あの喧嘩から信也も落ち着き、二人で冷静に落ち着いて話し合った。
もちろん、離婚の話は無かったことに…
そしてもう一つの重要なこと…
真理の両親と信也の母親への報告を、いつにしようか話した。
もう、ここまではっきりしたのだ。
手術日も決まっている。
流石に黙っているわけにはいかない…きちんと話をしなければ…
二人で話し合った結果、今度の真理と信也のお休みの日、真理の両親と信也の母親を自宅に招待し、食事でもしながらその時に話をしよう…ということになった。
真理の両親にも信也の母親にも連絡がつき、自宅への招待の承諾も取れた。
……そして、二人がお休みの日…
朝から夫婦で、てんやわんやと大騒ぎだった。
理由はともあれ、両家共々集まっての食事なんて結婚式以来のことで、本当に久しぶりなのだ。
二人で手分けして家中を掃除してまわった。
午前中に掃除を終わらすと、昼食も兼ねて二人で買い物に出かけた。
両親を招待した夕食の、食材の調達だ。
ついでに美味しいお酒でも買ってこようかと…
真理の父親は、海上自衛隊を一度定年し再雇用にて現在もバリバリの現役だ。
母親は現在は専業主婦だが、真理同様に大学病院で働いていた元看護師だ。
現在は施設やホーム、病院などでボランティアをしたりしている。
信也の母親は、信也が店長兼美容師として勤務する、美容室の現経営者だ。
元は亡くなった信也の父親、仮屋崎明(かりやざきあきら)が開いた店だ。
亡き夫の大切なお店を、引き継いだのだ。
自分は美容師ではないが、お店を守ることはできると…
そしてこの三人…揃いも揃ってなかなかの酒豪なのだ。
だが、意外にもその子供である信也も真理も、飲めないわけではないが付き合い程度…というくらいなのであった。
さて…その真理と信也はというと…久しぶりに夫婦でランチデートをし、夕食のメニューを考えながら材料の買い物も終わらせ、両親が喜びそうなお酒も購入した。
自宅に帰ってきた二人は早速、料理の準備を始めた。
牛肉の赤肉のかたまりで、ローストビーフ…
ハムときゅうりの、ポテトサラダ…
トマトとサーモンの、カルパッチョ…
ミニサンドウィッチ(玉子、ハム、レタス、ツナ)…
コンソメ風味の、ロールキャベツ…
二人で協力し合って、着々と作り上げていった。
ほとんどが真理の得意料理だということもあり、なかなか手際のいいものだった。
ある程度の料理が出来上がった頃、玄関のチャイムが鳴った。
ピンポ〜〜ン♪…
「ん…?誰だろ?…約束の時間にはまだ早いし…宅配か何かかな…?」
両親との約束の時間は19時…
時計を見ると、18時が15分ほど過ぎたくらいだ。
信也がインターホンの画面を覗くと、そこには信也の母親、輝美(てるみ)が映っていた。
「信也ぁ〜、真理ちゃぁ~ん、来たわよぉ~」
インターホンの画面越しに、輝美の元気な声が聞こえた。
「えっ…!?母さん?もう来たの?…あっ…ちょっと待って…今、開けるから…」
そう言うと信也は玄関へ向かい、鍵を開け輝美を迎い入れた。
「ずいぶん早かったね…約束の時間、19時だったろ?まだ40分以上も前だよ…」
輝美をリビングへ誘導しながら信也は言った。
「あらぁ…ごめんなさいねぇ…だってさぁ、信也と真理ちゃんと一緒に食事なんて、ほんとに久しぶりじゃない?…それに、あちらのご両親もいらっしゃるんでしょ?何か私もお手伝いでもしようかな…て思って、ちょっと早めに来ちゃった」
輝美は嬉しそうな口ぶりで答え、そして台所にいる真理の方へ向かいながら声をかけた。
「真理ちゃん、久しぶりぃ〜。ねぇ、何か手伝うことなぁい?私さ、娘とこうやって一緒に料理とかしたりするの、それなりに夢だったのよねぇ…」
真理はそんな輝美の言葉を、本当に嬉しく有り難く思い、胸が熱くなった。
