「風鈴祭りって、風鈴市だったんだね」
 黎奈が楽しそうに目を細める。
 釣り鐘のような金属製もあれば陶器でできたものもあり、見た目にも涼しそうなガラス製もある。形や柄は実に様々で、見ているだけでも全く飽きない。

「買って帰りたいけど、ひとつを選ぶのは至難の技ね」
「ほんと。どれも素敵。美濃焼に瀬戸焼、伊万里焼に津軽びいどろ」

「こっちは南部鉄だって」
 南部鉄の風鈴は心なしか落ち着いた音がしている気がする。陶器はまろやかに心地いいし、ガラスの硬質で華やかな音も楽しいし、どれも風情があっていい。

「風鈴の音を聞くと実際に体感温度が下がるらしいよ」
 ふと思い出して紗都が言うと、黎奈は驚いた声を上げた。
「そうなの!?」

「脳が涼しいって勘違いするんだって」
「脳ってけっこう杜撰なのね」

「でも外国の人は涼しいとは思わないんだって。キレイな音だね、くらいで」
「面白いね。文化の違いのせい?」

「風鈴が鳴ったときに涼しいと感じた体験による、みたいなことがネットに書いてあったよ」
「じゃあ洗脳みたいな?」

「洗脳は言い過ぎかな」
 紗都は苦笑した。