真理が一週間の休みをとり、結果をまちながらの安静を保つという生活が始まって、四日が経とうとしていた。
不正性器出血は微量ながら相変わらず続いている。
下腹部の痛みはあれからはうずくまるような大きな痛みはなくなったが、初めの頃からのチクチクとした痛みは続いていた。
「はぁ…今日で四日目…一週間ってこんなに長かったっけ…」
壁にかけられたカレンダーを眺めながら、真理は恨めしそうに呟いた。
休みをとってからここ数日、夫の早起きの頑張りは素晴らしいことに続いている。
そして簡単だが朝食を作り、真理に声をかける…
なんだか今までの二人の朝の日常が、逆になったようだった。
起こしてもなかなか起きず子供のように愚図っていた寝坊助さんが、自分でアラームを設置し起きるのだ。
相変わらずご期待どおり、一度のアラームでは無理だが、しっかりと6時30分にベットから出ていく。
初めのうちは一緒に起きようとしていた真理だったが、今では体のキツさも乗じて夫の頑張りと優しさに甘えることにした。
しかし…苦手な早起き&自分で起きる、ということをこんなに毎日頑張り朝食まで作ってくれている夫に、愚痴を言いたいわけではないのだが…
メニューは毎日ウインナーと目玉焼き…
正直もっと他にレパートリーはないものなのだろうか…?
いや…べつにウインナーも目玉焼きも嫌いではないのだが、流石に四日も続くと飽きてくるもので…
お弁当も毎日お握りを自分で作って、レトルトのカップスープを持っていっているようなのだが…
信也は飽きないのだろうか…?
そんなことを思いながらも、いつも感謝でいっぱいなことは変わらない。
「今日帰ってきたら、それとなく聞いてみよ…」
そうポツリと独り言を言いながら、壁のカレンダーに何となく今一度目をやると、明日の金曜日は信也もお休みになっていた。
「…ん?…あっ…しん君、明日はお休み…うん…ちょうどいいや…簡単なメニュー、教えよっか…うん、そうしよう…」
真理は自問自答するような不思議な会話をすると、素晴らしい発見でもしたかのような嬉しそうな表情でカレンダーを見つめていた。
久しぶりに二人で一緒にお料理…
なんだか結婚当初の新婚時代を思い出す…
意外にも料理というものはラーメンくらいしか作ったことがなかった信也は、「お味噌汁にお味噌を入れて…」と真理に言われ、お玉でごそっとすくった味噌をそのままドボンと鍋に入れたのだ。
それを見た真理は絶叫し、同時に呆れて言葉もでなかった…ということがあったのだ。
呆れてものも言えない…とはこういう時のことをいうのだろうな、と思ったのを覚えている。
そんなことを思い出しながら、当時のことを懐かしんでいた真理だったが、ふと、脚(あし)の違和感に気づいた。
椅子に座り脚を改めて見てみると、少し脚の浮腫(むくみ)があるようだ。
まだぱんぱんに腫れているような大ごとではないようだが、間違いなく脚の浮腫が確認できた。
不正性器出血に下腹部痛…それに加えて、脚の浮腫…
もう、ここまで症状がでてしまえば正直、検査結果を聞かなくても流石に自ず(おのず)と検討がついてしまう。
しかも真理は現役の看護師だ。
今こそは老健でのパートとはいえ、元は大学病院でばりばりに働いていた時期もある…
そんな真理でなくても、素人でもおおよそのことは解る症状だ。
「…はぁ…確実かもな…」
意外にも冷静な様子で、真理はため息交じりの独り言をポツンと漏らした。
だが脚の浮腫に気づいてしまうと、やはりどうしても気になってしょうがない。
これといって痛みがあるわけではないが、なんだか脚が重く感じ違和感があるのだ。
そうなると体まで重く感じ、倦怠感が襲ってくる。
下腹部痛のほうはだいぶ治まり、気にしなければそこまで痛みを感じることもなくなってきた。
が…完全に痛みがなくなったわけではない。
気にはならなくなったくらいの痛みに弱まった、というだけだ。
この二つの症状が重なった結果、真理の体はどぉーんと大きな石でものしかかったような、重くキツく感じられるようだった。
「きっついなぁ…」
浮腫でいつもとは違う自分の脚を見ながら、真理は食いしばるように呟いた。
そしてその脚を労る(いたわる)ようにさすっていると、じわぁ…と何だかなんともいえない感情が溢れてきた。
悲しい…?苦しい…?辛い…?キツい…?
