信也の提案に伴い、やりたい事などをノートにリストアップした、いくつかの中で真理が一番最初に選んだこと…
友人家族に会いに行く…
その親友ともいえる美帆と連絡を取り、一週間後に会う約束をした。
信也も休みを取ってくれ、二泊三日ほどの佐世保から鹿屋へのちょっとした旅行となった。
出発当日までの旅行準備をする真理の浮かれっぷりは、信也も本当に久しぶりに見るはしゃぎようだった。
……そして、出発当日…
前日に忘れずきちんと連絡も入れた。
その時出発の際と鹿屋に着いた際、また連絡を入れてほしい、と言われた。
鹿屋へはどれくらいぶりだろうか?…
もちろん信也は初めてだが、真理は父親の転勤で二度ほど移住したことがある。
小学生時に二年間、中学生時に二年間…
短い間だったが子供の頃すごしたことのある土地だった為、真理にはちょっと懐かしく感じる場所でもあった。
さて…自宅を出発したのは、朝8時。
高速道路に乗り、何度かの休憩をとりながら、鹿屋に到着したのは夕方の16時過ぎだった。
予約していたホテルに無事チェックインし、美帆へ連絡を入れた。
そして、時間と待ち合わせ場所を決めた。
と、いうより、約束した時間に美帆達がホテルの玄関前まで、迎えに来てくれるのだ。
約束の時間は、18時30分…約2時間後だ。
電話を切った後、真理と信也はそそくさと準備を始めた。
シャワーを浴び着替えをし、真理はいつもより少しだけメイクを念入りにした。
「ねぇ…しん君…私、おかしくない?やっぱり、リップの色もう少し薄めのほうがいいかな…?」
鏡の中の自分を見ながら、真理はちょっと不安そうに信也へ問いてきた。
「大丈夫だよ…まーちゃん、綺麗だよ…リップも似合ってる…」
真理の不安を打ち消すかのように、信也は真理を褒めた。
「…ん~~…そう?…んじゃ、これでいっか…」
ま、いっか…というような表情をしながら、真理は振り向き時計を見た。
「…あっ!しん君!大変…約束の時間…もう5分前…」
「あっ!まぢだ…出なきゃな…まーちゃん、忘れ物とかない?大丈夫?」
「えぇ〜と…お財布にハンカチ、ティッシュ…携帯…あとは、みーちゃん達へのお土産…OK!大丈夫!」
二人はお互いに忘れ物チェックをしながら、部屋を出た。
フロントに部屋キーのカードを預け、あたふたと玄関から出るともうすでに美帆達、阿部家の親子三人が待っていた。
さすが、現役自衛官…時間にはしっかりしてる…
そういえばうちのパパも似たような感じだなぁ、
…なんて思いながら、真理は美帆達に笑顔で手をふった。
「みーちゃん、久しぶりぃ…タカさんもご無沙汰してます…杏樹ちゃん、大きくなったねぇ」
「ほんと…久しぶり…まーちゃんも元気だった?信也さんもお変わりなく…」
「どうも…こんばんは…佐世保にいらした時に、一緒にお食事して…以来ですかね?…」
「…ですね…家族旅行でそちらに伺った時…あっ!その際は、ご馳走様でした…うちの分まで支払いしてもらっちゃって…そのお礼、ていうわけでもないですけど、今夜はうちにご馳走させてくださいね」
「えっ…いゃ…べつにそんないいですよぉ…ねぇ、まーちゃん…」
「そうだよぉ…今回だってどっちかっていうと、こっちが押しかけてきたようなもんだし…」
「ん~~…でも…今夜はタカ君がご馳走したい、て言ってるからさっ!ねっ?」
そう言って美帆は貴幸のほうをふり返った。
「えっ…あぁ、ですよ…今夜は自分らにお持て成しさせてください」
それまで黙って三人のやり取りを聞いていた貴幸だったが、美帆からの急な振りにちょっと慌てた風な感じで答えた。
「ねっ?タカ君もこう言ってるんだし、二人は大人しくご馳走されなさいって…お店もさ、せっかくおすすめのとこ予約入れといたんだからさっ!」
