◇
メッセージアプリの一番上に固定された藍とのトークルームは、ずっと時間が止まっていた。
家に着いたら、ちゃんと連絡してねって言ったのに。
……連絡を忘れているのだろうか。
いつもマメに気を遣ってくれる藍が、今日に限ってそんなことあるのだろうか。
こんなタイミングで急に連絡が途切れるものだから、藍が家に帰っていない、という最悪な可能性が頭をよぎってしまって、どうしようもなくなった。
藍が教えてくれた行方不明者リストが載っている警察庁のページを見てみたけれど、坂下あかりの後に、新しい情報なんてない。
何度も入れた通話には、何も反応がなくて、本当に、本当に藍がいなくなったんじゃあ、ないかって、そんな不安ばかりが募って仕方がなかった。
藍からの連絡がないのが本当に心配で、だけど今日は、お母さんも帰ってきてるし、外に出るのも怖かったから、あたしは最後の手段に頼るしかなかった。
藍のお兄さん。
ずっと前に、藍がうちにスマホを忘れて帰ってしまったことがあって、そのとき藍が、お兄さんのスマホを使ってあたしに電話をかけてきたことがあった。
一応、電話番号だけそのまま連絡先に登録していたけれど、お兄さんに対しては別に大した用もないから、その番号はずっと使っていなかった。
少し悩んで、藍のお兄さんに電話をかけることにした。
『……はい、もしもし?』
数コールであっさり繋がった電話越しに、藍とそっくりな声が聞こえてくる。
実際に、藍のお兄さんは藍よりも少し声が低いけれど、電話越しだとかなり声が似ているように感じられて、少しだけどきっとしてしまう。
「あたし、織方紬乃です」
『紬乃ちゃん? どうしたの?』
「藍って、今家にいますか? 連絡、繋がらなくて」
あたしが恐る恐る発した質問に、藍のお兄さんが平然と答える。
『さっきまで居たけど、少し前に出て行ったよ。どこに行ったのかはわからないけど』