わからない…只々、胸を締めつけるような感情が、今はもう何も考えたくない真理の心を悪戯(いたずら)にも襲っていた。
そんな真理の目から…
ツゥーー…と、流れる一滴(ひとしずく)の…
ん…?私の目から流れ落ちるこれは…
私の目から流れているこの水分は…涙?
どんな意味の涙…?
どんな感情の涙…?
私は何故、涙を流しているの…?
私は何故、泣きたいの…?
何故…?どうして…?なんで…?…??
さっきまでのあの冷静さはどこにいったのだろう。
ついさっきまで新婚当初のことを懐かしんで思い出していた真理は、どこへ…
もう自分でも自分の気持ちがわからなくなるくらい、今の真理は混乱していた。
自分が涙を流している気持ちも、ましてやその涙の意味さえも今の真理には理解の追いつかないことだった。
「なんで…?なんで…?なんで止まんないのよぉ…」
グスン…グスン…ウグッ…
止めようとすればするだけ、尚更さらにあとから後から溢れ出てくる涙…
本人の意思など関係ないかのように、次から次へと溢れ出る…
止まれ…止まれ!止まれ、止まれ!!…
ぽろぽろと生き物のように流れ落ちる涙に、呪文を唱える(となえる)ように頭の中で叫び続けた。
それでも涙は止まらない…
声を荒げて泣きじゃくるわけでも、すすり泣くわけでもない。
只々、切りもなく流れ続ける、涙…
壊れた蛇口のように止まらない、涙…
理由も意味もわからないまま、流れ続ける、涙…
もう、どれくらいの涙を流しただろうか?
戸惑いながらも、色々と混乱したうえで泣き疲れたのだろう。
いつの間にか真理はそのまま眠ってしまっていた。
リビングの夫婦二人のいつものリラックスモードの場所で、涙でぐしょぐしょになった顔を両腕で覆い隠すようにして、ぐったりと眠っていた。
不正性器出血は微量ながら相変わらず続いている。
下腹部の痛みはあれからはうずくまるような大きな痛みはなくなったが、初めの頃からのチクチクとした痛みは続いていた。
「はぁ…今日で四日目…一週間ってこんなに長かったっけ…」
壁にかけられたカレンダーを眺めながら、真理は恨めしそうに呟いた。
休みをとってからここ数日、夫の早起きの頑張りは素晴らしいことに続いている。
そして簡単だが朝食を作り、真理に声をかける…
なんだか今までの二人の朝の日常が、逆になったようだった。
起こしてもなかなか起きず子供のように愚図っていた寝坊助さんが、自分でアラームを設置し起きるのだ。
相変わらずご期待どおり、一度のアラームでは無理だが、しっかりと6時30分にベットから出ていく。
初めのうちは一緒に起きようとしていた真理だったが、今では体のキツさも乗じて夫の頑張りと優しさに甘えることにした。
しかし…苦手な早起き&自分で起きる、ということをこんなに毎日頑張り朝食まで作ってくれている夫に、愚痴を言いたいわけではないのだが…
メニューは毎日ウインナーと目玉焼き…
正直もっと他にレパートリーはないものなのだろうか…?
いや…べつにウインナーも目玉焼きも嫌いではないのだが、流石に四日も続くと飽きてくるもので…
お弁当も毎日お握りを自分で作って、レトルトのカップスープを持っていっているようなのだが…
信也は飽きないのだろうか…?
