「はっぴぃーばーすでー、俺……」
俺——山城阿鳥《やましろあとり》は、公園で一人寂しく誕生日を祝っていた。
コンビニで買ったケーキを見つめて、会社の不平不満を頭の中でぶちまける。
残業終わりの深夜、当然ながら周囲には誰もいない。
「……25歳か」
いそいそとスプーンを取り出して、夜風を感じながら一口。
「んまっ……」
今の仕事を一言で表すならストレスだ。
ありえない量の仕事に、もらえない残業代。
パワハラ上司に命を削られる毎日。
初めは良かった。優しい上司もいたし、頼れる同期も。
ただ、前社長が事故で亡くなって、息子に成り代わった途端、経営がズサンになった。
一人、また一人と辞めていく中、俺は踏ん切りがつかなかった。
次の仕事が見つかるのかもわからない。それにまだ残っている人を見ると、全てを押し付ける気がして辞められなかった。
上からは責められ、下は可哀想で、一体どうしたらいいのか……。
そのとき、空に赤い光が見えた。
物体が、炎のようにメラメラと揺らめいている。
それはまるで蛇行運転を繰り返す飛行機のように、ゆっくりと落ちていく。
「なんだ? 何が燃えてる?」
よく見るとそれは鳥だった。鳥が、燃えている。悲痛の鳴き声が、今の俺と重なって見えた。
急いで追いかけると、公園の空き地に倒れ込んでいた。大きさは猫ぐらい、苦しそうに声をあげている。
……昔、資料で見たことがある。たしか、伝説の魔物、フェニックスだ。
「キュウン……」
美しい羽毛、赤や黄色の光を放って、綺麗な炎を纏っている。
常人なら近づくことすらできない熱波だが、幸い俺には何の問題もなかった。
「おい、大丈夫か?」
数十年前、世界各地にダンジョンが現れた。それ以降、人類は魔法が何故か使えるようになった。
俺が授かったスキルは【炎耐性(極)】。
初めは喜んだ。極というのは、レベルを表しているが、最上級のものだ。ありとあらゆる炎を無効化する。
だが、攻撃ができるわけではない。
初めは消防士を目指そうと思ったが、手から水を出せるやつもいる。ただ無効化できるだけでは、お荷物と変わらなかった。
つまり俺のスキルは役立たずだったのだ。
今やダンジョンの攻略は職業の一つで、素材やアイテムで一攫千金を得たやつだっている。
基本的にダンジョン外にモンスターが出てくることはない。
だが、極まれにこうやって外に飛び出すやつがいたり、何らかの理由で外で魔物が現れたりもする。
理由はわからないが、危険とみなされたらもちろん討伐対象となる。
「伝説級が……なんで怪我してるんだ?」
「キュイッ!」
羽根に触れようとすると、思い切り威嚇された。もしかすると、人間たちに追い回されたのだろうか。
同じ火のスキルを持つものとして、なんだか切ない。
助けたい、そんな気持ちで、声をかけ続ける。
「大丈夫だ。俺はお前を怖がらせたりなんてしない」
ようやく気持ちが通じたのか、フェニックスは鋭い目を和ませる。再び羽根に触れると、一部が欠けていることに気づく。
何らかの攻撃を受けて、羽根がズタズタになっている。だから飛行がままらなかったのか。
鋭いスキルでも打ち込まれたのだろうか。とても苦しそうだ。
モンスター病院もあるが、ここからじゃ距離がありすぎる。魔力が弱っていくのが、感じる。
俺には傍にいてあげることしか……。
「……ごめんな」
ゆっくり撫でていると、後ろから何か魔力を感じた。かなり強い、殺気の籠った魔力だ。
驚いて振り返ると、そこにはとてつもなくでかいオークが立っていた。
ありえない、なぜ公園に?
慌てて離れようとしたが、思いとどまる。俺がここから離れたらフェニックスが無残にも殺されてしまう。
……たとえ助からなくても、そんな死に方だけはさせたくない。
「くそ……やってやる」
戦闘については、昔何度か学校で教わったことがある。
大したことはできないが、時間を稼げば助けがくるかもしれない。
オークの叫び声で公園が震える。覚悟を決めて、胸ポケットにあった万年筆を取り出す。
「でかぶつが、かかってこい!」
「グガアアアアアアアアアア!!!! ……ガ……ガ……」
しかしとてつもない赤い光が飛び出し、それがオークにぶち当たると、どでかい穴が開いた。
オークは地面に倒れ込み地震のように震わせた。
驚いたことに、それを放ったのはフェニックスだった。
身体中に纏った炎を打ち出したのか、今はただの真っ白い鳥になっている。
「俺を助けてくれたのか?」
「キュウ……」
駆け寄って、フェニックスを抱き抱える、だが、俺の腕で亡くなった。
本当にできることはなかったのか? くそ……。
と、思っていたら——フェニックスは、徐々に炎を纏いはじめる。
小さな火が、やがて全身を覆う。
そういえば、聞いたことがある。
フェニックスは——死ぬたびに強くなる。そして、不死身だと。
「キュー!」
元気になったフェニックスは、バサバサと羽根を広げた。まるで熱い抱擁のように、俺の肩に乗る。
「心配して損したぜ……」
「キュウキュウッ!」
まるでキスをしているかのように、嘴《くちばし》で俺の頬をつんつん。
何度も、つんつん。
まるで、『すきすき!』と言っているかのようだった。
その後、オークを追いかけてきた探索者と呼ばれる人たちがやって来た。
彼らは俺の肩に乗っているフェニックスに気づくと声を上げて慌てふためく。
「あっちぃ!? すげえ熱波だ!?」
「フェニックスだと? マジかよ、伝説級の魔物じゃねえか……」
「なあ、どうして君は触れられるんだ?」
どうやら、フェニックスに近づくことすらできないらしい。
汗だくだし、なんだったら触れるだけで火傷してしまいそうだ。
「フェニックス、ひとまず俺と契約してもらえないか?」
「キュウ!」
言葉足らずだったが、どうやら理解してもらえたらしい。
「よし、スキル、炎中和《ファイアニュートラリゼイション》!」
俺はフェニックスの炎を俺の魔力と同期させた。今は見た目こそメラメラと燃えているが、俺の魔力を通しているので周りが燃えることはない。
元々は炎タイプの魔物をテイムするときに使うスキルだ。
今は仮だが、ひとまず問題はなくなった。
まさか炎耐性(極)が、こんな形で使えるとは……。
「すげえ……テイムしたのか? な、なああんた、触ってもいいか?」
「どうだろう……。フェニックスいいか?」
「キュイ? キュイキュイッ♪」
どうやら、触るだけならOKだよ、みたいな感じだ。
3人が羽根に触れると、フェニックスはくすぐったそうに鳴いた。
「すげえ、触っちまった!」
「俺、もう手洗わねえ……」
「後でSNSに書いていいか!?」
そこまでなのか? そこまで凄いのか?
「キュイ?」
何か、変な生き物に好かれちまったな……。
そして驚いたことに、彼らはA級探索者パーティだった。
逃げ出したオークを追いかけてきたらしく、怪我人が出なかったことをホッとしていた。
ただ、それよりもフェニックスに興味津々だ。その中のリーダーが、説明してくれた。
「オークの討伐は君の手柄になるだろう。それで、ランクはどのくらいだ?」
「あ、ええと……すいません……登録してないんです」
ランクとは、探索者の中で評価される順位だ。俺はそもそも資格を持っていない。
もしかすると、結構まずいんじゃないのか?
