あなたの隣にいてもいいですか…〜最後まで幸せと笑顔をありがとう〜

…こちらは夫、信也の職場、美容室『きらり』

経営者は母親の輝美だが、店長としてお店を任されている。

美容師としてもなかなかの腕もあり、それなりの人気もある。
信也を指名してくるお客も、男女問わず少なくはない。
お陰様で有り難いことに、毎日がほとんど予約でいっぱいだ。

もちろん、他のスタッフ達も腕のいい美容師揃いだ。

今年入ってきた新人の女の子、「相葉桃華(あいばももか)」通称、ももちゃん(20歳)を含め、ベテラン女性スタッフを筆頭に男性スタッフが二名、信也も入れて計五名のメンバーである。

新人の桃華は専門学校を卒業後、ここ「きらり」へ入社してきた。
今はベテランの女性スタッフに付き、アシスタントとして日々頑張りどころの奮闘中だ。

その女性スタッフ、「織部夏姫(おりべなつき)」通称、織姫(35歳)は真理の高校の同級生でもあり、信也と真理の愛のキューピットでもあった。

仕事の出来る頼りがいのある、お姉さん的存在だ。

そして二人の男性スタッフ…

一人は、「岡山敦(おかやまあつし)」通称、アッシー(30歳)。
真面目で落ち着いた感じの、大人な紳士的存在だ。
信也と同い年なこともあり、それなりに気も合うこともあってよく男同士での相談や愚痴なども、聞いてもらったりしている。

もう一人は、「高梨凛斗(たかなしりんと)」通称、りんりん(28歳)。
ちょっと童顔で明るく元気な性格のため、お店のムードメーカー的な存在だ。
お店に来るお客様はもちろん、お店のスタッフ達も彼との会話はとても楽しそうで、皆んな笑顔になってしまう。

こんな感じのスタッフメンバーの美容室「きらり」なのだが…

自慢ではないが、正直、顔面偏差値は結構高いほうである。

もちろん美容師としての腕も、それなりに高い。

それは、毎日のお客様の予約の状態や、来店しそしてお店から帰っていくお客様の表情を見れば、一目瞭然である。
誰も疑う余地はないであろう。

「きらり」の人気は顔面偏差値の高さだけではなく、美容師としての腕もあるのだと…

そんな美容室「きらり」を始めたのが、今は亡き信也の父親だった。

また、その父親も、かつては美容師だった。
その父親がまだ二十代という若さで開いたのが、「きらり」だった。

実はお店の名前の由来は母親の名前、「輝美」の輝かららしい。

話せば長くなりそうな信也の父親と母親の、成初め話になるのだが…

母親の輝美と父親の明(あきら)は家も近所で、家族ぐるみでの仲のいい幼馴染みだったらしく、小、中、高とずっと一緒だったという。

歳も同い年で二人はいつも一緒で本当に仲の良い、兄妹のように育ったらしい。

だが…どんどん可愛く綺麗になっていき、女子から女性に変わっていく輝美を、いつの間にか異性として意識し始めた明は、高校の卒業式の一ヶ月ほど前に自分の約五年間の思いを、輝美に告白したのだそうだ。

しかし、その時はすでに明は地方の美容専門学校へ、輝美は地元の大学へと、お互い進学が決まっていた。

初めての離れ離れになる生活を前に、明は自分のことを少しでも一人の男として輝美に意識してもらおうと、必死だったらしい。

そのため、その告白からの明の輝美へのアプローチは、周りの見ている人間のほうが恥ずかしくなるくらい、一途で熱烈だったそうだ。

要領も良くしっかり者の輝美は、始めのうちは明の熱烈なアプローチを、さらりと上手くかわしていたようにみえたが…
内心、とても動揺し混乱していたのだという。

ずっと兄妹のようにして一緒にすごし、幼馴染みとして接してきた明に、異性として好意をもたれていると知り、正直、どう接していいのか戸惑っていたらしい。

実際、明への自分の気持ちもはっきりとしなかったこともあったらしいが…

毎日のように熱烈に思いをよせてくる明に、表向きは冷静な態度をとっていたが、いつの間にか明が接触しただけで心臓が弾けるように高鳴り、気がつけば明の姿を無意識に探し、考えるようになっていた。

