大変なのかな? ううん。大変じゃない。作ることに意義を感じちゃって、完成させる必死さがなくなっている。
それに、完成したところで、どうするの? これをどうしたいの?
私は、桃の言葉から、今陥っている自分の現況を振り返ってしまった
それはつまり――
「……私、完成させたくないのかも。作っている自分が好きになっちゃってるのかなぁ……」
「え?」
私は桃に吐露する。
今まで誤魔化していた自分が零れてしまう。
「ほら、祭りの準備って楽しいって言うじゃない? ずっと祭りなんか来なければ良い、ずっと楽しい準備をしていたい、てやつねぇ」
「そうなの? 祭りの方が楽しいじゃん。ずっと準備なんて疲れるよ?」
あまりにもストレートな言い方だった。桃らしいと私は笑みを浮かべる。
「うん、そうなんだよね。私、疲れちゃった」
八年間作り続けた。細部にもこだわっているので、完成は見えない。
それに、生活費も稼がないといけないので、エンジニアの仕事もやらなければならない。
仕事を辞める前よりも時間を使うことができているが、逆に完成までの道のりが遠ざかったような気もしていた。
何よりも、完成させたら終わってしまうと思っている。
「ある程度で完成させちゃったら良いのに。あ、でも、なにか考えがあるとか?」
考えなんか全く無いんだよねぇ。それにしても、桃は私の痛い所をグリグリと踏みつけてくる。
だけど、心地良いな。
変に気を遣われるよりも、正直な気持ちを言ってくれる方がありがたい。
「……じゃあ、アップしちゃおうっかな。なんか、このまま続けても、だらだらしちゃいそう」
「えぇ? どうしたの急に? 完成してないんじゃなかったの?」
そうなんだけどね。
でも、今まで私って、何に怖がっていたんだろう。
同居人の発言だけで、簡単に方向が定まってしまった。こんな簡単なことだったんだと、私は桃を見て破顔した。
「お、おう……素敵な笑顔しちゃって……じゃあ、アップする前に見せてよ! 気になる!」
「うん。じゃあ――」
私はパソコンを起動し、桃に制作中のアニメを見せる。
ボカロ動画を作っていた時はネット越しに評価を貰ったけど、生身の友人に見せるのが初めてで、何か恥ずかしい。
「すごい! 動いてる! ってか、ちゃんとCGじゃん!」
桃が感動している。私は今までに感じたことのない誇らしさが、胸の中に広がっていくのを感じた。
「ん? あれ? 声が無いよ? この女の子が主人公なんだよね?」
「うん。無声で作ったの。無声でも伝わるように工夫してるけど……どうかな?」
「そうなんだ。ふむふむ……」
画面の中で、綺麗な女の子が踊る。魔法を授かった女の子が、夜空に浮かび上がり、自分の矮小さと世界の大きさを知る。
「へぇ……まるで、ミュージックビデオみたい……」
またもや、痛いことを言われた。
私はアニメを作っているのであって、MVじゃない。
でも、そんな雰囲気はあった。要は、ボカロ動画から抜け出せていないのだ。
「これって、音楽はどうしたの?」
「え? うん、これは私が作ったかな」
「すごい、作曲できるんだ」
「まぁ、お遊びみたいなものだけどね……ほら、ボカロの流れでDTMもやってみたって感じ」
「へぇ……」
そして、桃はアニメーションをジッと見つめる。
真剣に、何かを探るようだった。
桃はいつもそうだ。何かに必死になって、情熱を傾ける。
大学時代から振り回されていたものだ。
会社を辞めた原因も、何だかんだ言っていたが、きっと組織では熱量が満たされなくなったのではないかと思う。
「変わらないな……」
ボソッと呟くが、桃は気付かない。
楽しかった日々が思い出される。忙しいだけじゃなく、そこに充実感と楽しさがあった。
仕事でもそう思えたけど、何故かある時を境にそうならなくなった。
仕事を辞めて、自分の好きなことをやるのは、全く違う充実感があった。
