――――建国祭がやって来た。皇城では宴も開催され、私は皇后としてルーの隣に並んでいる。
まぁ皇帝陛下の顔も半分は隠されているから、私もなのよね。高貴な皇族の素顔を見るのは畏れ多いと言う考えからである。
まぁ私は単なる僻地の王族の末裔だが、皇后として皇族籍に入ったことは確かだ。

「いささか退屈かもしれないが」
「大丈夫よ」
気を回してくれるルーに笑顔で答える。お互い覗き込まないと素顔は見えないけど、それでもお互いどんな表情をしているかくらいは分かるのよ。

それに積極的に会話をするわけでもない。皇帝陛下の御前に挨拶に来るものもいるが、仕切るのは(シュアン)宰相や側近たちの仕事。
皇帝陛下から直々にお言葉を授かるなんてことは滅多にないことだ。

なおルーの傍らにグイ兄さまもおり、反対側には泰武官長もいる。たまにグイ兄さまが笑顔で威圧してるなってのが、相手の様子で分かる。ほんと、あの兄は。お陰でルーに対してどんな立ち位置のひとなのか分かるけどね。まさか兄さま……わざとか?それでなくても兄さまならやりかねないが。

「早く終わらんかな」
「こら……ルーったら」
挨拶に来る客たちに聞こえない声でルーが呟く。

「俺たちはほぼここに座っているだけだ」
さらに皇后は皇帝陛下以上にしゃべらないもの。とは言え、北部から来た貴族たちは皇后である私にも言葉をかけてくれる。まぁ大抵は皇后になったことを祝福する言葉である。それから故郷から来てくれたのは。

――――ハル兄さまだ!

「少し話すか?」
(てがみ)でやり取りしてるからいいわ。ハル兄さまもここで兄妹の世間話なんてしないわよ」
そう苦笑するが、ルーはおもむろに口を開いた。ルー?

「領主夫妻は息災か」
「……っ、はい、もちろんでございます」
ハル兄さまもビックリしたようだが、すぐに気を取り直して答えてくれる。

両親は多分今の季節は……冬支度で忙しいのよね。こちらは秋だがあちらはもう冬目前である。春節の時はさすがに来るだろうが……今回はハル兄さまが代理で来たのだろう。まぁぶっちゃけ誰も来られなかったら最悪グイ兄さまが……いやいや、ないないない。

だけどルーったら。直接そう確認してくれるのはありがたいわ。(てがみ)でそう知らせてもらっても、やっぱり気になるもの。

「セナ、何か言いたいことがあれば良いぞ」
へ……!?私!?いや……その……こ、皇后として言わないといけないわよね?ちゃんとしなきゃ……ハル兄さまは怒らないけど、グイ兄さまが……恐怖。

「北部はこれから寒くなります。どうぞお身体にお気を付けてお過ごしください」
普通の兄妹の会話なんて、ここじゃぁできないものね。ならせめてハル兄さまや両親たちの健康を願おうか。

「ありがたきお言葉です」
そしてハル兄さまが皇帝夫妻に拱手を捧げる。私は柄ではないけど、でもハル兄さまにとっては皇族への大切な礼儀。妹としてよりも皇后としてしっかりと受け取らねば。

また、(てがみ)書くからね。