症状の変化が色々とあった一週間…
腹部を殴られたかのような痛みの下腹部痛、それなりに自信のあった細くて綺麗だった脚の浮腫…
この一週間、これらの症状を目の当たりにし、真理からは会話も笑顔も少しずつ消えていった。
そんな妻を励ますかのように、信也は笑顔を絶やさなかった。
真理がいくら暗い表情をしていても、ずっと笑顔で声をかけ話かけ続けた。
だが、真理はじっ…と信也を見つめているだけで、心ここにあらず…といったような感じだった。
脚の浮腫の症状がでてから、ここ二、三日はずっとこのような感じだ。
そして検査結果を聞くために来院する、月曜日…
朝起きてから、信也へ「おはよう」と言ったっきり、信也の言うことに対して軽く頷くか首を振るか、時折口元だけでうっすらと笑うだけだった。
食欲もだいぶ落ち、今日も信也が久しぶりに作ったホットケーキも、半分ほどしか食べなかった。
無言でもくもくと食べている真理に、信也は諦めず笑顔で話しかけた。
「ね、どう?前回より成長してない?前よりふっくらと焼けたと思わない?」
そう笑顔で語りかける信也に、真理は無言で軽く頷くだけだった。
「今日は結果聞きに行く日だね…ちゃんと俺も一緒に行くから…」
11時の予約の時間に間に合うように二人は準備し、今回も信也の運転の車で向かった。
前回同様、病院まで車で20分ほどの距離だ。
車内でも相変わらず無言を貫く妻を、チラッチラッ…と横目で気にしながら、信也も黙って運転していた。
予約の11時より5分ほど早めに到着した。
二人は車を下り、信也は真理に寄り添うようにして病院の玄関を入った。
そのまま「受付け」のほうへ行き、手続きをした。
「すみません。今日の11時に予約している仮屋崎真理ですけど…」
受付けの女性に真理が話しかけた。
「はい。あっ、仮屋崎真理様ですね…はい…今日は前回の検査結果のご説明、となっておりますが宜しかったでしょうか?」
女性からの問いに真理は、「はい。」と一言、短い返事をした。
「それでは先生の準備が整いましたら、お呼びしますのであちらのほうでお待ち下さい」
そう指示された真理と信也は、待合い場所の椅子に座り名前を呼ばれるのを待った。
その間、信也は真理の肩を優しく抱きよせながら寄り添うようにして、語りかけていた。
「キツくない?…痛みとか大丈夫?…」
優しく心配そうな声で語りかける信也に真理は、「大丈夫…」と少しだけ笑みを浮かべて答えた。
そんなやり取りをしていた二人に、一人の看護師が近づいてきた。
「仮屋崎真理さんですか?」
「あっ、はい…」
「では…先生から検査結果とお話があるので、こちらのほうにお願いします…えっと…旦那様はどうされますか?」
看護師に問われた信也は、
「一緒に話聞いてもいいですか?」
真剣な眼差しで答えた。
「大丈夫ですよ。ではご一緒にこちらへどうぞ…」
看護師に連れられて、二人は診察室へ入った。
そこには四十代半ばくらいの男性医師が、真理の検査結果の資料らしきものを真剣な表情で眺めながら、椅子に座っていた。
「先生、仮屋崎真理さんです…旦那様も一緒にお話を聞かれるそうです」
看護師が声をかけると、医師は二人のほうを振り向きニコッと笑い、そして軽く会釈した。
「どうぞ…おかけ下さい…旦那様も、どうぞ…」
医師の前にある椅子に座るよう促されると、二人は緊張した表情でゆっくりと近づき座った。
「失礼します…よろしくお願いします…」
真理の重々しい声に医師は、
「仮屋崎真理さん…ですね…今日は前回の結果、ということですが…どうですか?あれから何か変わったこととか、気になることとかはありませんでしたか?…」
紳士的で優しい口調の医師の問いに、真理は下腹部痛のこと、そして脚の浮腫のことを話した。
何度も頷きながら真理の話を聞いていた医師は、脚の浮腫の確認をするため、少しかがみ込むようにして真理の脚を触診(しょくしん)した。
ひと通り触診すると、医師は納得したように小さく「うん…」と頷くと、椅子にきちんと座り直し静かに検査結果を説明し始めた。