だけど、今は何かに追い詰められるように日々を過ごしている。
結局は変わらないのだろうか。
でも――
アニメーションが終わると、桃は鋭い視線を向ける。
「だめだよ。やっぱり、声を入れよう」
桃は自分を曲げない。そのまま本音をぶつけてくる。
「里央、これは逃げてるよ。逃げた作品になってる。人見知りの里央のことだから、どうせ声優を探したり依頼したりできないんでしょ?」
そして、私のことを知っているので、簡単に正解をぶつけてくる。
「あのね、里央。人見知りで人間嫌いなのはわかるけど、せっかくここまで仕上がったんだから――」
「桃。どうして私が人見知りで人間嫌いなのぉ?」
私が睨むと、桃は一瞬きょとんとした後、ぷっと吹き出した。
「あはは! 何を言ってるの!? 腹黒で人見知りで人間嫌いでどうしようもないくせに!」
「うぅ! この!」
「あいたたたた! いたひ! いたひ! ほっぺ、のびるぅ!」
何だろう、分かってくれる嬉しさって言うのがある。
ダメなところ、良いところ、それを飾りっ気なく示してくれる。
これが友達ってことなんだなぁ。
社会人になって、いつも距離感がバグってしまう。そして自己嫌悪に陥る。もう訳が分からなくなって、逆に人から離れてしまう。
その繰り返し。根本的に、人との絡み方が分からない。
でも、何故か桃やささらとは、素で話せた。
大学に入ったばかりの時、しがらみが無かったからかもしれない。
私は手を離して、桃の非難を躱すと、図星だった声優について真剣に考えることにした。
というよりも――
「桃、じゃあ手伝って。私、そういうの嫌いだからぁ」
「知ってる。じゃあ、やってやるか。里央の頼みだし」
そして、桃の手伝いで、ネットで探した声優さんにコンタクトし、そしてそれに伴ってアニメのシナリオも変更することにした。
何年ぶりだろう。前に進んだのは。
すると、桃がじゃあ、と声を上げる。
「せっかくだし、音楽も代えない?」
それに、完成したところで、どうするの? これをどうしたいの?
私は、桃の言葉から、今陥っている自分の現況を振り返ってしまった
それはつまり――
「……私、完成させたくないのかも。作っている自分が好きになっちゃってるのかなぁ……」
「え?」
私は桃に吐露する。
今まで誤魔化していた自分が零れてしまう。
「ほら、祭りの準備って楽しいって言うじゃない? ずっと祭りなんか来なければ良い、ずっと楽しい準備をしていたい、てやつねぇ」
「そうなの? 祭りの方が楽しいじゃん。ずっと準備なんて疲れるよ?」
あまりにもストレートな言い方だった。桃らしいと私は笑みを浮かべる。
「うん、そうなんだよね。私、疲れちゃった」
八年間作り続けた。細部にもこだわっているので、完成は見えない。
それに、生活費も稼がないといけないので、エンジニアの仕事もやらなければならない。
仕事を辞める前よりも時間を使うことができているが、逆に完成までの道のりが遠ざかったような気もしていた。
何よりも、完成させたら終わってしまうと思っている。
「ある程度で完成させちゃったら良いのに。あ、でも、なにか考えがあるとか?」
考えなんか全く無いんだよねぇ。それにしても、桃は私の痛い所をグリグリと踏みつけてくる。
だけど、心地良いな。
変に気を遣われるよりも、正直な気持ちを言ってくれる方がありがたい。
「……じゃあ、アップしちゃおうっかな。なんか、このまま続けても、だらだらしちゃいそう」
「えぇ? どうしたの急に? 完成してないんじゃなかったの?」
そうなんだけどね。
でも、今まで私って、何に怖がっていたんだろう。
同居人の発言だけで、簡単に方向が定まってしまった。こんな簡単なことだったんだと、私は桃を見て破顔した。
「お、おう……素敵な笑顔しちゃって……じゃあ、アップする前に見せてよ! 気になる!」