「ん~~まぁじゃぁ…そこまで言うなら…ねっ?しん君…」
「そだね…せっかくのご好意をあまり無下にするのも…ね…」
真理と信也は二人顔を見合わせ、ちょっと苦笑いしながらしぶしぶ承諾するように言った。
「よしっ!そうこなくっちゃね!んじゃ、時間19時で入れてるから…ここからちょっと歩くけど、いい?」
美帆は腕時計を見ながら、進行方向を指差しながら伝えた。
普通なら大人の足で10分ほどらしいが、今回は美帆達の子供、杏樹も一緒だったため少し時間が加算された…
お店までの道中、真理と美帆は久しぶりの再会で女子トークに華がさいていた。
その後ろを男性群は杏樹を真ん中にお互い手をつなぎ、杏樹から幼稚園での出来事など話を聞きながら、笑顔で楽しそうに歩いていた。
大人四人と子供一人、お店までの道のりを楽しくお喋りをしながら歩いた。
そして気がつくとあっという間に目的地のお店へ到着した。
「おぉ~…ここ、ここ…お喋りに夢中で、通り過ぎるとこだった…w」
少し恥ずかしそうに笑いながら、予約したお店の前で指さしながら美帆が言った。
お店に入り席に案内されると、貴幸は早速メニューを開き真理と信也の前に置いた。
「まずは何にします?どんどん好きなの頼んでくださいね」
「タカ君、その前に飲み物でしょ…ねぇ?…皆んなとりあえずビールでいい?…ていうか、せっかくだし飲み放題にしとこっか…」
「w…ほんと…相変わらずみーちゃんは変わんないねぇ…いつの間にか周りをまとめて引っ張っていってくれる、リーダー的存在…昔のままだ…」
懐かしそうに笑いながら、真理は言った。
「えぇ〜…そっかなぁ?…私は普通に喋ってるだけなんだけど…まぁ、まーちゃんがそう言うなら、そうなの…?」
そうかしら?…というような表情をしながら、美帆は答えた。
そんな会話を妻達がしている間に、夫二人はメニューを見ながら注文の品を選んでいた。
その横から娘の杏樹がひょこっ…とメニューを覗き込んでいた。
「あんちゃんねぇ、これとこれ食べたい…」
メニュー表の写真を指さしながら、杏樹が貴幸におねだりするように言った。
流石に可愛い一人娘におねだりされると弱いのか、貴幸の顔は緩みちょっとデレ…としたような表情になった。
「おぉ~…あんちゃんはこれが食べたいのか?飲み物はいつものオレンジジュースでいいの?」
優しそうな父親の目をして、貴幸は杏樹のおねだりを聞いていた。
そしてその後、四人でいくつか決めると店員を呼び、注文をした。
もちろん、150分の飲み放題だ。
やはり今回もアルコールは飲めない真理が、烏龍茶を注文していると美帆が不思議そうな顔をしていた。
「あれ?…めっずらしぃ…まーちゃんが烏龍茶なんて…結構いけるほうだったよね?」
「ん?…えっ、まぁ…最近はあまり飲まなくなったのよね…歳かしら?」
「w…えぇ〜…やっだぁ、それ同い年の私に言う?w…私、まだまだめっちゃいけるわよぉ!w」
まだ一滴も飲んでないはずなのに、もうすでに酔っぱらいのようなテンションの美帆だった。
「w…ほんと、みーちゃんは変わんない…私は飲まないけど、こういう場は好きなのよねぇ…大丈夫!今夜はうちの旦那様が、しっかり二人の相手して飲むんで!w」
美帆のテンションにつられるように真理も笑いながら言った。
そこへ注文した料理のうちの何品かと、生ビールを3杯、オレンジジュースと烏龍茶を店員が運んできた。
「じゃ、まずは久しぶりの再会に、乾杯しましょうか?」
飲み物が揃うと、すかさず貴幸が声をかけた。
それを合図にそれぞれのグラスを手に取り、それを前に突き上げた。
