「なんで振り袖?」
「成人式は来月だよね?」
「でも振袖って萌える~」
 ひそひそ話が聞こえてきたのは電車に乗ってからだった。
 紗都がちらりと見ると、女子高生くらいの子が慌てて目をそらす。

 あの子たちは着物がイコールで振り袖なんだ、とちょっと微笑ましい。そろそろ成人式の振り袖で頭を悩ませたりするのだろうか。
 黎奈なら「振り袖じゃなくて袷だよ」と声をかけそうだ。袷は秋から春にかけて着るもので、今着ているのはその中でも小紋という種類のものなの。振り袖は第一礼装だから正装なんだけど、小紋は普段着の位置付けで……。

 滔々としゃべるさまを想像すると、なんだかそれだけで笑えてくる。きっと彼女らは目を白黒させてドン引きするに違いない。

 電車を降りて会場となっている居酒屋に到着すると、店員に会社名を告げる。
 座敷に案内された紗都は、どきどきしながら声をかけた。

「お疲れ様です」
「え、那賀野さん、本当に着物で来たんだ!?」
 メガネの同僚女性の声に紗都は顔をひきつらせた。
 周囲の人の目が一斉に紗都を向く。

「普通、着物で来る?」
「気合入り過ぎ」
「そんな目立ちたがりだったの?」
 笑いながらひそひそと交わされる会話に、紗都の顔からどんどん血の気が引いていく。