何度見たって、あたしの手の中にある千歳色のスマホは、万引き現場を写した動画を再生していて。
しかもそれ実行しているのは、何度顔を反芻したかもわからない、あの女の子な訳で。
画面越しとはいえ、そんな様子を直に見てしまったあたしは、急な恐怖とともに、吐き気を催した。
「織方さん、大丈夫?」
「いや、あの」
心配したようにこちらに手を伸ばす千歳色に肩を触れられたあたしは、咄嗟に一歩、後ずさった。
……ひとつ、確実なことがある。
この動画は、意図して撮られたものだ。
あたしの手の中で再生されている動画。これが本物だと仮定した場合、被写体と撮影者の距離が、明らかに近いのだ。
万引きだなんて、大それたことをするなら、周囲には気を遣って犯行に及ぶだろうし、それに、自分の方向にカメラを向けてくる人なんて、こんな状況で気が付かないはずがない。
それなのに、この子から周りを気にするそぶりは見られない。
何なら、カメラの方を見ているタイミングすらある。
その場合考えられることは一つだった。
この子は、万引きの様子を撮影者に撮らせている、ということになるのだ。
そう考えると、画面内の彼女が震えているのにも合点がいく。
そして、この撮影者が千歳色なのだとしたら。
千歳色が、この子に万引きをさせて、それを撮ろうとしたのならば。
そんな想像をしてしまう。
だけど、これ以上むやみやたらに取り乱すわけにもいかなかったから、あたしは体勢を立て直して、もう一度彼に問う。
「千歳くん、これ、どうやって撮ったの?」
「どうやってって、撮り方のこと? それとも脅し方の方かな?」
思いもよらない返答に、声が喉の後ろ側に引っ込んだ。
隠す気もなくそんなことをいってわらう彼の考えが読めなくて、あたしは目線を泳がせながら、口内に溜まった唾をもう一度飲み込んだ。