「嘘だろ……それでオークを……凄いな、君の魔物は」
「あ、いや、俺の魔物じゃないんですよね、なんつーか、懐かれただけみたいな」
「伝説級の魔物が懐く? 聞いたことがないぞ……」
どうやらかなり凄い出来事らしい。それと、嬉しいことにお咎めはなかった。
ただ、一ヵ月以内に手続きを済ませないとだめだとのことで、俺は探索者の資格を申請しなければならない。
問題は、それには多額の費用がかかるとのことだ。俺は……金がない。
「理由はどうあれ討伐するにはライセンスがいる。ただ、極まれだが、君みたいに順序が逆になる場合がある。この場合、特に費用はかからないよ」
「ま、まじすか!? じゃあ、タダってこと!? やったぜ、フェニックス!」
「キューン?」
朗報だった。探索者になるには本来、車の免許を取得するぐらいの金はかかる。それが無料というのはありがたい。
「ただ……」
しかし、リーダー格の一人がフェニックスを見て訝し気な顔をした。
「君の魔物ではないといったな?」
「え、えーとそうですね……懐かれてるだけで」
「その場合、俺たちが保護、もしくは討伐しないといけない。見たところフェニックスは温和そうだし、危険性はないだろう。そのため本来は保護になるんだが……わかるだろ? 君がいないと俺たちは近づくことすらできない。存在自体が危険となると……」
「もしかして討伐対象ってことですか!?」
「……そうなる可能性は高いな」
まさかだった。いや、彼の言っていることは至極当然だ。
フェニックスは俺と魔力を通わせているから被害が及んでいないだけで、もし炎耐性(極)がなければ、俺も触れることすらできなかった。
けど、討伐だなんてあんまりだ。
「どうにかならないんですか?」
「こればっかりはどうすることもできない」
くそ……ただ、俺は昔から仕事をやめて田舎に引っ越したいと思っていた。
そう思えば、フェニックスと一緒に都会を離れるのもありか?
魔物を飼った経験なんてないが、これも縁なのかもしれない。
きっかけ、か。
「なあ、フェニックス。俺とこれからも一緒にいないか?」
「キュイッ! キュンキュンッ」
フェニックスは俺の言葉がわかっているのか、嘴でまたキスをしてきた。痛い。
「ということになりました。すいません」
「いや、ありがたいよ。探索者は皆《みな》殺気立ってると思われるが、俺も温和な魔物は好きだからね。それに伝説級の魔物にお目にかかるなんて初めてだ。君は世界で初めてフェニックスをテイムした男になるだろう」
なんか凄いことを言われている気がする。後ろにいる二人の探索者たちも、なぜか握手を頼んできた。A級って、日本でも数パーセントしかいない凄い人たちだよな? そんな彼らが俺に羨望の眼差しを?
「けどフェニックス、うちは貧乏だからな。贅沢はできないぞ」
「キューン! キュイキュイッ!」
しかし何食べるんだろう。やっぱり鳥と同じかな?
「だったら動画配信なんてどうだ? 前にめずらしい魔物を配信している人を見たことがある。広告で金も稼げるだろう」
「配信ですか……」
さすがに疎い俺でも、何度か見たことがある。だが、フェニックスをお金儲けの道具として考えるのは申し訳ない。できるだけ対等の立場で過ごしていきたいと思っている。
「それはやめておき——」
「魔物は君が思ってるよりよく食べる。それに炎で魔力消費しているだろうから、その分食欲も凄いだろう」
「よし、フェニックス! 俺と配信がんばるぞ!」
「キュウ? キュッキュッ! キューン!」
首をかしげるフェニックスだったが、了解っ! と羽根をバサバサと広げた。
そうだな、一緒に頑張るんだ。それなら俺たちは対等だ。
「じゃあ俺たちはギルドに報告に行くよ。ありがとう、伝説の魔物をテイムした男よ」
「あ、ああ。色々とありがとう」
そうして俺は伝説級の魔物、フェニックスをテイムした男になったのだった。
「そういえば、フェニックス、さっきより魔力が上がってないか?」
「キュウ?」
────────────────
初めての現代ファンタジーにもかかわらず沢山の星とフォロワーが!?
まだまだわからないことだらけですが、楽しく書いて行きたいと思います!
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「お前がいると夜道が明るくて助かるよ」
「キュイ?」
俺の家の近くは街灯がない。古ぼけた一軒家の扉を開くと、中に入る。
ここは生前、叔父と住んでいたところだ。
幼いころから俺と二人暮らしで、亡くなる寸前まで仲良くやっていた。
「ただいま。まあゆっくりしてくれよ」
家の中では飛ぶと危ないとわかっているのか、小さな脚でとたとたと歩く。
こうしてみるとかなり可愛い。赤いアヒルっぽさがある。
ちなみに俺に両親はいない。幼いころ、事故でなくなったからだ。
叔父は体が悪く、学校が終わったらすぐに介護をしていた。
それもあってか、俺は人付き合いが悪いとみなされてしまって、友達ができなかった。当然、彼女はいない。
だが、今日は違う。
「キュイキュイッ♪」
「はは、俺の家気に入ってくれたのか」
嬉しそうに表情を和ませるフェニックス。言葉は通じないが、心は通じ合えている気がする。
そういえばなんて呼ぼう?
フェニックスというのは恰好いいが、名前ではない。人間、猫、犬みたいな分類だ。
「キューン?」
炎を守っているからメラメラ? うーん、でも可愛いんだよなこいつ。
炎を纏っているだけで身体自体は白いしな。羽根も触ってみると、うん、もちもちだ。
「よし……今日からお前は『おもち』だ。……いいか?」
「キュン! キュンキュンッ!」
嘴のキス連打。結構痛いんだよなこれ。でも、どうやら喜んでくれているらしい。
「おもち!」
「キュン!」
「君はおもちだ!」
「キュンキュンッ!」
嬉しそうで俺もほっこりする。
本当のおもちも、俺は大好物だしな。
「しかし、羽根が結構汚れてるな。生まれ変わったからか?」
先に飯を食べようと思ったが、まずは綺麗にしてからがいいか。
さすがに手を洗ってからというわけにもいかないしな。
風呂のタイマーをセットして、その間におもちと遊ぶ。
羽根が柔らかくて気持ち良い。
しかし、死んでも生まれ変わるってどういう構造してるんだ?
見たところ、記憶も受け継いでいるっぽいしな。
「おもちはやわらかいなあ」
「キュウ?」
『ピロピロリン♪ お風呂が、湧きました』
「お、よし風呂に入るぞ、おもち」
「キュン!」
◇
「最悪だ……」
「キューン……」
どうやらガスが壊れていたらしい。いや、ガス代が未納だったか?
死ぬほど働いているのに、なんで俺はこんなに貧乏なんだ。
何度かこういうことがあるので、慣れてはいるが、さてどうしようか。
「……風呂は今度にするか?」
「キューン……」
「そうだ。おもち、ちょっといいか?」
その時、ナイスアイディアを思い浮かんだ。少し申し訳ない気持ちもあるが、これもおもちのためでもある。
一次的に、炎中和スキルを解除する。
途端に、メラメラと炎が燃え盛る。
「よし、おもちいまだ! 風呂に入ってくれ!」
「キュキュキューン!」
おもちは思い切り湯舟にダイブ。
すると俺の予想通り、風呂が一瞬で熱くなる。
間髪入れず、炎中和スキルを発動っ!