〜♪かんぱぁ~い!♪〜
美帆達の娘の杏樹も小さな手でグラスを両手で持ち、笑顔で参加してくれた。
その後は次々と注文の料理も運ばれ、それを食べながらそれぞれが飲み物のおかわりをしながら飲み始めて約一時間、色々な話をし笑い楽しい時間を過ごしていた。
するとお手洗いへ行くため、真理が立ち上がり席を外した。
それを追うように、同じく信也も席を立った。
お手洗いの前で真理を待っていた信也は、出てきた真理へすかさず質問した。
「このあと…席に戻ったら、話すの?」
「そうだね…そろそろ切り出さないと、みーちゃんベロベロになっちゃうもんね…」
「確かにな…美帆さん、めっちゃペース早そうだもんな」
「まぁね…みーちゃん、昔っから機嫌がいいとペース早かったから…そろそろ止めないと…」
「わかった…んじゃ、俺も用済まして戻るわ…」
そう言うと信也はお手洗いの扉を開け、入って行った。
それを見送ると、真理は美帆達の元へ戻った。
席へ帰ると美帆は相変わらずのテンションで飲み続けており、貴幸はというとそれなりに飲んでるはずだが、ほとんど変わらず落ち着いており紳士的であった。
その紳士的な優しいパパの膝枕で、お腹もいっぱいになりそろそろお眠の時間なのか、娘の杏樹がウトウトしていた。
「あら…あんちゃん、お眠になっちゃったね…」
杏樹をびっくりさせないように、少し声のトーンを落として真理は静かに言った。
「今夜は杏樹も楽しかったみたいで、結構はしゃいでたからね…あっ…大丈夫よ…この子、一回寝ちゃったら少しくらいうるさくてもなかなか起きないから…」
真理が気をつかって声をセーブしてくれていることに気づいた美帆が、大丈夫だから…というような顔で言った。
するとそこへ信也も用を済ませ、帰ってきた。
信也が席に着くと真理は小さく深呼吸をし、そして改めて美帆と貴幸の顔を見て尋ねるように声をかけた。
「あの…せっかくの楽しい時間に、私ごとなんだけど…ちょっと、いい?」
「えぇ〜…なにぃ?まーちゃん、急にそんなかしこまっちゃって…」
「うん…えと…みーちゃんもタカさんも、落ち着いて聞いてね…私ね…実は…………」
子宮体癌が見つかったこと…
手術が約一ヶ月後に決まり、子宮摘出すること…
そしてもちろんのこと、妊娠はできなくなるということ…
その他にも話そうと思っていたことを、真理は静かにゆっくりと話しした。
それまで機嫌よく飲んでいた美帆だったが、手からグラスを離すとその手をギュッと握りしめた。
その握りしめた拳は、わずかだか震えていた。
それまで明るく楽しかった空気が、一変してあっという間に変わったことをひしひしと感じた。
その隣で貴幸は一点を見つめながら、黙りこくっていた。
そんな阿部夫妻を目の前に、真理は必死で涙をこらえながら話をした。
信也も腕を組み、ジッと黙っていた。
ある程度の話が終わると、それまで拳を握りしめていた美帆は、手から離した自分のグラスを握ると半分ほど入っていた酎ハイを一気に飲みほし、
空になったグラスをテーブルに力強く置くと、すくっと立ち上がり真理のほうへ向かった。
そして声を出し泣きながら真理へ抱きついた。
ただただ、泣きながら…
その美帆の肩に優しく手をかざしながら、貴幸も静かに涙を流していた。
そうすると流石にそれまで必死でこらえていた真理も、タガが外れ美帆と一緒に泣いた。
信也はそんな女性二人の隣で、涙ぐみながらも必死でこらえていた。
そんな信也に気づいた貴幸は、慰めるかのように信也の肩をポンポン…と優しくたたいた。
こんな時、今回入ったお店が個室で良かった、というもんだ。
女性二人が抱き合って大泣きしている光景…
流石に他には見せられない…