それと同時に、この後しなければならない話のことを思うと、胸が痛み気が重かった。
そんな真理の気持ちもつゆ知らず、輝美は楽しそうに料理の盛り付けの手伝いをし始めた。
「お義母さん、今日は私達が呼んだんですから、ゆっくり座って待っててくれても…」
「あら…私は好きでやってんのよ…真理ちゃんと一緒にやりたいの…迷惑?」
「えっ…いや…そんなこと…有難うございます…助かります…私もお義母さんと一緒に台所に立てて、光栄です…」
二人の会話を微笑ましそうに聞きながら、信也はテーブルセッティングを始めた。
そうこうしているうちに約束の時間、19時が数分前…玄関のチャイムが鳴った。
ピンポ〜〜ン♪…
「あっ…まーちゃんのご両親かな…さすが、現役自衛官…時間厳守だな…」
そう独り言のように言うと、信也はインターホンの画面を見て応対した。
「いらっしゃい…開いてますんで、どうぞ…」
インターホン越しに信也に言われ真理の両親、坂之下夫妻、真司(まさし)と弥生(やよい)がリビングへ入ってきた。
「パパ、ママ…いらっしゃい…」
「真理…久しぶり…お言葉に甘えて、来たわよ…
信也くんも、お誘い有難う…あっ、これ…手ぶらでお邪魔するのもどうかと思って…」
弥生はそう言うと、手に持っていた箱を信也に渡した。
信也はそれを受け取り中を見ると、真理のほうを見て嬉しそうに言った。
「まーちゃん、ほら…見て…まーちゃんの好きなケーキ…お義父さん、お義母さん…すみません、気を遣わせちゃって…有難うございます…いただきます…」
信也の言葉に真理も箱の中を覗き込むと、パッと目を大きく見開き嬉しそうに言った。
「わぁ〜〜!ほんとだぁ!私の好きなやつ…覚えててくれたんだぁ…パパ、ママ、ありがとう!あとで、皆んなで食べようねぇ…」
真理はそのケーキ箱の蓋を丁寧に閉めると、冷蔵庫へ持っていき大事そうに入れた。
そこへ今までどこに行っていたのか、姿が見えなくなっていた輝美が、ひょこっと現れた。
「あら、坂之下さん…こんばんは…お久しぶりですね…ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってたもんで…」
「こんばんは…どうも、ご無沙汰してます…そうですね、結婚式以来ですかね?…」
輝美から挨拶されると、真理の父親は深々と頭を下げながら、挨拶を返した。
さすがは現役の海上自衛官…頭の下げ方も、凛々しく綺麗なものだ。
「ほんとに…久しぶりですねぇ…今日は娘夫婦に会えるのも楽しみでしたけど、輝美さんに会えることも楽しみだったんですよぉ」
真理の母親が満面の笑みで輝美に言った。
「おっ!?それは嬉しいですねぇ…実はね、私も今日はお二人と久しぶりにお会いすると思って…じゃぁ〜ん…ちょっといいやつ、持ってきたんですよぉ」
そう言いながら、輝美はいつの間に持ってきていたのか、床に置いてあった紙袋から赤ワインを取り出した。
「うわっ…うちの母親、今日はまぢで飲む気だ…」
信也は少し顔を顰めて(しかめて)呟いた。
そんな親達を眺めながら、真理はクスッ…と笑うと準備のできたテーブルの方へ移動するように促した。
テーブルに綺麗にセッティングされた料理を見て、真理の両親は「おぉ~〜…」というような表情をしながら、席に着いた。
せっかくなので輝美が持参してきた赤ワインで、乾杯した。
さすがに真理は烏龍茶で…
そして…しばしの楽しい両家一緒の家族ぐるみの親子団欒の時間を過ごした。
親達の酔いがあまり回らないうちに、話を切り出さなきゃ…
どのタイミングで切り出そう…
本当に楽しそうに飲みながらお喋りをしている三人の親を見つめながら、信也と真理は互いにチラッ、チラッ…と目で合図しながらタイミングを見計らっていた。
