問題はいつ着るか、だ。
 着物で遊びに行く場所など思いつかない。歩きにくそうでお手洗いも大変そうだし、袖が邪魔そうだし、普段のバッグでは似合わないだろうし。
 だけど、着物を纏った高揚はずっと紗都の中に居座って、消えることはなかった。
 華やかだけど派手ではなく、地味で影が薄い自分の存在感が増す不思議。
 そわそわしてしまい、胸に収めていることができなくなってしまった。
『着物を試着したら欲しくなっちゃった。でも着ていく場所がない』
 顔をスタンプで隠して、試着の写真を一言投稿サイトに上げた。きっとこれがふたつ目の運命の分かれ目だった。
 友達がいいねを押して終わりだろうと思っていた。だからコメントがついたときには驚いた。
『似合ってますね! 着物は楽しいですよ!』
 コメントをつけた人——黎奈の投稿を見に行ったら、彼女の着物コーデが溢れていた。
 若い女性のようで、ちょっとしたおでかけにも着物を着ていた。
 アップされているコーデはどれもかわいい。水玉の帯やレース柄の帯は現代的だし、デニムの着物なんて初めて知った。襦袢ではなくTシャツに着物というコーデもあり、短めに着つけて裾から大胆にプリーツスカートを見せているときもあり、こんなカジュアルな着こなしができるんだ、と発見もあった。
 きらきらして見えるばかりで、着物への熱は上がる一方だ。
 遡って見てみると、着物を着るときの工夫や失敗談、豆知識もたくさん書かれていた。着物仲間との年代を超えたやりとりも楽しそうだ。
 三十歳になっても変わり映えのない自分。
 対して、年齢を問わず着物できらきらしている彼女たち。
 着物を着たら、自分の毎日も輝くだろうか。