「まずは前回に行った細胞診の結果ですが…
えぇ~…残念なことに陽性という結果がでました…つまり、子宮体癌の疑いがある、ということですね…」
そこまで言うと医師は、今にも泣きだしそうな顔をしている信也を見て声をかけた。
「旦那さん…?大丈夫ですか?…」
医師に声をかけられた信也は、ハッとしたように泣きそうだった表情をキリッと真剣な表情に直し、落ち着いた感じの声で返答した。
「あっ…すいません…大丈夫です…先生、続けてください…」
それを聞いて医師は、コホン…と一つ咳払いをすると、改めて話を続けた。
「では…話を続けますね…えぇ~…それで陽性ということでしたので、さらに精密な検査をすることとなるのですが…
子宮内膜組織診(しきゅうないまくそしきしん)という検査を行って、癌の有無の確定や癌のタイプ、悪性度を判定することになります…あっ、ただですね、この時点での判定は推定の域にとどまりますので、正確な判定は後(のち)の手術によって切除された組織を用いて病理検査によって判定されることになります…
とりあえず、ここまでのことは大丈夫ですか?」
医師の声かけに、二人は「はい…」と小さく頷きながら返事した。
「解らないことや聞きたいことがあれば、聞いてくださいね…えぇ~…では…
それでですね…その組織診の検査で、ある程度の癌の判定をしまして…あっ、まず…
子宮体癌というのはですね…ちょっとこちらを見てもらっていいですか…」
そう言うと医師は手元にあったタブレットに、女性生殖器の画像を映し出すと、真理と信也が見やすいように画面を向けた。
そして子宮体癌が発症する場所をペンで指し示しながら、説明を始めた。
「これは女性の生殖器の画像なんですが…
子宮体癌というのはですね…その名のとおり、子宮にできる癌なのですが…
ここの子宮体部の内面を覆う、ここですね…(ペンで場所を指しながら)子宮内膜に発生する悪性腫瘍が子宮体癌、ということになるわけです…」
真理と信也は医師に見せられたタブレットの画像を、小刻みに頷きながら黙って見ていた。
そんな二人に優しい眼差しを向けながら、医師は再度話を続けた。
「では…画像のほうは宜しいですか?…(タブレットを自分の机に置きながら)
組織診での判定がでましたら、画像検査での癌の広がり具合いを調べることになります…
経膣超音波検査(けいちつちょうおんぱけんさ)によって、子宮内膜の厚みや周囲の臓器との位置関係を調べます…
MRIやCTによる検査で、肺や肝臓などの離れた臓器への転移の有無、その臓器への広がりやあと、リンパ節への転移の有無などを調べることとなるのですが…
まぁ…それなりに時間のかかる検査なので…
検査入院という形で、数日入院していただくことになるのですが…大丈夫でしょうか?…」
ここまでの説明をじっ…と黙って聞いていた二人であったが、ずっと唇を強く噤んでいた真理が静かに口を開いた。
「解りました…入院はいつからになるんでしょうか…」
真理のその言葉を聞くと、隣に座っていた信也は片手で顔を覆うようにして項垂れ(うなだれ)、
そして必死で声を押し殺すようにして、涙を流していた。
「しん君…ごめんね…とにかく入院日…決めるね…」
隣で声もなく泣いている信也にかける言葉も思いつかず、真理はとりあえず入院日を決めようと医師に質問した。
「あの…私もパートですが仕事してるので…
お休みをもらわないといけないので、急にはちょっと…」
少し申し訳なさそうな口ぶりの真理を見て、医師は落ち着いた感じの優しい口調で、
「あぁ…お仕事されてるんですね…解りました…大丈夫ですよ…そうですねぇ…まぁ、こちらも病室の準備や検査の順番もあるので…」
そう言いながら医師は目の前のパソコンを開けると、検査の順番表らしきものを映しだし、うぅ〜ん…と小さく唸り(うなり)ながら画面を見つめていた。
そして独り言のように、「この日かな…」と呟くと近くにいた看護師を手招きをして呼んだ。
「ちょっといい?この日の前日くらいから…ベット大丈夫かな?…」
