「俺、アイツ無理だわ」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
今までの会話から察するに、『アイツ』は私のこと。
私は、彼に何かしたんだろうか。
大きなな笑い声と共に流れてきた、美しい声。
静かで、深い、真剣な音色。
あの声が好きだった。
だからこそ、あの声で拒絶されたことが、私の心を砕いた。
どうして、どうして、どうしてっ…!?
その言葉だけがぐるぐると頭の中を渦巻いている。
すぐに引き返した。
記憶は下駄箱で途絶えている。
無意識のうちに歩いていたのだろう。
気がついたら、私は家の前にいた。
深呼吸をして、いつもしている行動を思い出す。
「ただいまー」
明るく言いながら、家に入る。
リビングからTVの声とお母さんの笑い声が聞こえてくる。
いつも通り、いつも通り。
そう唱える体が重い。
なんとか2階の自室に上がると、体の力が一気に抜け、涙が溢れてくる。
ベッドに倒れ込む。
「どうして、どうして?何で急に、あんな事を言ったの?」
そう取り乱す私と
「当然だ。私なんかが、彼とは不釣り合いなんだ。」
そう冷静に俯瞰する私がいる。
2人の私を認識すると、少し気落ちが落ち着いてくるのを感じた。
呼吸を整えると、すぐにスマホを手に取った。
こういう時は、友達に話を聞いてもらうに限る。
電話をかけると、3コールで出てくれた。
「水雫〜。ちょっと聞いてくれない?」
「いーよー。何があったん?」
「放課後さ、委員会の伝達で日向くんに伝えなきゃいけないことがあったのね。」
「ふんふん」
「それで、部活前はいつも教室にいるから教室に向かったんだけど、廊下で日向くんの声が聞こえて。」
「なるほどなるほど」
「ほら、私って声フェチだから。思わず立ち止まっちゃったんだけど。その時聞こえちゃったのね。何か、男子たちが私の話してたんだけど、俺アイツ無理だって。」
「はぁ!?ふっざけんな!!ちょ、夜空、今から日向ボコりに行くよ!!」
「落ち着いて?何かの間違いだと思いたいし、聞き間違いだと思うんだけど…。」
「まぁ、ちょっと違和感あるよね。日向って、そういう会話嫌いじゃなかったっけ?ま、しんじつとかどーでもいーし!?前私が言ったこと、実践するチャンスだよ!」
「うん、そうなんだよ…。そこが私も引っかかってて…。もーどーしたらいいのー?」
「とりま殴ろっか!あと、実践のとこまるっとスルーしないで??」
「ごめんごめん。あと、そんな爽やかに恐ろしいこと言わないでよ…。」
「思い立ったら即行動!が私の信条だしね。夜空を傷付ける奴は許さん!」
「ふふ、ありがと。でも殴るのはやめてね?」
「それはあいつ次第だねぇ。私の意思じゃなくて神の意思だからさ。」
「いや、ちゃーんと水雫の意思でしょ?もー、ほんっと幼稚園の時から変わんないんだから。」
「え、サラッと私ディスられてる?幼稚園児レベルの低知能だって??」
「違うってー。わかってるでしょ?水雫はいっつも私を守ってくれる。…ありがとね。」
「ふっふーん!これからも、この水雫様にまっかせっなさーい!」
「はっ!よろしくお願いいたしますっ、水雫様。なんちゃって。」
『夜空ーご飯よー』
「あ、ごめん。もうご飯だから行かなきゃ。」
『今行くー』
「話聞いてくれてありがとっ。じゃあ、また学校でね。」
「うん、また明日ね〜。」
夜ご飯を食べ終わると、すぐに私はメッセージアプリを開いた。
胸の鼓動がうるさい。
あの言葉の意味を聞きたいけど、残念ながら私にそのような度胸はない。
絶賛片思い中の私、想い人とのトークルームを開くだけで、既に息も絶え絶えの状態でこざいます。
謎の実況も付け加えて、脳内でナレーションしてみる。
まずは、今日伝えられなかった委員会の伝達を伝えなければ。
慎重に言葉を選んで入力する。
『こんばんは。夜遅くにごめんなさい。今日、図書委員会の伝達を安達先生から頼まれていたのですが、学校で伝え忘れてしまっていたので今送ります。明後日の昼休み、数学教室に集合、遅刻厳禁でよろしく。とのことです。よろしくお願いします。』
書き終わってから、少し文面が硬すぎるかと思って書き直す。
『夜遅くにごめんね。図書委員会の伝達をし忘れちゃったので今送ります。明後日の昼休みに数学教室に集合です。よろしくです。今日、放課後に教室を通ったら日向くんの声が聞こえたんだけど、何話してたの?』