そしてそれまでは当たり前のように普通に一緒に登下校していた時間さえも、胸がときめきドキドキするようになった。

そんな輝美の変化を、明が気づかないはずもなく見逃すはずもなかった。

卒業式の日…明は改めて輝美に交際を申し込んだ。

遠恋になるが、絶対に後悔させない…遠恋とは思わせないくらい、愛してみせる…絶対に幸せにしてみせる…と、ほとんどプロポーズのような言葉を熱弁したそうだ。

輝美と一緒にいた友達の存在さえも気にせず、恥ずかしげもなく申し込んできたという。

流石にそこまで熱烈なことをされれば、断わる理由もないであろう。

実際、輝美自身の明への気持ちも、固まっていたようで…

その日のうちに二人はお互いの両親へ、交際の報告と許しを得るための挨拶をしたという。

偶然にもその日の夜は、二人の卒業をお祝いするための食事会が、明の家で輝美の家族も一緒に行う予定になっていた。

小学生の頃からずっと家族ぐるみでの付き合いで、両親同士も仲良かったため、お互いの家に呼び合って食事をしたりすることは、普段から当たり前のように行われていた。

そして毎回、食事が飲み会になり、大人達の楽しい時間へとなっていった。

今回の食事会も、予想通りいつものように、「卒業祝い」という名ばかりの大人達の「飲み会」へなったことは言うまでもない。

そんな飲み会を機嫌良く楽しんでいる両親を目の前に、二人はどこで切り出し言おうかと、タイミングが掴めずそわそわとしていた。

すると…明の母親が…
「ねぇ~、あきらちゃ〜ん。いつまで待たすのぉ」
と、意地悪そうな目でニヤニヤと笑いながら言ってきたという。

他の三人の親達を見てみると、同じくニヤニヤと笑いながら二人を見ていた。

これを見て、明も輝美もすぐに察したという。

すでにお互いの両親は知っている…
二人から言い出すのを待っているのだ…

特に明の母親は、明の輝美への気持ちをずいぶん前から気づいていたようだ。
そしてそのことを夫、明の父親に話をすると、即行動とばかりにすぐに輝美の両親へ話をしに行ったという。

正直、まだ本人に気持ちを聞いて確認したわけではないが、母親には100%の確信があった。

最初は母親の勘?みたいなものだったらしいが、中学2年のバレンタイン・デーの時、輝美から貰ったチョコレートを明はじっ…と見つめながら、
「本命チョコじゃないんだよなぁ…」
と、寂しそうに呟いていたという。

それを見た明の母親は、明の輝美への恋心を確実なものとして確信したらしい。

それからはいつ思いを告げるのか、いつその報告を聞けるのか、いつか…いつか…とうずうずしながら楽しみに待っていながらも、それと同時になかなか思いも告げず、ぐずぐずしている息子に少々、苛立ちを覚えていたらしい。

輝美の両親も明の両親から話を聞くと、
「あきら君なら願ったり叶ったりよぉ!」
と、その日の夜はそののりで四人でそのまま飲み会にまでなり、喜んだそうだ。

明と輝美はくっつくものだと、もうすでにそういう前提で二組の両親は共に見守っていたらしい。

もちろん、明の一ヶ月ほど前の告白のことも、その後の毎日の熱烈なアタックも、卒業式後の輝美の友達の前にも関わらず、恥ずかしげもなく愛の言葉を熱弁したことも、耳に入っていた。

