「何をしてるの?」
放課後、一人で国語準備室のソファで寝転がり自由気ままに過ごしている彼にそう尋ねた。
「花を書いているんだよ」
迷いなく答えた上ノ瀬くん。
「そー……、なんだ」
「うんそう」
そこで会話が途切れた。
彼は2年5組、私もいる教室の中で”変わり者”と呼ばれている。
周りからバカにされても、悪く言われても好きなことをしてる。
そんなまっすぐで、芯のある彼は教室の空気感とは違った雰囲気を持っている。
やりたいことはやる。
言いたいことは素直に言う。
そんな自由気ままな彼をよく思わない人もいるけれど、そんなことは気にしていないという風にいつも教室のど真ん中で堂々と座っている。
そんな彼を私はひそかに尊敬していた。
やっぱり、今日も上ノ瀬くんは好きなことをして自由気ままに日々を過ごしている。
なぜか1年の時から、上ノ瀬くんと関わることが多かった私は彼のそれに慣れているはずなのに、この気まずい沈黙になにか話さねばと話題を考えるけどこんな時に限って思いつかない。
先生から頼まれた大量のノートで腕がしびれるのを感じながら動けないでぼーっと伝っている私を見て、立ち上がりノートを取って机に置いてくれた。
「好きなことをしてるんだ」
もう一度、話した。
「うん」
相変わらず頷くことしかできない私に上ノ瀬くんは手を動かしながら
「綾野は?好きなこと……ある?」
質問に私の心臓はドキンッ、鼓動をうった。
好きなこと………。
ある。
絵を、マンガを描いて、たくさんの人に見せること。
「あるけどできないよ」
「どうして?」
彼は心底、不思議だというように首を横に傾げた。
無理だよ。もうあの時みたいにはなりたくないから。
小学生の時、私は絵を描くことが大好きで毎日どこでも描いていた。
人を書くのが好きで女の子や男の子を描き進めれば描き進めるほどにまるで生きているように変化していく絵が好きだった。
けど小学生の時、それがクラスの悪ガキのボスみたいな存在にバカにされた。
私描いた女の子や男の子はほかの子にとっては魅力的に映らなかったらしい。
悲しくて悲しくてその日以来、大好きだった絵を描かなくなった。
昔のことを思い出していると
「好きなことやらないの?」
透き通った声が私の心を刺激した。
「.............やらないよ」
「やりたくないの?」
「.............やりたくないよ」
「本当に?」
「本当に」
まるで私の心を見透かしてすべてを分かってるような瞳に怖くなって目を逸らす。
そんな私を見てソファに戻ってまた手を動かし始めた。
目の前には一輪の花があって、花と紙とにらめっこしながらなんでもないふうに言う。
「好きなことを止める権利なんて誰にもないよ。
綾野の時間は綾野のもの。綾野の好きなものは綾野だけのもの。
綾野の人生は綾野のもの。
好きなものを好きって言って何が悪いの?」
私の好きなものは私だけのもの。
……そっか。
当たり前。
誰もが当然として知ってることなのに言われた時、すっと心に響いてすこしだけ気持ちが楽になった。
「ありがとう」
怖い。またあの時みたいになるのは怖い。
けど、私の好きなものだから。
胸張って好きなことしたい。
そう思った。
静かな教室に、一輪の花ダリアが外の光に照らされて静かに輝いていた。
放課後、一人で国語準備室のソファで寝転がり自由気ままに過ごしている彼にそう尋ねた。
「花を書いているんだよ」
迷いなく答えた上ノ瀬くん。
「そー……、なんだ」
「うんそう」
そこで会話が途切れた。
彼は2年5組、私もいる教室の中で”変わり者”と呼ばれている。
周りからバカにされても、悪く言われても好きなことをしてる。
そんなまっすぐで、芯のある彼は教室の空気感とは違った雰囲気を持っている。
やりたいことはやる。
言いたいことは素直に言う。
そんな自由気ままな彼をよく思わない人もいるけれど、そんなことは気にしていないという風にいつも教室のど真ん中で堂々と座っている。
そんな彼を私はひそかに尊敬していた。
やっぱり、今日も上ノ瀬くんは好きなことをして自由気ままに日々を過ごしている。
なぜか1年の時から、上ノ瀬くんと関わることが多かった私は彼のそれに慣れているはずなのに、この気まずい沈黙になにか話さねばと話題を考えるけどこんな時に限って思いつかない。
先生から頼まれた大量のノートで腕がしびれるのを感じながら動けないでぼーっと伝っている私を見て、立ち上がりノートを取って机に置いてくれた。
「好きなことをしてるんだ」
もう一度、話した。
「うん」
相変わらず頷くことしかできない私に上ノ瀬くんは手を動かしながら
「綾野は?好きなこと……ある?」
質問に私の心臓はドキンッ、鼓動をうった。
好きなこと………。
ある。
絵を、マンガを描いて、たくさんの人に見せること。
「あるけどできないよ」
「どうして?」
彼は心底、不思議だというように首を横に傾げた。
無理だよ。もうあの時みたいにはなりたくないから。
小学生の時、私は絵を描くことが大好きで毎日どこでも描いていた。
人を書くのが好きで女の子や男の子を描き進めれば描き進めるほどにまるで生きているように変化していく絵が好きだった。
けど小学生の時、それがクラスの悪ガキのボスみたいな存在にバカにされた。
私描いた女の子や男の子はほかの子にとっては魅力的に映らなかったらしい。
悲しくて悲しくてその日以来、大好きだった絵を描かなくなった。
昔のことを思い出していると
「好きなことやらないの?」
透き通った声が私の心を刺激した。
「.............やらないよ」
「やりたくないの?」
「.............やりたくないよ」
「本当に?」
「本当に」
まるで私の心を見透かしてすべてを分かってるような瞳に怖くなって目を逸らす。
そんな私を見てソファに戻ってまた手を動かし始めた。
目の前には一輪の花があって、花と紙とにらめっこしながらなんでもないふうに言う。
「好きなことを止める権利なんて誰にもないよ。
綾野の時間は綾野のもの。綾野の好きなものは綾野だけのもの。
綾野の人生は綾野のもの。
好きなものを好きって言って何が悪いの?」
私の好きなものは私だけのもの。
……そっか。
当たり前。
誰もが当然として知ってることなのに言われた時、すっと心に響いてすこしだけ気持ちが楽になった。
「ありがとう」
怖い。またあの時みたいになるのは怖い。
けど、私の好きなものだから。
胸張って好きなことしたい。
そう思った。
静かな教室に、一輪の花ダリアが外の光に照らされて静かに輝いていた。