そんな時、真理の父親がお手洗いの為、席を立った。
二人は顔を見合わせ、目で合図すると父親が帰ってくるのを待った。
そんなこととは知らず、輝美と弥生は女子トークに華をさかせていた。
そこへ…用をすませた父親が、すっきりしたような顔で帰ってきた。
真理と信也は、もう一度顔を見合わせるとお互いに意を決したように頷き、真理が静かに話を切り出した。
「ちょっとごめん…ママ達も楽しそうに話してるの邪魔するみたいで悪いんだけど…パパも帰ってきたし、ちょっといい?話があるんだけど…」
「んん〜…?なんだ?改まって…あっ!もしかして、パパに何かおねだりでもあるのか?」
アルコールも入り少しほろ酔い状態で機嫌も良くなっている父親が、真理の顔を覗き込みようにして聞いてきた。
「んもう…パパ、違うわよ…ちょっと、真面目な話だからちゃんと聞いて…」
そう言って真理は、自分に子宮体癌が見つかったこと…
1ヶ月後に手術が決まったこと…
その手術で子宮摘出する為、もう子供は作れないこと…
その後も色々と治療が必要となる可能性もあることなど、自分達が病院で説明されたことを、親達にも細かく話し始めた。
それまであんなに楽しそうにお喋りをしながら笑っていた三人が、ワインを飲む手も止まり、一瞬のうちに表情が曇っていき強張っていった。
真理がある程度の話を終えると、それまで隣で黙って見守っていた信也が、静かに口を開いた。
「今回、まーちゃんに癌が見つかって…俺は、こんな時だからこそ、夫として支えていきたい…て思ってます…確かに…俺も子供の件は…ショックだったけど、だからといってまーちゃんを愛する気持ちは、変わらないです…逆に、今回のことで俺は夫婦の絆が、前よりもっと強くなった気がしてます…残念ながら孫は、抱かせてあげられないけど…これからも、まーちゃんのこと、支えてあげてください…よろしくお願いします…」
時折少し声を詰まらせながらも、瞳を潤ませ必死に訴えるように言葉を発し、頭を下げた信也だった。
そんな息子を輝美は誇らしげな表情で見つめていたかと思うと、信也にかけ寄りギュッと抱きしめて言った。
「信也、よく言った!それでこそ、私の息子だ…
まぁねぇ…真理ちゃんの病気のことも、子供のことも…確かにショックだけど…でも…あんた達は二人でしっかりと支え合って、のりこえていくのよね…信也…しっかり真理ちゃんを支えてあげなさい…」
そこまで言うと、今度は真理のほうへ行き、こちらもギュッと抱きしめた。
「真理ちゃん…辛かったよね…これから先も、色々と大変なことがまってると思う…だけど、一人で抱えこんじゃだめよ…真理ちゃんは、私にとっても大切な娘なんだから…ちゃんと、私のことも頼ってね…」
輝美は言い聞かせるように、されど優しい口調で真理の背中を優しくさすりながら言った。
するとそこまで腕組みをし、ジッと黙って聞いていた真理の父親が、重い口を開きポツリ、ポツリ…と言葉を発し始めた。
「なぁ…真理…パパはもっと早く、教えてほしかったな…最初の検査の時に、だいたいはわかってたんだろ?…できれば、その時点で教えてほしかったかな…」
「うん…ごめんね…パパ…心配かけたくなくて…しん君と話し合って…」
「そっか…心配かけたくなくて、か…真理…お前は馬鹿か…娘が親に心配かけて、何が悪い?…親が、娘の心配するのは当たり前だろうが…父親の特権を奪わんでくれよ…」
「だって…パパ、まだ現役だし…毎日、忙しいだろうし…ママも、最近…ボランティアで忙しそうだったし…」
「はぁ〜…あのな、真理…パパとママのこと、そんなに見限らんでほしいもんだな…どんなに忙しくても、娘のためなら…て思うのが、親ってもんだろ?お前は…昔っから親に甘えることが、ほんとに少ない子だった…なぁ…パパ達は、そんなに頼りないのか?…」
