軽くアップし四人はペア組みするとゲーム形式をする事にした。
幸生は太雅とペアを組み、ポジションに付く。太雅からのサーブで始まると、第1ゲームは太雅のサーブだけで押し切りキープ。第2ゲームの岡野もサービスゲームもキープし1オールとなる。
2ゲームを終えたところで相手ペアの良さが伺えた。
(いいペアだ)
おそらく長年組んでいるのだろう。互いの仕事をきっちり把握し、カバーし合っている。
少し前までは、鉄郎とこんな風にダブルスをしていたはずだ。周囲から見て、自分たちもこんな風に息の合ったペアだと思われていたのだろうか。ふと、そんな思いが過ぎる。
スパン!スパン!と太雅はひたすら得意のフォアのストロークで押そうとしている。だが、壁の如く、山根岡野ペアは前衛に張り付き、太雅のストロークをボレーでひたすら返している。
そして最終的には、太雅が根負けしストロークをネット、もしくは無理に二人を抜こうとしてアウト、というのを繰り返した。
気付けば、2-4でリードされてしまっていた。
さすがの幸生も、太雅のそのプレーに苛立ちを覚えた。
「太雅ちょっと……」
ポイント間で幸生は太雅の元へと近づいた。
「あー、悪いな幸生、ミスばっかり……」
さすがの太雅も申し訳なさそうにしているが、問題は太雅のミスではない。
「あのさー、これはシングルスじゃないの! ダブルスなの! 分かる?!」
「え? あ、うん……」
珍しく声を張り上げ、幸生の引きつらせた表情に太雅は目を丸くしている。
「俺の存在忘れてない? 俺はなんの為に前にいるの? あんな速いストローク、バコバコ打たれたら俺、全然ポーチに出られない!」
幸生の言葉に太雅はハッと我に返ったようだった。
「そっか……おまえがポーチ決められるように、俺は後ろで作らないといけないんだな。悪りぃ、力で押し切ろうとしてた」
「やっと気付いた?」
「あーあ、沢渡くん、教えちゃダメだよー」
岡野は揶揄うようにそう言うと、太雅はムッとした顔を岡野に向けている。
「向こうの思うツボだったって事か」
「そう、あの二人は太雅にミスさせようとしてたの。ひたすら返してれば、きっと太雅は我慢できずにミスするだろうって」
「くっそー! もう、分かったぞ!」
「よし、ここから仕切り直して挽回していこう」
幸生が手を太雅に差し出すと、太雅は幸生の掌に自分の掌をパチンッと合わせた。
そこからは、太雅は目が覚めたように力任せのストロークではなく、幸生がポーチを出やすいように組み立てをし、それから面白いように幸生の得意のポーチが決まり始めた。だが、そこはやはり長年組み慣れた山根岡野ペアに対し、即席で今日初めて組んだ幸生太雅ペアでは、さすがに勝てる事ができなかった。
悔しがる太雅に、
「負けて当然。ずっとダブルスペア組んできてるあの二人に、シングルス一本できた太雅が敵うわけないよ」
幸生にしてはキツい言い方かもしれない。だが、それが事実だ。
太雅はその言葉に少し驚いたような表情を浮かべている。
「何?」
「おまえ……そんな風に言う事あるんだな」
言われてみれば、鉄郎に対してそこまでハッキリとした物言いをした記憶がない。
それはそうだ、自分は鉄郎が好きで、鉄郎に嫌われたくはない。キツい事を言って、もうペアを組まない、などと言われるのが怖くて言いたい事も言えなかったのだ。常に鉄郎を気遣い、鉄郎が気持ち良く楽しくプレーできるようにしていたのだから。
「そ、うかな……」
誤魔化すように視線を落とし、太雅から目を逸らした。
「鉄郎の時はいつもニコニコして、幸生が謝ってばっかりのイメージだったから、そんなピリピリする幸生は意外だった」
「ご、ごめん……」
遠慮のない物言いに太雅は気を悪くしてしまったかもしれないと思うと、申し訳なく思えてきた。
「いや、そのくらいの方が俺は良いと思う」
そう言って太雅は幸生の頭に大きな掌をポンと乗せた。
「ダメ出しもっとしてくれ」
太雅は優しい笑みを向けてきた。
ドキリ、と幸生の心臓が鳴った。太雅かそんな風に優しく笑う顔を見たのは初めてだった。
幸生は顔が酷く熱くなるのを感じ、何となく太雅と見つめ合う型になったが、
「なあー、今度は俺と沢渡くんと組ませて!」
岡野の声に互いの視線は、岡野に向けられた。
「面白そうだね、それ。組もうか、岡野くん」
幸生と岡野のペアは、ボレーを苦手とする太雅を前におびき寄せ、ストロークを打たせない作戦で見事勝利した。
太雅は相当悔しがり、そしてダブルスの面白さを知ったようだった。
今日ほどダブルスが楽しいと思ったのはいつ以来だろうか。ペアの顔色をうかがう事なく、言いたい事を互いに言え、伸び伸びプレーできる楽しさ。純粋にテニスを楽しむというのは酷く久し振りな気がした。もちろん、鉄郎とのダブルスも楽しい。ただそれは下心にも似た、鉄郎への想いがあってこそのように思えた。
