次の日、いつものように朝8時に起きて支度をしてから会社へ向かった。支度の最中、わたしが起きても例の部屋から美少年が出てくることはなく、『無理して起きてこなくていい』と言ったのは自分だけれど、薄情な年下だなと思った。まあいいんだけど。


.
:


 いつもより少し早めに仕事を終えて19時45分。マンションへ帰ってポストを覗くと、きちんと鍵が入っていた。そのことに安堵しつつ家へ帰ってリビングのソファへとダイブする。同棲をはじめたタイミングで大きなソファを買ってよかった。お金は元彼と折半したけど、今や完全にわたしのもの。
 ソファに身を埋めると、急な眠気が襲ってくる。思えば昨日はあまり深く眠れなかった。というか、ここ最近ずっと、どこか浅い眠りを繰り返している気がする。
 今日が金曜日でよかったな。お団子に結っていた黒髪ロングを解いて溜め息を吐くと、なんだかどっと疲れが降りてきた。今週は流石にいろんなことがありすぎたよ。
 もう動きたくない。ご飯を食べるのもお風呂に入るのもメイクを落とすのだって面倒くさい。着替えるのも無理。いっそのことこのまま消えられたら楽なのに。わたしが今この世からいなくなっても、きっと誰も困らない。せいぜい家族が悲しんで、職場でちょっと噂になるくらいだ。クライアントには少々迷惑をかけるけれど、せいぜい1ヶ月もあればわたしの代わりなんていくらでもいる。
 そんな、代打が効いてしまうちっぽけな人間なのに、どうして生きているんだろう。まわりの人は何を生き甲斐に毎日息をしているんだろう。こうして帰ってきたって、誰かが今日の頑張りを聞いてくれるわけでも褒めてくれるわけでもないのに。
 26歳。人生の楽しさをグラフで表せるのなら、きっとピークはとうに過ぎてしまったのだろう。

 ─────ピンポーン
 ソファで項垂れていると、突然インターホンが鳴った。こんな時間に珍しい。渋々立ち上がってモニターを確認したことを後悔する。
 だってそこに映っていたのは、昨日ぶりの美少年─────早川駿くんだったから。