真面目で硬派な、普段はキリッとしているそんな父親の目から、意外にも涙が流れていた。
鬼の目にも涙…
その言葉が本当に似合うような状況だった。
「…真理…パパの言うとおりよ…あなたは、もっと親に甘えていいのよ…もっと、パパとママのこと、頼って…」
父親の隣でずっと黙って話を聞いていた母親が、真理へお願いするように言った。
そんな両親の元へ近寄っていき、真理は泣きながら二人に抱きついた。
「…うん…うん…ごめんね…ありがとう…パパ、ママ…大好き…私…二人の娘で、良かった…」
するとそんなちょっとしんみりとした空気を変えるかのように、輝美が言葉を発した。
「さっ!ちょっと真理ちゃんの重要報告で、色々ずれちゃったけど…せっかく久しぶりにこうやって集まったわけだし、気をとり直して飲み直しましょ!ねっ…ほら、ほら…坂之下さんも、奥さんも…ねっ…」
輝美にそう促され、真理の両親は顔を見合わせると、ちょっと恥ずかしそうに笑いお互いに頷いた。
「そうですね…久しぶりだし、飲みましょっか?」
椅子に座り直すと、父親は輝美のグラスにワインをつぎ足した。
そこへ真理が新たなお酒をテーブルに置いた。
「パパが好きそうなお酒、見つけたから買っといたの…」
それを見た父親は、照れ臭そうに笑いながら「ありがとな…」と、独り言のように呟いた。
「あっ!そうだぁ~!お義母さんが持ってきてくれた、ケーキ…せっかくなんで、あれも食べよっ!」
信也は思い出したように冷蔵庫のほうへ行き、中から箱を取り出してきた。
真理はケーキをのせる皿と、フォークを準備した。
両家揃っての親子団欒…
真理の告白で、一時期ちょっと空気が変わってしまったが、結局、楽しい時間を取り戻し時間が経つのも忘れて過ぎていった。
夫婦愛…絆…それと同時に、今回のことで親子の愛、絆を改めて感じることとなり、そして更に強くなったことを真理は感じるのであった。
もちろん、離婚の話は無かったことに…
そしてもう一つの重要なこと…
真理の両親と信也の母親への報告を、いつにしようか話した。
もう、ここまではっきりしたのだ。
手術日も決まっている。
流石に黙っているわけにはいかない…きちんと話をしなければ…
二人で話し合った結果、今度の真理と信也のお休みの日、真理の両親と信也の母親を自宅に招待し、食事でもしながらその時に話をしよう…ということになった。
真理の両親にも信也の母親にも連絡がつき、自宅への招待の承諾も取れた。
……そして、二人がお休みの日…
朝から夫婦で、てんやわんやと大騒ぎだった。
理由はともあれ、両家共々集まっての食事なんて結婚式以来のことで、本当に久しぶりなのだ。
二人で手分けして家中を掃除してまわった。
午前中に掃除を終わらすと、昼食も兼ねて二人で買い物に出かけた。
両親を招待した夕食の、食材の調達だ。
ついでに美味しいお酒でも買ってこようかと…
真理の父親は、海上自衛隊を一度定年し再雇用にて現在もバリバリの現役だ。
母親は現在は専業主婦だが、真理同様に大学病院で働いていた元看護師だ。
現在は施設やホーム、病院などでボランティアをしたりしている。
信也の母親は、信也が店長兼美容師として勤務する、美容室の現経営者だ。
元は亡くなった信也の父親、仮屋崎明(かりやざきあきら)が開いた店だ。
亡き夫の大切なお店を、引き継いだのだ。
自分は美容師ではないが、お店を守ることはできると…
そしてこの三人…揃いも揃ってなかなかの酒豪なのだ。
だが、意外にもその子供である信也も真理も、飲めないわけではないが付き合い程度…というくらいなのであった。
さて…その真理と信也はというと…久しぶりに夫婦でランチデートをし、夕食のメニューを考えながら材料の買い物も終わらせ、両親が喜びそうなお酒も購入した。