医師は看護師にもパソコンの画面を見せながら、ベットの空きの確認をした。
その問いに看護師は、
「あっ、はい…確か空きはあったと思いますけど…ちょっと確認してきます…」
そう言って確認の為、診察室から一度出て行った。
その後2〜3分ほどで帰ってくると、空きベットの確認報告を医師にした。
「先生の指示された日でしたら、203号室の四人部屋に二つと、206号室の二人部屋に一つが今のところ空いてます」
看護師からその報告を聞くと、「うん…ありがと…」と片手を軽く挙げ挨拶のようなお礼を言い、確認するように再度パソコンの画面を覗き込んだ。
そして涙は止まったようだが今だに項垂れている夫の信也をチラリと横目で気にしながら、医師は真理のほうを向くと話をしてきた。
「ちょうど一週間後になりますね…三日ほどの入院になりますが…四人部屋と二人部屋に空きがあるようですけど、希望とかがあれば考慮しますよ?」
医師からの言葉に真理は、ペコリと軽く会釈をすると、
「一週間後…来週の月曜日…ですね…解りました…あの…部屋はできれば二人部屋のほうがいいです…」
ずっと握りしめていた両手の拳を、さらに握りしめ必死に冷静さを保ちながら、真理は答えた。
「あっ、二人部屋ね…じゃあそっちのほうで…
あとは…準備する物とかその他の注意事項とかは、この後に看護師から説明してくれるから…」
医師はそこまで言うと、椅子から立ち上がり信也のほうへ近づき、目線に合わせてかがみ込み、
「旦那さん、辛いかもしれんけどしっかり支えんと…」
そう言われた信也は、項垂れていた情けない表情を振り払うように、自分の頬をパン!と両手で叩き、キリッとしたような表情になると「はいっ!」と意を決したような声で返事をした。
「じゃ、あとは看護師が…それが終わったらとりあえず今日は終わりですからね」
そう言うと医師はニコッと笑いながら、信也の肩にポンッと手を置いた。
診察室を出た二人は、指示された部屋へ移動し待った。
その間二人共黙ったままうつむいていた。
どう声をかけていいのか、お互いに気難しい重い空気を二人して漂わせ(ただよわせ)ていた。
そこへ…コン、コン…
扉をノックする音と同時に、「失礼します…」と一人の看護師が入ってきた。
「こんにちは。仮屋崎真理さんですね…先生からお聞きでしょうが、入院についてのお話といくつかサインなどして頂く書類がありますので…宜しいでしょうか?」
そう言いながら看護師は、持ってきた書類らしきプリントが入った透明ファイルをテーブルに置きながら、向かい側の椅子に座った。
それを見ながら二人は「よろしくお願いします…」と、軽く会釈した。
その二人の重い空気を察したかのように軽く微笑み、看護師は柔らかい優しい口調で話を始めた。
「では…入院の際の説明と、それに対しての書類等の説明をさせて頂きますね…」
そう言って持ってきた透明ファイルの中から、数枚の書類らしき物と入院説明書などを取り出すとそれにそって、入院日と日数、来院時間、準備する物、注意事項など、そして「同意書」やその他数枚の書類へのサインなどの説明をしていった。
そしてある程度の説明も終わりその場で出来るサインなどはし、持ち帰って改めて記入し提出する書類は大きめの封筒に入れられ渡された。
「とりあえず大まかな説明はしましたけども…何か解らないことや聞きたいことなどありませんか?」
封筒を渡しながら看護師は二人の顔を伺いながら、尋ねるように声をかけた。
それに対し二人はチラッとお互い顔を見合わせた。
「それでは…何もないようでしたら…こちらからの説明はこれで以上になります…」
そう言いながら椅子から立ち上がる看護師に同調し、二人も立ち上がりながら、
「ありがとうございました…」
軽く会釈しながら言った。
「また、解らないこととかあったら、いつでも聞いてくださいね」
一緒に部屋を出ながら看護師は優しい口調で言った。
真理は封筒を胸にギュッと抱えながら、コクン…と頷いた。
その隣で信也は優しく真理の腰に手を回し、そっと寄り添っていた。