「キュキュ〜♪」
「おっ、いい温度か?」
入ってみると、かなり良い温度だった。炎耐性がある俺は、何度かわかる。
これは43度だ。少し熱くて、なおかつ心地が良い。
「最高だな、おもち」
おもちも大満足。ガスの契約も切っちまうか、なんて。
「おもち、身体を洗ってやるぞ」
湯舟から上がると、おもちの羽根を洗おうとした。だが、固まってしまう。
「……シャンプーか? いや……ボディーソープなのか?」
わからない、どっちだ? 羽根って髪か? それとも身体か? 触るとふわふわだし、髪っぽさがある。
とはいえ、常識で考えると身体だ。
「どうしたらいい……‥俺は」
「キュンキュンッ」
するとおもちが、嘴でボディーソープをツンツンとした。
「やるな……おもち!」
しかし頭の部分だけはしっかりとシャンプーだったらしく、ボディーソープで洗ったら怒られた。
ごめん、おもち。あと、ちゃんとリンスもした。綺麗になれよ、おもち。
最後にバスタオルを使って、丁寧に羽根の水分をふき取る。
今さらだが、炎だけど水は大丈夫みたいだ。
もしかしたらお風呂に入って消えて死んでた可能性もあるのか。
でもまあ、おもちは復活するから大丈夫だな! うん、ごめん……。
綺麗にさっぱりしたところで、俺は冷蔵庫からうどんを取り出す。
貧乏なので、これが主食だ。
……つうか、おもちって何食べるんだ?
「なあおもち、うどん食べられるか?」
「キュウ?」
さすがにわからないか。とりあえずいつものように作ってみる。
小さな皿に取り分けると、おもちは嘴でツンツンっと不安そうにつついた。
しかしすぐに、「ズルルルルッ!」っと勢いよく啜る。それがなんとも気持ちが良い。
「おっ、いける口だな!」
「キュンキュンッ!」
だがおもちはまったく足りなかったらしく、家中のうどんを食べた。
安上りのようで、実は結構な食費だ。
これは確かに……早急に色々と考えないといけない。
食べ終わると、また俺の頬をつついた。いい加減穴が開きそうで不安だが、大丈夫だろうか。
「さて、寝るぞ」
ちなみに家には布団が一枚しかない。いつも寒くて風邪を引きそうだったが、今日はおもちがいるので暖かい。
もしかしてこれって、天然の羽毛布団じゃないか?
「おもちぃ〜ぎゅっ〜」
「キュッ?」
俺とおもちは、どうやら上手くやっていけそうだ。
先日の助言通り、俺は探索者の登録に来ていた。
といっても、本当に役所の手続きみたいな感じで、血沸き肉躍るみたいな雰囲気は一切ない。
残念のような、ホッとしたような。
「ありがとうございます。これで登録が完了しました。身分証は右手に魔法印を刻む方法、電子カード、もしくは紙でお送りすることが可能ですが、どうされますか?」
受付のお姉さんが、丁寧に説明してくれた。要は免許証みたいなもので、右手に刻んでおけば持ち運ぶ必要はないとのこと。
「それってタトゥーみたいに残るんですか?」
「いえ、いつでも取り消すことが可能です。ダンジョンへ行く際の読み取り時に印が浮かび上がるだけなので、普段は誰かに見られることもありません」
「でしたら、そちらでお願いできますか? あと、おもちなんですが……」
「はい、畏まりました。“おもち”……ですか? どんな魔物でしょうか?」
俺は手に持っていた大型犬のキャリーケースを見せる。
そこには、スヤスヤと眠っているおもちがいた。もとい、フェニックス。
「鳥の魔物、でしょうか? タイプは炎、種族は……あまり見慣れませんね」
「ええと、それが……まあ多分間違いないんですが、フェニックスなんです」
「フェニ……って、あの伝説の!? ええええええええええええ!?」
微動だにしなかった冷静なお姉さんが、椅子から立ち上がって叫ぶ。
椅子がガタンと音を立て、周囲の人たち、果てはほかの役員の人も何があったのかと近づき、皆《みな》おもちに驚いていた。
「あ、あの解析させてもらってもいいですか? 手をかざして、個体を調べるだけなので」
「もちろんです。構いませよ」
すると後ろから若い男性が現れた。おもちに両手をかざし「ステータス、鑑定!」と叫んでいる。
なるほど、そういうスキルか。俺と違って随分と使い勝手が良さそうだ。
そしてやはり、おもちはフェニックスで間違いがなかったらしい。ただ、本社に問い合わせところ、不明点が多く、登録完了までに相当な時間がかかった。
ゆっくりと眠っていたおもちも目が覚めてしまい、退屈そうにしている。
「キュウ……」
「ごめんな、もう少し待ってくれるか?」
ようやく終わったころ、既に夕方になってしまっていた。
「すみません、時間がかかってしまって。滞りなく完了しました。居場所がわかるようにレーダー特定の魔法をかけさせてもらうことになっていますが、おもちちゃんは大丈夫でしょうか?」
「おもち、いいか?」
「キュウ!」
「大丈夫みたいです」
「凄い、意思疎通が出来てるんですね……」
「いや、なんとなくわかる程度ですよ」
完全に登録が完了。晴れておもちは俺の管理のもと、家族の一員となったのだった。一応、世間的にはテイム。
ただ、最後に「おもちちゃんは今まで例がないほどの魔力を秘めています。今後法律改正もあるとの噂で、魔力が高ければ高いほど飼育の環境が厳しくなる可能性があります。まだ整備が整っていないので、そのあたりはわかりかねてしまいますが」と、釘を刺された。
わかりやすくいうと、ライオンを飼うには鎖が必要だったり、檻が必要だ。それと同じで、脅威とみなされた場合、一軒家では飼えなくなるかもしれませんよ、とのこと。
まあそれはそうか。それまでに——。
「早いとこ田舎でのんびりしようか、おもち」
「キュウッ!」
役所から出た瞬間、おもちをキャリーから出すと、翼を広げて高く舞い上がった。
とても気持ちが良さそうだ。
少し浮遊してから戻ってくると、満足そうに笑顔になっている。
「よし、帰るか。あ、そうだな……この後、初めての配信をしてみないか? さっきスマホでも出来るって、お姉さんから聞いたんだ」
コクコクと頷くおもち。ありがとうなとお礼を言って、帰りにうどんを大量に購入した。
いくら安いとはいえ、このままでは数ヵ月持たない。おもち、頼むぜ!
◇
「といったものの、何をすればいいんだ?」
「キュウ?」
仲良く並んで首を傾げる。配信なんてしたことがない。
うーん、しかしおもちの良さを引き出せばいいはずだ。
おもちは……なんというか可愛い。
モフモフだし、美しい毛並みをしている。それでいて炎を纏っているので、格好良さもある。
導き出される答えは……。
「撮るぞ! おもち!」
「キュウッ! キュウキュウ!」
「出来たぞー、ほらザルうどんだ」
格好よさと可愛さを出すには、うどんを食べる姿を見せるのが一番だ。合ってるか? 合ってるだろう。
昔から俺はセンスがないと言われることが多いが、これにはリスターって人たちも満足だろう。あれ、リスナーだっけ?
