藍は、森田さんがいなくなって困るよね? と悲しそうな顔を作りながら問いかけてみる。
こういうふうに、藍を試すような真似しかできない自分が嫌になるけれど、あたしにはこうするしか方法がない。
藍は、すこしだけ考えたあと、
「確かに実行委員の仕事は大変になったけど、
でもさ、どんな理由があったにせよ、それが犯罪行為だったんなら、反省、しなくちゃいけないとは思う」
と、そんなことを言った。
あたしは心の中で勝ちを確信して、そうだよね、と言いながら、藍の肩にもたれた。
売春は、被害者のいない犯罪、と思われているけれど、売春の被害者は、社会全体なんじゃないかって、あたしは思う。
だって、森田みたいなやつが、やすやすとその辺のおじさんに股を開いたせいで、何の罪もない女子高生がおじさんたちの性欲の捌け口になって、電車で痴漢でもされようものなら、溜まったもんじゃない。
あたしは、藍にやすやすと近づく森田が大嫌いだったし、私怨は大きかったけれど、でも、売春の噂が回るのは、自業自得でしょって思う。
「……怖いよ。身近でそういうことが起きてたなんて」
藍に向かってそう言うと、藍はあたしを抱きしめて、大丈夫だよ、となだめてくれる。
あたしの心は、これで大丈夫になったよ。あとは藍が、どこにも行かなければ良いだけ。
抱きしめられた腕の中、大して感じてもいない恐怖を感じたふりをして、
あたしは藍を、抱きしめ返した。