あなたの隣にいてもいいですか…〜最後まで幸せと笑顔をありがとう〜

真理の父親、真司の連絡によってほとんど強制的に女子会を終了し、帰宅することとなった女性陣…

無事、坂之下家に到着した三人は、玄関のドアを開けると弥生を先頭に元気よく中へ入っていった。

「ただいまぁ〜…あなたのご指示どおり、帰ってきたわよぉ」

「パパァ〜、可愛い娘も一緒に帰ってきたわよぉ」

弥生の言葉と真理の姿に、真司は一瞬、おっ…というような表情をしたが、直ぐにちょっと不機嫌そうな顔に戻った。

その隣で気まずそうに苦笑いしている信也の姿があった。

「あら…信也、ただいま…何、そんなつまんない顔してんのよ」

「そうよぉ、せっかくしん君の好きなチーズケーキ買ってきたんだから…ハウステンボスのよぉ」

輝美と真理からの指摘に、察してくれよ…というように信也は更に苦笑いした。

「ほぉ…チーズケーキか…パパも好きなんだけど…?」

「えっ、うん!!もちろん、覚えてるよ…パパのぶんもちゃんと買ってあるからね…」

父親のちょっといじけた感じの言葉に、真理は宥めるように言った。

「まったく…子供みたいにいつまでいじけてんのよ…ていうか、子供のほうが機嫌直るの早いくてまだいいわ…」

真司のいつまでもいじいじしている姿に、弥生はため息まじりに呆れるように言った。

ウッ、ウッ、コホン…

妻に指摘され、気まずそうに真司は咳払いをし、少しうつむく感じで周りから目をそらした。

「まっ、ほら…パパがせっかく夕飯の準備してくれたんだし…とりあえず、皆んなで食べよ、ねっ」

そんな真理達、親子がちょっと気まずい雰囲気での会話をしている間、輝美は今回購入した真理の洋服などを袋から出し、信也に楽しそうに説明しながら見せていた。

信也も、「おぉ、いいじゃん…」「母さん、でもこれ、買いすぎじゃね?」などと言いながら、笑顔で見ていた。

「ちょっと、お義母さんもしん君も…それはあとにして、こっちで一緒にご飯食べよ」

真理の一言に輝美は「そうね…」と言うと、袋から出した洋服をシワにならないように、軽くたたんで重ねて置いた。

テーブルには真司が作った料理が、数品並んでいた。
よく見るとほとんどが真理の好きな料理ばかりだった。

「わぁ…これ、チーズオムレツ…子供の頃からの私の好きなやつ…こっちのチキンポテトサラダもだぁ…」

テーブルの上の料理を見て、嬉しそうにはしゃぐ真理の姿を愛おしそうに笑顔で真司は見つめていた。

その表情は、本当に娘を思う優しい父親の顔だった。

「まったく…結局そんな顔するなら、真理に直接電話すればいいのに…ほぉんと、意地っ張りなんだから…」

真司の真理へ向ける表情を見ながら、弥生はまたもや呆れるように言った。

「なんだよ…お前は今日は真理と一日、楽しく過ごしてきたんだろ?…俺だって、一緒に…出かけたり…した…かった…」

最後のほうは、声も小さくもごもごとした感じで真司は言った。

「そんな風にはっきり言わないから、わかんないんじゃない…はっきり、自分も一緒に行きたい、て言えばよかったじゃない?」

「でも…真理が…女同士の女子会だって言うし…」

「だったら、今回じゃなくても違う日に予定すればいいことじゃないの…」

「でも…あんまり連れ出したりすると…真理の体調が…」

「はぁ〜…でも、でも…そうやっていつまでもいじいじと意地毛虫してたって、真理は構ってくれないわよ」

弥生の半分お説教のような会話に、真司はシュン…とした感じで答えていた。

「まったく…図体(ずうたい)はいいのにね…娘にはほんっと、縮こまっちゃって…」

最後の弥生の一言に、真司は「申し訳ない…」と情けなさそうな顔をしていた。

そんな二人の会話はそっちのけに、真理をはじめ信也と輝美の三人は、これまた真理の好きな料理の一つ、ビーフカレーを楽しそうにお喋りをしながら食べていた。

「カレー作り、俺も手伝ったんだけど…どう?」

「信也、あんたが手伝ったって言っても、どうせ野菜の皮むくとか切るとか、そんなとこでしょ?」

「なんだよぉ…そんなんでも手伝ったことには変わりないだろ…野菜の切り方とかさ、いい感じだろ?」

カレー作りを手伝ったと自慢気に言う信也に対し、結構キツい追求をする輝美だった。

「ぅん…カレーにはちょういい大きさだね…ほら、ほとんど大きさも揃ってるし…」

輝美の手厳しい言葉をフォローするかのように、真理は信也の野菜の切り方を褒めた。