さて…二人してしこたま泣いた、真理と美帆。
どうして…どうして…と、泣きながら唱えるように何度も言っていた美帆…
それに対して、ごめんね…ごめんね…と、何故か謝っていた真理…
泣くだけ泣いて少し落ち着いた美帆は、貴幸に差しだされたティッシュで涙を拭き、ぐぢゅぐぢゅになった鼻を噛んだ。
「はぁ〜…なんだか一気に酔いがさめちゃったわよ…」
独り言のように美帆は呟いた。
そんな美帆の姿を見ていた貴幸は、尋ねるように真理へ言った。
「今回、鹿屋まで来たのは…やっぱりこの話をするためだった…てことなのかな?…美帆には直接会って話したかった?」
「…ぅん…確かに…それもある…けど、それより無性にみーちゃんに会いたかった…」
貴幸からの問いに、真理は信也から受け取ったティッシュで、涙を拭きながら答えた。
その言葉に美帆はまたもやギュッ…と、真理を抱きしめた。
「私も…会いたかった…」
やっと止まったと思っていた涙が、再び美帆の目に帰ってきた。
「こりゃ、きりないな…」
二人の妻達の様子を見守りながら、貴幸はポツリ…と言いながら信也と苦笑いしながら顔を見合わせた。
「ねぇ、あのさ…杏樹も寝ちゃってるし、俺は杏樹を連れて帰るけど…せっかくだしこの際、二人でもう少しゆっくり話でもしてくれば?ねっ?信也君…」
貴幸の提案に信也は、ですね…というような顔をして頷いた。
「あっ…なんなら、信也君さえよければ、うちで一緒に飲み直そうよ」
「えっ!?いいんですか?ほんとにお邪魔しちゃって…」
急な自宅へのお誘いに、少し驚きながらも嬉しそうに信也は答えた。
「おぉ~…いいよ、いいよ…帰りに途中のコンビニで、かるく買い物して帰ろう」
どんどん話を進めていく旦那達を横目に、真理と美帆は顔を見合わせクスッ…と笑うと、手持ちのグラスをお互いに合わせカチン…と軽く無言の乾杯をした。
この行動が二人にとっては、これからも宜しく…というような挨拶、いや…二人の絆を表す挨拶、というようなものだろうか…
15年以上もの付き合いの真理と美帆…
看護大時代からお互い励まし合って必死で勉学に励み、現場で働きだしてからも辛いこと、苦しいこと、悔しいこと…
いつも一緒に励まし合って頑張ってきた二人だ。
そんじょそこらの簡単な友情とは意味が違う…
言葉無くしても心で、絆でしっかり繋がっていた。
そんな友情の絆を真理と改めて確かめあっている美帆に、貴幸は娘の杏樹を起こさないようにそっと抱き上げながら少し声をおとして言った。
「じゃ、俺達は先に出るけど…支払いはコレで、最後にまとめてお願いしていい?」
貴幸がクレジットカードを差し出すと、美帆は軽く頷きながらそれを受け取った。
「了解…んじゃ、あんちゃんのことお願いね」
「ぉう…美帆も飲み過ぎるなよ…あと…もぅ、さっきみたいに泣いて真理さんを困らすなよ」
「わかってるわよ…さっきので、ほとんど出しつくしちゃったわよ…」
そう言って真理はイタズラっぽく笑った。
「それじゃ、美帆さん…まーちゃんのこと、よろしくお願いします…」
靴を履き終えた信也は美帆へ軽く会釈すると、もうすでにお店の出入り口のほうへ向かいはじめている貴幸を追いかけるように、いそいそと歩いて行った。
残された二人の奥様方、真理と美帆はというと…
とりあえず飲み放題の時間は終了したようなので、改めてお互い飲み物と軽くつまめそうな品を一品ずつ注文した。
学生時代の昔話やその頃の恋バナ、看護師となって働き始めた頃の話など、お互い懐かしい話でつきなかった。
そしてあれだけ貴幸に言われながらも、結局は泣いては飲み泣いては飲み…を繰り返した美帆だった。