その日から幸生は太雅と度々練習するようになった。
幸生は太雅とペアを組み、ポジションに付く。太雅からのサーブで始まると、第1ゲームは太雅のサーブだけで押し切りキープ。第2ゲームの岡野もサービスゲームもキープし1オールとなる。
2ゲームを終えたところで相手ペアの良さが伺えた。
(いいペアだ)
おそらく長年組んでいるのだろう。互いの仕事をきっちり把握し、カバーし合っている。
少し前までは、鉄郎とこんな風にダブルスをしていたはずだ。周囲から見て、自分たちもこんな風に息の合ったペアだと思われていたのだろうか。ふと、そんな思いが過ぎる。
スパン!スパン!と太雅はひたすら得意のフォアのストロークで押そうとしている。だが、壁の如く、山根岡野ペアは前衛に張り付き、太雅のストロークをボレーでひたすら返している。
そして最終的には、太雅が根負けしストロークをネット、もしくは無理に二人を抜こうとしてアウト、というのを繰り返した。
気付けば、2-4でリードされてしまっていた。
さすがの幸生も、太雅のそのプレーに苛立ちを覚えた。
「太雅ちょっと……」
ポイント間で幸生は太雅の元へと近づいた。
「あー、悪いな幸生、ミスばっかり……」
さすがの太雅も申し訳なさそうにしているが、問題は太雅のミスではない。
「あのさー、これはシングルスじゃないの! ダブルスなの! 分かる?!」
「え? あ、うん……」
珍しく声を張り上げ、幸生の引きつらせた表情に太雅は目を丸くしている。
「俺の存在忘れてない? 俺はなんの為に前にいるの? あんな速いストローク、バコバコ打たれたら俺、全然ポーチに出られない!」
幸生の言葉に太雅はハッと我に返ったようだった。
「そっか……おまえがポーチ決められるように、俺は後ろで作らないといけないんだな。悪りぃ、力で押し切ろうとしてた」
「やっと気付いた?」
「あーあ、沢渡くん、教えちゃダメだよー」
岡野は揶揄うようにそう言うと、太雅はムッとした顔を岡野に向けている。
「向こうの思うツボだったって事か」
「そう、あの二人は太雅にミスさせようとしてたの。ひたすら返してれば、きっと太雅は我慢できずにミスするだろうって」
「くっそー! もう、分かったぞ!」
「よし、ここから仕切り直して挽回していこう」
幸生が手を太雅に差し出すと、太雅は幸生の掌に自分の掌をパチンッと合わせた。
そこからは、太雅は目が覚めたように力任せのストロークではなく、幸生がポーチを出やすいように組み立てをし、それから面白いように幸生の得意のポーチが決まり始めた。だが、そこはやはり長年組み慣れた山根岡野ペアに対し、即席で今日初めて組んだ幸生太雅ペアでは、さすがに勝てる事ができなかった。
悔しがる太雅に、
「負けて当然。ずっとダブルスペア組んできてるあの二人に、シングルス一本できた太雅が敵うわけないよ」
幸生にしてはキツい言い方かもしれない。だが、それが事実だ。
太雅はその言葉に少し驚いたような表情を浮かべている。
「何?」
「おまえ……そんな風に言う事あるんだな」
言われてみれば、鉄郎に対してそこまでハッキリとした物言いをした記憶がない。
それはそうだ、自分は鉄郎が好きで、鉄郎に嫌われたくはない。キツい事を言って、もうペアを組まない、などと言われるのが怖くて言いたい事も言えなかったのだ。常に鉄郎を気遣い、鉄郎が気持ち良く楽しくプレーできるようにしていたのだから。
「そ、うかな……」
誤魔化すように視線を落とし、太雅から目を逸らした。
「鉄郎の時はいつもニコニコして、幸生が謝ってばっかりのイメージだったから、そんなピリピリする幸生は意外だった」
「ご、ごめん……」
遠慮のない物言いに太雅は気を悪くしてしまったかもしれないと思うと、申し訳なく思えてきた。
「いや、そのくらいの方が俺は良いと思う」
そう言って太雅は幸生の頭に大きな掌をポンと乗せた。
「ダメ出しもっとしてくれ」
太雅は優しい笑みを向けてきた。
ドキリ、と幸生の心臓が鳴った。太雅かそんな風に優しく笑う顔を見たのは初めてだった。
幸生は顔が酷く熱くなるのを感じ、何となく太雅と見つめ合う型になったが、
「なあー、今度は俺と沢渡くんと組ませて!」
岡野の声に互いの視線は、岡野に向けられた。
「面白そうだね、それ。組もうか、岡野くん」
幸生と岡野のペアは、ボレーを苦手とする太雅を前におびき寄せ、ストロークを打たせない作戦で見事勝利した。
太雅は相当悔しがり、そしてダブルスの面白さを知ったようだった。
今日ほどダブルスが楽しいと思ったのはいつ以来だろうか。ペアの顔色をうかがう事なく、言いたい事を互いに言え、伸び伸びプレーできる楽しさ。純粋にテニスを楽しむというのは酷く久し振りな気がした。もちろん、鉄郎とのダブルスも楽しい。ただそれは下心にも似た、鉄郎への想いがあってこそのように思えた。
その日から幸生は太雅と度々練習するようになった。