後部座席の窓から見える景色を眺めながら、色々なことを思い出した。
千歳色が森田の秘密を教えてくれたこととか、後輩のあの子の万引き現場の動画の質量とか、千歳色から受けたキスの味、とか。
全部、今となってはどうでも良いけれど、それでも少し、胸につかえたひっかかりがある。
行方不明だった坂下ちゃんは、数日前、消耗状態で発見された。一命はとりとめていた、らしい。
どこで、っていうのは、公には明らかにはされていないけど、まあ、お察しの通りの結末だった。
彼女は千歳色のところで発見された。誘拐、監禁、エトセトラ。耳を塞ぎたくなる情報がおそろしかった。
彼女の精神状態は錯乱していて、事情聴取を行える状態になかったみたい。今は精神科に入院しているって、真昼が教えてくれた。
あたしは1週間、学校を休んだ。表向きには、体調不良、ということにしている。
……実際は、こうやって警察署に足しげく通っていたのだけれど。
「今日で終わりだったんでしょ」
お母さんが、バックミラー越しにこちらを見た。
うん、と適当に答える。
「もう、全部終わったから大丈夫だよ」
明日から学校も行くし。と付け加えると、お母さんは、あっそ、と言って、視線を前方に戻した。
何度も通った警察署。
今日で終わりって考えても、まったく名残惜しさなんてなくて、むしろ、あんなところ二度と行きたくないって思う。
それでも、あたしはあそこに行かなければならなかった。そういう、事情があった。