「お前がいると夜道が明るくて助かるよ」
「キュイ?」

 俺の家の近くは街灯がない。古ぼけた一軒家の扉を開くと、中に入る。
 ここは生前、叔父と住んでいたところだ。

 幼いころから俺と二人暮らしで、亡くなる寸前まで仲良くやっていた。

「ただいま。まあゆっくりしてくれよ」

 家の中では飛ぶと危ないとわかっているのか、小さな脚でとたとたと歩く。
 こうしてみるとかなり可愛い。赤いアヒルっぽさがある。

 ちなみに俺に両親はいない。幼いころ、事故でなくなったからだ。
 叔父は体が悪く、学校が終わったらすぐに介護をしていた。
 それもあってか、俺は人付き合いが悪いとみなされてしまって、友達ができなかった。当然、彼女はいない。

 だが、今日は違う。

「キュイキュイッ♪」
「はは、俺の家気に入ってくれたのか」

 嬉しそうに表情を和ませるフェニックス。言葉は通じないが、心は通じ合えている気がする。
 そういえばなんて呼ぼう?
 フェニックスというのは恰好いいが、名前ではない。人間、猫、犬みたいな分類だ。

「キューン?」

 炎を守っているからメラメラ? うーん、でも可愛いんだよなこいつ。

 炎を纏っているだけで身体自体は白いしな。羽根も触ってみると、うん、もちもちだ。

「よし……今日からお前は『おもち』だ。……いいか?」
「キュン! キュンキュンッ!」

 嘴のキス連打。結構痛いんだよなこれ。でも、どうやら喜んでくれているらしい。

「おもち!」
「キュン!」
「君はおもちだ!」
「キュンキュンッ!」

 嬉しそうで俺もほっこりする。
 本当のおもちも、俺は大好物だしな。

「しかし、羽根が結構汚れてるな。生まれ変わったからか?」

 先に飯を食べようと思ったが、まずは綺麗にしてからがいいか。
 さすがに手を洗ってからというわけにもいかないしな。

 風呂のタイマーをセットして、その間におもちと遊ぶ。
 羽根が柔らかくて気持ち良い。

 しかし、死んでも生まれ変わるってどういう構造してるんだ?
 見たところ、記憶も受け継いでいるっぽいしな。

「おもちはやわらかいなあ」
「キュウ?」


『ピロピロリン♪ お風呂が、湧きました』

「お、よし風呂に入るぞ、おもち」
「キュン!」

 ◇

「最悪だ……」
「キューン……」

 どうやらガスが壊れていたらしい。いや、ガス代が未納だったか?
 死ぬほど働いているのに、なんで俺はこんなに貧乏なんだ。

 何度かこういうことがあるので、慣れてはいるが、さてどうしようか。

「……風呂は今度にするか?」
「キューン……」
「そうだ。おもち、ちょっといいか?」

 その時、ナイスアイディアを思い浮かんだ。少し申し訳ない気持ちもあるが、これもおもちのためでもある。
 一次的に、炎中和スキルを解除する。

 途端に、メラメラと炎が燃え盛る。

「よし、おもちいまだ! 風呂に入ってくれ!」
「キュキュキューン!」

 おもちは思い切り湯舟にダイブ。
 すると俺の予想通り、風呂が一瞬で熱くなる。
 間髪入れず、炎中和スキルを発動っ!

「キュキュ〜♪」
「おっ、いい温度か?」

 入ってみると、かなり良い温度だった。炎耐性がある俺は、何度かわかる。
 これは43度だ。少し熱くて、なおかつ心地が良い。

「最高だな、おもち」

 おもちも大満足。ガスの契約も切っちまうか、なんて。

「おもち、身体を洗ってやるぞ」

 湯舟から上がると、おもちの羽根を洗おうとした。だが、固まってしまう。

「……シャンプーか? いや……ボディーソープなのか?」

 わからない、どっちだ? 羽根って髪か? それとも身体か? 触るとふわふわだし、髪っぽさがある。
 とはいえ、常識で考えると身体だ。

「どうしたらいい……‥俺は」
「キュンキュンッ」

 するとおもちが、嘴でボディーソープをツンツンとした。

「やるな……おもち!」

 しかし頭の部分だけはしっかりとシャンプーだったらしく、ボディーソープで洗ったら怒られた。
 ごめん、おもち。あと、ちゃんとリンスもした。綺麗になれよ、おもち。

 最後にバスタオルを使って、丁寧に羽根の水分をふき取る。
 今さらだが、炎だけど水は大丈夫みたいだ。

 もしかしたらお風呂に入って消えて死んでた可能性もあるのか。
 でもまあ、おもちは復活するから大丈夫だな! うん、ごめん……。

 綺麗にさっぱりしたところで、俺は冷蔵庫からうどんを取り出す。
 貧乏なので、これが主食だ。

 ……つうか、おもちって何食べるんだ?

「なあおもち、うどん食べられるか?」
「キュウ?」

 さすがにわからないか。とりあえずいつものように作ってみる。
 小さな皿に取り分けると、おもちは嘴でツンツンっと不安そうにつついた。

 しかしすぐに、「ズルルルルッ!」っと勢いよく啜る。それがなんとも気持ちが良い。

「おっ、いける口だな!」
「キュンキュンッ!」

 だがおもちはまったく足りなかったらしく、家中のうどんを食べた。
 安上りのようで、実は結構な食費だ。
 これは確かに……早急に色々と考えないといけない。

 食べ終わると、また俺の頬をつついた。いい加減穴が開きそうで不安だが、大丈夫だろうか。

「さて、寝るぞ」

 ちなみに家には布団が一枚しかない。いつも寒くて風邪を引きそうだったが、今日はおもちがいるので暖かい。
 もしかしてこれって、天然の羽毛布団じゃないか?

「おもちぃ〜ぎゅっ〜」
「キュッ?」

 俺とおもちは、どうやら上手くやっていけそうだ。