そんなことを思いながらも、いつも感謝でいっぱいなことは変わらない。
「今日帰ってきたら、それとなく聞いてみよ…」
そうポツリと独り言を言いながら、壁のカレンダーに何となく今一度目をやると、明日の金曜日は信也もお休みになっていた。
「…ん?…あっ…しん君、明日はお休み…うん…ちょうどいいや…簡単なメニュー、教えよっか…うん、そうしよう…」
真理は自問自答するような不思議な会話をすると、素晴らしい発見でもしたかのような嬉しそうな表情でカレンダーを見つめていた。
久しぶりに二人で一緒にお料理…
なんだか結婚当初の新婚時代を思い出す…
意外にも料理というものはラーメンくらいしか作ったことがなかった信也は、「お味噌汁にお味噌を入れて…」と真理に言われ、お玉でごそっとすくった味噌をそのままドボンと鍋に入れたのだ。
それを見た真理は絶叫し、同時に呆れて言葉もでなかった…ということがあったのだ。
呆れてものも言えない…とはこういう時のことをいうのだろうな、と思ったのを覚えている。
そんなことを思い出しながら、当時のことを懐かしんでいた真理だったが、ふと、脚(あし)の違和感に気づいた。
椅子に座り脚を改めて見てみると、少し脚の浮腫(むくみ)があるようだ。
まだぱんぱんに腫れているような大ごとではないようだが、間違いなく脚の浮腫が確認できた。
不正性器出血に下腹部痛…それに加えて、脚の浮腫…
もう、ここまで症状がでてしまえば正直、検査結果を聞かなくても流石に自ず(おのず)と検討がついてしまう。
しかも真理は現役の看護師だ。
今こそは老健でのパートとはいえ、元は大学病院でばりばりに働いていた時期もある…
そんな真理でなくても、素人でもおおよそのことは解る症状だ。
「…はぁ…確実かもな…」
意外にも冷静な様子で、真理はため息交じりの独り言をポツンと漏らした。
だが脚の浮腫に気づいてしまうと、やはりどうしても気になってしょうがない。
これといって痛みがあるわけではないが、なんだか脚が重く感じ違和感があるのだ。
そうなると体まで重く感じ、倦怠感が襲ってくる。
下腹部痛のほうはだいぶ治まり、気にしなければそこまで痛みを感じることもなくなってきた。
が…完全に痛みがなくなったわけではない。
気にはならなくなったくらいの痛みに弱まった、というだけだ。
この二つの症状が重なった結果、真理の体はどぉーんと大きな石でものしかかったような、重くキツく感じられるようだった。
「きっついなぁ…」
浮腫でいつもとは違う自分の脚を見ながら、真理は食いしばるように呟いた。
そしてその脚を労る(いたわる)ようにさすっていると、じわぁ…と何だかなんともいえない感情が溢れてきた。
悲しい…?苦しい…?辛い…?キツい…?
わからない…只々、胸を締めつけるような感情が、今はもう何も考えたくない真理の心を悪戯(いたずら)にも襲っていた。
そんな真理の目から…
ツゥーー…と、流れる一滴(ひとしずく)の…
ん…?私の目から流れ落ちるこれは…
私の目から流れているこの水分は…涙?
どんな意味の涙…?
どんな感情の涙…?
私は何故、涙を流しているの…?
私は何故、泣きたいの…?
何故…?どうして…?なんで…?…??
さっきまでのあの冷静さはどこにいったのだろう。
ついさっきまで新婚当初のことを懐かしんで思い出していた真理は、どこへ…
もう自分でも自分の気持ちがわからなくなるくらい、今の真理は混乱していた。
自分が涙を流している気持ちも、ましてやその涙の意味さえも今の真理には理解の追いつかないことだった。
「なんで…?なんで…?なんで止まんないのよぉ…」
グスン…グスン…ウグッ…
止めようとすればするだけ、尚更さらにあとから後から溢れ出てくる涙…
本人の意思など関係ないかのように、次から次へと溢れ出る…
止まれ…止まれ!止まれ、止まれ!!…
ぽろぽろと生き物のように流れ落ちる涙に、呪文を唱える(となえる)ように頭の中で叫び続けた。
それでも涙は止まらない…
声を荒げて泣きじゃくるわけでも、すすり泣くわけでもない。
只々、切りもなく流れ続ける、涙…
壊れた蛇口のように止まらない、涙…
理由も意味もわからないまま、流れ続ける、涙…
もう、どれくらいの涙を流しただろうか?
戸惑いながらも、色々と混乱したうえで泣き疲れたのだろう。
いつの間にか真理はそのまま眠ってしまっていた。
リビングの夫婦二人のいつものリラックスモードの場所で、涙でぐしょぐしょになった顔を両腕で覆い隠すようにして、ぐったりと眠っていた。
