俺はその後も、蝶達とスライムの反応で分かる質問を、何個か考えて質問してみた。ここにはいなくても、もう少し離れた場所に人はいるか。ここは安全な場所で、俺はこの場所にいても良いのか。
 みんなはどうして俺の所に来たのか、俺を捕食するためきたのか。安全関係について聞いてみた。

 最後のは一応な。まぁ、違うって言われても、安心させるためにそう言ってるだけかもしれないけど。

 そうしたらやはり俺の言葉は通じているらしく、さっきのように仕草で質問に答えてくれた。本当に凄いよな。言葉が分かるんだぞ? しかも言葉になっていない赤ちゃん言葉をだ。俺なんて後輩の赤ちゃんに何かを話しかけられた時、何も分からなかったのに。

 だけど後輩はちゃんと分かっていたな。あの時は楽しい、もっとと言っていたらしいけど。って、それは今は良くて。さっきの質問の答えは、俺にとって最悪なものばかりで、近くには人は居らず、ここは俺が居ても良い、安全な場所ではない、だった。

 それからみんなに対する質問は、一応捕食するためではなかった。うん、とりあえずそれについては信じておこう。どうせ何かされたところで、俺には何もできないからな。

 と、話しが途切れた時、スライムが転がるように、籠の中へ入ってきて、俺の下半身の方へ。それから何とも言えない表情をした。ちょっとビックリして忘れていたけど、下半身の不快感を思い出したよ。

 もしかしたら臭かったか? ごめんな。せっかく質問に答えてくれたのに、臭い匂いを嗅がせちゃって。でもこればっかりはどうにもできないからさ。この世界での初めての出会いで、しかも質問に答えてくれて嬉しいかったけど、匂いが気になるなら、別の場所へ行ってくれ。

 そう蝶達やスライムに伝えた俺。すると蝶達とスライムが顔を見合わせて、もふもふの蝶の方が俺の下半身の方へ。そして俺の下半身の上で何回か回るように飛べば、急にもふもふな蝶が少しだけ光り初めて。それと同時に俺の下半身、特にあの部分が、同じように少しだけ光り。

 いきなりの事に驚いていると、すぐに蝶と下半身の光が消え。何と光が消えると、あそこの不快感が消えていたんだ。え? まさか? あれか、あれなのか?
 確か神は、この世界には魔法があるって言っていたけど。魔法は使えるのは人だけじゃなくて、こういった昆虫やスライムも使えるのか?

 あっ、でも。ライトノベルとかゲームとかだと、確かにみんな魔法を使えているよな。ちょっと聞いてみるか。
 すぐに俺は聞いてみる。今のは魔法か? もしかして俺の汚いところを、魔法で綺麗にしてくれたのか? って。

 そうしたら答えは、そう、だった。まさかこんなに形で初魔法を見る事になるとは。蝶だって、人間の汚い物を綺麗にするとは思っていなかったよな。迷惑をかけてすまない、ありがとう!! 

 ちゃんとお礼を伝える。するともふもふの蝶は、その場でパタパタと羽を激しく動かし、とても嬉しそうな表情をした。と、これを見ていた透明な蝶が、俺の口元へやってきて、唇を突いてきた。どうも開けろと言っているらしい。

 何だと思いながら口を開けると、さっきのもふもふの蝶とは違い、クロスするようにシュッ! シュッ! と飛んだ透明な蝶。するとビー玉くらいのふよふよしている丸が現れて。それが俺の口の中に。驚いているうちに、それを飲み込んだ俺。もしかしてこれって。

 これもすぐに聞いてみた。水か? って。そうしたらすぐに頷く透明な蝶。おおお!! ありがとう! まさか蝶に水をもらうなんて。俺喉が乾いてたんだよ! 透明な蝶はその後何回か、俺に水を与えてくれた。

 するとこれまた、その様子を見ていたスライムが、また俺の口元へやってきて。体の中から果物のような物を取り出した。見た感じみかんみたいに見えるそれは、小さい小さいビー玉サイズのみかんで。

 そのみかんをさっき同様、今度は丸い体から両手みたいに体を伸ばして、みかんのような物を潰し、その果汁を俺の口に入れてくれた。形はみかんだったけど、味はメロンで。メロンジュースにみかんのつぶつぶが入っている感じで、とても美味しかった。

 何個かその果物の果汁を飲ましてもらった後、スライムにもしっかりとお礼を言う。みんな俺がお礼を言うと、とっても嬉しそうに、それぞれが俺の上で動いていた。

 しかし、それは長くは続かなかった。急にその可愛い動きを止めると、皆同じ方法を見て、今までの可愛い表情が嘘のように、とても鋭い顔つきに。何だ? と思っていると、みんなが見ている方、草むらがガサゴソと音を立て始め。

 次の瞬間、草むらからゾロゾロと奴らが現れたんだ。俺の本やゲームに出てくる奴にとってもそっくりで。中には人に友好的な奴らもいるけど、ほとんどが人にとって敵の、ゴブリンそっくりの生き物が、5匹も出てきたんだ。

 ようやく少し落ち着けたと思っていたのに、また血の気の引く俺。奴らの表情はどう考えても、蝶やスライムとは違う、獲物を見つけた時のニヤニヤ顔だったからだ。

 はぁ、やっぱり俺はここまでだったようだ。せっかくみんなのおかげで、楽しい時間が過ごせていたのに。もちろんそれだけで、俺が助かったわけじゃなかったけどさ。それでも良い子達と触れ合うことができて、嬉しかったんだよ。

 だけどその僅かな時間も、もう終わりみたいだ。じわじわと近寄って来て、少し向こうで止まったゴブリン。俺の様子を少し観察しているようだ。たぶん怖がらせて追い詰めようとでもしているんだろう。

 俺は1度死という物を体験しているからか、それとまた神の所へいけば、神に文句を言ってやると思っているから。あんまり死に対して恐怖は感じていなかったけれど。できれば少しでも痛くないように、さっさと殺してほしい。それから……。

 俺は、ゴブリンが現れてからすぐに、何か話し合いを始めた蝶たちとスライムに話しかけた。怪我をしないうちに、早くここから逃げてくれと。