透明な花束

真っ暗な道を引き返していく。
初めて来た道でも、駿と歩けばどこか懐かしい。
だらだらと歩きながら時折ふと蹴ってしまう小石を転がす。

「今日は本当に良かったの、夏祭りじゃなくて」

「行きたかったの?」

「そうじゃなくて、なんで俺の気持ちわかってくれたのかと」

「俺とは好きの感覚が違うから」

「何言ってんの、俺は」

好きという気持ちには自信があった。だからムキになってこんな言い方になった。

「そうじゃないそうじゃない。わかってるよ、涼が俺をめちゃめちゃ好きなことは」

あまりにも直球なその言葉に顔が赤くなるのが自分でわかる。

「俺の好きは、これが俺の宝物でーすっていう好きなんだけど、
涼は宝箱にしまう好きでしょ」

駿は小さい頃から大事なものはいつも持ち歩いて俺たちに共有した。
でも俺は、自分の大切に集めたものを親に見せることすらなぜか恥ずかしかった。

「俺はまあ、涼は俺のものでーすって見せびらかさなくても平気だけど、
そんなことしたら涼は顔から火が出て爆発でもしそうだからさ」

「ちょっと俺のことわかりすぎかもな」

「へへ、俺たち平和に行こう」

駿は笑って俺の背中をポンと叩いた。

「例えば俺の好きはさ、相手をもっと深く知りたい好きなんだ」

駿が真っ暗な空を見上げて言う。
星でも見えるのかと思って同じように見上げた。
雲の中に隠れていく飛行機の光が一番よく見えた。

「俺を?もう十分知ってるだろ」

「好きな食べ物は?」

「当ててみて」

「ラーメン」

「あはは、当たり」

「じゃあ好きな芸能人」

「当てて」

「特になし」

「あははは、正解」

駿と話をしながら、その声も目に映る景色も全てが大切で覚えていたいと思うのに、ほとんどが過去へと流れていく。

反対に見たくもないものが目に入ったりする。
道端に花束が捧げられている。
ここで人が死んだ。
でもその死を悼む人がいる。
その証が置かれていた。