一体何を書いているんだと我に返り、慌てて書き直そうとしたとき。
間違って送信ボタンを押してしまった。
急いで送信取り消しをしようかと思ったけれど、こういうときに限ってすぐに既読がついてしまった。
どうすればいいのかと半ば放心状態で固まっていると、スタンプが送られてきた。
今人気のウサギのキャラクターが親指を立てているスタンプだ。
間髪入れずにメッセージも届けられる。
『放課後話してたことだけど、三ツ黃さんには関係ないと思う。』
三ツ黃というのは、私の名字だ。
先程のスタンプのギャップ萌えと、メッセージの意味を咀嚼できない頭がショートしそうになる。
どうしよう、あのこと聞くのやめようかな…。
一度、水雫にこういうときの対処法?を聞いたことがある。
『何が何でも追跡!!そして攻撃からーの追撃!!攻撃に次ぐ攻撃!!これ絶対ね!』
あの子のように気持ちを強く持てればよかったのだが、残念ながら性格は変えられない。
一瞬追撃を諦めるという選択肢が頭に浮かぶが、水雫を参考にもう一押し。
『そっか。話したくなければ大丈夫だけど、女子の話をしてる気がして…。日向くんがそういう話をするって意外だったから。』
しばしの間、沈黙がその場を支配する。
空気が重い。
不安に私も支配される。
『話してた内容、聞いた?』
まさかのド直球。
どうしよう…。
悩みに悩んだ末、正直に答えることにした。
『うん。』
再びの沈黙。
『今、電話してもいい?』
驚きのお誘い。
今にもフリーズしそうな脳をフル回転させて、最善手を探す。
『大丈夫だよ。』
これで合ってた!?
すぐに電話がかかってきた。
「は、はい。もしもしっ?み、三ツ黃です。」
「もしもし。わかってるよ、俺は三ツ黃さんにかけたんだから。」
「あ、そっか。あはは…。そ、それで、どうして急に電話で…?」
「色々勘違いされてる気がしたから。」
「ふぁえっ!?勘違い!!?ご、ごめんなさい…。」
「良いよ、別に。あの部分だけ聞いたなら、そう思うだろうし。」
「あの部分って…?」
「俺の声が『俺、アイツ無理だわ』って言ってるとこ。多分、三ツ黃さんが聞いたのはそこだよね?」
「うん、そうだよ。自意識過剰かもしれないけど、私の話をしてる気がして…。」
「三ツ黃さんの話をしてたのは本当だよ。三ツ黃さんが嫌な思いしてたんだったら、ごめん。」
「わ、私の話をしてたのは、恥ずかしいけど別にいいよ。だけど、なんで無理って言われてたのか気になって…。元々、あのメッセージを送るつもりはなかったの。だけど、誤爆しちゃって。光の速さで既読は付くし、もうどうしたら良いのかっていう状態で…。」
「あの、その、なんというか…。既読の速さに関しては、教室から三ツ黃さんの姿が見えたから、なんと説明しようかトークルームを開いてたらメッセージが来て…。」
「な、なるほど?既読の速さに関してはわかったよ、だけど…。『俺の声が言った』ってどういういこと?」
「あのとき一緒にいたら奴ら…天川とか、俺がいつも一緒にいる奴らが、ボイスチェンジャーで俺の声使って遊んでたんだよ。それで、あんな事言いだして…。本当に、俺が言ったんじゃないし、あんなこと思ってない。信じてほしい。」
『信じてほしい。』
私の大好きな声でそんな事言われたら、どんなことだろうと信じるに決まっている。
『もちろん。』
そう返そうとしたら、突然緊急地震速報が大音量で流れ出した。
とても、うるさい。
とても。
気がついたら、電話は切れていた。
どうしようかと慌てていると、すぐにメッセージが送られてきた。
『急に切ってごめん。警報がうるさすぎるから、収まったらまた電話しても良い?』
勿論良いです。
僥倖です。
すぐに返事をする。
『もちろん!待ってるね!』
そうこうしてる間にも、警報はけたたましく鳴っている。
5分程立って、ようやく警報は収まった。
すぐに電話が鳴る。
「もしもし?三ツ黃さん、さっきはごめん。」
「大丈夫だよ。っていうか、あれ日向くんのせいじゃないし。」
「ありがとう。それで、本題なんだけど、あの言葉の意味っていうか事情、分かってくれた?」
「うん。分かったよ。元から何かおかしいとは思ってたし。日向くんが特定の女子にそんなこと言うわけないもんね。」
「…俺だって…三ツ黃さんじゃなきゃ…。」
「あれ?何か言った?ゴメン、聞こえなかった。」
え?