自宅に帰ってきた二人は早速、料理の準備を始めた。
牛肉の赤肉のかたまりで、ローストビーフ…
ハムときゅうりの、ポテトサラダ…
トマトとサーモンの、カルパッチョ…
ミニサンドウィッチ(玉子、ハム、レタス、ツナ)…
コンソメ風味の、ロールキャベツ…
二人で協力し合って、着々と作り上げていった。
ほとんどが真理の得意料理だということもあり、なかなか手際のいいものだった。
ある程度の料理が出来上がった頃、玄関のチャイムが鳴った。
ピンポ〜〜ン♪…
「ん…?誰だろ?…約束の時間にはまだ早いし…宅配か何かかな…?」
両親との約束の時間は19時…
時計を見ると、18時が15分ほど過ぎたくらいだ。
信也がインターホンの画面を覗くと、そこには信也の母親、輝美(てるみ)が映っていた。
「信也ぁ〜、真理ちゃぁ~ん、来たわよぉ~」
インターホンの画面越しに、輝美の元気な声が聞こえた。
「えっ…!?母さん?もう来たの?…あっ…ちょっと待って…今、開けるから…」
そう言うと信也は玄関へ向かい、鍵を開け輝美を迎い入れた。
「ずいぶん早かったね…約束の時間、19時だったろ?まだ40分以上も前だよ…」
輝美をリビングへ誘導しながら信也は言った。
「あらぁ…ごめんなさいねぇ…だってさぁ、信也と真理ちゃんと一緒に食事なんて、ほんとに久しぶりじゃない?…それに、あちらのご両親もいらっしゃるんでしょ?何か私もお手伝いでもしようかな…て思って、ちょっと早めに来ちゃった」
輝美は嬉しそうな口ぶりで答え、そして台所にいる真理の方へ向かいながら声をかけた。
「真理ちゃん、久しぶりぃ〜。ねぇ、何か手伝うことなぁい?私さ、娘とこうやって一緒に料理とかしたりするの、それなりに夢だったのよねぇ…」
真理はそんな輝美の言葉を、本当に嬉しく有り難く思い、胸が熱くなった。
それと同時に、この後しなければならない話のことを思うと、胸が痛み気が重かった。
そんな真理の気持ちもつゆ知らず、輝美は楽しそうに料理の盛り付けの手伝いをし始めた。
「お義母さん、今日は私達が呼んだんですから、ゆっくり座って待っててくれても…」
「あら…私は好きでやってんのよ…真理ちゃんと一緒にやりたいの…迷惑?」
「えっ…いや…そんなこと…有難うございます…助かります…私もお義母さんと一緒に台所に立てて、光栄です…」
二人の会話を微笑ましそうに聞きながら、信也はテーブルセッティングを始めた。
そうこうしているうちに約束の時間、19時が数分前…玄関のチャイムが鳴った。
ピンポ〜〜ン♪…
「あっ…まーちゃんのご両親かな…さすが、現役自衛官…時間厳守だな…」
そう独り言のように言うと、信也はインターホンの画面を見て応対した。
「いらっしゃい…開いてますんで、どうぞ…」
インターホン越しに信也に言われ真理の両親、坂之下夫妻、真司(まさし)と弥生(やよい)がリビングへ入ってきた。
「パパ、ママ…いらっしゃい…」
「真理…久しぶり…お言葉に甘えて、来たわよ…
信也くんも、お誘い有難う…あっ、これ…手ぶらでお邪魔するのもどうかと思って…」
弥生はそう言うと、手に持っていた箱を信也に渡した。
信也はそれを受け取り中を見ると、真理のほうを見て嬉しそうに言った。
「まーちゃん、ほら…見て…まーちゃんの好きなケーキ…お義父さん、お義母さん…すみません、気を遣わせちゃって…有難うございます…いただきます…」
信也の言葉に真理も箱の中を覗き込むと、パッと目を大きく見開き嬉しそうに言った。
「わぁ〜〜!ほんとだぁ!私の好きなやつ…覚えててくれたんだぁ…パパ、ママ、ありがとう!あとで、皆んなで食べようねぇ…」
真理はそのケーキ箱の蓋を丁寧に閉めると、冷蔵庫へ持っていき大事そうに入れた。
