咄嗟に身体がびくっと反応して、そのあと、見られた、という言葉が頭の中を一瞬で駆け巡ると、顔から血の気が引く感覚がした。
声のした方向を見ると、教室の入り口の方に、見知らぬ男子生徒がひとり立っていた。彼は呆然とするあたしを見て、口角を上げて気味の悪い表情を浮かべながら、もう一度「何してたの?」と問いかけてくる。
肌が気持ち悪いくらいに白かった。背は、藍よりは低いけれど、そこそこに高い。鼻がすらっと通っていて、唇は薄くて、何よりも目がぱっちりと開いている。
あたしはその男子生徒のことを知らなかったし、廊下でも見かけたことすらなかったから、もしかしたら後輩なのかも、とか思った。
だけど、スリッパの色はあたしと同じ青色だったので、おおかた、あまり学校に来ていない人種の人なのだろうと、勝手な想像をした。
だって、ほどほどに背が高くて、藍と同じくらい色が白い男子なんて、なかなかにいないし、いたとすれば、印象に残るから忘れるはずがない。
仮に、相手が不登校とか呼ばれる状態にある人なのだとしたら、こんな現場を見られていたとしても、あたしがその人に対して怯む必要なんて全くなくて、「あたしは、織方紬乃だ、だいじょうぶだ」と自分に言い聞かせてから、思い切り息を吸った。
「別に何も。そっちこそ、何してんの?」
あたしには、そこそこ威圧感があるっている自負みたいなものがあって、男子相手とはいえ、こんな感じで相手を怯ませられるだろう、だなんて安直に考えていたけれど、そこにいる男子は、あたしの言葉にも態度にも揺らぐことはなかった。
その代わり、もう一度口角をあげて、そしてゆっくりと唇を動かした。
「見てたよ。それ、森田さんが置いたものだろう?」