べる準備を始めた。
「あっ…お先してます…」
ベット上に座って食事を始めていた内田が、真理のほうを振り向いてニコッと笑った。
「いただきます…」
真理も食事を始めた。
だが…やはり病院食だ…
正直、味付けも量も少し控えめだ。
まさか自分が患者として食べる日がくるとは…
「ん~~…美味しくない…」
ボソッとつい思ってることが口に出てしまった。
流石に聞こえてないだろぅ…と思っていた呟きだったのだが、しっかり内田には聞こえていたようだ。
「ふふっ…ですよねぇ…わかります…w」
内田の言葉にちょっと気まずそうな表情を浮かべながら、真理は恥ずかしそうに笑いながら言った。
「w…あら…ヤバっ…ごめんなさい…聞こえちゃいました?…w」
「すいません…結構はっきりとw」
「いゃ…やっぱねぇ…職場で検食としてたまに食べることはあったけど…味薄めだなぁ…とか思うことはありながら、まさか自分がこうして食べることになるとはねぇ…」
そう言いながら真理は、ふぅ~…と大きなため息を吐いた。
そうやって何だかんだと女二人、女子トークをしながら食事を終えた。
「味はいまいちでも、楽しいお喋りをしながらだとそこまで気にならないものなのね」
真理は内田のほうをチラッと見ながら言った。
その言葉に内田は同意するように頷きながら答えた。
「ですねぇ…ちょっとした隠し味みたいなスパイスですね」
そう言って二人は顔を見合わせ、ふふっ…と笑った。
……さぁ…そうこうして一夜明け、次の日…
真理は朝から検査(経膣超音波検査)の為、病室に姿はなかった。
内田は二回目の抗がん剤は昨日と同様、午後からなので病室で一人暇をもて余していた。
こんな時に限って時間が過ぎるのが遅く感じるものだ。
携帯をいじってみたり、テレビを着けてみたり…
何をするでもなく暇つぶしのような行動をとっていた。
そんな時間の経過を感じている内田だったがウトウトと眠気に襲われ、いつの間にか眠りに入っていた。
「お食事ですよぉ」
看護師のその声に、ハッと目を覚まし首だけ起こした状態で、隣の真理のベットを見た。
するとすでに真理は検査を終え、病室へ帰ってきていた。
真理のテーブルには食事が置かれている。
「お帰りなさい…検査、終わったんですね…いつ帰ってきたんですか?」
内田の声かけに真理は、「あっ、起きた…」と言うような表情をし答えた。
「ついさっき…10分くらい前かな?…」
棚の上に置いてある時計をチラッと見ながら真理は言った。
「次から次に検査室に移動させられて…結構疲れましたよぉ…それに…お腹もすきました…」
そう言うと真理は準備された食事を前に、手を合わせると食事を始めた。
内田はベットに横になったまま、静かに目を閉じていた。
午後からの抗がん剤治療の為、お昼の食事は出来ないのだ。
そのことをわかってか、気を遣うように真理も余計なことは喋らず黙って食事をした。
そして約1時間後…内田の二回目の抗がん剤が始まった。
真理の検査については、今回も時間が必要であり結果待ちである。
それなりに大体のことは確信し、真理なりに気持ちの整理はしてきたつもりだったが、やはり何とも言えない不安や苛立ちで、胸が締めつけられるような思いでいっぱいだった。
真理が帰ってきたことに気づくと内田は、真理のほうに顔だけを向けると話かけてきた。
「あっ…お帰りなさい…始まりました…なんだか変な気分です…」
そう言いながら苦笑いした。
そんな内田に真理は気遣うように声をかけた。
「始まりましたね…どうです?気分とか悪くないですか?」
「ww…ほんと…仮屋崎さん、根っからの看護師なんですね…w」
内田は可笑し(おかし)そうに笑いながら言った。
「はぁ〜…だめねぇ…ほんと気をつけなきゃ…
ごめんなさいね…内田さんも不快な思いすることがあったら、言ってくださいね」
真理は少し顔を顰め(しかめ)苦笑いしながら言った。
顔を顰めてちょっと反省顔になっている真理を横目に、内田は遠目を見るように天井を見つめながら、ゆっくりと静かに話を始めた。