「だろ、だろ?俺、結構頑張ったと思わない?」

真理からの褒め言葉を聞いて、信也は嬉しそうに言った。

「まったく…真理ちゃんはほんと信也に甘いわねぇ」

「いいんだよ、まーちゃんは優しいんだよ…」

「ほんとにねぇ…野菜切ったくらいで褒めてくれるんだもんね?」

「そうだよ、母さんと違ってな…w」

誇らしげな顔で微笑みながら信也は言った。

そんな二人の張りつめた空気を和らげようと、それと同時に父親の機嫌もとろうかと、真理は四人に声をかけた。

「ねぇねぇ…パパ、見てぇ…これってめっちゃ可愛くない?あっ、でもこっちのほうがパパの好みっぽい?」

ついさっき輝美が袋から出し軽くたたんで積み重ねておいた、本日購入した洋服を真理は手に取り、広げながら真司に見せた。

「ふぅん…そうだな…うん…可愛いんじゃないか?だけどまぁ…確かに…そっちよりこっちのほうが、パパは真理に合ってると思うけどな…」

真理の問いかけに真司はなんだか少しぶっきらぼうな口調で答えた。

「もぅ、いい加減、機嫌直しなさいよねぇ…それより、ほら…これも見て…可愛いでしょ〜?ぜったい真理に似合うって、輝美さんと選んだのよぉ…ね?」

「あぁ~…そのイヤリング…そぅそぅ、ぜったい真理ちゃんに似合うよねぇ、て二人で見てたやつね…どう?信也も、これ真理ちゃんに似合うと思わない?」

「まぁ、確かにまーちゃんのイメージにはぴったりだけど…て、いうか…洋服だけでも結構な量なのに、こんなのまで買ったの?」

弥生と輝美に購入してきたイヤリングを見せられ、マジかよ…というような表情で信也は言った。

「信也君、いいじゃないか、たまには…今日は女同士で楽しく過ごす日だったんだから…楽しく買い物したんだろ?」

「パパったら、まだ機嫌直ってないの?はぁ〜…ほんと、子供みたい…まったく、しょうがないなぁ…じゃぁ…今度のパパのお休みは、一緒にご飯でも食べに行く?」

今だにまだ不機嫌そうだった真司だったが、真理からのその言葉に、パッ…と表情が変わり、本当に嬉しそうに微笑んだ。

「やっと機嫌直ったわね…結局は自分も真理とお出かけしたかった、てことじゃない?…」

「そりゃぁ、そうに決まってるじゃないか…俺だって自分の娘と食事行ったり?一緒に出かけたりしたいさ…」

「だったら、それを意地毛虫なんかにならずに、はっきり言えばいいのよ」

「そりゃ…俺だって…その…立場というか…色々と…な…」

やっと笑顔になったと思った真司の表情が、弥生の言葉にまたもや沈んでいった。

「もぅ…ママ…そんなにパパをいじめないの…だけどパパも相変わらずねぇw…昔っからママには敵わなかったもんなぁ…w」

両親のやり取りを見ながら、真理は懐かしそうに笑いながら言った。

「へぇ~…お義父さん、お義母さんには弱いんですねぇ…」

「あら、信也…うちも、あなたのお父さんは私に弱かったわよ?」

「いゃ…母さんのその達者な口には、父さんだけじゃなくて誰も敵わないよw」

「やぁねぇ〜、人をお喋りおばさんみたいに…」

「ww…いゃいゃ、実際お喋りおばさんだろ?w」

「まぁっ!失礼ね…どこの子かしら?この生意気な子は…親の顔が見てみたいわね」

「はぃはぃ、あなたの自慢の可愛い息子ですよぉ…親の顔が見たい?あぁ~、はぃはぃ…こちらがその息子の親の顔でございますよ」

そう言うと信也は輝美に手鏡を渡した。

「まぁ♡素敵な美人さんねぇ、あなたの母親って…」

信也に渡された手鏡を覗きながら、輝美は誇らしげに笑顔で言った。

そんな信也と輝美の、親子漫才のような会話を真理と弥生、真司の三人は可笑しそう(おかしそう)に笑いながら見ていた。

ついさっきまでの意地毛虫が直り、そしてまた弥生に言い包め(いいくるめ)られて沈んだ表情になっていた真司も、いつの間にか顔が緩み笑っていた。

三人の笑顔を見ると信也と輝美は顔を見合わせ、目で合図するように笑った。

そう…二人は場を和まそうと、漫才のような会話をわざとしたのだ。

しかし、事前打ち合わせもなくアドリブ同然のことを難なくやってのける…
さすが…親子の絆、とでもいうのだろうか?

どちらにしろ場を和ませてくれたことには変わりない。
沈んだ表情の真司を、笑顔に戻したことも事実だ。

やっと皆んなの笑顔が戻り笑い声が部屋に響きはじめると、それを聞き、見つめながら真理の目からは涙が溢れていた。

悲しみや苦痛の涙ではなく、喜び、嬉しさの幸せの涙が真理の頬を濡らしていた。