だが…その夜の時間は、二人にとって何にも代え難い時間となったことは、言うまでもない。
友人家族に会いに行く…
その親友ともいえる美帆と連絡を取り、一週間後に会う約束をした。
信也も休みを取ってくれ、二泊三日ほどの佐世保から鹿屋へのちょっとした旅行となった。
出発当日までの旅行準備をする真理の浮かれっぷりは、信也も本当に久しぶりに見るはしゃぎようだった。
……そして、出発当日…
前日に忘れずきちんと連絡も入れた。
その時出発の際と鹿屋に着いた際、また連絡を入れてほしい、と言われた。
鹿屋へはどれくらいぶりだろうか?…
もちろん信也は初めてだが、真理は父親の転勤で二度ほど移住したことがある。
小学生時に二年間、中学生時に二年間…
短い間だったが子供の頃すごしたことのある土地だった為、真理にはちょっと懐かしく感じる場所でもあった。
さて…自宅を出発したのは、朝8時。
高速道路に乗り、何度かの休憩をとりながら、鹿屋に到着したのは夕方の16時過ぎだった。
予約していたホテルに無事チェックインし、美帆へ連絡を入れた。
そして、時間と待ち合わせ場所を決めた。
と、いうより、約束した時間に美帆達がホテルの玄関前まで、迎えに来てくれるのだ。
約束の時間は、18時30分…約2時間後だ。
電話を切った後、真理と信也はそそくさと準備を始めた。
シャワーを浴び着替えをし、真理はいつもより少しだけメイクを念入りにした。
「ねぇ…しん君…私、おかしくない?やっぱり、リップの色もう少し薄めのほうがいいかな…?」
鏡の中の自分を見ながら、真理はちょっと不安そうに信也へ問いてきた。
「大丈夫だよ…まーちゃん、綺麗だよ…リップも似合ってる…」
真理の不安を打ち消すかのように、信也は真理を褒めた。
「…ん~~…そう?…んじゃ、これでいっか…」
ま、いっか…というような表情をしながら、真理は振り向き時計を見た。
「…あっ!しん君!大変…約束の時間…もう5分前…」
「あっ!まぢだ…出なきゃな…まーちゃん、忘れ物とかない?大丈夫?」
「えぇ〜と…お財布にハンカチ、ティッシュ…携帯…あとは、みーちゃん達へのお土産…OK!大丈夫!」
二人はお互いに忘れ物チェックをしながら、部屋を出た。
フロントに部屋キーのカードを預け、あたふたと玄関から出るともうすでに美帆達、阿部家の親子三人が待っていた。
さすが、現役自衛官…時間にはしっかりしてる…
そういえばうちのパパも似たような感じだなぁ、
…なんて思いながら、真理は美帆達に笑顔で手をふった。
「みーちゃん、久しぶりぃ…タカさんもご無沙汰してます…杏樹ちゃん、大きくなったねぇ」
「ほんと…久しぶり…まーちゃんも元気だった?信也さんもお変わりなく…」
「どうも…こんばんは…佐世保にいらした時に、一緒にお食事して…以来ですかね?…」
「…ですね…家族旅行でそちらに伺った時…あっ!その際は、ご馳走様でした…うちの分まで支払いしてもらっちゃって…そのお礼、ていうわけでもないですけど、今夜はうちにご馳走させてくださいね」
「えっ…いゃ…べつにそんないいですよぉ…ねぇ、まーちゃん…」
「そうだよぉ…今回だってどっちかっていうと、こっちが押しかけてきたようなもんだし…」
「ん~~…でも…今夜はタカ君がご馳走したい、て言ってるからさっ!ねっ?」
そう言って美帆は貴幸のほうをふり返った。
「えっ…あぁ、ですよ…今夜は自分らにお持て成しさせてください」
それまで黙って三人のやり取りを聞いていた貴幸だったが、美帆からの急な振りにちょっと慌てた風な感じで答えた。
「ねっ?タカ君もこう言ってるんだし、二人は大人しくご馳走されなさいって…お店もさ、せっかくおすすめのとこ予約入れといたんだからさっ!」