「ねぇ…仮屋崎さん…ほんとあなたが羨ましい…私…さっきは大丈夫って言ったけど…大丈夫じゃないです…離婚なんて…ほんとは別れたくなかった…彼に側にいてほしかった…でも…あの人のこの先の人生を考えると…私が彼を縛っちゃ…人生壊しちゃだめだって…自由に…私から解放してあげなきゃって…そのほうがいいって…でも彼ね…最初は泣きながら別れることに反対したんです…勝手だけど正直、嬉しかったぁ…私のこと…愛してくれてるんだなぁって…」
内田は少し声を詰まらせながら、真理に訴えるかのように言葉を発した。
そして天井を見つめている内田の目からは、ポロポロ…と涙がこぼれていた。
真理は何も言わず内田に近寄ると、手に持っていたハンカチで彼女の目から流れる涙を、そっと拭いた。
涙を拭いてもらいながら、内田は恥ずかしそうにそして申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい…今日会ったばかりの人に…こんな話…」
「いぇ…私でよければ、いくらでも…」
「ありがとう…じゃ…もう少し、聞いてくれる?」
その後も内田は色々と自分の身の上話を続けた。
スポーツジムでインストラクターとして働いていたこと…
別れた元旦那さんは、そこの会員の利用者さんで7歳年下にも関わらず、猛アタックされたこと…
お互い母子家庭で母親同士も直ぐに意気投合して仲良くなり、結婚の話になった時も全く反対も無く祝福してくれたこと…
たった一年弱の結婚生活だったが、内田にとってその時間は本当に幸せな時間だったこと…
真理は内田の話をベット横にあった椅子に座り、黙って聞いていた。
そして話をしながら時折見せる内田の寂しそうな笑顔に、胸を締めつけられるような思いがして苦しかった。
自分ももしかしたら…
そんな思いをずっと頭の中で巡らせていた。
初めに話をした時からそうだった。
彼女の発する言葉、一つ一つが真理にとって聞き逃せない言葉だったのだ。
明日は自分も検査だ。
子宮体癌なのは間違いないのであろう…
ただ…どこまで症状が広がっているのか…?
手術が可能なのか…?
どれくらいの期間かかるのか…?
色々と考えだしたらきりがなかった。
内田の話を聞きながら、真理の目からは二重の思いの涙が流れていた。
一つはもちろん、内田への同情…
もう一つは、自分のこの先への不安や悲しみ…
真理の涙に気づいた内田は少し慌てたようだったが、ふわっとした綿菓子のような笑顔で静かに言った。
「仮屋崎さんまで…ごめんなさいね…ありがとう…」
「あっ、いゃ…なんだか最近…ちょっと涙もろくなっちゃったかも…w」
真理はそう言うと、涙を拭きながら恥ずかしそうに笑った。
と…女性二人でいつの間にか意気投合し、ちょっとした世間話などをしながら和んでいると…
看護師が一人ひょこっと顔を出した。
「内田さんどうですか?気分とか何か変わったことないですか?」
そう言いながら、内田のベットの方へ近づいてきた。
内田は何も言わず首を横にふった。
「そろそろ終わりますね…先生呼んできますからね」
看護師は内田の状態を確認すると、「大丈夫そうですね…」と笑顔で言うと、病室を出ていった。
そしてそれから数分後に看護師と一緒に医師が現れた。
抗がん剤の終わりを確認をすると、内田の身体の確認やその他いくつかの質問などをした。
それが終わると、「うん…問題なさそうだね…」と、うん、うん、うん…と頷きながら言った。
「これなら予定通り、明日二回目をしても大丈夫かな…」
そう言うと一緒に来た看護師の方を向くと、
「まっ、何かあったら報告して…」
ポンポン…とその看護師の肩を軽く叩くと、病室を出ていった。
その後を追うように看護師も出ていった。
医師と看護師が退室するのを見送ると、内田はゆっくりと体を起こしベット上に座り、携帯をいじり始めた。
真理は自分のベットに座り、ぼんやりと明日のことを考えていた。
