結局、その日は夕方まで藍がそばにいてくれた。
水を飲ませてくれたり、だとか、休ませてくれたり、だとか、とにかく、みっともないところを見せたあたしに対しても変わらず献身的でいてくれる藍を見ると、泣きそうなくらい嬉しくなった。
けれど同時に、こんな恐ろしいことに彼を巻き込んでしまったことが悔やまれたせいで、彼にまともな感謝を述べることすらままならず、あたしはずっとうわの空だった。
坂下ちゃんのこと。
千歳色のこと。
藍のこと。
そして、あたしのこと。
それぞれの未来を想像して、うすく絶望した。
藍にそれとなく、ストーカーの被害はまだ続いているのか、と尋ねたら、今日は非通知からの着信が来ていないという。
それは、坂下ちゃんが藍のストーカーだったということを裏付ける証拠の一部だろうから、いやな憶測が徐々に現実味を帯びていって、藍に悟られないように、トイレでまた吐いた。
千歳色に関わるようになってからというものの、あたしと藍を取り巻く状況が、少しずつ悪くなっている。
じわじわと追い詰められていく感覚に足をとられて、精神が絡め取られるような、そんな心地がした。
「藍、家に着いたら、絶対連絡してね」
心配だから、と言って彼を送り出すと、藍は大丈夫だよって、心配なのはむしろ紬乃の方だよって笑いながら、朝来た道をなぞるようにして帰っていった。
どうか、無事でいて。藍だけは、そのままでいて。
そんなことを祈った。
けれどその後、待てども待てども、藍からの連絡は来なかった。