腹部を殴られたかのような痛みの下腹部痛、それなりに自信のあった細くて綺麗だった脚の浮腫…
この一週間、これらの症状を目の当たりにし、真理からは会話も笑顔も少しずつ消えていった。
そんな妻を励ますかのように、信也は笑顔を絶やさなかった。
真理がいくら暗い表情をしていても、ずっと笑顔で声をかけ話かけ続けた。
だが、真理はじっ…と信也を見つめているだけで、心ここにあらず…といったような感じだった。
脚の浮腫の症状がでてから、ここ二、三日はずっとこのような感じだ。
そして検査結果を聞くために来院する、月曜日…
朝起きてから、信也へ「おはよう」と言ったっきり、信也の言うことに対して軽く頷くか首を振るか、時折口元だけでうっすらと笑うだけだった。
食欲もだいぶ落ち、今日も信也が久しぶりに作ったホットケーキも、半分ほどしか食べなかった。
無言でもくもくと食べている真理に、信也は諦めず笑顔で話しかけた。
「ね、どう?前回より成長してない?前よりふっくらと焼けたと思わない?」
そう笑顔で語りかける信也に、真理は無言で軽く頷くだけだった。
「今日は結果聞きに行く日だね…ちゃんと俺も一緒に行くから…」
11時の予約の時間に間に合うように二人は準備し、今回も信也の運転の車で向かった。
前回同様、病院まで車で20分ほどの距離だ。
車内でも相変わらず無言を貫く妻を、チラッチラッ…と横目で気にしながら、信也も黙って運転していた。
予約の11時より5分ほど早めに到着した。
二人は車を下り、信也は真理に寄り添うようにして病院の玄関を入った。
そのまま「受付け」のほうへ行き、手続きをした。
「すみません。今日の11時に予約している仮屋崎真理ですけど…」
受付けの女性に真理が話しかけた。
「はい。あっ、仮屋崎真理様ですね…はい…今日は前回の検査結果のご説明、となっておりますが宜しかったでしょうか?」
女性からの問いに真理は、「はい。」と一言、短い返事をした。
「それでは先生の準備が整いましたら、お呼びしますのであちらのほうでお待ち下さい」
そう指示された真理と信也は、待合い場所の椅子に座り名前を呼ばれるのを待った。
その間、信也は真理の肩を優しく抱きよせながら寄り添うようにして、語りかけていた。
「キツくない?…痛みとか大丈夫?…」
優しく心配そうな声で語りかける信也に真理は、「大丈夫…」と少しだけ笑みを浮かべて答えた。
そんなやり取りをしていた二人に、一人の看護師が近づいてきた。
「仮屋崎真理さんですか?」
「あっ、はい…」
「では…先生から検査結果とお話があるので、こちらのほうにお願いします…えっと…旦那様はどうされますか?」
看護師に問われた信也は、
「一緒に話聞いてもいいですか?」
真剣な眼差しで答えた。
「大丈夫ですよ。ではご一緒にこちらへどうぞ…」
看護師に連れられて、二人は診察室へ入った。
そこには四十代半ばくらいの男性医師が、真理の検査結果の資料らしきものを真剣な表情で眺めながら、椅子に座っていた。
「先生、仮屋崎真理さんです…旦那様も一緒にお話を聞かれるそうです」
看護師が声をかけると、医師は二人のほうを振り向きニコッと笑い、そして軽く会釈した。
「どうぞ…おかけ下さい…旦那様も、どうぞ…」
医師の前にある椅子に座るよう促されると、二人は緊張した表情でゆっくりと近づき座った。
「失礼します…よろしくお願いします…」
真理の重々しい声に医師は、
「仮屋崎真理さん…ですね…今日は前回の結果、ということですが…どうですか?あれから何か変わったこととか、気になることとかはありませんでしたか?…」
紳士的で優しい口調の医師の問いに、真理は下腹部痛のこと、そして脚の浮腫のことを話した。
何度も頷きながら真理の話を聞いていた医師は、脚の浮腫の確認をするため、少しかがみ込むようにして真理の脚を触診(しょくしん)した。
ひと通り触診すると、医師は納得したように小さく「うん…」と頷くと、椅子にきちんと座り直し静かに検査結果を説明し始めた。