とりあえず生配信ってのを押してみる。
アカウントは先日作っておいた。
名前『おもちフェニックスと俺の日常』
ばっちりだ。さすがにセンスが良すぎるだろ俺。
さて、開始っと……おお? 一人、二人、三人、結構増えていくな。
「初めまして、山城阿鳥《やましろあとり》25歳です。今は会社員をやっていて、趣味はゲームで——」
『おっさんかよ、見る気無くしたわ』退出しました。
『フェニックスって書いてたから期待したら、おっさんの日常じゃねえか』退出しました。
『氏ね』退出しました。
って、おい!? 最後は流石に言いすぎだろ!?
「もう辞めたい……」
って、ダメダメだ。逃げちゃダメだ。
確かに俺の自己紹介から始めるのはそりゃ悪手じゃろ蟻ンコ!
まずはおもちを紹介せねば。幸い、まだ一人残ってくれている。彼、もしくは彼女のためにも楽しませるんだ!
「と、すみません。俺の紹介はこのぐらいにして、さっそく主役の登場に参ります。フェニックスこと、おもちの登場でーす!」
「キュウーーー!」
おもちは元気よく翼を広げて現れた。赤くて綺麗な炎を纏っている。ただ、少し眩しいので光量の調節をした。
俺のナイスサポートだ。
『え? 本物のフェニックス?』
どうやら残っていた一人が驚いている。ふふふ、そうだろうそうだろう?
それから色々と羽根のことや炎の紹介をしていると、次々に人が増えてきた。
『ガチ? 合成?』『おもち、かわいかっこすぎるんだがw』『人間の言葉がわかってるような動きで萌え』
おお、いいぞいいぞ。コメントが増えている。次にお腹が空いたらしいので、うどんを食べてもらった。
つるつると啜るその姿は、格好よく、そしてかわいい。
『フェニックスってうどんが主食なの?』『器用でかわいいw 美味しそう』『ASMR配信よろ』
『チャンネル登録しますたw 毎日更新よろw』『主は炎耐性あるのか?』
概ね好評だ。ASMRってなんだ? 会いたい寂しいまだまだランボー? まあいいか。
おもちは食べ終えると、俺の頬にツンツンとキスをした。いつものご馳走様だ。
『食べ終わったらキスとか可愛すぎるだろwww』『フェニックスって狂暴って話だけど、だいぶ賢そうだな。てか、伝説級をテイムしたってことか? 凄すぎない?』『主とおもちはどこで出会ったの?』
なんとなく要領がわかってきたので、丁寧にコメントを返していく。俺とおもちの動作がシンクロしてるらしく、それも好評だった。
『シンクロナイズドスイミング』『もう二人でオリンピック出ろ』『これおもちが主をテイムしたんだよね?』
そうして好評のまま、配信は終盤。最後にまた頬をツンツンとしてきたので、俺は頭を撫でた。
「では、ありがとうございました。ばいばーい、あ、チャンネル登録お願いします!」
「キューイキュイ、キュイキューウ!」
『仲良すぎw』『もはやおもちが撮影して、人間をペットにしてる説ある』『うどんじゃなくてステーキ食べさせてあげてくれ』『楽しかったですw アーカイブ残してくださいね』『もしかして俺たちは伝説の一夜を目撃したのか』
最後までコメントで溢れていたので、大成功だろう。
終了ボタンを押して、おもちにありがとうと伝えると、嬉しそうに声を上げた。
「ありがとな、おもち」
「キュウ!」
そして翌日、目を覚ますととんでもないことが起きていた。
「おもち……再生回数、とんでもないことになってるぞ」
「キュウ?」
昨晩のおもちとの生配信をアップロードしていたのだが、コメントや再生回数が凄まじかった。
初日でこれは上々じゃないか?
収益化ってのもしないといけないらしいが、ひとまず大成功としていいだろう。
ただ、コメントで『おもち可愛すぎるけど、主いる?』みたいなのがあってちょっとショックだった。
いや好意的なほうが多いんだけどね。
「ツンツン」
「ありがとう、おもちは俺の気持ちをいつもわかってくれるね」
時計を見ると既に7時を回っている。休みも終わりなので、仕事に行かなければならない。
「おもち、ご飯は置いとくから好きに過ごしてくれ。ただ、外は出ないでくれよ」
コクコクと頷くおもち。まあ、大丈夫だろう。
行ってきます!
◇
「ぐがあああああああああああ、疲れた」
午後になって休憩室の机に突っ伏すと自然と声が出る。
なんだこの仕事の量? ありえなくないか?
「あー! いー! うー! えー! おー!」
その横で同じように叫んでるのは、同期の一堂御崎《いちどうみさき》。
発生練習ではなく、ストレス解消だと本人はよく言っているが、俺よりもうるさい。
ちなみに見た目は黒髪ロング、スタイル抜群で可愛い。
モデルも出来そうなのに、なぜかこの仕事をやっている。ただ、性格は変人。
「なあ、御崎」
「ううー、なあにー……。会話すると体力奪われるんだけどー」
俺と同じで、随分とお疲れの様子。というか、この会社にいる人で元気なやつはいない。
「わかった」
「……気になるでしょ」
「いや、いいや」
「はよ言わんかいっ!」
「元気いっぱいじゃねえか……。御崎はいつまでこの仕事続けるんだ? 俺と違っていくらでも働き口あるだろ?」
御崎はさらに高学歴だ。それなのになぜここにいるのか(二回目)。
「じゃあ、阿鳥は?」
「質問を質問で返すなよ」
「答えてよ」
なぜか真剣な表情で俺を見つめる。こういうところが、昔からよくわかんないんだよな。
「後輩にまだ仕事も教えないといけないし、今ある仕事を放りだすのもな。もう少し後かな、まあでも、本当にもう少し」
「……ほんとバカ」
「ん? 今、バカって言わなかったか?」
「バカでしょ。阿鳥っていつも自分のこと優先しないよね。口を開けば誰かのために〜って」
「そうか? うーん、そうか?」
「そう、じゃあ仕事に戻るね」
「おい、俺の質問は?」
御崎は俺を無視していく。まったく、あいつも責任感強い癖に。
「……阿鳥がいるからいるに決まってるでしょ」
去り際、なんか言っていた気がするが、ボソリとしていて聞こえなかった。
仕事に戻って書類を片付けていると、昼過ぎにうちの社長が現れた。
出勤時間なんてあってないようなもので、いつも気分でふらっと現れる。
「うす、やっとるかーお前ら」
そのくせ誰よりも早く帰るので人望はない。ないない尽くしの社長だが、金はある。
まあ全部、先代社長のおかげだが。
「おはようございます、社長」
「おーう、阿鳥、相変わらずボケっとしてんなー。ん、御崎ちゃんは可愛いねえ、そういえば得意先の接待、場所決めてくれたの?」
「随分と前にメールを送らせていただきましたが」
「そんなの見てないし、気づかないよ。何通メール来ると思ってるの? 電話、してよ、で・ん・わ」
社長はまず男社員に対して軽い暴言を吐き、次に御崎に対してちょっかいをかけにいくのがルーティン。
いつもセクハラまがいの言葉をかけているので気になっているが、御崎も弱い女ではないので適当にあしらっている。
だが今日ばかりはなんだか様子が変だ。
この匂い……社長《こいつ》マジか?
