あなたの隣にいてもいいですか…〜最後まで幸せと笑顔をありがとう〜

今日も変わらない朝。いつものように夫のお弁当を作り、朝食を作る。
そして夫の信也を起こす。

「しん君、起きてぇ、時間だよぉ」

朝にめっきり弱い、美容師をしている信也を、7時に起こすのが真理の毎朝の習慣、というより役目とでもいえるのであろうか…

「うぅ~ん…朝ぁ?…まだ眠い…もうちょっと…」

三十にもなった大の大人が、愚図ってなかなか起きようとしない。
まるで小さな子供のように、駄々をこねて愚図る。
毎朝のことながら、信也の愚図りには本当に手を焼いている。
結婚して1年ほどは、愛しいと感じるくらい、可愛く思われたものではあったが…
しかし、もうすぐ3年ともなると、流石に色々と思うところがあるわけで…

(はぁ~…まったく…いい歳した大人が…毎回こんなんで…子供とかできたらどうなるんだろ…)
(普段はしっかりしてて、かっこいいのになぁ…)

ブラックブルーにカラーされ、綺麗に手入れされたサラサラの髪を、子供の頭を撫でるように撫でながら、初めは優しくなだめるように甘い声で接する真理だが、すぐに口調は厳しくなり、トゲトゲな説教口調になっていく。

「はぁ…もうっ!いい加減起きてよ!!子供みたいにぐずらないの!!」

優しく髪を撫でていた手も、いつの間にか布団の端に移動しており、そしていつまでも子供みたいに愚図る夫を横目に、力いっぱい引っ張る!!

「しん君!起きないと朝ご飯抜きだからね!!」

流石にそれくらいまでされれば、モグラのように布団からでてこなかったお寝坊さんも、冬眠からさめた熊のように、もそもそと起きてくる。

寝ぼけ眼(まなこ)の目をこすりこすり、まだまだ眠そうに大きなあくびをしながら、
「ふぁぁ〜〜…まーちゃん…おはよう…」

「はい、おはよう!」

「ほぉんと…毎回、素敵な起こしかたで…」

「あらん、お褒めに預かりまして。ありがとう」

「……褒めてないけど…」

「うん、わかってる…」

信也は、ちょっとだけ嫌味を込めて言ったつもりだったが、ぜんぜん真理には通用しなかったようだ。
それどころか、あっさりと返されてしまった。

「はぁ~…ほんと、まーちゃんには敵わないよなぁ〜」

「ん~~?えぇ~何?しん君、私に対抗しようとしてる?」

「えっ?いやぁ…うん…まぁたぶん、無理なんだろうけど…」

「そうね…無駄なことは、やめたほうがいいと思うわよぉ」

そう言うと、真理はいたずらっ子のように、フフッと笑った。
それを見た信也は、つられるかのように顔が緩み、いつの間にか一緒に笑っていた。

「…てっ!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ほら、早く顔洗ってきて!ほんとに朝ご飯、抜きになっちゃうよ!」

「うわっ!ヤバっ!」

真理に促されて、信也はバタバタと洗面台のほうへ走って行った。

職業が美容師なだけあって、身だしなみにはそれなりに気をつけている。

まずは寝起きの口腔ケアのうがい、その後に喉のケアのガラガラうがい…
洗顔は泡タイプのものを使い、ごしごしこすらずマッサージをするように…
そしてその後は、男性用の化粧水で肌を整える。
髪も寝癖がないか、前後しっかり鏡で確認し、お気に入りの爽やか系のヘアコロンで仕上げる。

これが信也の朝起きてからのルーティーンである。

毎日のことながら、この作業を手際よく10分ほどで終わらせる。
着替えは朝食と歯磨きのあと…
毎朝、その日のコーディネートは、朝食を食べながら考える。

「よっしゃ!今日も頑張りますか!」

自分をふるいたたせるように、信也は鏡の中の自分に向かってエールを送った。

ーーーさぁてと、今日の朝ご飯は何かなぁ…朝、しっかり食べていかないと、まぢでキツいからなぁ。客次第で、なかなかお昼が食べられないことなんて、珍しくないし…ーーー

「まーちゃ〜ん、今日の朝ご飯、なぁにぃ?」

そう言いながら信也は、うきうきとリビングへ向かった。

「えぇ〜とね…今朝は、和食かなぁ。昨日、スーパーで鮭が安かったのよ。焼き鮭にした。あとは…お豆腐とワカメのお味噌汁ね」

おわんにお味噌汁を注ぎながら、真理が答えた。

「おっ!鮭かぁ…いいねぇ」

テーブルの上に用意された鮭を、覗き込むように見ながら、信也は嬉しそうに言った。

「お弁当はオムライスにしといたよ。ケチャップは別にしといたから、食べる時にかけてよね」

お味噌汁をテーブルに置きながら、真理は信也のブルーの星柄のお弁当袋も一緒に置いた。

「おぉー!お昼はオムライス…俺の好物ぅ。まーちゃん、ありがとう♡」

そう言って信也は真理のほっぺに、チュッ♡とキスした。

「もう、朝からなぁにぃ?どうでもいいから、早くご飯食べちゃってよ…」

そう言いながらも、真理は信也のほっぺに、チュッ♡とお返しのキスをした。

「よっしゃ!なんだか今日は、特に頑張れる気がする!いっただっきまぁす!」

ーーーふふっ…なんだかなぁ…単純、というか純粋、というか…まだまだ子供っぽいとこあるのよねぇ…なんだか大きな子供みたいw…ーーー

美味しそうに朝食を頬張る夫を微笑ましそうに眺めながら、真理は思うのだった。

こんな感じで朝を毎日迎えながら、結婚生活を送ってきた二人だが、もうすぐ3年になるわけで…

母親の経営する美容室「きらり」で美容師として店長を務める信也、30歳。
看護師として大学病院で働いていたが、今は週3(火、木、土)でのパート看護師として、老健(介護老人保健施設)で働く真理、35歳。