「まずは前回に行った細胞診の結果ですが…
えぇ~…残念なことに陽性という結果がでました…つまり、子宮体癌の疑いがある、ということですね…」
そこまで言うと医師は、今にも泣きだしそうな顔をしている信也を見て声をかけた。
「旦那さん…?大丈夫ですか?…」
医師に声をかけられた信也は、ハッとしたように泣きそうだった表情をキリッと真剣な表情に直し、落ち着いた感じの声で返答した。
「あっ…すいません…大丈夫です…先生、続けてください…」
それを聞いて医師は、コホン…と一つ咳払いをすると、改めて話を続けた。
「では…話を続けますね…えぇ~…それで陽性ということでしたので、さらに精密な検査をすることとなるのですが…
子宮内膜組織診(しきゅうないまくそしきしん)という検査を行って、癌の有無の確定や癌のタイプ、悪性度を判定することになります…あっ、ただですね、この時点での判定は推定の域にとどまりますので、正確な判定は後(のち)の手術によって切除された組織を用いて病理検査によって判定されることになります…
とりあえず、ここまでのことは大丈夫ですか?」
医師の声かけに、二人は「はい…」と小さく頷きながら返事した。
「解らないことや聞きたいことがあれば、聞いてくださいね…えぇ~…では…
それでですね…その組織診の検査で、ある程度の癌の判定をしまして…あっ、まず…
子宮体癌というのはですね…ちょっとこちらを見てもらっていいですか…」
そう言うと医師は手元にあったタブレットに、女性生殖器の画像を映し出すと、真理と信也が見やすいように画面を向けた。
そして子宮体癌が発症する場所をペンで指し示しながら、説明を始めた。
「これは女性の生殖器の画像なんですが…
子宮体癌というのはですね…その名のとおり、子宮にできる癌なのですが…
ここの子宮体部の内面を覆う、ここですね…(ペンで場所を指しながら)子宮内膜に発生する悪性腫瘍が子宮体癌、ということになるわけです…」
真理と信也は医師に見せられたタブレットの画像を、小刻みに頷きながら黙って見ていた。
そんな二人に優しい眼差しを向けながら、医師は再度話を続けた。
「では…画像のほうは宜しいですか?…(タブレットを自分の机に置きながら)
組織診での判定がでましたら、画像検査での癌の広がり具合いを調べることになります…
経膣超音波検査(けいちつちょうおんぱけんさ)によって、子宮内膜の厚みや周囲の臓器との位置関係を調べます…
MRIやCTによる検査で、肺や肝臓などの離れた臓器への転移の有無、その臓器への広がりやあと、リンパ節への転移の有無などを調べることとなるのですが…
まぁ…それなりに時間のかかる検査なので…
検査入院という形で、数日入院していただくことになるのですが…大丈夫でしょうか?…」
ここまでの説明をじっ…と黙って聞いていた二人であったが、ずっと唇を強く噤んでいた真理が静かに口を開いた。
「解りました…入院はいつからになるんでしょうか…」
真理のその言葉を聞くと、隣に座っていた信也は片手で顔を覆うようにして項垂れ(うなだれ)、
そして必死で声を押し殺すようにして、涙を流していた。
「しん君…ごめんね…とにかく入院日…決めるね…」
隣で声もなく泣いている信也にかける言葉も思いつかず、真理はとりあえず入院日を決めようと医師に質問した。
「あの…私もパートですが仕事してるので…
お休みをもらわないといけないので、急にはちょっと…」
少し申し訳なさそうな口ぶりの真理を見て、医師は落ち着いた感じの優しい口調で、
「あぁ…お仕事されてるんですね…解りました…大丈夫ですよ…そうですねぇ…まぁ、こちらも病室の準備や検査の順番もあるので…」
そう言いながら医師は目の前のパソコンを開けると、検査の順番表らしきものを映しだし、うぅ〜ん…と小さく唸り(うなり)ながら画面を見つめていた。
そして独り言のように、「この日かな…」と呟くと近くにいた看護師を手招きをして呼んだ。
「ちょっといい?この日の前日くらいから…ベット大丈夫かな?…」