そこへ今までどこに行っていたのか、姿が見えなくなっていた輝美が、ひょこっと現れた。
「あら、坂之下さん…こんばんは…お久しぶりですね…ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってたもんで…」
「こんばんは…どうも、ご無沙汰してます…そうですね、結婚式以来ですかね?…」
輝美から挨拶されると、真理の父親は深々と頭を下げながら、挨拶を返した。
さすがは現役の海上自衛官…頭の下げ方も、凛々しく綺麗なものだ。
「ほんとに…久しぶりですねぇ…今日は娘夫婦に会えるのも楽しみでしたけど、輝美さんに会えることも楽しみだったんですよぉ」
真理の母親が満面の笑みで輝美に言った。
「おっ!?それは嬉しいですねぇ…実はね、私も今日はお二人と久しぶりにお会いすると思って…じゃぁ〜ん…ちょっといいやつ、持ってきたんですよぉ」
そう言いながら、輝美はいつの間に持ってきていたのか、床に置いてあった紙袋から赤ワインを取り出した。
「うわっ…うちの母親、今日はまぢで飲む気だ…」
信也は少し顔を顰めて(しかめて)呟いた。
そんな親達を眺めながら、真理はクスッ…と笑うと準備のできたテーブルの方へ移動するように促した。
テーブルに綺麗にセッティングされた料理を見て、真理の両親は「おぉ~〜…」というような表情をしながら、席に着いた。
せっかくなので輝美が持参してきた赤ワインで、乾杯した。
さすがに真理は烏龍茶で…
そして…しばしの楽しい両家一緒の家族ぐるみの親子団欒の時間を過ごした。
親達の酔いがあまり回らないうちに、話を切り出さなきゃ…
どのタイミングで切り出そう…
本当に楽しそうに飲みながらお喋りをしている三人の親を見つめながら、信也と真理は互いにチラッ、チラッ…と目で合図しながらタイミングを見計らっていた。
そんな時、真理の父親がお手洗いの為、席を立った。
二人は顔を見合わせ、目で合図すると父親が帰ってくるのを待った。
そんなこととは知らず、輝美と弥生は女子トークに華をさかせていた。
そこへ…用をすませた父親が、すっきりしたような顔で帰ってきた。
真理と信也は、もう一度顔を見合わせるとお互いに意を決したように頷き、真理が静かに話を切り出した。
「ちょっとごめん…ママ達も楽しそうに話してるの邪魔するみたいで悪いんだけど…パパも帰ってきたし、ちょっといい?話があるんだけど…」
「んん〜…?なんだ?改まって…あっ!もしかして、パパに何かおねだりでもあるのか?」
アルコールも入り少しほろ酔い状態で機嫌も良くなっている父親が、真理の顔を覗き込みようにして聞いてきた。
「んもう…パパ、違うわよ…ちょっと、真面目な話だからちゃんと聞いて…」
そう言って真理は、自分に子宮体癌が見つかったこと…
1ヶ月後に手術が決まったこと…
その手術で子宮摘出する為、もう子供は作れないこと…
その後も色々と治療が必要となる可能性もあることなど、自分達が病院で説明されたことを、親達にも細かく話し始めた。
それまであんなに楽しそうにお喋りをしながら笑っていた三人が、ワインを飲む手も止まり、一瞬のうちに表情が曇っていき強張っていった。
真理がある程度の話を終えると、それまで隣で黙って見守っていた信也が、静かに口を開いた。
「今回、まーちゃんに癌が見つかって…俺は、こんな時だからこそ、夫として支えていきたい…て思ってます…確かに…俺も子供の件は…ショックだったけど、だからといってまーちゃんを愛する気持ちは、変わらないです…逆に、今回のことで俺は夫婦の絆が、前よりもっと強くなった気がしてます…残念ながら孫は、抱かせてあげられないけど…これからも、まーちゃんのこと、支えてあげてください…よろしくお願いします…」
