藍は、たまにあたしがこうやって意味もなく学校を休むことを知っている。だからこそなのかどうかはわからないけれど、とにかくこういうとき、彼はあたしを思い切り甘やかしてくれる。
コンビニで買ってきてくれたであろうお菓子も、飲み物も、全部あたしの好物だし、しかも時間的に、学校が終わって直で来てくれたっていうのがわかるから、余計に藍からの愛を感じる。
すきだな、という言葉をふんわりと頭の中に思い浮かべながら、藍の隣に並んでチョコレートを摘んでいたとき。テーブルの上に置いていたスマホが、通知とともに光った。
画面には、千歳色、と表示されていて、表示されたメッセージは、『そうだよ』、ただそれだけ。
……昼に送ったメッセージの返信が返ってきたんだと思う。
やっぱり、坂下ちゃん経由であたしを呼び出したのは、彼だったんだ。
「……紬乃、千歳と知り合いだったんだっけ」
スマホの画面が見えたのだろうか、藍が不思議そうな顔をする。
心臓を鷲掴みにされたような感覚になる。ひどく悪いことをしている気分だ。
あたしはできるだけ平静を装いながら、そうだよって言った。
彼はまだ、腑に落ちないような表情を浮かべている。
「何で、紬乃が千歳と連絡とってんの?」
しかもあんな、目立たないような奴と。
藍がそんなふうに言っているようにも聞こえて、あたしは視線をすこし泳がせた。
千歳色との繋がりが知られるのは、避けたい。
彼から森田の秘密を伝えられたことも、森田が売春してたっていう噂を陽世に流したのも、全部あたしだ。
そんなこと、藍に知られたくない。
「なんか、向こうから連絡先追加されて。あたしもよくわかんなくてあんまり返信してないんだけど」
咄嗟に口をついて出た言葉に隙はたくさんあったと思うけど、藍はそっか、と言ったきり、何も聞いてこなかった。