「うん。じゃあ――」
私はパソコンを起動し、桃に制作中のアニメを見せる。
ボカロ動画を作っていた時はネット越しに評価を貰ったけど、生身の友人に見せるのが初めてで、何か恥ずかしい。
「すごい! 動いてる! ってか、ちゃんとCGじゃん!」
桃が感動している。私は今までに感じたことのない誇らしさが、胸の中に広がっていくのを感じた。
「ん? あれ? 声が無いよ? この女の子が主人公なんだよね?」
「うん。無声で作ったの。無声でも伝わるように工夫してるけど……どうかな?」
「そうなんだ。ふむふむ……」
画面の中で、綺麗な女の子が踊る。魔法を授かった女の子が、夜空に浮かび上がり、自分の矮小さと世界の大きさを知る。
「へぇ……まるで、ミュージックビデオみたい……」
またもや、痛いことを言われた。
私はアニメを作っているのであって、MVじゃない。
でも、そんな雰囲気はあった。要は、ボカロ動画から抜け出せていないのだ。
「これって、音楽はどうしたの?」
「え? うん、これは私が作ったかな」
「すごい、作曲できるんだ」
「まぁ、お遊びみたいなものだけどね……ほら、ボカロの流れでDTMもやってみたって感じ」
「へぇ……」
そして、桃はアニメーションをジッと見つめる。
真剣に、何かを探るようだった。
桃はいつもそうだ。何かに必死になって、情熱を傾ける。
大学時代から振り回されていたものだ。
会社を辞めた原因も、何だかんだ言っていたが、きっと組織では熱量が満たされなくなったのではないかと思う。
「変わらないな……」
ボソッと呟くが、桃は気付かない。
楽しかった日々が思い出される。忙しいだけじゃなく、そこに充実感と楽しさがあった。
仕事でもそう思えたけど、何故かある時を境にそうならなくなった。
仕事を辞めて、自分の好きなことをやるのは、全く違う充実感があった。
だけど、今は何かに追い詰められるように日々を過ごしている。
結局は変わらないのだろうか。
でも――
アニメーションが終わると、桃は鋭い視線を向ける。
「だめだよ。やっぱり、声を入れよう」
桃は自分を曲げない。そのまま本音をぶつけてくる。
「里央、これは逃げてるよ。逃げた作品になってる。人見知りの里央のことだから、どうせ声優を探したり依頼したりできないんでしょ?」
そして、私のことを知っているので、簡単に正解をぶつけてくる。
「あのね、里央。人見知りで人間嫌いなのはわかるけど、せっかくここまで仕上がったんだから――」
「桃。どうして私が人見知りで人間嫌いなのぉ?」
私が睨むと、桃は一瞬きょとんとした後、ぷっと吹き出した。
「あはは! 何を言ってるの!? 腹黒で人見知りで人間嫌いでどうしようもないくせに!」
「うぅ! この!」
「あいたたたた! いたひ! いたひ! ほっぺ、のびるぅ!」
何だろう、分かってくれる嬉しさって言うのがある。
ダメなところ、良いところ、それを飾りっ気なく示してくれる。
これが友達ってことなんだなぁ。
社会人になって、いつも距離感がバグってしまう。そして自己嫌悪に陥る。もう訳が分からなくなって、逆に人から離れてしまう。
その繰り返し。根本的に、人との絡み方が分からない。
でも、何故か桃やささらとは、素で話せた。
大学に入ったばかりの時、しがらみが無かったからかもしれない。
私は手を離して、桃の非難を躱すと、図星だった声優について真剣に考えることにした。
というよりも――
「桃、じゃあ手伝って。私、そういうの嫌いだからぁ」
「知ってる。じゃあ、やってやるか。里央の頼みだし」
そして、桃の手伝いで、ネットで探した声優さんにコンタクトし、そしてそれに伴ってアニメのシナリオも変更することにした。
何年ぶりだろう。前に進んだのは。
すると、桃がじゃあ、と声を上げる。
「せっかくだし、音楽も代えない?」