時折少し声を詰まらせながらも、瞳を潤ませ必死に訴えるように言葉を発し、頭を下げた信也だった。
そんな息子を輝美は誇らしげな表情で見つめていたかと思うと、信也にかけ寄りギュッと抱きしめて言った。
「信也、よく言った!それでこそ、私の息子だ…
まぁねぇ…真理ちゃんの病気のことも、子供のことも…確かにショックだけど…でも…あんた達は二人でしっかりと支え合って、のりこえていくのよね…信也…しっかり真理ちゃんを支えてあげなさい…」
そこまで言うと、今度は真理のほうへ行き、こちらもギュッと抱きしめた。
「真理ちゃん…辛かったよね…これから先も、色々と大変なことがまってると思う…だけど、一人で抱えこんじゃだめよ…真理ちゃんは、私にとっても大切な娘なんだから…ちゃんと、私のことも頼ってね…」
輝美は言い聞かせるように、されど優しい口調で真理の背中を優しくさすりながら言った。
するとそこまで腕組みをし、ジッと黙って聞いていた真理の父親が、重い口を開きポツリ、ポツリ…と言葉を発し始めた。
「なぁ…真理…パパはもっと早く、教えてほしかったな…最初の検査の時に、だいたいはわかってたんだろ?…できれば、その時点で教えてほしかったかな…」
「うん…ごめんね…パパ…心配かけたくなくて…しん君と話し合って…」
「そっか…心配かけたくなくて、か…真理…お前は馬鹿か…娘が親に心配かけて、何が悪い?…親が、娘の心配するのは当たり前だろうが…父親の特権を奪わんでくれよ…」
「だって…パパ、まだ現役だし…毎日、忙しいだろうし…ママも、最近…ボランティアで忙しそうだったし…」
「はぁ〜…あのな、真理…パパとママのこと、そんなに見限らんでほしいもんだな…どんなに忙しくても、娘のためなら…て思うのが、親ってもんだろ?お前は…昔っから親に甘えることが、ほんとに少ない子だった…なぁ…パパ達は、そんなに頼りないのか?…」
真面目で硬派な、普段はキリッとしているそんな父親の目から、意外にも涙が流れていた。
鬼の目にも涙…
その言葉が本当に似合うような状況だった。
「…真理…パパの言うとおりよ…あなたは、もっと親に甘えていいのよ…もっと、パパとママのこと、頼って…」
父親の隣でずっと黙って話を聞いていた母親が、真理へお願いするように言った。
そんな両親の元へ近寄っていき、真理は泣きながら二人に抱きついた。
「…うん…うん…ごめんね…ありがとう…パパ、ママ…大好き…私…二人の娘で、良かった…」
するとそんなちょっとしんみりとした空気を変えるかのように、輝美が言葉を発した。
「さっ!ちょっと真理ちゃんの重要報告で、色々ずれちゃったけど…せっかく久しぶりにこうやって集まったわけだし、気をとり直して飲み直しましょ!ねっ…ほら、ほら…坂之下さんも、奥さんも…ねっ…」
輝美にそう促され、真理の両親は顔を見合わせると、ちょっと恥ずかしそうに笑いお互いに頷いた。
「そうですね…久しぶりだし、飲みましょっか?」
椅子に座り直すと、父親は輝美のグラスにワインをつぎ足した。
そこへ真理が新たなお酒をテーブルに置いた。
「パパが好きそうなお酒、見つけたから買っといたの…」
それを見た父親は、照れ臭そうに笑いながら「ありがとな…」と、独り言のように呟いた。
「あっ!そうだぁ~!お義母さんが持ってきてくれた、ケーキ…せっかくなんで、あれも食べよっ!」
信也は思い出したように冷蔵庫のほうへ行き、中から箱を取り出してきた。
真理はケーキをのせる皿と、フォークを準備した。
両家揃っての親子団欒…
真理の告白で、一時期ちょっと空気が変わってしまったが、結局、楽しい時間を取り戻し時間が経つのも忘れて過ぎていった。
夫婦愛…絆…それと同時に、今回のことで親子の愛、絆を改めて感じることとなり、そして更に強くなったことを真理は感じるのであった。