「御崎ちゃーん、ねえ、聞いてるぅ?」
「社長、もしかして……お酒飲んできたんですか?」
御崎の言う通りだ。ありえねえ……。ぷんぷんとオフィスに漂っている。
後輩たちも顔を歪めていた。
「違う、違うよお。昨日は接待でねえ、それが残ってるんだよ。だったら、とりあえず水、水持ってきて、ほーらっ」
「肩を触らないでもらえますか。それ、セクハラですよ」
「セクハラっていうのは、こういう——」
「社長、流石にやりすぎです」
あろうことか社長は、御崎の胸に手をかけそうになった。
それに気付いた俺は、社長の手を掴む。
「おい阿鳥、何だこの手?」
「水は俺がいれるんで、社長室で待っていてください」
「あ? てめえ、なんだその生意気な口はよお?」
しかし俺は一歩も引かなかった。社長は舌打ちをする。
「ちっ、急いで持ってこいよ。阿呆《あほう》鳥」
俺の肩をポンポンと叩いて去って行く。殴られでもしたら流石に辞めてやるところだったが……そのあたりのラインは絶妙に理解してやがる。
「ねえ、なんで助けたの?」
「俺が我慢できなかっただけだ」
「別に私一人でも対処できたのに」
「そうか、悪かったな」
「……ありがと」
めずらしく御崎にお礼を言われた。しかし、本当になんでこの仕事を続けてるのかはわからない(三回目)。
◇
「失礼します」
約束通り水を置いて社長室に入る。すぐに出て行こうとしたら、引き留められた。
「阿鳥、お前ダンジョンに行ったことあるかあ?」
「……はい? ないですけど」
「ったく、お前はとことん使えないやつだなあ。せっかく取引先がダンジョン事業で買い取り業始めたのに、どいつもこいつもボンクラじゃねえか」
「それって、広告業をしているうちと関係ありますか?」
「バカだなお前は。取引先からノウハウをパクればそのまま別で使えるだろ。いい加減その脳みそ変えてこい」
自分もダンジョンに行ったことない癖に……。
「そういえば御崎のやつ、スキルかなんか持ってるっていってたよなあ。後で履歴書見直してみるか。なんだ? 何時までいるんだ? とっとと消えろ」
「わかりました」
……あいつ、御崎に行かせるつもりか? それは流石に……。
オフィスに戻ってみたが、彼女はもういなかった。おそらく仕事先に営業に出かけたんだろう。
電話でメッセージを残しておいたが、連絡はない。
「あいつ、スキルなんて持ってたのか」
ますます変だ。何かはわからないが、普通スキル持ちは優遇されるので引く手あまたのはずだ。ただ(俺の炎耐性(極)は別)。
本当になんでこの仕事を続けてるのかはわからない(四回目)。
仕事を終えて自宅に戻る前、コンビニでうどんを大量に購入した。
おもちのことを考えると、思わず頬が緩む。
「めちゃくちゃ喜ぶだろうなあ」
しかし、ドアの鍵を開けようとしたら、中から音が聞こえた。
なんだか、悲鳴のような声だ。
ドアノブをひねると、鍵が開いていた。
「おもち!?」
めずらしい魔物は、たとえテイムされていたとしても高値で取引されていると聞く。
もしかして、おもちが!?
不安で心臓が高鳴る。
次の瞬間——。
「あっはは、ほらほら♪ ほいっ♪ わーぱちぱち♪」
「キュウ♪」
だがそこにいたのは、スーツ姿のまま上がり込み、チーズをおもちにあげている御崎だった。
「御崎、何してんだ……」
「えへへ、お邪魔してーまーす!」
「キュウー!」
いつのまにおもちと仲良くなった? というか——。
「どうやって家に入った? 鍵、閉まってただろ」
「さあて、どうしてでしょーかー?」
「って、お前、酒飲みすぎだ……」
「飲まなきゃやってらんねえってよお! もう!」
地面には、いくつもの酒瓶が転がっていた。普段は飲まないはずだが、何かあったな……。
「とりあえず、片付けるぞ。後、おもちに酒は飲ませてないだろうな?」
「そんなのしないよおー、あなた、おもちゃんって言うんだ。かわいいねー♪」
「キュウキュウ♪」
チータラを美味しそうに頬張るおもち。何か、何だこの気持ち、もしかして、嫉妬《ジェラシー》!?
なんだか知らないが、NTRた気分だ。
俺のおもちをよくも!
「おもち、うどんあるぞ!」
「キュウ!」
「しかもたっぷりだ! かけうどんも、ざるうどんも、なんだったら野菜うどんも作れる!」
「キュウキュウ!」
ふふふ、勝ったな。……なんて、ご飯で釣ってるだけだが……。
正直、御崎がおもちと仲良くなっている姿は嬉しかった。
もし俺に何かあった場合、彼女ならなんとかしてくれるだろう。
「おもちゃーん、チーズだよお」
「キュウキュウ♪」
とはいえ、勝手に家に入るのは違うな。
◇
「で、聞かせてもらおうか。何があった? んで、どうやって入ったんだ?」
おもちにうどんを大量にあげた後、御崎に問い詰める。
水をあげたのでようやくアルコールが抜けてきているみたいだ。
「頭痛い……前に言ってなかったっけ? 私の魔法スキル。体調で増減はあるけど、半径数メートルなら、自由に物を動かしたりできるの」
「それで鍵を開けたのか?」
「そうだけど、ちゃんと閉めといたでしょ? 変な人が来ないようにね」
「変な人はもう侵入してるけどな」
「どこに?」
「わからないならいいです」
「ホラーみたいなこと言わないでよ。おもちゃんが怖がるでしょー」
「おもちちゃんな」
そういえば驚いた。社長《あいつ》も御崎がスキル持ちだといっていたが、そんな超能力みたいな魔法だったとは。
炎耐性(極)の俺なんかより随分と使い勝手も良さそうで羨ましい。
「でも理由にはなってないぞ。何でここに来た?」
「……知りたい?」
「当たり前だ」
「はあ……社長から電話があったのよ。お前のスキルで、ダンジョンの護衛を務めろーって、じゃないとクビだって」
「はあ? あのバカ社長まじか……」
ダンジョンというのは一攫千金の夢があるが、相応の危険を伴う。
今でこそ攻略情報や戦闘訓練に覚えがある人も多いが、最初は死人が絶えなかった。
そんな危険な場所に、御崎を行かせるだと?
