何もすることがなくて暇だったし、教室にいても時計ばかり見てしまうから、と思って、あたしは鞄の中から化粧ポーチを取り出して立ち上がる。
真昼はあたしがポーチを持って立ち上がったのを見て、え、今から化粧直すの? とまつ毛を上下させながら問いかけてきた。
帰るだけなのに、化粧なんて直す必要なくない? とでも言いたげな真昼の口が開く前に、あたしは言い放った。
「今から藍に会うかもしれないし」
あたしの一言で、真昼は納得したように、ああ、と言った。
あたしが、誰かに見られるって考えたら、外見は常に完璧な状態でないと気がすまない性分だっていうことを、真昼は知っている。
「真昼はここにいる?」と聞くと、真昼は立ち上がるのが面倒なのか、うん、いってらっしゃい、と手をひらひらと振ってくる。
じゃあ適当に行ってくる、と言って、あたしは化粧品の入ったポーチを右手に抱えて、教室を出た。
あたしの所属するクラスから、鏡のあるトイレに向かうまでには、藍のクラスの前を通る必要がある。まだ藍はミーティング中だろうけど、実はもう終わってたりしないかな、っていう変な期待があったせいで、あたしは何の気なしに、藍のクラスを覗き込んだ。
「あれ、?」
藍のクラスには誰もいなかった。
けれどその代わりに、窓際の机のうちの一つに、何か物が置いてあるのが見えた。
それと同時に、藍の席も窓際のあのあたりだったな、とかいう記憶が、その状況と結びついた。
あたしは不審に思って、誰もいない藍のクラスに入って、まっすぐ、その席に向かう。