「それじゃあ、名前に関しては、一旦これで終わりで良いわね。次にこの人の呼び方だけど。お父さんでもミルバーンでも、何でも良いわよ」

「俺は父親じゃないぞ!!」

 レイナさんの言葉に、今まで知らん顔を決め込んでいたミルバーンが反応した。お父さん……。まぁ、お父さんなのか? 俺達の親なんだからお父さんにはなるんだけど。でも、ミルバーンがお父さん? なんか違う気がするするのは俺だけか?

 それにミルバーンは、かなり若いと思うんだよ。見た目、20歳くらい? 確かに地球だと早くに結婚して子供がいる家庭も多いけどさ。
 今までミルバーンは結婚していた相手はいるのか? というかエルフの場合結婚て言葉があるのかも不明だけど。シャノンさんとレイナさんは夫婦なわけで。ミルバーンにもいないとは限らない。

 ただ、今までずっと1人だったのなら、急に俺達にお父さんと呼ばれるのは、ちょっと、いやかなり違和感があるんじゃ? それに申し訳ないんだけど、そして家族になってもらうのに悪いんだけど。
 どうにもミルバーンは、お父さんって感じがしないんだよな。じゃあ何なんだと言われれば困るが。お父さんよりもミルバーンって感じで。分かるかな、この感覚。

 と、そんな事を考えていた俺の前で、蝶達とスライムが、また話し合いを始めた。レイナさんがミルバーンを何と呼ぶか相談しているって。それからお父さんじゃないよね、とも言っているらしい。

 あ~、多分みんなも俺と同じような事を考えているんじゃないかな? しかも俺よりもみんなの方は、まだミルバーンを敵視? している感じがあるから、お父さんじゃないって思ったんだろう。

 俺達の名前のことを話し合っている時、時々ミルバーンを睨んでいたからな。ちゃんと話し合いに参加しろよって感じで。

『******』

『******?』

『******!』

 それからも話し合いを続けるみんな。でも誰も話し合いを途中で止めようとはしない。

「精霊達が話し合いをすると、長くなる事が多いのよ。みんなそれを分かっているから、何か動かないといけないような事が起こらない限り、私達は邪魔をしないの」

 別に話し合いが長くて、つまらないからと、眠たくなったわけじゃなかったんだけど。生理的にあくびをしてしまった俺に、レイナさんが説明をしてくれた。

「まぁ、どうでも良い話し合いをしている事が多いのだけれどね。でも今回は真剣に話し合いをしているわ」

 どうでも良い話し合いって何だ?

「前に里へ遊びに来た子達は、お菓子の形について3時間くらいの話し合いをしていたわね」

 お菓子の形の話し合い? それに3時間も使ったのか!? まさか今回の話し合いもそれくらいかかるんじゃ。流石にそれは困るな。俺、途中で寝ちゃいそうだし。
 赤ちゃんの俺は寝るのが仕事みたいなものだ。だからいつ眠っちゃうか分からない。寝ている間に話が進んだら嫌なんだよな。

 まぁ、今のうちにみんなの名前を考えておくか。とりあえずだけど。ほら、可愛いかカッコいい名前か、まだ聞いていないし。

 こう特徴や見た目から考えるのはどうだろうか。まず、透明な蝶。透明な蝶は透明だけど、光の具合によって色々な色に見えて、宝石みたいに綺麗な蝶だ。
 キラキラ光る、輝く。確か英語でシャインだったか? シャインなんて名前はどうだろう?

 モコモコ、もふもふの蝶は。もちろん特徴はそのもふもふしているところで。色は羽先だけが薄ピンク色。後は真っ白な子だ。ピンクって名前は? う~ん、なんかなぁ。
 確かもふもふな犬とかウサギとか、その時に英語でフラッフィーだかフラフィーだか。言わなかったかな? う~ん、フラフィーか。なかなか良い気がする。

 最後スライム。スライムは薄黄緑色で、ぷよぷよ、フルフルしている。『ぷよ』とか『フル』とかじゃなぁ。もうちょっと何か考えたいよな。
 薄い黄緑色かぁ。この色、自然の黄緑色って感じで、このエルフの里がある、森にぴったりの色って感じだ。

 俺は地球にいた時、仕事を辞めたら旅に出たいと思っていたけど、森の中のコテージでゆっくり過ごすのも良いと思っていたんだよな。こう、森の中で心を落ち着かせるために、自然のセラピーを受けようかと思っていて。

 このスライムはその森と同じような色をしているだろう? こう、見ているだけで癒してくれるような。もちろん他の子も癒されるんだけど、この黄緑色は特別だと思うんだ。だからセラピー? ラピーなんてどうだろうか。

 うん、とりあえずこれで行こう。後はみんなの好みによって変えて。そのままで、気に入ってもらえたら、それはとっても嬉しい。

「あら、そろそろ話し合いが終わりそうね」

 レイナさんの言葉にハッ! とする俺。考えている間に、みんな話し合いがちょうど終わりそうで良かった。それで、みんなはミルバーンをどう呼ぶつもりなんだろう。

『******』

『******』

『******!』

「やっぱりそうよね。私もそう思うもの。ミルバーンは確かにあなた達の家族だけれど、お父さんって感じじゃないわよね」

 ああ、レイナさんもそう思っていたんだな。他のみんなも頷いているし。うん、俺だけじゃなくて良かった。

「みんなは、そのままミルバーンって呼ぶことにしたって。お父さんじゃない、お父さんはもっとしっかりしてる、偉大。僕達のママみたいに。だからミルバーンはミルバーン、そのままだよ、と言ったのよ」

 あ~あ、みんなからしっかりしていないって言われちゃったよ。最後のゴブリンを倒してくれたんだけどな。多分今までの態度で、しっかりしてないって認識されちゃったんだろうな。

「おい、お前達、今なんて……」

「はい、じゃあ今日からみんなは、ミルバーンって呼ぶってきまり! 後でまた他の呼び方に変えてもいいし、とりあえずはミルバーンということで」

「おい、俺はまだ何も……」

「決まりよ」

 ミルバーンがみんなに突っかかろうとしたけど、レイナさんによって止められた。しかもニコニコ笑っているけど、有無を言わせぬ迫力で。ミルバーンが大人しくなる。こうしてミルバーンの呼び方も決定した。