脅した、だなんてあけすけに語る千歳色は、なんだか一線向こう側にいるような気がして、自分の中にある恐怖心を隠すかのように、あえて強い物言いをしてみせた。



「何、脅し方って。まさか、彼女を脅してこんなことさせたの?」

「まあね。でも、本人が進んでやってるでしょ」

「そんな、明らかに様子おかしいじゃない」



 恐ろしくなって、手に持っていたスマートフォンを千歳色に突き返した。

 彼はあたしからそれを受け取ったあと、



「本当に、彼女が自分から、やりたいって言ったんだよ?」



といって、スマホをポケットにしまい込んだ。

 自分からだなんて、嘘に決まってるって、そう言おうとしたけれど、千歳色が発する雰囲気が、あたしから声を奪うみたいに、強く喉奥を威圧する。


 何も言えずに黙り込むと、彼は調子づいたのか、口角を上げて気味の悪い笑みを浮かべた。




「この子が万引きしちゃうおまじない、教えてあげようか」

「……」

「その一、『万引きしてくれたら織方紬乃ちゃんの秘密を教えてあげる』と呪文を唱える」



 どん、と心臓を撃ち抜かれたような衝撃が走る。

 待って、と声が漏れたのは、それから数秒後。

 まさか脅しの文句にあたしの名前が出てくるとは思わなくて、思わず彼の言葉を制止した。



「あたしのこと、何て言ってるの?」

「別に何も? 俺はね、織方さんの味方だから」



 味方、とか、そういう問題じゃない。

 あたしの名前をダシにして、この子に万引きをさせたのが問題なのだ。

 長年積み上げてきた、あたしの中にある危機管理レーダーが悲鳴をあげる。

 彼と一緒にいたら危険だ、と。



「あたし、何も関係ないのに、困るよ」

「……関係あるでしょ?
何とかしてって言ったの、織方さんだろう?」



 何も言い返せなくて、言葉をつぐんだ。

 何か、悪いことが起きているってことだけは確実だった。