「で、なんて答えたんだ? まさかお前、行くつもりか?」
「だってクビになるかもしれないし、仕方ないじゃん。死ぬ前に阿鳥の顔、見ておこうと思って」
「……俺はともかく、御崎はクビなんか痛くも痒くもないだろ。天秤にかける必要すらない。もうこの会社を辞めたほうがいい」
「ふーん、じゃあ私が会社からいなくなっていいの?」
「いやその……会社の戦力としては困るが……」
「バカ!」
「な、なんだよ!?」
酒瓶を投げてくる御崎。見事にキャッチしたが、とてつもなく危ない。
なんで怒られるんだ……。
「そんなこと聞いてない! 戦力とか乙女に言わないで!」
「はあ? なんだよまったく……」
「おもちゃん、男はねええバカだよお、駄目よ、あんな人になったらあ」
「キュウ?」
おもちに変なことを吹き込むな、と思ったが、御崎が危険な目に合うのは嫌だ。
さすがに潮時かもしれないな……。
「御崎、お前、動画ソフトとか編集とか得意だったよな? 会社でも担当してただろ?」
「はい? 何の話?」
「いいから、答えてくれ」
「もちろんそれなりにできるけど」
「よし。御崎、俺と一緒に配信者にならないか?」
「……はい?」
◇
「は、初めまして、ミサキです。そして、おもっちゃんの登場でーーす!」
少しぎこちない笑顔の御崎。
俺はカメラを片手に、彼女を撮影していた。
その横からテクテクと歩いてくるのは、我らがヒーローおもちだ。
生配信だが、前回バズったこともあって、コメントもすぐに増える。
『あれ、主がTSした?』『誰この人? 美人すぎるんだが』『おもちが擬人化したかと思ったら違うかった』
まだ困惑気味だ。けれども、次第に肯定的なコメントが増えていく。
とにかく、御崎が可愛いらしい。
『美人×もふもふ×最強』『これは神配信の予感』『全裸待機中』
「ではこれから、私とおもっちゃんで芸を披露します!」
「キュウー!」
御崎は魔法スキル『動かしてあげる《サイコキネシス》』を発動。
おもちのために買った輪投げのおもちゃが空中に浮かび、コメントが更に加速する。
『すげえ、なにこれスキル?』『美女×おもち×魔法=最強』『もしかしておもち、お前くぐるのか?』
何をするのか気付いている人もいるらしい。
といっても、家の中は狭いのでおもちには小さく羽ばたいてくれとお願いしている。
しかしテンションの上がったおもちは、思い切り羽ばたきはじめる。
「キュウー!」
「いくよ、おもっちゃん!」
御崎も呼応し、家の中は羽根と物がまき散らされる。しかし壊れそうなものは御崎がスキルで持ち上げてくれているので、それも空中に浮いていた。
次の瞬間、おもちは輪投げの輪の中にするすると入っていく。一つ、二つ、三つ!
『おもち天才すぎるw』『うちのペットにおもちをください。そして嫁にミサキをください』『おもちちゃんの羽根のプレゼント企画まだ?』『かわいすぎるううう』『賢い。頭を撫でたい』
次第に俺も見たことがない動きをしはじめた。
くるくると回転したり、お手をしたり、なんだったらジェントルマンみたいに羽根をさっと広げたりする。
「おもっちゃん、可愛いねえ」
『紳士的なおもちに乾杯』『これからはミサキとおもちの日常チャンネルでお願いします』『主も好きぞ。出てくれ』
最後に御崎がコメントに反応、俺が持っていたスマホを念動力《サイコキネシス》で持ち上げる。
「ほら、3人で撮ろうよ」「キュウキュウ」
二人に呼ばれたので、俺も前に出ることに。
『これが後に勇者パーティーになるってマ?』『主の彼女? 嫁?』『ほんわかしてて良き』
「えー、彼女はこれから俺の動画撮影のアシスタントをしてくれることになりました。宜しくお願いします」
「えええと、宜しくお願いしまーす!」
最後にテンションの上がった御崎は、おもちにとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、おもっちゃん、この空き缶に向かって炎のブレス!」
「キュウーーー!」
了解っ、というテンションで、口を開ける。いや、なに? え、炎のブレスってなに? そんなのあったっけ?
瞬間、俺の記憶にあのオークの出来事が蘇る。
どでかい腹に穴が空いて、一撃でオークが絶命した——攻撃。
まずい——っ!
「キュウウウウウウウウウ」
凄まじい速度と光が、空き缶を狙って発射される。そのブレスは鋭く、高魔力の炎に包まれていた。
真面に食らえば、この家、そして御崎も危険だ。
俺は炎耐性スキルを極限まで向上させると、家と彼女を守るためにブレスを身体で受け止める。
弾き飛ばされつつも、炎耐性(極)のおかげで事なきを得る。
「ぐ……おもち、家の中でブレスは禁止だ……」
「あらー、おもっちゃん、やりすぎちゃいましたねー」
「キュウ……」
『主が死んだwwwww』『なにこの映像www』『くそわろたwwwwww』
『炎耐性があってもこの威力、おもち最強説』『過去一わろた。収益化はよ』『これは伝説の動画www』
『破壊力えぐすぎる』『おもち、もう一発だ!』『攻撃、攻撃、攻撃!』
だが……コメントは大盛り上がりのようだ。俺の体調を気遣ってくれるやつがいないのは気になるが、配信者冥利に尽きる……な……。
「それじゃあ次回も宜しくお願いします。ばいばーい」
「キュイキュイー!」
御崎とおもちは、二人で手を振る。
俺は倒れながら手を挙げた。
『さよならwww 主www 来世でもよろしくww』『異世界転生〜おもちの攻撃を受けた俺は、来世でまったり生きます』
『最高だったw おもち可愛すぎ、ミサキ綺麗すぎ、主カワイソスギ』『次もまた楽しみにしています。ありがとうございました!』
『いい最終回でした』
はい、ありがとうござい……ました……。
翌日、スーツに着替え鏡の前に立っていた。
ピシッとしている姿も、見納めかもしれないな……。
「キュウッ!」
すると後ろからおもちが、ぽんぽんと羽根を当ててくる。
まるで、『お疲れ様でした』と言われている気分だ。
しゃがみ込んで、おもちの頭を撫でる。
「ありがとよ。それじゃあ、行ってきます」
朝七時、深呼吸して家を出た。
◇
会社に到着すると、ある異変が起きていた。
オフィスの奥、社長室からご機嫌な声が聞こえる。
そんなことありえない。いつも怒鳴り散らすか、愚痴をこぼしているからだ。
後輩に訊ねてみると、どうやらかなり大手の企業さんが取引で来ているとのことだった。
詳しくはわからないが、声からすると好条件な仕事なのだろう。ただ——。
「なんでこんな時期に?」
「さあ……。けど、随分と羽振りのいい話っぽいです」
そういえば彼女の姿はない。いや、もしかして……。
「御崎は?」
「ああ、先輩なら社長室に呼ばれました」
「呼ばれた?」
「はい、なんかダンジョ——」
俺は後輩の最後の言葉を聞かずに、急いで社長室に向かう。
あいつ……もしかして酔ってたから覚えてないのか?
扉を開こうとすると、社長《あいつ》の笑い声が聞こえてきた。
「いやあ! まさかですよ! そこまで会社《うち》を買っていただけていたとは!」
「いえ、こちらこそ。御社の広告は目を見張るものがあります」
(……どういうことだ?)