ちょ、待って?
今、何言ってたか聞こえちゃったんですけど?
『俺だって、三ツ黃さんじゃなきゃ、こんなに否定しない。』
って聞こえたんですけど?
それって一体どういう意味?
そういう意味?
か、神様??
えーっと、これは、夢?
それとも幻?
ですよね!!
だって、こんな都合の良い現実があるわけないもんね!
うん、解決解決!
万事解決!
めでたしめでたし!
「三ツ黃さん?大丈夫??」
あ…。
舞い上がりすぎて、日向くんのこと放置してた…。
ど、どうしよう?
「ご、ごめん!ちょーっと、ボーっとしてただけだから!!ホントにゴメン!!」
「そんなに謝らなくても…。でも、誤解が解けてよかったよ。じゃあ、もう夜も遅いし。また学校でね。おやすみ。」
「う、うん!学校で!!おやすみなさい!!」
やったーーーーーーーー!
日向くんと、おやすみ言い合っちゃった!
嬉しすぎるー!!
ベッドの上でクッションを抱え、ひたすら転がる私は他人から見たらさぞ滑稽だろう。
だが、そんな事を気にする余裕などなかったのだ。
「よし!脈アリだね、これは!!そーとなったらお風呂入ってとっておきのお高いパックしちゃおーっと!」
興奮のあまり、性格や口調まで変わってしまう。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
これでは、もはや盲目程度ではなく、人格障害まで引き起こしているだろう…。
呆れる私を興奮する私は押しのけ、意気揚々と脱衣所へと向かった。
お風呂でギャグ漫画のごとく盛大にズッコケるのは、また別のお話…。
これならクリスマスまでに付き合うのも夢じゃないと、私、三ツ黃夜空は夏のお風呂で想いを新たに熱唱していた。
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
今までの会話から察するに、『アイツ』は私のこと。
私は、彼に何かしたんだろうか。
大きなな笑い声と共に流れてきた、美しい声。
静かで、深い、真剣な音色。
あの声が好きだった。
だからこそ、あの声で拒絶されたことが、私の心を砕いた。
どうして、どうして、どうしてっ…!?
その言葉だけがぐるぐると頭の中を渦巻いている。
すぐに引き返した。
記憶は下駄箱で途絶えている。
無意識のうちに歩いていたのだろう。
気がついたら、私は家の前にいた。
深呼吸をして、いつもしている行動を思い出す。
「ただいまー」
明るく言いながら、家に入る。
リビングからTVの声とお母さんの笑い声が聞こえてくる。
いつも通り、いつも通り。
そう唱える体が重い。
なんとか2階の自室に上がると、体の力が一気に抜け、涙が溢れてくる。
ベッドに倒れ込む。
「どうして、どうして?何で急に、あんな事を言ったの?」
そう取り乱す私と
「当然だ。私なんかが、彼とは不釣り合いなんだ。」
そう冷静に俯瞰する私がいる。
2人の私を認識すると、少し気落ちが落ち着いてくるのを感じた。
呼吸を整えると、すぐにスマホを手に取った。
こういう時は、友達に話を聞いてもらうに限る。
電話をかけると、3コールで出てくれた。
「水雫〜。ちょっと聞いてくれない?」
「いーよー。何があったん?」
「放課後さ、委員会の伝達で日向くんに伝えなきゃいけないことがあったのね。」
「ふんふん」
「それで、部活前はいつも教室にいるから教室に向かったんだけど、廊下で日向くんの声が聞こえて。」
「なるほどなるほど」
「ほら、私って声フェチだから。思わず立ち止まっちゃったんだけど。その時聞こえちゃったのね。何か、男子たちが私の話してたんだけど、俺アイツ無理だって。」
「はぁ!?ふっざけんな!!ちょ、夜空、今から日向ボコりに行くよ!!」
「落ち着いて?何かの間違いだと思いたいし、聞き間違いだと思うんだけど…。」
