考え事ばかりをしているうちに、千歳色との約束の時刻を迎えてしまって、ずんと胃のあたりが重く感じる。

 千歳色に指定された場所である図書室に足を踏み入れる前に、あたしはスマホのボイスレコーダーを起動させてから、それをブレザーのポケットに仕舞った。

 何もされないとは思うけど、一応。



「織方さん、待ってたよ」



 入り口に入ってすぐの椅子に腰掛けていた千歳色は、あたしの姿を見て立ち上がった。


 昼休みの図書室は、司書すらもいないがらりとした空間かつ、完全な密室だったから、たしかに秘密の会合を行うにはぴったりの場所だった。


 千歳色は、こっち、といってあたしを外から見えない奥まった場所に呼び込んだ。


 一定の距離を保ちながら彼について行くと、彼は本棚の影になっているところまで歩き、そのうち彼はカーテンが閉められた窓枠の縁に腰を預けたので、あたしは二歩離れたところから、彼の話を聞くことにした。



「この間送った女の子の話だけどさ」

「……うん」

「これ、見て?」



 千歳色は、右手に持っていたスマホをこちらに差し出してきた。

 スマホには、動画の再生ボタンが画面のど真ん中に表示されている。

 再生ボタンの向こう側にいるのは、体育祭のときに藍と写真を撮っていた、あの女の子。



「これ、何」

「再生してみてよ」



 彼に言われるがまま、再生ボタンに触れた。



 動画の背景は、どこかのスーパーの売り場だった。

 画面の中の女の子がゆっくりと動き出す。


 その動画の中心に写る例の後輩の女の子が、何かに怯えているような表情をしているのが気になった。




 そして彼女は、棚から整髪料だろうか、商品をひとつ抜き取って、……それを、自身のトートバッグの中に入れた。





「……まって、これ」



 数秒遅れて頭に浮かんだのは、万引き、という言葉。


 頭を金槌で打たれたような感覚に眩暈がして、正気を保とうとしても中々うまくいかなくて、手持ち無沙汰に、唾を飲み込んだ。


 スマホから目を離して、千歳色の方を見ると、彼は何ともないような顔で、ん? と頭を傾けた。