少しだけ様子を見ようと、小窓から覗き込む。
立っているのは、うちの社長、取引先のであろうスーツ姿の年配者二人、その間にいるのは——御崎だ。
「がはは! うちの御崎を好きに使ってくださいよ! 何でもしますから!」
社長が、御崎の肩をぬちゃぬちゃと触っている。表情が物語っているが、めちゃくちゃ怒ってるな。
「しかし一堂さんはダンジョンはまだということなので、あまり無理させたくはないのですが……こちらとしては広告を手伝ってもらうだけでもと思ってますよ」
「大丈夫ですよ! こき使ってやってください! なんだったら休憩なしでもいいですよ! なあ、ミサキ!」
「は、はあ……」
どうやら取引先の人たちは御崎を気遣ってくれている。なるほど、社長《あいつ》が一人で興奮しているだけだ。
よし……。
俺は胸ポケットに入っている封筒をスーツの上からぽんぽんと叩いたあと、扉を勢いよく開く。
「失礼します」
「ん? なんだ阿鳥? 何で入ってきた?」
俺が入室するなり、社長が眉を潜めた。御崎はただただ驚いていた。
「すみません、突然かもしれませんが、今回の仕事を承ることはできません」
「何言ってんだお前? 勝手に入ってくるな。関係ないだろう、失せろ!」
「関係あります。御崎は僕のパートナーなので」
「はあ? 何いってんだ?」
昨日、俺は御崎のことを誘った。これから二人、いや、おもちと3人で配信者としてやっていこうと。
その時は頷いていたが、もしかしたら冗談だと思われていたのかもしれない。
再度確認しなかった俺のミスだ。
「阿鳥……もしかして、昨日の話本気なの?」
「ああ、そうだ」
気持ちがようやく伝わったのか、御崎は訝し気な表情で訊ねてきた。
取引先の人には悪いが、今このタイミングで叩きつけてやる。
「すみません。すぐ終わるのでいいですか? ——社長、話があります」
「おい 阿鳥! 今すぐここからでていけ!」
相変わらず粗暴な口調だ。取引先がいるにもかかわらず、まともな敬語すら使えない。
それだけでは飽き足らず、俺の胸ぐらを掴んできた。
……最後だ。もう我慢しなくていいだろう。
「お前、いい加減にしろよ」
「……ふえ?」
今まで言ったことのない口調で凄み、乱暴に腕を弾き飛ぶすと、社長《こいつ》は情けない声を出す。
「今までずっと我慢してきた。お前の無茶な仕事にも、セクハラにも、モラハラにも。けどそれはお前のためでも、会社のためでもない。ここで働いていた、働いている皆のためだ」
「な、な、な、な! 俺に向かって、な、ななんて口を——」
「だがもう限界だ。御崎は俺の大切な同僚で、お前の駒じゃない。休憩なしで働かせるだと? ふざけるなよ。——御崎は俺がもらっていく」
「は、はあ!? 何を言ってる貴様!」
社長の叫びを無視して、御崎に手を伸ばす。
「御崎、昨日の話は本気だ。おもちと一緒に配信しよう。それでも足りなかったら、俺はダンジョンに行く。社長《こいつ》と違って、危険な目には絶対に合わせない」
「……本気?」
「ああ、本気だ。俺にはお前が必要だ」
全ての気持ちを御崎に伝えた。
しかし社長《バカ》が、間を割って入ってくる。
「お前、ふざけるな! 御崎は俺のもんだ! 俺の部下だ! てめえなんかに——」
「……阿鳥、わかった。じゃあ私も、我慢しなくていいや。——おい、この糞野郎」
「糞や……ふえ!? お、俺のことか!?」
御崎は思い切り社長の胸ぐらを掴んで、あろうことか片手で持ち上げる。
……その細い腕にどこにそんな力が?
「毎日毎日、口が臭せえんだよ! きやすくぽんぽん肩に触れやがって! 何が俺のものだ? てめえ、殺すぞ!」
「み、御崎、落ち着くんだ。な、な!?」
「ひ、ひいやあああ!?」
社長を殺さんとばかりの勢いで詰め寄る御崎。社長《バカ》は怯えて情けない声を出している。
「もし、道端で見つけたらぶち殺すからな! わかったああ!?」
その瞬間、御崎は『動かしてあげる』のスキルを発動。ありとあらゆる物が空中に浮かび、社長に対して鋭い矛先を向ける。
これには取引先、果ては社長はもはや怯えて声も出ない状況。
「あ、あ、あ、あひ、あひ、あひ、あひ」
もうこうなってくると、社長《バカ》のことはどうでもいい。
むしろここにいると取引先の人たちに申し訳ない。すいません、全く無関係なのにすいません。
僕が代表して謝ります。
「ったく、ぼけが! ——じゃあ、阿鳥、いこっか?」
「あ、ああ……」
おそろしい。おそろしすぎる。俺、御崎と本当にやっていけるのかな?
そして俺たちは辞表を叩きつける。てか、御崎も持ってたのか。
しかし社長《バカ》は、それを見て我に返ったのか、未練がましく文句をいいはじめた。
「あ、あほどもが! 消えろ消えろ! 辞めちまえ! お前らなんていなくてもなあ、うちには働き手がいっぱいいるんだよ! ゴミが!」
その瞬間、扉が開く。
現れたのは、同僚、そして後輩たちだった。
「俺もやめます」「私も」「俺もです」「私もやめます。こんな会社」
それには流石の社長も呼び止めて懇願しはじめた。
「お、おいお前たち!? なんでだよ、おい!?」
「阿鳥先輩、御崎先輩、今までありがとうございました。二人がいないなら、俺たちも働く必要がないです」
俺が面倒を見て来た後輩たちが、そう言った。社長は泣きべそをかきながら女々しくすがっているが、誰も話を聞かない。
こいつが一人で出来ることはない。会社は明日にでも大変なことになるだろうが、俺たちにはもう関係ない話だ。
「それじゃ、二度と会う事はないと思いますが。——すみません、せっかく取引にきてもらったのに、……申し訳ない」
「あ、ああ。大丈夫だが……」
最後に、取引先の人達に頭を下げた。本当の被害者は彼らだ。
こればかりは申し訳ない。
◇
晴れ晴れした気持ちで御崎と会社を出る。後輩たちとも、後日打ち上げの約束をした。
思う存分愚痴を言える会は、想像するだけでも楽しそうだ。
「御崎、すまなかったな。俺の勢いでこんな」
「私も我慢してたからね。あー、スッキリしたー。気持ちよかった!」
天高く手を伸ばしながら、嬉しそうに伸びをする御崎。
確かに気持ちよかっただろうなと納得してしまう。
「俺が何かやらかしても、あそこまで詰め寄らないでくれよ」
「さあ、どうでしょう? ——というか、ダンジョンの件、本当なの?」
「ああ、配信が上手くいかなかったらだけどな。一人でも素材集めはできるって聞くし。その辺はなんとか考えるよ」
「ふうん、ま、その時は私も手伝ってあげる」
「いや、それは話が違うだろ!?」
「パートナー、でしょ? それに、私のスキルの方が強いよ」
「ま、まあそれはそうだけど……」
大変なことになった。とはいえ、ダンジョンの攻略にはそれなりのお金が必要ともきく。
配信の機材も増やさないといけないな。
貯金はそんなにないし、当面は我慢の日々か……。
「あの、すいません」
「はい?」
後ろから声をかけてきたのは、先ほどの取引先の人たちだ。
……なんだろう?
「ダンジョンに行かれるんですか?」
「え? ああ、まだ確定ではないですが」
俺の答えを聞いたあと、彼らは笑顔になる。
「実は私たち、あなたと御崎さんと契約したかったんです。そして、おもちさんと」
「はい?」「え?」
聞き間違いか? 俺と御崎? え、おもちも!?
「実は私たち、こういうもので」
「はい。……え、大和会社って……あのペットアイテムとかで有名な?」
差し出された名刺には、超大手会社、大和の名前が書かれていた。
「ええ、そうです! 実はあなたの配信を見たんですよ!」
「配信って、え? 俺と御崎とおもちのですか?」
「はい! いやーとても面白くて、そして可愛くてびっくりしました。上司を説得し、契約をしたいなと思ってきたんですが、もうこの会社とは無関係なんですよね?」
「そう……ですね」
「良ければ、配信のスポンサーは必要ではありませんか? もちろん、契約金も弾みます」
手渡された契約書には、見たこともない桁の数が記載されていたのだった。
「おもち、カリカリ食べてみるか?」
「キュウ?」
おもちに、取引先からもらった『中はふわふわ外はカリカリ魔力フード』を食べてもらう。
美味しければ、次回は案件もお願いしたいという。
見た目はキャットフードに似ているが、匂いは非常に香ばしい。
「キュ……キュキュウ!」
「お、旨いか?」
「キュウ!」
美味しそうに頬張るおもち。
やはり大手ということもあって、魔物の好みを熟知しているみたいだ。どうやってるんだろう。
魔物をいっぱい飼ってるとか?