「まぁ、ちょっと違和感あるよね。日向って、そういう会話嫌いじゃなかったっけ?ま、しんじつとかどーでもいーし!?前私が言ったこと、実践するチャンスだよ!」
「うん、そうなんだよ…。そこが私も引っかかってて…。もーどーしたらいいのー?」
「とりま殴ろっか!あと、実践のとこまるっとスルーしないで??」
「ごめんごめん。あと、そんな爽やかに恐ろしいこと言わないでよ…。」
「思い立ったら即行動!が私の信条だしね。夜空を傷付ける奴は許さん!」
「ふふ、ありがと。でも殴るのはやめてね?」
「それはあいつ次第だねぇ。私の意思じゃなくて神の意思だからさ。」
「いや、ちゃーんと水雫の意思でしょ?もー、ほんっと幼稚園の時から変わんないんだから。」
「え、サラッと私ディスられてる?幼稚園児レベルの低知能だって??」
「違うってー。わかってるでしょ?水雫はいっつも私を守ってくれる。…ありがとね。」
「ふっふーん!これからも、この水雫様にまっかせっなさーい!」
「はっ!よろしくお願いいたしますっ、水雫様。なんちゃって。」
『夜空ーご飯よー』
「あ、ごめん。もうご飯だから行かなきゃ。」
『今行くー』
「話聞いてくれてありがとっ。じゃあ、また学校でね。」
「うん、また明日ね〜。」
夜ご飯を食べ終わると、すぐに私はメッセージアプリを開いた。
胸の鼓動がうるさい。
あの言葉の意味を聞きたいけど、残念ながら私にそのような度胸はない。
絶賛片思い中の私、想い人とのトークルームを開くだけで、既に息も絶え絶えの状態でこざいます。
謎の実況も付け加えて、脳内でナレーションしてみる。
まずは、今日伝えられなかった委員会の伝達を伝えなければ。
慎重に言葉を選んで入力する。
『こんばんは。夜遅くにごめんなさい。今日、図書委員会の伝達を安達先生から頼まれていたのですが、学校で伝え忘れてしまっていたので今送ります。明後日の昼休み、数学教室に集合、遅刻厳禁でよろしく。とのことです。よろしくお願いします。』
書き終わってから、少し文面が硬すぎるかと思って書き直す。
『夜遅くにごめんね。図書委員会の伝達をし忘れちゃったので今送ります。明後日の昼休みに数学教室に集合です。よろしくです。今日、放課後に教室を通ったら日向くんの声が聞こえたんだけど、何話してたの?』
一体何を書いているんだと我に返り、慌てて書き直そうとしたとき。
間違って送信ボタンを押してしまった。
急いで送信取り消しをしようかと思ったけれど、こういうときに限ってすぐに既読がついてしまった。
どうすればいいのかと半ば放心状態で固まっていると、スタンプが送られてきた。
今人気のウサギのキャラクターが親指を立てているスタンプだ。
間髪入れずにメッセージも届けられる。
『放課後話してたことだけど、三ツ黃さんには関係ないと思う。』
三ツ黃というのは、私の名字だ。
先程のスタンプのギャップ萌えと、メッセージの意味を咀嚼できない頭がショートしそうになる。
どうしよう、あのこと聞くのやめようかな…。
一度、水雫にこういうときの対処法?を聞いたことがある。
『何が何でも追跡!!そして攻撃からーの追撃!!攻撃に次ぐ攻撃!!これ絶対ね!』
あの子のように気持ちを強く持てればよかったのだが、残念ながら性格は変えられない。
一瞬追撃を諦めるという選択肢が頭に浮かぶが、水雫を参考にもう一押し。
『そっか。話したくなければ大丈夫だけど、女子の話をしてる気がして…。日向くんがそういう話をするって意外だったから。』
しばしの間、沈黙がその場を支配する。
空気が重い。
不安に私も支配される。
『話してた内容、聞いた?』
まさかのド直球。
どうしよう…。
悩みに悩んだ末、正直に答えることにした。
『うん。』
再びの沈黙。
『今、電話してもいい?』
驚きのお誘い。
今にもフリーズしそうな脳をフル回転させて、最善手を探す。
『大丈夫だよ。』
これで合ってた!?