「ん~~まぁじゃぁ…そこまで言うなら…ねっ?しん君…」
「そだね…せっかくのご好意をあまり無下にするのも…ね…」
真理と信也は二人顔を見合わせ、ちょっと苦笑いしながらしぶしぶ承諾するように言った。
「よしっ!そうこなくっちゃね!んじゃ、時間19時で入れてるから…ここからちょっと歩くけど、いい?」
美帆は腕時計を見ながら、進行方向を指差しながら伝えた。
普通なら大人の足で10分ほどらしいが、今回は美帆達の子供、杏樹も一緒だったため少し時間が加算された…
お店までの道中、真理と美帆は久しぶりの再会で女子トークに華がさいていた。
その後ろを男性群は杏樹を真ん中にお互い手をつなぎ、杏樹から幼稚園での出来事など話を聞きながら、笑顔で楽しそうに歩いていた。
大人四人と子供一人、お店までの道のりを楽しくお喋りをしながら歩いた。
そして気がつくとあっという間に目的地のお店へ到着した。
「おぉ~…ここ、ここ…お喋りに夢中で、通り過ぎるとこだった…w」
少し恥ずかしそうに笑いながら、予約したお店の前で指さしながら美帆が言った。
お店に入り席に案内されると、貴幸は早速メニューを開き真理と信也の前に置いた。
「まずは何にします?どんどん好きなの頼んでくださいね」
「タカ君、その前に飲み物でしょ…ねぇ?…皆んなとりあえずビールでいい?…ていうか、せっかくだし飲み放題にしとこっか…」
「w…ほんと…相変わらずみーちゃんは変わんないねぇ…いつの間にか周りをまとめて引っ張っていってくれる、リーダー的存在…昔のままだ…」
懐かしそうに笑いながら、真理は言った。
「えぇ〜…そっかなぁ?…私は普通に喋ってるだけなんだけど…まぁ、まーちゃんがそう言うなら、そうなの…?」
そうかしら?…というような表情をしながら、美帆は答えた。
そんな会話を妻達がしている間に、夫二人はメニューを見ながら注文の品を選んでいた。
その横から娘の杏樹がひょこっ…とメニューを覗き込んでいた。
「あんちゃんねぇ、これとこれ食べたい…」
メニュー表の写真を指さしながら、杏樹が貴幸におねだりするように言った。
流石に可愛い一人娘におねだりされると弱いのか、貴幸の顔は緩みちょっとデレ…としたような表情になった。
「おぉ~…あんちゃんはこれが食べたいのか?飲み物はいつものオレンジジュースでいいの?」
優しそうな父親の目をして、貴幸は杏樹のおねだりを聞いていた。
そしてその後、四人でいくつか決めると店員を呼び、注文をした。
もちろん、150分の飲み放題だ。
やはり今回もアルコールは飲めない真理が、烏龍茶を注文していると美帆が不思議そうな顔をしていた。
「あれ?…めっずらしぃ…まーちゃんが烏龍茶なんて…結構いけるほうだったよね?」
「ん?…えっ、まぁ…最近はあまり飲まなくなったのよね…歳かしら?」
「w…えぇ〜…やっだぁ、それ同い年の私に言う?w…私、まだまだめっちゃいけるわよぉ!w」
まだ一滴も飲んでないはずなのに、もうすでに酔っぱらいのようなテンションの美帆だった。
「w…ほんと、みーちゃんは変わんない…私は飲まないけど、こういう場は好きなのよねぇ…大丈夫!今夜はうちの旦那様が、しっかり二人の相手して飲むんで!w」
美帆のテンションにつられるように真理も笑いながら言った。
そこへ注文した料理のうちの何品かと、生ビールを3杯、オレンジジュースと烏龍茶を店員が運んできた。
「じゃ、まずは久しぶりの再会に、乾杯しましょうか?」
飲み物が揃うと、すかさず貴幸が声をかけた。
それを合図にそれぞれのグラスを手に取り、それを前に突き上げた。
〜♪かんぱぁ~い!♪〜
