坂下ちゃんが藍のストーカーだった、というのは本当に信じられないけれど、いざそう言われてみれば、思い当たる節はある。


 たとえば、体育祭のときに、藍が出ていた他クラス同士のバスケの試合をわざわざ観に来ていたこととか、バスケの応援のとき、藍がシュートを決めた瞬間を動画に収めていたこととか、日菜が彼氏と別れたとき、先に帰ってほしいっていう、藍への伝言がちゃんと伝わっていなかったこととか。



 確証ではないけれど、坂下ちゃんのすこし不思議だった言動が、彼女が藍のストーカーだった、という事実があれば、腑に落ちる気がする。


 そして、彼女をどうにかしているのが、千歳色だとしたら。

 彼女を拐ったのが、千歳色なのだとしたら。



「千歳くん、今、どこにいるの?」

『教えられるわけがないだろう?』

「そこに坂下ちゃんがいるの?」

『さあね』

「、もういい」



 話にならない、と思って、あたしは千歳色との通話を切った。

 頭の中がひどく混乱していた。


 手にじっとりと汗をかいていて、心臓の鼓動は脳内を反響するくらいうるさくて、少しずつ明るみに出された真実が、後悔とか、罪悪感とか、無力感とか、そういう類の感情を引きずり出す。


 そうしているうちに、胃の奥から気持ち悪い感覚が湧き上がってきて、慌ててしゃがみ込んで、あたしはそのまま、胃酸が含まれた吐瀉物を、便器の中に思いきりぶちまけた。


 胃酸の強さに喉が焼けて、えずいたせいで顎が外れそうになり、唾液と鼻水と、あとは涙という、液体という液体が粘膜から溢れ出て、ひどく、惨めな気分になった。


 こんなこと、望んでいなかったはずなのに。