本当は、藍と一緒に帰りたかった。

 だけどこんな状態で、彼氏と帰るから、だなんて言い出せるわけもない。


 そんなことを言ってしまった暁には、陽世あたりが、日菜が彼氏と別れたばっかりなのに紬乃は自分の彼氏を優先して冷たい、とか噂を流し始めるのだ。


 別に、陽世がそんなことを言おうが、あたしにとっては痛手ではないが、まあ面倒なので、そういうことは回避しておく他はない。



 日菜が彼氏の浮気に気づいたのは、彼の家に行ったとき、使用済みのデパコスのアイシャドウが、洗面台の見えにくいところに置かれていたから、らしい。

 醜い女の、所謂匂わせ、だろうと思った。

 詰めが甘い男と、高校生相手にくだらない匂わせをするおばさんに、あとは、包み隠された性欲に騙される馬鹿な女子高生。


 今回の一件は、こんな言葉で簡単に説明できてしまう。

 そもそも日菜だって、自分が彼の本命だと思っていたみたいだけど、浮気男に簡単に切られる日菜自身が、実は浮気相手だった、という説はないのだろうか。



 何だかそんなことを考えていると、途端にばかばかしくなってしまって、日菜がすこし落ち着いた頃合いで、「ごめん、そろそろ帰るね。何かあったら連絡でも何でもしてきて?」と心にもない気遣いを見せてから、荷物をまとめて、立ち上がった。



「ごめん、あたしもバイト行かなきゃ」



 あたしに便乗して真昼も立ち上がった。日菜の肩を抱いている陽世が、わかった、と小声で言いながら、あたしたちに手を振った。