『いつも通りじゃないの。掴むの』

『それは分かってるよ。掴み方は今の掴み方で頑張ってみろ。俺が言っているのはいつもはどうやって獲っているか、だよ』

『うにょ?』

 うにょって、なんか本当にネコみたいだな。まぁ、それは今は良いとして。俺は分かっていないリルに説明してやる。

『いつも川で魚を獲る時は、口で咥えたり、手で押さえつけたりしてから獲っているだろう?  じゃあ、それをする前は? 何をしてるか思い出してみろ』

『獲る前?』

『そうだ』

『獲る前は、お魚さん追いかけてる』

 ……ああそうだったな。散々魚を追いかけて遊んでから獲っていたな。そこまでは戻りすぎだ。いや、俺の言い方が分かるかったな。

『確かにそうなんだけど、その後だな。遊んだ後魚を獲る時、リルは動いているか? 今みたいにお水をバシャバシャしているか? そしてバシャバシャしたまま、魚を獲っているか?』

『うんとねぇ、獲る時は静かにしてなくちゃいけないんだよ。ママがそう言ってた。パパはそんなの関係ないって言って、ママに怒られて。それでママとパパ、どっちの獲り方もしてみたら、ママの方がいっぱい獲れたの。じっとしてるとお魚さんが近寄ってきてくれて、いっぱい獲れるんだよ』

『そうだろう? それは掴む時も一緒なんだぞ』

『あっ!! 僕いっぱいバシャバシャしてた!! だからお魚さん逃げちゃった!?』

『よし、分かったなら、今度は静かにやってみろ。ちょっと周りがバシャバシャしていてやりにくいかもしれないが、自分の所だけでも静かにだ』

『うん!!』

 たぶん楽しくてテンションが上がって、フフリに教えてもらったことを、いつもやっていることを忘れていたんだろう。

 バシャバシャ動かしていた手を止めて、じっと水面を見つめるリル。黙って真剣に見つめるリルに、リルのお友達魔獣達は、邪魔しないようになのか、めちゃくちゃ小さな声で応援をし始めた。

『リル、頑張る』

『シャッと獲る』

『リルなら掴める』

『リルはネコ』

 ネコって。思わず笑いそうになってしまった。それにそんなに小さな声じゃ、周りが煩いからリルは聞こえないと思うぞ。周りが煩いから、少し大きな声を出しても、魚には影響ないはずだけど。
 まぁ、みんなの思いは俺が受け取っておこう。ちゃんと俺がみんなの応援を聞いているからな。

 集中するリル。じっとし始めてから、瞬きもしていないんじゃってほど集中して。そしてついにその時は訪れた。

『たぁっ!!』

 リルが少しだけ体を起こすと両手を上げ、次は手を合わせるようにしながら水に中へ入れた。

 その後数秒、水に手を入れたまま微動だにしなかったリル。お友達魔獣達も俺も、何も言わずにリルを見る。そして……。

『掴めたぁっ!!』

 後ろ足で立ち上がったリルの手の中には、両手で挟まれるようにして魚が捕まえられていた。そう、掴むっていうか、挟んでいると言われてしまえばそうなんだけど。それでも、今のリルにとっての、最高の掴み方だろう。

『やったなリル!! 凄いじゃないか!!』

『スッケーパパ、やった!! リル掴めた!!』

『リル凄い!!』

『掴めたよ!!』

『挟み掴めたよ!!』

 うん、なかなか大きな魚を掴んだな。他の子達よりもひと回り大きいか? よくやったぞリル!! なんてちょっと、いやかなり嬉しくなりながら。でもそういえば、この後どうするんだと思いリルに声をかける。

『リル、その掴んだ魚どうするんだ? そのまま歩いて戻るつもりか? 大丈夫だと思うが、滑って転んで、魚を逃がさないようにな』

 リルが周りを見る。リルは元々、2本足で歩くのが上手なんだ。その姿勢のまま、ボールを頭の上に乗せて遊んでいるくらいだからな。だから2本足で歩いて移動しても、大丈夫だと思うけど。ここはただの地面じゃなく、浅いとはいえ水の中だ。滑って転ぶ可能性が。

『う~ん……。みんな投げるからどいてて!』

『『『分かったぁ!!』』』

 リルがそう言うと、友達魔獣達が二手に分かれる。リルが投げるって言ったから、てっきりそのまま投げるのかと思っていた俺。だけどそれは間違いだった。
 
 何故か後ろを向いたリル。そのまま体を後ろに倒し始めて、軽~いブリッジみたいな格好をしながら、友達魔獣が退いた場所へバッチリ魚を投げると。自分はそのまま後ろ宙返りをして着地した。

 ずいぶん体が柔らかいな。というかそんな動き、いつの間に覚えたんだよ。お前は本当に犬系の魔獣か? ネコまでとは言わないけど、体が柔らかすぎないか?

『スッケーパパ!! リル凄かった? 格好良かった?』

 駆け寄ってきたリルが、満面の笑みを浮かべながら聞いてきた。

『あ、ああ!! とっても格好良かったし、しっかり掴まえられて凄かったぞ!!』

『えへへ、わ~い! 僕の掴んだお魚さん!!』

 うん、凄いっていうか、ビックリしたよ。ブリッジって。背中大丈夫なのか? 急に心配になってリルの背中を調べる。赤色の箇所はなく、薄いオレンジ色でさえない、それどころか健康そのものだ。良かったけど、これから注意して見ておかないとな。