「ふむふむ……」
その横では、タイトスカートの御崎が契約書に目を通していた。
ちょっと目のやり所に困るな……。
「どうだ?」
「……驚いた。ありえないわ」
残念だが、やっぱりそうだったのか……。
取引先は大手。それが俺たちみたいなポッと出の配信者に連絡してくるわけがない。
桁は凄かったが、色々な制約があるのだろう。
あの場では決められなかったので、書類だけもらって自宅に帰ってきたのだ。
それに俺だけじゃなくて、おもちにも聞こうと思っていた。
言葉が通じなくとも、俺たちは一心同体。だが、この御崎がありえないというなら断るしか——。
「最高の条件。契約しない理由が一つも見当たらない」
「……へ? そっち?」
「全部に隈なく特約が盛り込んであるけど、それも私たちのためにしかならないし、違反金もない。おもちちゃんの保険だって付いてくるみたい」
「嘘だろ……見せてくれ」
重要な項目には、御崎がわかりやすく赤ペンでチェックしてくれている。やはり仕事ができる。
俺もざっと目を通してみたが、彼女が言うのならば間違いないのだろう。
配信は自由にできるし、なおかつ新作フードも無料で提供もされる。ただ、当然スポンサーとしての、魔物フードの紹介を定期的にしてほしいらしい。
その代わり、最高級の魔物保険にも入れる。文句のつけようがない。
「これは凄いな……おもち、フードは美味しいか?」
「キュウキュウ!」
もっと食べたいらしい。これはもう……決まりかもしれない。
俺は御崎に視線を向けたが、同じ気持ちだとすぐわかった。
「よし、おもち。俺たちにスポンサーが付いたぞ!」
「キュウ!」
「ふふふ、じゃあこれからは3人で頑張りましょうね。おもっちゃんっ」
そうして俺たちは会社を退職後、すぐに良いスタートを切ったのだった。
ちなみに余談だが、あの後、会社はかなり大変なことになったらしい。
更に社長《バカ》の使い込みが発覚、経理のほうから詰められ、株主からも責められ刑事告発にまで発展しているそうだ。
これが俗にいう『ざまあ』ってやつか。
まあ、今はもうどうでもいいが。
◇
数日後、無事に契約も終えたことで、大和会社から新発売の『ちゅおチューオ』が届いた。
どろり濃厚ササミ味、魔力も補給できる優れもの。
ただ、人間が食べすぎるとお腹を壊すらしい。
「お久しぶりです。色々あって配信が遅くなってすみません」
久しぶりの生配信。お腹は少し痛いが、なんとか我慢できている。
御崎はお休みだ。会社を辞めたことを実家に説明しにいくので、泊まって帰るとのこと。
つまり俺とおもち、伝説のコンビの復活だ!
『ミサキちゃんは?』『なんだ、主の回か……』『ええい、おもちはまだか!』『おもち、おもち、おもち! 嘘、主も好きだよ』
どうやら俺より二人のほうが人気らしい。ぐすん、悔しい……。
しかし視聴者の望みを応えるべく、すぐにおもちを呼んだ。
「キュウー!」
段々とおもちもこなれている気がする。羽根は手みたいに動いてるし、人間味もある。
日に日に賢くなってるな。来年には俺がおもちのアシスタントになってるかもしれない。
……いや、今もそうか?
「今日は実は皆さんにお知らせがあります。なんとなんとあの有名大和会社から、新発売の改良型『ちゅおチューオ』を頂きました」
『まじ!? 買おうと思ってたから気になる』『改良型か。うちの魔物に買うか悩んでるんだよね。味のレポ頼む』『おもちなら信用できる!』
案件動画ということもあって、もしかしたら嫌がるかもしれないと思ったが、コメントに一切否定的なのはなかった。
それだけ『ちゅおチューオ』、果ては大和会社が人気だということもあるだろう。
「ではさっそくですが、おもちに食べてもらおうと思います」
丁寧に袋から取り出し、先っちょをハサミで切る。
にゅるっと飛び出してきたのを皿にとりわけ、食べやすいようにおもちの高さに合わせた。
「キュキュ! キュウー!」
一気にテンションはマックス。
びっくりするぐらい美味しそうに食べ続け、さらにコメントが増える。
『テンションあがりすぎw』『キマってねえか!? そんないい匂いなんだ』『おもち嬉しそう。それっていくらするの?』
俺はそれから、値段、発売日、成分表を紹介した。その間も、おもちは美味しそうに皿まで舐めている。
フェニックスは意外にも表情が豊かで、喜怒哀楽もある。
今は本当に幸せそうだ。
ちなみに、ASMR用のマイクをおもちに装着していた。これは御崎の案だ。
最初は何か知らなかったが、彼女のおかげで俺の配信レベルもアップデートしている。
『癒されるンゴ』『おもちの食べっぷりいいね。俺も食べてみたい』『うちの魔物が画面舐めはじめたんだがw』『持ち運びも良さそうだね』
ちなみに人間も食べられると説明しておいた。ただ、食べ過ぎるとお腹を壊すと、自分の腹をさすりながら説明した。
あと、味はいけるゾ。
『ゆうて食べるやつはおらんだろw』『流石にそれは心配しすぎw』『もしかして主の体験談?』『お腹触ってない?』
ちなみにこのあたりのコメントは、スルーしといた。
そうして紹介が終わると、おもちは魔力の補充を終えたのか炎をメラメラと強く漲らせた。
フードのパワーもあるだろうが、魔力が強くなっている気がする。
『おもち強そう』『ダンジョンとかいかないの?』『正直、伝説級の魔物が戦う所を見てみたい』
ちなみにダンジョンに関してのコメントは多い。それについては御崎について調べてもらっている。
今後のお金の面でも、情報面でも必要だろう。
「よし、おもち新技いくぞ!」
『新技?』『何が見れる?w』『炎のブレスか!? 主、死ぬぞwww』『またあれ見たいww』
「キュウ!」
そしておもちは、綺麗な羽根をバサリと広げて、俺の手に重ねた。
「おて!」
「キュ!」
そう——『お手』だ。
犬や猫でお手は見たことあるだろうが、おもちはフェニックス。
これは前代未聞、世界初だ。しかし、どうだ……?
『かわいい……』『おもち、既に主のIQを超えた模様』『実はこれおもちがお手をしてるとみせかけて、主が“させられてる”んだよね』
『賢すぎるw』『ワイもおもちを飼いたい』
思った反応と違うのもあるが、可愛いというコメントが多い。良かった。
おもちと練習を重ねたかいがあった。
そうして動画は締めに。
「では新発売の改良型『ちゅおチューオ』でした。是非皆さん買ってください! リンクを貼っておきます!」
手を振る俺。おもちも手を振る。
『日に日に仲良くなっとるw』『おやすみおもち!』『おつ! 絶対買います!』『買占め禁止、転売禁止の文言もつけといてね』
『パッケージにおもち載せてほしい』『お疲れ様でした』