二人の間でも、「そろそろ子供欲しいね…」という会話をするようになった。
信也は30歳。真理も35歳…真理が、5歳年上であることもだが正直、年齢的にも考えるとこである。

高校生(17歳)の時に事故で父親を亡くし、子供好きでもある信也は、自分の子供をもち父親になることがずっと夢でもあった。

そんな信也の気持ちをもちろん知っている真理は、年齢的に少し不安はあるものの、二人の子供を授かることを心より望んでいた。

二人での最近の会話の内容は、ほとんどが子供の話だった。

買い物に行っても、妊婦服やベビー服の前を通ると、つい立ち止まって眺めてしまう…
これいいねぇ…あれ可愛いねぇ…
男の子だったら、女の子だったら…
名前はどんな名前がいい?…

いやはや、まったくもって気の早い夫婦であった。
授かるまえから色々とあれやこれやと…

そんな願望と夢いっぱいな二人だったが、ある日真理の体調が思わしくなく、パート看護師の仕事も休みをもらうようになってしまった。

初めはちょっとした目眩や倦怠感、食欲不振からだった。
真理自身も、風邪かな…くらいにしか思ってなかった。
だが、ある日…

「……えっ…?うそ…」

排泄時に出血が…
現在は老健でのパート看護師とはいえ、元は大学病院でばりばり働いていた、真理だ。
この状況の理由を、色々と検討できないわけではない。

ーーーちょっと…まって…えぇ〜と、今月の生理には、まだ二週間近くもあるし…今までほとんど定期的で、狂ったことなんてなかった…いや…でも…そうよね…1回だけじゃわかんないわね…うん…ちょっと様子をみてみよう…ーーー

流石に出血ともなると、そんな簡単な問題ではない、ということくらいはわかっている。
だからといって、あーだこーだと大騒ぎしないのは、看護師として得た経験と知識からなのだろうか。

もちろん、ショックと不安でいっぱいだ。
だがここで落ち着いた判断ができているのは、やはり今までの経験値なのだろう。

そして………一日、様子をみたが…
少量とはいえ、出血があることには変わりはなかった。
真理は考えた。悩んだ…

ーーーしん君には…どうしよう…話したほうが…
いや、まずは病院できちんと調べて…色々とはっきりしてから…いや…でも…やっぱりちゃんと話してから…ん~~…だけどそうすると…どうやって…ーーー

今日は日曜日。病院は休みだ。どちらにしろ受診するなら、明日になる。

はぁ~〜〜…

大きなため息をつきながら、色々と考えて、考えて…
外がもう薄暗くなってきているのにも気づかないくらい、時間が経つのを忘れて悩み、考えていた。

「うぁっ!!やばっ!もうこんな時間!」

時計を見ると、午後6時を示そうとしていた。

「夕飯の準備しなきゃ…」

椅子から立ち上がると、慌てて台所のほうへあたふたと向かった。

今日の献立は、ビーフシチューとサンドウィッチ…(ツナ&レタス、ハム&玉子)

ーーー何もせずいると、色々とよけいなこと考えちゃうな…料理でもしてるほうが気が紛れていいわ…ーーー

ジャガイモや人参、玉ねぎの皮を剥き、一口サイズに切りながら真理は思った。

手際よく下準備を済ませると、鍋に少々の油と隠し味でニンニクを入れ、牛肉と玉ねぎを軽く炒め、野菜(ジャガイモ、人参)を入れてひたひたになるくらい水を入れ、そのまま火にかけた。
何回かアク取りをし、水を少し足して鍋の蓋をしてから具材が柔らかくなるまで、ことことと煮ていく。

その間にサンドウィッチの準備…
ツナはマヨネーズであえて、レタスも一枚ずつ洗い、しっかり水分をきった。
玉子は一枚5mmほどの厚さのものを焼いた。
具材の準備ができると、サンドウィッチ用のパンに挟んでいき、最後にパンと具材がしっかり密着するように、上から少し押さえておく。

それくらいまで終わると、ビーフシチューの具材が丁度いいくらいに柔らかくなっている。
そこで一度火を止め、ビーフシチューの素を入れゆっくりとかき回しながら溶かし、味を整える。

「うん…いい感じ…」

味見をし出来上がったビーフシチューの鍋に蓋をしながら、真理は満足そうに言った。

さぁ、あとは夫が帰ってくるのを待つだけ…

色々と考えたが信也に正直に話しようと、真理は決意し夫の帰りを待った。