そして今回の卒業祝いを兼ねた食事会で、待ちに待った報告がやっと聞ける、と今か…今か…とずっと待っていたらしい。

しかし…そわそわするだけでなかなか言いだせない二人をみて、明の母親が流石にじれったくなり痺れを切らし、つい意地悪な言葉を発してしまったそうだ。

ここまで話も知られ、もうすでに外回りから固められていれば、妙に遠回しなことを言うより単刀直入に話をしたほうがいいと、二人は余計な言葉は言わなかった。

「結婚を考えた真剣なお付き合いをしていきたいと思っています」

この言葉を明から聞くと、両親達は「かんぱ〜いっ!!」と、手に持っていたグラスを思いっきり頭上にかかげ、本当に嬉しそうに喜んだという。

明の母親は、「やっとねぇ…」と、安堵したような表情を…父親はそれを見ながら「うん、うん」と同意するように頷いていたと…

輝美の母親も、「よかったわぁ~」と、安心したように…そして父親というと…もうすでに嫁にだす父親のように、「幸せになれよぉ〜」と、泣きじゃくっていたそうだ。

このように両親からも盛大に祝福されながらも、明と輝美はそれぞれの進学のため、初めての離れ離れの生活を送ることになったのだが…

輝美は地元の大学だったので、そのまま地元に残り実家からの通学。
明は地方の美容専門学校のため、地元を出て一人暮らしを始めることになっていた。

ずっと一緒だった二人に、しかも恋人同士になったばかりの二人に、なんとも酷なことを…
と、思っていたのは周りの人間だけだった。

やっときちんとした恋人同士になり、しかも親公認、そのうえ結婚前提ともなれば、明の輝美への愛情はそれまで以上に、留まることなく注がれることとなった。

輝美もその愛をしっかりと受け止め、受け入れそして自分も明への愛をしっかりと示した。

その頃はスマホや携帯など、そのような便利な物はなかったため、家電(いえでん)やこまめな手紙でのやり取りが二人を繋ぐものではあったが、この二人には全くそのようなことを気にするようなことはなかった。

毎回週末には必ずかかってくる明からの電話で、輝美と明の電話越しでのイチャつきを、聞いている親のほうが恥ずかしくなるくらいだったとか…

こまめな手紙のやり取りでも、綴られていることはお互いに愛の語らいがほとんどであったという。

お互いラブレターの交換をしているような感じだったらしい。

長期の休みに入ると、必ず明は帰省してきた。
そして輝美との一緒の時間を満喫していた。

もちろん、美容の勉強を怠る(おこたる)ことはなかった。

実際、講師の先生にも一目置かれるくらい、優秀な成績を収めていた。

元々、努力家でもあり、やる!と決めたら一生懸命やる性格の明だったのだか、それだけではなかったようだ。

それなりの素質があったのだろう。
講義や実習で一度学べば、あっという間に吸収しそして自分のものにし、アレンジや修正も瞬く間にこなしてしまう。

転生的な才能があり華々しく開花させたのだ。

その証拠に、まずは校内での「アレンジヘアコンテスト」に一年生のまだ入学して半年ほどで、他の出場者より群を抜いて優勝し、「全国ヘアコンテスト(学生部門)」でも金賞を受賞したのだ。

器用な手先と最新のアレンジやアイデアで、カットもアレンジヘアも群々成長していき、卒業する頃には芸能界のある事務所の社長の目に留まり、専属のヘアアーティストとして声がかかったほどだ。

「きらり」を開くまでは芸能事務所の専属ヘアアーティストとして腕をふるい、そして磨いていたという。

その後、輝美の大学卒業と同時に、待ってましたといわんばかりにプロポーズしたそうだ。

もちろんプロポーズの答えは悩むことなくOKだったのだが輝美から、あるお願いが出された。

大学で経営、経済学を学んだ輝美は、経済コンサルタントの会社への入社が決まっていたのだ。
その為、五年ほどの社会人生活を願い出た。

明はその申し出を受け入れたが、本心、輝美と早く結婚したく一緒にいたい明は、流石にただでは承知せず条件を付けた。

一緒に住む、という条件を…

偶然にも輝美の入社する会社と、明が雇われてる事務所が近かった為、そのようなことを思いついたそうだ。

どちらにしろ輝美も実家を出て一人暮らしの住居を探していた為、明と一緒に住むという条件はすんなりと受け入れた。

それからは二人共それぞれやりたい仕事をしながら、私生活ではしっかりと愛を育んでいった。

そうこうしているうちに、五年という月日はあっという間にすぎ、お互い27歳といういい歳頃になっていた。

そしてクリスマスの日に約束通り入籍した。

その一年後に、明は自立し自分のお店、美容室「きらり」を開いた。

店名にはじめは輝美の名前をそのままつけるつもりだったらしいが、流石にそれは本人に強く反対され、泣く泣く諦め「輝」のイメージから「きらり」という店名になったらしい。

と、まぁ信也の両親とお店の成初めはこんな感じである。