美帆達の娘の杏樹も小さな手でグラスを両手で持ち、笑顔で参加してくれた。
その後は次々と注文の料理も運ばれ、それを食べながらそれぞれが飲み物のおかわりをしながら飲み始めて約一時間、色々な話をし笑い楽しい時間を過ごしていた。
するとお手洗いへ行くため、真理が立ち上がり席を外した。
それを追うように、同じく信也も席を立った。
お手洗いの前で真理を待っていた信也は、出てきた真理へすかさず質問した。
「このあと…席に戻ったら、話すの?」
「そうだね…そろそろ切り出さないと、みーちゃんベロベロになっちゃうもんね…」
「確かにな…美帆さん、めっちゃペース早そうだもんな」
「まぁね…みーちゃん、昔っから機嫌がいいとペース早かったから…そろそろ止めないと…」
「わかった…んじゃ、俺も用済まして戻るわ…」
そう言うと信也はお手洗いの扉を開け、入って行った。
それを見送ると、真理は美帆達の元へ戻った。
席へ帰ると美帆は相変わらずのテンションで飲み続けており、貴幸はというとそれなりに飲んでるはずだが、ほとんど変わらず落ち着いており紳士的であった。
その紳士的な優しいパパの膝枕で、お腹もいっぱいになりそろそろお眠の時間なのか、娘の杏樹がウトウトしていた。
「あら…あんちゃん、お眠になっちゃったね…」
杏樹をびっくりさせないように、少し声のトーンを落として真理は静かに言った。
「今夜は杏樹も楽しかったみたいで、結構はしゃいでたからね…あっ…大丈夫よ…この子、一回寝ちゃったら少しくらいうるさくてもなかなか起きないから…」
真理が気をつかって声をセーブしてくれていることに気づいた美帆が、大丈夫だから…というような顔で言った。
するとそこへ信也も用を済ませ、帰ってきた。
信也が席に着くと真理は小さく深呼吸をし、そして改めて美帆と貴幸の顔を見て尋ねるように声をかけた。
「あの…せっかくの楽しい時間に、私ごとなんだけど…ちょっと、いい?」
「えぇ〜…なにぃ?まーちゃん、急にそんなかしこまっちゃって…」
「うん…えと…みーちゃんもタカさんも、落ち着いて聞いてね…私ね…実は…………」
子宮体癌が見つかったこと…
手術が約一ヶ月後に決まり、子宮摘出すること…
そしてもちろんのこと、妊娠はできなくなるということ…
その他にも話そうと思っていたことを、真理は静かにゆっくりと話しした。
それまで機嫌よく飲んでいた美帆だったが、手からグラスを離すとその手をギュッと握りしめた。
その握りしめた拳は、わずかだか震えていた。
それまで明るく楽しかった空気が、一変してあっという間に変わったことをひしひしと感じた。
その隣で貴幸は一点を見つめながら、黙りこくっていた。
そんな阿部夫妻を目の前に、真理は必死で涙をこらえながら話をした。
信也も腕を組み、ジッと黙っていた。
ある程度の話が終わると、それまで拳を握りしめていた美帆は、手から離した自分のグラスを握ると半分ほど入っていた酎ハイを一気に飲みほし、
空になったグラスをテーブルに力強く置くと、すくっと立ち上がり真理のほうへ向かった。
そして声を出し泣きながら真理へ抱きついた。
ただただ、泣きながら…
その美帆の肩に優しく手をかざしながら、貴幸も静かに涙を流していた。
そうすると流石にそれまで必死でこらえていた真理も、タガが外れ美帆と一緒に泣いた。
信也はそんな女性二人の隣で、涙ぐみながらも必死でこらえていた。
そんな信也に気づいた貴幸は、慰めるかのように信也の肩をポンポン…と優しくたたいた。
こんな時、今回入ったお店が個室で良かった、というもんだ。
女性二人が抱き合って大泣きしている光景…
流石に他には見せられない…
さて…二人してしこたま泣いた、真理と美帆。