そんなお互い個人個人の行動をしていた二人だったが、廊下のほうで何やら人が少しざわつき始めた。
それと同時に、食事の匂いがふわっと鼻をくすぶった。
「内田さん、仮屋崎さん…お夕飯ですよぉ」
そう言いながら看護師が食事を持って、病室に入ってきた。
内田の分をテーブルへ置くと、直ぐに真理の分を取りに行き、持ってきた。
「あら…仮屋崎さん…お着替えされてなかったんですね…食事の前に、楽な服装に着替えましょうか…」
看護師は食事をテーブルに置きながら、真理の服装を指摘してきた。
「あっ…そうだった…」
真理は看護師に言われて思い出したように、着替えのシャツとズボンを棚から取り出し、カーテンを閉めた。
そして着替えを終えるとカーテンを開け、真理も食事を食べる準備を始めた。
「あっ…お先してます…」
ベット上に座って食事を始めていた内田が、真理のほうを振り向いてニコッと笑った。
「いただきます…」
真理も食事を始めた。
だが…やはり病院食だ…
正直、味付けも量も少し控えめだ。
まさか自分が患者として食べる日がくるとは…
「ん~~…美味しくない…」
ボソッとつい思ってることが口に出てしまった。
流石に聞こえてないだろぅ…と思っていた呟きだったのだが、しっかり内田には聞こえていたようだ。
「ふふっ…ですよねぇ…わかります…w」
内田の言葉にちょっと気まずそうな表情を浮かべながら、真理は恥ずかしそうに笑いながら言った。
「w…あら…ヤバっ…ごめんなさい…聞こえちゃいました?…w」
「すいません…結構はっきりとw」
「いゃ…やっぱねぇ…職場で検食としてたまに食べることはあったけど…味薄めだなぁ…とか思うことはありながら、まさか自分がこうして食べることになるとはねぇ…」
そう言いながら真理は、ふぅ~…と大きなため息を吐いた。
そうやって何だかんだと女二人、女子トークをしながら食事を終えた。
「味はいまいちでも、楽しいお喋りをしながらだとそこまで気にならないものなのね」
真理は内田のほうをチラッと見ながら言った。
その言葉に内田は同意するように頷きながら答えた。
「ですねぇ…ちょっとした隠し味みたいなスパイスですね」
そう言って二人は顔を見合わせ、ふふっ…と笑った。
……さぁ…そうこうして一夜明け、次の日…
真理は朝から検査(経膣超音波検査)の為、病室に姿はなかった。
内田は二回目の抗がん剤は昨日と同様、午後からなので病室で一人暇をもて余していた。
こんな時に限って時間が過ぎるのが遅く感じるものだ。
携帯をいじってみたり、テレビを着けてみたり…
何をするでもなく暇つぶしのような行動をとっていた。
そんな時間の経過を感じている内田だったがウトウトと眠気に襲われ、いつの間にか眠りに入っていた。
「お食事ですよぉ」
看護師のその声に、ハッと目を覚まし首だけ起こした状態で、隣の真理のベットを見た。
するとすでに真理は検査を終え、病室へ帰ってきていた。
真理のテーブルには食事が置かれている。
「お帰りなさい…検査、終わったんですね…いつ帰ってきたんですか?」
内田の声かけに真理は、「あっ、起きた…」と言うような表情をし答えた。
「ついさっき…10分くらい前かな?…」
棚の上に置いてある時計をチラッと見ながら真理は言った。
「次から次に検査室に移動させられて…結構疲れましたよぉ…それに…お腹もすきました…」
そう言うと真理は準備された食事を前に、手を合わせると食事を始めた。
内田はベットに横になったまま、静かに目を閉じていた。
午後からの抗がん剤治療の為、お昼の食事は出来ないのだ。
そのことをわかってか、気を遣うように真理も余計なことは喋らず黙って食事をした。
そして約1時間後…内田の二回目の抗がん剤が始まった。
真理の検査については、今回も時間が必要であり結果待ちである。
それなりに大体のことは確信し、真理なりに気持ちの整理はしてきたつもりだったが、やはり何とも言えない不安や苛立ちで、胸が締めつけられるような思いでいっぱいだった。