すぐに電話がかかってきた。
「は、はい。もしもしっ?み、三ツ黃です。」
「もしもし。わかってるよ、俺は三ツ黃さんにかけたんだから。」
「あ、そっか。あはは…。そ、それで、どうして急に電話で…?」
「色々勘違いされてる気がしたから。」
「ふぁえっ!?勘違い!!?ご、ごめんなさい…。」
「良いよ、別に。あの部分だけ聞いたなら、そう思うだろうし。」
「あの部分って…?」
「俺の声が『俺、アイツ無理だわ』って言ってるとこ。多分、三ツ黃さんが聞いたのはそこだよね?」
「うん、そうだよ。自意識過剰かもしれないけど、私の話をしてる気がして…。」
「三ツ黃さんの話をしてたのは本当だよ。三ツ黃さんが嫌な思いしてたんだったら、ごめん。」
「わ、私の話をしてたのは、恥ずかしいけど別にいいよ。だけど、なんで無理って言われてたのか気になって…。元々、あのメッセージを送るつもりはなかったの。だけど、誤爆しちゃって。光の速さで既読は付くし、もうどうしたら良いのかっていう状態で…。」
「あの、その、なんというか…。既読の速さに関しては、教室から三ツ黃さんの姿が見えたから、なんと説明しようかトークルームを開いてたらメッセージが来て…。」
「な、なるほど?既読の速さに関してはわかったよ、だけど…。『俺の声が言った』ってどういういこと?」
「あのとき一緒にいたら奴ら…天川とか、俺がいつも一緒にいる奴らが、ボイスチェンジャーで俺の声使って遊んでたんだよ。それで、あんな事言いだして…。本当に、俺が言ったんじゃないし、あんなこと思ってない。信じてほしい。」
『信じてほしい。』
私の大好きな声でそんな事言われたら、どんなことだろうと信じるに決まっている。
『もちろん。』
そう返そうとしたら、突然緊急地震速報が大音量で流れ出した。
とても、うるさい。
とても。
気がついたら、電話は切れていた。
どうしようかと慌てていると、すぐにメッセージが送られてきた。
『急に切ってごめん。警報がうるさすぎるから、収まったらまた電話しても良い?』
勿論良いです。
僥倖です。
すぐに返事をする。
『もちろん!待ってるね!』
そうこうしてる間にも、警報はけたたましく鳴っている。
5分程立って、ようやく警報は収まった。
すぐに電話が鳴る。
「もしもし?三ツ黃さん、さっきはごめん。」
「大丈夫だよ。っていうか、あれ日向くんのせいじゃないし。」
「ありがとう。それで、本題なんだけど、あの言葉の意味っていうか事情、分かってくれた?」
「うん。分かったよ。元から何かおかしいとは思ってたし。日向くんが特定の女子にそんなこと言うわけないもんね。」
「…俺だって…三ツ黃さんじゃなきゃ…。」
「あれ?何か言った?ゴメン、聞こえなかった。」
え?
ちょ、待って?
今、何言ってたか聞こえちゃったんですけど?
『俺だって、三ツ黃さんじゃなきゃ、こんなに否定しない。』
って聞こえたんですけど?
それって一体どういう意味?
そういう意味?
か、神様??
えーっと、これは、夢?
それとも幻?
ですよね!!
だって、こんな都合の良い現実があるわけないもんね!
うん、解決解決!
万事解決!
めでたしめでたし!
「三ツ黃さん?大丈夫??」
あ…。
舞い上がりすぎて、日向くんのこと放置してた…。
ど、どうしよう?
「ご、ごめん!ちょーっと、ボーっとしてただけだから!!ホントにゴメン!!」
「そんなに謝らなくても…。でも、誤解が解けてよかったよ。じゃあ、もう夜も遅いし。また学校でね。おやすみ。」
「う、うん!学校で!!おやすみなさい!!」
やったーーーーーーーー!
日向くんと、おやすみ言い合っちゃった!
嬉しすぎるー!!
ベッドの上でクッションを抱え、ひたすら転がる私は他人から見たらさぞ滑稽だろう。
だが、そんな事を気にする余裕などなかったのだ。
「よし!脈アリだね、これは!!そーとなったらお風呂入ってとっておきのお高いパックしちゃおーっと!」
興奮のあまり、性格や口調まで変わってしまう。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
これでは、もはや盲目程度ではなく、人格障害まで引き起こしているだろう…。
呆れる私を興奮する私は押しのけ、意気揚々と脱衣所へと向かった。
お風呂でギャグ漫画のごとく盛大にズッコケるのは、また別のお話…。
これならクリスマスまでに付き合うのも夢じゃないと、私、三ツ黃夜空は夏のお風呂で想いを新たに熱唱していた。