どうして…どうして…と、泣きながら唱えるように何度も言っていた美帆…
それに対して、ごめんね…ごめんね…と、何故か謝っていた真理…
泣くだけ泣いて少し落ち着いた美帆は、貴幸に差しだされたティッシュで涙を拭き、ぐぢゅぐぢゅになった鼻を噛んだ。
「はぁ〜…なんだか一気に酔いがさめちゃったわよ…」
独り言のように美帆は呟いた。
そんな美帆の姿を見ていた貴幸は、尋ねるように真理へ言った。
「今回、鹿屋まで来たのは…やっぱりこの話をするためだった…てことなのかな?…美帆には直接会って話したかった?」
「…ぅん…確かに…それもある…けど、それより無性にみーちゃんに会いたかった…」
貴幸からの問いに、真理は信也から受け取ったティッシュで、涙を拭きながら答えた。
その言葉に美帆はまたもやギュッ…と、真理を抱きしめた。
「私も…会いたかった…」
やっと止まったと思っていた涙が、再び美帆の目に帰ってきた。
「こりゃ、きりないな…」
二人の妻達の様子を見守りながら、貴幸はポツリ…と言いながら信也と苦笑いしながら顔を見合わせた。
「ねぇ、あのさ…杏樹も寝ちゃってるし、俺は杏樹を連れて帰るけど…せっかくだしこの際、二人でもう少しゆっくり話でもしてくれば?ねっ?信也君…」
貴幸の提案に信也は、ですね…というような顔をして頷いた。
「あっ…なんなら、信也君さえよければ、うちで一緒に飲み直そうよ」
「えっ!?いいんですか?ほんとにお邪魔しちゃって…」
急な自宅へのお誘いに、少し驚きながらも嬉しそうに信也は答えた。
「おぉ~…いいよ、いいよ…帰りに途中のコンビニで、かるく買い物して帰ろう」
どんどん話を進めていく旦那達を横目に、真理と美帆は顔を見合わせクスッ…と笑うと、手持ちのグラスをお互いに合わせカチン…と軽く無言の乾杯をした。
この行動が二人にとっては、これからも宜しく…というような挨拶、いや…二人の絆を表す挨拶、というようなものだろうか…
15年以上もの付き合いの真理と美帆…
看護大時代からお互い励まし合って必死で勉学に励み、現場で働きだしてからも辛いこと、苦しいこと、悔しいこと…
いつも一緒に励まし合って頑張ってきた二人だ。
そんじょそこらの簡単な友情とは意味が違う…
言葉無くしても心で、絆でしっかり繋がっていた。
そんな友情の絆を真理と改めて確かめあっている美帆に、貴幸は娘の杏樹を起こさないようにそっと抱き上げながら少し声をおとして言った。
「じゃ、俺達は先に出るけど…支払いはコレで、最後にまとめてお願いしていい?」
貴幸がクレジットカードを差し出すと、美帆は軽く頷きながらそれを受け取った。
「了解…んじゃ、あんちゃんのことお願いね」
「ぉう…美帆も飲み過ぎるなよ…あと…もぅ、さっきみたいに泣いて真理さんを困らすなよ」
「わかってるわよ…さっきので、ほとんど出しつくしちゃったわよ…」
そう言って真理はイタズラっぽく笑った。
「それじゃ、美帆さん…まーちゃんのこと、よろしくお願いします…」
靴を履き終えた信也は美帆へ軽く会釈すると、もうすでにお店の出入り口のほうへ向かいはじめている貴幸を追いかけるように、いそいそと歩いて行った。
残された二人の奥様方、真理と美帆はというと…
とりあえず飲み放題の時間は終了したようなので、改めてお互い飲み物と軽くつまめそうな品を一品ずつ注文した。
学生時代の昔話やその頃の恋バナ、看護師となって働き始めた頃の話など、お互い懐かしい話でつきなかった。
そしてあれだけ貴幸に言われながらも、結局は泣いては飲み泣いては飲み…を繰り返した美帆だった。
だが…その夜の時間は、二人にとって何にも代え難い時間となったことは、言うまでもない。
