学校を休んだ日は、いつもより時間の流れが早く感じるのだから不思議だ。

 いつの間にか、カーテンの隙間から漏れる日差しが傾いている。


 あれからまだ千歳色からの返信はなかったけれど、少し経ったら彼にメッセージを送っていたということさえも記憶から遠くなってしまっていた。



 夕方の16時半をまわったくらいに、藍から着信が入って、スマホを耳にあてた瞬間に聞こえてきたのは、あと10分くらいで着く、とあたしに知らせる、愛しい声。


 もうそんな時間だということをきちんと認識した瞬間、自分がまだすっぴんでいたことに気がついた。あたしは電話を切ってから慌てて、フェイスパウダーと眉毛と、あとは色つきのリップを自然に仕込んで藍の来訪を待った。


 ちょうど黒いパッケージのリップクリームをポーチの中に滑り込ませたところで、階下から、人の話し声と、階段を登ってこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。


 今日はお母さんが家にいたけれど、お母さんは藍のことをよく知っているから、あたしの許可もとらずに藍を家に入れる。


 少し恥ずかしいけれど、親公認の付き合いって感じがするから、別に嫌じゃない。


 コンコン、という短いノックの後に、入っていいよって言う間もなく扉を押してこちらに入ってきた藍。

 いつもは優しいくせに、こういう時はデリカシーをどこかに置いてきちゃう藍が、なんだか愛おしい。



「元気? 紬乃が好きなの買ってきたから、食べよう」



 開口一番にそんなことを言って、藍はテーブルの上にチョコレートのお菓子と、クッキーと、スナック菓子をいくつか広げて、さらに紙パックのカフェオレと、ペットボトルのお茶をこちらに突き出して、「どっちが良い?」って聞いてくる。


 両方ともあたしが普段からよく飲んでいるものだったから、どっちだって良かったけれど、なんとなくの気分で、カフェオレを指さした。