医師は看護師にもパソコンの画面を見せながら、ベットの空きの確認をした。
その問いに看護師は、
「あっ、はい…確か空きはあったと思いますけど…ちょっと確認してきます…」
そう言って確認の為、診察室から一度出て行った。
その後2〜3分ほどで帰ってくると、空きベットの確認報告を医師にした。
「先生の指示された日でしたら、203号室の四人部屋に二つと、206号室の二人部屋に一つが今のところ空いてます」
看護師からその報告を聞くと、「うん…ありがと…」と片手を軽く挙げ挨拶のようなお礼を言い、確認するように再度パソコンの画面を覗き込んだ。
そして涙は止まったようだが今だに項垂れている夫の信也をチラリと横目で気にしながら、医師は真理のほうを向くと話をしてきた。
「ちょうど一週間後になりますね…三日ほどの入院になりますが…四人部屋と二人部屋に空きがあるようですけど、希望とかがあれば考慮しますよ?」
医師からの言葉に真理は、ペコリと軽く会釈をすると、
「一週間後…来週の月曜日…ですね…解りました…あの…部屋はできれば二人部屋のほうがいいです…」
ずっと握りしめていた両手の拳を、さらに握りしめ必死に冷静さを保ちながら、真理は答えた。
「あっ、二人部屋ね…じゃあそっちのほうで…
あとは…準備する物とかその他の注意事項とかは、この後に看護師から説明してくれるから…」
医師はそこまで言うと、椅子から立ち上がり信也のほうへ近づき、目線に合わせてかがみ込み、
「旦那さん、辛いかもしれんけどしっかり支えんと…」
そう言われた信也は、項垂れていた情けない表情を振り払うように、自分の頬をパン!と両手で叩き、キリッとしたような表情になると「はいっ!」と意を決したような声で返事をした。
「じゃ、あとは看護師が…それが終わったらとりあえず今日は終わりですからね」
そう言うと医師はニコッと笑いながら、信也の肩にポンッと手を置いた。
診察室を出た二人は、指示された部屋へ移動し待った。
その間二人共黙ったままうつむいていた。
どう声をかけていいのか、お互いに気難しい重い空気を二人して漂わせ(ただよわせ)ていた。
そこへ…コン、コン…
扉をノックする音と同時に、「失礼します…」と一人の看護師が入ってきた。
「こんにちは。仮屋崎真理さんですね…先生からお聞きでしょうが、入院についてのお話といくつかサインなどして頂く書類がありますので…宜しいでしょうか?」
そう言いながら看護師は、持ってきた書類らしきプリントが入った透明ファイルをテーブルに置きながら、向かい側の椅子に座った。
それを見ながら二人は「よろしくお願いします…」と、軽く会釈した。
その二人の重い空気を察したかのように軽く微笑み、看護師は柔らかい優しい口調で話を始めた。
「では…入院の際の説明と、それに対しての書類等の説明をさせて頂きますね…」
そう言って持ってきた透明ファイルの中から、数枚の書類らしき物と入院説明書などを取り出すとそれにそって、入院日と日数、来院時間、準備する物、注意事項など、そして「同意書」やその他数枚の書類へのサインなどの説明をしていった。
そしてある程度の説明も終わりその場で出来るサインなどはし、持ち帰って改めて記入し提出する書類は大きめの封筒に入れられ渡された。
「とりあえず大まかな説明はしましたけども…何か解らないことや聞きたいことなどありませんか?」
封筒を渡しながら看護師は二人の顔を伺いながら、尋ねるように声をかけた。
それに対し二人はチラッとお互い顔を見合わせた。
「それでは…何もないようでしたら…こちらからの説明はこれで以上になります…」
そう言いながら椅子から立ち上がる看護師に同調し、二人も立ち上がりながら、
「ありがとうございました…」
軽く会釈しながら言った。
「また、解らないこととかあったら、いつでも聞いてくださいね」
一緒に部屋を出ながら看護師は優しい口調で言った。
真理は封筒を胸にギュッと抱えながら、コクン…と頷いた。
その隣で信也は優しく真理の腰に手を回し、そっと寄り添っていた。
